※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【4】 ランプだけが明かりを灯す、暗い部屋の中。 シーグルの荒い息遣いの音だけが部屋の中を満たす。 時折混じる水音は、彼と、セイネリアの体から落ちる水滴の音。 全身ずぶ濡れで倒れているシーグルを見下ろして、セイネリアは黙っていた。 連れてきた後、セイネリアはまず浴槽に水を張ってその中に彼を落とし、彼を洗った。悲鳴も、呻き声も、全部無視してただ別の男の跡を洗い流した。 シーグルは荒い息を吐いている。体の感覚をやり過ごすのに必死で、セイネリアの事さえ気にしている余裕はなさそうだった。 ――気にいらない。 必死に声を抑え、必死に感覚を耐えて。 それが何になるというのか。 なけなしの気力を振り絞ってまで、彼が未だ守ろうとしているのは、一体何だというのか。 ――今更。 セイネリアの頭を支配しているのは、怒り、だった。 自らも濡れてしまった服を脱ぎ、投げ捨てる。 鎧は彼を洗う前に既に外していた。 それから身を屈めると、息を荒くしてじっと目を瞑って耐えているシーグルの髪を掴み、無理矢理に顔を上げさせた。 「薬が効いて体が熱いんだろ。洗われていた時でさえ感じていたな。……いい様だな、シーグル。もう全て諦めろ、今のお前は抱かれる為の人形以上の価値はない」 快楽に濁りそうになっていた深い青の瞳が、瞬間、強くセイネリアを睨む。 けれども、セイネリアの手がその体をなぞりだすと、瞳はすぐに閉じられて、睫毛が小刻みに震え出す。 吐息が熱い、水で冷えた筈の体が上気して赤みを差している。セイネリアの手が触れるたびに、肌がぴくぴくと震えている。 セイネリアが無造作に彼の片足を持ち上げると、シーグルは息を飲んで、直後に足に力を入れる。勿論、それで閉じることが出来る筈もなく、彼は勃ち上がり掛けた自らの雄の印も、モノ欲しそうに蠢く後孔も、全てセイネリアの前に晒す事になった。 セイネリアは嗤う。 「浅ましいな、シーグル。お前の体は男に抱かれる快感を知ってる、そんなに此処に男が欲しいか」 「違ッ……」 シーグルは叫ぼうとするものの、セイネリアの指が中へ捻じ込まれると、歯を噛み締める事しか出来ない。 つい先程まで散々嬲られていたそこは熱く蕩けるように指に絡みつき、更なる質量を欲しがって蠢いている。水の中で掻きだしたものの、まだ奥にはあの男達の吐き出した残りがあると思うと、セイネリアの頭の中にちりちりと燻るような感覚が生まれた。意識せず、中を混ぜる指の動きは乱雑になる。指で届くぎりぎりまで奥を抉り、蠢く内壁を引っ掻く。シーグルの口からは、その度に快感と苦しさの混じった悲鳴のような声が漏れ、薄いが鍛えられた腹筋が激しく動いた。 「そんなに善いか。此処で男を銜えて、腰を振って善がって鳴いたか。あんな下らない連中のものを銜えて悦ぶとは、安くなったものだな」 口に嘲りを浮かべて彼の顔を見れば、快感に目元を染めながらも、青い目はクリアな意思を映して開かれた。 「俺は、女じゃ、ない。……やつらにも、お前にも、誰が……うがあぁっ」 シーグルの言葉は悲鳴で途切れる。 解れていたとはいえ、洗われてぬめりのないそこが、セイネリアの凶器によって貫ぬかれたからだった。 「う、がぁ、あっ……うぅっ、っぁああっ」 すぐに乱暴な抽送が始まって、シーグルの瞳が痛みに見開かれる。 あまりに強引に押し込んだ所為で、薬が効いていたとしても痛みしか感じなかっただろう。手で広げられた尻の間、雄の肉を食む場所から、赤い色がぷつりと現れ、白い足を伝っていくのが見えた。 痛みを与える行為は、だが今の彼なら、じきに快感へと変わる事をセイネリアは知っている。既に、セイネリアを包む肉は強い締め付けと共に柔らかく吸い付き、快楽を強請るように蠢いている。触れる彼の雄が萎えていないのを見れば、シーグルが痛み以外を感じているのは明白だった。 「ふっ……うっ、嫌だっ…うっ」 その声に熱を認めたセイネリアは、唇に残忍な笑みを浮かべる。 より乱暴に彼を揺さぶり、中を抉った。 「諦めて鳴けばいい。感じているんだろ? 今のお前に耐える価値などあるものか」 繰り返される肉同士がぶつかる音と共に、濡れたシーグルの体が床を滑って耳障りな音を立てる。 両手で掴めばそのまま捩じ切れそうな程騎士とは思えない細い腰を、力まかせに引いては突き上げて、セイネリアは自分の熱を彼の中深くに叩きつけた。 「う、あ……あぁ……ぐ」 痙攣するように、ぴくぴくと彼の背が震える。 媚肉が一際絞るように締め付けてくる。 セイネリアが吐き出せば、飲み込もうとするように蠢く彼のそこは、あまりにも淫らで男を知りすぎていた。 彼の体から滴り落ちて出来ていた水溜まりの中に、白い濁りが混じる。 「……善かったようだな」 未だ断続的に彼の性器から溢れるものを見て、セイネリアは嗤う。 快楽に瞳を潤ませる彼から、荒い息と嗚咽が入り混じった声が聞こえた。 「諦めて、堕ちろ……暗闇の底まで」 セイネリアが、再び腰を打ち付けだす。 瞬間、シーグルは両手で口を覆った。 セイネリアは動きを止め、目を細める。荒い息と嗚咽の中、必死に自分の口を押さえるシーグルを冷ややかに見下ろす。 「耐えれば、まだ屈しなくて済むと思っているのか?」 そして、嗤う。 「……そうだな、お前に、どうやっても耐えられないものもある事を教えてやろう」 セイネリアは自らのものを引き抜くと、彼を放置したまま立ち上がって、寝室の隣にある執務室へと歩いていく。 部屋には窓があるが、外は既に暗く、月明かりだけが部屋を照らす明かりの全てだった。その中でセイネリアは机にあるカギのついた引き出しを開け、並ぶ薬品瓶の中から一つを取り出し、それを感情のない瞳で見つめた。 「終わりだ、シーグル」 何故わざわざ口に出して呟いたのか、セイネリアに自身にも分からなかった。 寝室に戻れば、シーグルは濡れた床の上で荒い息を吐き、感覚を耐えているままだった。 セイネリアは彼の傍に足をつくと、その顔を持ち上げ、強引に口を開けて持ってきた瓶の中身をあける。それから、咳き込み、吐き出そうとする彼の口を押さえた。 セイネリアの手を引き剥がそうと、シーグルが暴れる。足をばたつかせ、身を捩り、押さえてくる腕を力いっぱいに掴む。 けれどもそんな抵抗さえ、体力の残っていない今の彼では、いつもの半分の力さえ入っていない。 抵抗はすぐに弱くなり、その喉が確かに動いたのを見て、セイネリアは彼を解放する。 「何……を……?」 瞳に目に見えて不安を映す彼を、セイネリアは感情も無く見つめた。 「すぐに分かる。これは効き目が早い」 見えない恐怖にシーグルの体が震えているのを、感情もなく見下ろす。 それからわざと彼を無視して、セイネリアはベッドサイドの椅子に座ると、サイドテーブルに置いてあった酒瓶を開けて、瓶毎呷った。 「何だ……何を飲ませ、た。嫌、だ……」 震える彼の声は、僅かだが呂律が怪しい。 「嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、い、や……」 セイネリアは瓶を置いて、椅子の上で足を組むとシーグルを見た。 荒い息を吐いて上下していた、彼の肩の動きが揺れる。 もう言葉も出す余裕がないのか、子供が泣き出す時のような顔で、彼は口から出る嗚咽を、震えて、覚束ない両手で押さえ込もうとしていた。 けれども、体が堕ちる方が早い。 腰は快楽を求めてうねり、開放を欲してびくびくと震える彼の性器は、もう既に彼の意思とは相容れない場所にある。 口を押さえていた筈のシーグルの両手が、自らを掻き抱くように自分の肩口を掴む。 噛み締めた歯の間から、ガチガチと鳴る音が聞こえた。 乱れた呼吸は一定のリズムをとる事をやめ、小さな悲鳴と喉の唸りが不規則に漏れる。 緊張しきった筋肉が耐えられずに、時折、びくんと痙攣のように跳ね上がる。 それも、数度。 次第に、彼の体の震えは収まりをみせる。 自らを傷つける程に爪を立てて己を掻き抱いていた腕が、力を失くしてゆっくりと下りていく。 荒い息に胸を上下させながら、俯かれていた彼の顔が、上を向いて喉を晒した。 ずっと、噛み締めていた口元が、力を失ったように開かれる。 紅い舌が現れて唾液を溢れさせ、その唇を艶やかに濡らす。 次に、セイネリアを見た彼の瞳には、最早あの強い意志の欠片もなかった。 虚ろな深い青色は何も映さず、濡れた唇だけが乾いた笑みを刻む。 セイネリアは立ち上がる。 床の上で体をうねらすシーグルの傍まで来ると、彼を抱き上げ、ベッドに放り投げた。その衝撃でさえ快感になるのか、彼は喘ぐと、手を自分の下肢へと伸ばした。 その手を掴み、代わりにセイネリアが彼の勃ち上がった欲望に触れる。掌で少し乱雑に扱いてやると、彼はうっとりとその刺激に身をまかせて甘く喘いだ。 セイネリアは喘ぐその口に、噛み付くように口付ける。舌と舌を絡ませ、溢れる唾液が彼の口の端を落ちていく。 引き寄せられる感触がして、彼の手が自分の首に回された事をセイネリアは知る。 深く何度もあわせ直すと、彼の方からも求めるように口付けが返って来る。 気付けば、セイネリアの手の中で、彼の欲望が弾けて、掌を濡らしていた。 けれどもすぐに、それは更なる快感を求めて、熱く、脈打つ。 セイネリアは彼の足を抱えて、質量を求めて蠢く後孔に自分の雄を押し付ける。 唇を離しても、強請って欲しがる彼に再び唇を合わせ、彼の中に自らの肉を埋めていく。 合わされた唇の合間から、彼が喘ぐ。 腰を揺らせば、それにあわせて彼も腰をうねらせ、すっかり蕩けた媚肉が熱くセイネリアを包んで奥へと引き込んだ。 その肉の誘いを振り切るように腰を引き、そしてまた中を埋める。 何度も、何度も、肉と肉が互いを食み、溢れる液体が熱く絡まる。 背を撓らせてセイネリアに抱きつく彼の口からは、止まる事なく快楽の喘ぎが漏れていた。 白い肌を薄紅色に染め、口から涎を流して喘ぐ姿。 その、彼の青い瞳には、普段の彼の持つ強い意思の光はなかった。 呆けた瞳は何も映さず、宙を彷徨い、涙を流している。 それを見下ろし、彼の中を突き上げながらも、セイネリアの心は体程に熱くならなかった。 それどころか、開放が近づき視界が揺れる中で、セイネリアの心は次第に冷えていくだけだった。 彼を雄の欲望のまま貫き、鳴かせ、犯し尽くしても。 求められ、快楽を貪っても。 冷えたセイネリアの心は、熱を取り戻す事はなかった。 凍えるような冷たさだけが、心を満たす全てだった。 --------------------------------------------- 今回はあまり長くなくてごめんなさい(・・、 |