※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【5】 始まりはいつもキス。 それは相手の気持ちを確認するのに、一番都合がいいから。 顔を離して、最初に互いの顔をじっと見合わせるのもいつもの事。 相手が自分と同じ欲を持っているという事が、嬉しくて安心する。 それから今度は両手を合わせて、そのまま手を組んで、そこから互いに顔を突き出してまたキスをする。そうすれば自然と組んだ手に力が入って、気持ちを確かめるように強く握る程に、あわせる唇は情欲を含んで淫らに求める。 次に顔を見合わせた時は、互いにすっかり瞳が熱を持っていて、それに嬉しいような恥ずかしいような笑みが湧いてくる。それから、とても幸せな気分でゆっくりと抱き締めあって体温を感じる。 ウィアはフェゼントの背に手を回し、フェゼントはウィアの頭を引き寄せるように抱き締め、そうして彼はウィアの頬や耳元に触れるようなキスをしてくる。 それが少しだけくすぐったくて、ウィアは笑って文句を言う。 勿論、それが本気で言っているのだとはフェゼントも思っておらず、彼がキスを止める事はないのだが。 笑いながら、ウィアがフェゼントの服を脱がせていって、フェゼントもまた、ウィアの服のボタンを丁寧に外していくのも、いつもの事。 けれども今日は、ウィアの服の前を開けた後、フェゼントが何か思い出したように急に手を止めてしまった。 「フェズ?」 様子がおかしい事に気付いたウィアは、自分も彼の服の上着を脱がせただけで手を止める。 「全部脱ぐと寒いでしょうから」 それでウィアも合点がいく。 けれど、ウィアとしては、肌同士の触れ合える面積が少ないのは、少しばかり寂しいとも思う。 「すーぐ、あったかくなるんじゃないかな?」 だから、未練がましくそう言ってみる。 フェゼントはそれに苦笑を返して、ウィアの頭を撫ぜた。 「ウィアが風邪でも引いたら、当分こういう事は出来なくなりますよ?」 「んー……それは嫌だな」 眉を寄せて、即答で返したウィアに、フェゼントは吹き出すようにして笑った。 ウィアは、抗議するように口を尖らせて、楽しそうなフェゼントを睨む。 「まぁ、どーせ下は脱がなきゃならないし」 言われてフェゼントは、それに今気が付いたという顔をして目を丸くした後、困ったように眉を顰めた。 その顔に、今度はウィアが笑う。 「……確かに、それは仕方ないですね」 「だーかーら、フェズがちゃーんとあっためてくれよな」 「分かりました」 二人して、示し合わせたように笑顔を浮かべると、ウィアは一度立ち上がって、フェゼントが止める間もなくさっさと自ら下肢の衣服を脱いだ。 そして、フェゼントが呆気に取られて目を丸くしている間に、座っている彼の腿の上に正面から抱きつくようにして座った。 「ウ、ウィア?」 ウィアの行動があまりに早くて対処しきれていないフェゼントを見て、こっそりとウィアは自分の作戦が成功した事を確信する。 「フェーズっ、早くしよーぜ」 抗議しようと口を開けていたフェゼントは、ウィアに抱きつかれたまま頬を摺り寄せられるに至って、さすがに諦めたらしく大きく息を吐いた。 ウィアはにんまりとフェゼントに向かって笑う。 「フェズに何かされる前に先手を取る事にしたんだ。この間みたいに、俺だけ先にイかされるのは悔しいからなっ」 「狡いですよ、ウィア」 「俺もいろいろ考えてんだよ」 そう、例えば――ウィアは思う。 例えば、行為自体の立場はウィアが女役だったとしても、いつでもリードしているのが自分の方ならば、フェゼントもこちらに身を任せるというのに慣れてくれるのではないか、とか。 そうなれば、ウィアがフェゼントを抱ける日も遠くない。 結局はそこへ行き着くのだが、別に事を急いでいる訳ではない。どんな些細な事でも、とりあえず思いついた事はやれるだけやってみる。ウィアは自分の欲求の為なら努力を惜しまない性質だった。 だから。 「ちょっと……ウィアっ」 イキナリの体勢にどうしようかと戸惑っていたフェゼントの股間にウィアの手が伸びて、そこから有無を言わさず彼の欲望を取り出す。 さすがにまだそこまで硬さを持ってはいないが、反応してない訳でもない事に、ウィアはにんまりと満足そうな笑みを浮かべた。 「うん、フェズもちゃんとやる気になってるな」 「ウィ〜アぁ〜……」 フェゼントの声は半分涙声だ。 この展開に恥ずかしさが限度を越えたフェゼントの顔は真っ赤で、ウィアはそんな彼が可愛らし過ぎて、俯いてしまった彼の耳元や頬にキスをする。 「うーんと、気持ち良くしてやるからな」 言いながら、腰の位置を調整して、彼のものと自分のものが触れ合えるようにすると、二人の性器をまとめて手で掴んで扱きだす。手の動きの所為で腰も少し揺れてしまうから、たまに離れてしまいそうになるものの、その不安定さもまたいい興奮材料だ。 「ウィアっ、何してっ……」 「いーから、まかせとけって」 昔、ウィアが神官学校の友人と簡単に関係を持っていた頃、こうやって互いの性器を擦り合わせて喜ぶ奴に、何がそんなに楽しいのかと思った事がある。 けれど今ならその気持ちもわかる。 好きな人間となら、感覚を共有出来るという思いは確かに嬉しい。 触れ合っている、触れ合えている、という気持ちは体の快感以上に心を溶かす。 「ウィアっ、やめてっ……」 弱々しいフェゼントの声は、快感に震えて涙声になっている。 正直に反応する自分の欲望が手でも分かって、しっかりとフェゼントのものもまた硬くなっている。 けれど、この体勢は少々惜しい。 体を密着させる為に、フェゼントに抱きついて乗り上げるように下肢をすり合わせている為、彼の顔はどうしても見れない。 絶対、今のフェゼントは可愛いと思うのに。 ……それが惜しくて仕方ないが、声と手の感触だけでもウィアが興奮するには十分だった。 「駄目、駄目ですっ、やぁっ」 泣くように震えているフェゼントの声に、ウィアの限界は簡単に訪れた。 ほぼ同時にフェゼントのものも吐き出したのが感触で分かって、ウィアはそうっと体を離すと、見たかった彼の顔をやっと見る事が出来た。 青い目に涙を一杯溜めて、顔を真っ赤にして、恨みがましく見上げてくるフェゼント。 何か言いたそうに口を開きながらも、声にならないようですぐ口を閉じる。 そんな彼の仕草はウィアの心をきゅうっとさせて、放ってすぐのウィアのものも硬さを取り戻す。 「フェーズ、ごめんな、でも俺フェズを感じたかったんだ」 言いながら、溢れそうな彼の涙をペロリと舐める。 「フェズ、大好き。フェズがすっごく欲しい」 「……ウィア、狡いです……」 言って少し怒ったように唇を震わせるものの、フェゼントの手は不安定な体勢のウィアを支えるように添えられている。 ――うん、やっぱり愛されているよな、俺。 ウィアは顔がにやけるのを止められない。 はやくフェゼントと繋がりたいと気が急くものの、その前にしないとならない事を思い出し眉を寄せた。 ウィアは覚悟するように、二人のものでどろどろに濡れた手を自分の秘所に持っていく。濡れた指は簡単に中へぬるりと入り、その液体の冷たさに顔を顰める。 手の中のぬめりを押し込めるように、指を動かし、入り口をほぐし、指を伸ばして奥を擦る。 自分でしているのにたまに声を上げそうになって、意識して口をぎゅっと閉じた。 「ウィア。その、自分でしなくても」 「いいんだ……その方が、早くフェズと一緒になれる」 フェゼントが心配そうに見ている。 けれど、今の自分の格好がとんでもなくみっともない事が分かっている分、ウィアは恥ずかしくて顔を赤くする。早く終わらせたくて、少し乱暴に中を広げて、小さく喘いでしまうのは、恥ずかしいを通りこして悔しいとさえ思う。 だから指の届くところがとりあえず濡れた事が分かると、ウィアは指を抜いて、フェゼントの首にしがみつくように抱きついた。 「フェズ、挿れる、な?」 最初だけ指を添えて、中に入ってきたらフェゼントに抱きついて、ゆっくりと腰を下ろす。 たっぷり濡らした所為で、入り口はするりと先端を飲みこんだものの、濡らしきれていないところに入ってくると、中を無理に広げられている感触が酷くてきつい。足に力が入ってそれ以上中に入るのを阻止したくなるが、ウィアは目をぎゅっと瞑ってそれに耐えた。 広げられる感触、中の肉が引き攣る感覚。 閉じたがる場所の筋肉が伸ばされたままにさせられて、その不安定さに筋肉がひきつる、まるで中に入ったものをもっと欲しがるようにひくひくと締め付ける。 そんな事を自分で自覚してしまうから、ウィアはこの最初に入ってくる感覚は好きではない。 早く体も頭も快感に染めてしまいたかった。 だから思い切って足の力を抜いて、奥まで彼を銜え込む。 覚悟していても腹の中をぐっと圧迫される感覚にウィアは息が瞬間とまり、フェゼントに抱きついたまま感覚をやり過ごそうとした。 けれど、薄目を開けてフェゼントを見れば、彼の方も相当にきつかったらしく、ウィアと同じくぎゅっと目をつぶって歯を噛み締めて耐えていた。 きついのに、彼のそんな顔を見ていたら、やはりウィアは顔に笑みが湧いてしまう。 「フェズ、きつい?」 聞かれたフェゼントは瞼を開き、空色の瞳をウィアに向ける。 そうして、辛そうに片目だけを僅かに顰めながら、それでもウィアを安心させようと彼は笑みを浮かべた。 「えぇ、でも、大丈夫です。ウィアは?」 どんな時でも、彼はウィアの事をまず気遣ってくれる。 それがウィアに、彼に愛されている事を実感させてくれる。 頭で十分に分かっていても、愛されてる、と実感出来る瞬間は、いつでも心に感動をくれるものだ。 そうして気持ちが熱くなれば、体ももっと性急に熱が欲しくなる。 「ごめん、フェズ、動くな。俺、ちょっとだめだわ」 言った時には、既にウィアの腰は揺れていた。 「う、ぁ……」 二人して、最初にがんと腰を揺らしたときに、思わず硬く目を閉じて息を飲む。 その衝撃にすぐに次に続かなかったウィアは、それでも息を整えると、今度は慎重に、ゆっくりと浅く腰を揺らし出した。 性器に与えられる刺激と違って、中を擦られる感触はそこまですぐに快感にはならない。ず、ず、と何度も中を擦られていて、じわじわと段々疼くように熱が溜まっていく感覚だ。 だから最初は快感よりも、異物感や腹への圧迫感の方が辛くて、そう簡単に感覚に身を任せる訳にはいかない。 早く熱に溺れたいのに、快感が競りあがってくるまで耐えねばならず、そこが女役をやる時はすこし辛い。 それでも中が濡れて、解れてくれば後は早い。 下肢に溜まってきた疼きを追って腰を揺らせば、自然と動きが速くなる。 途中からはフェゼントからも腰を突き上げてきて、腹にかかる圧迫は増えるものの、その頃にはもう快感を追う事に夢中になっている。 自分と相手の荒い息遣い、合間に上がる切なく高い声。 肉同士がぶつかって乾いた音を鳴らし、体の中にはそこから上がる水音が響く。 意識せず、彼を抱き締める力が強くなって、もっと強い快感を追いたくて、必死に腰を揺らせば、やがて奥に熱く注ぎ込まれる感触が広がる。 「あ、ああああぁっ」 それに悲鳴のような声を上げて、しっかりとフェゼントの首に捕まり、ウィアも放つ。 感覚が引いて行けば、あれだけ溺れさせてくれた快感も引いてしまって、感覚やら感触やら、現実的な部分が戻ってきてしまうから寂しいとウィアは思う。 少し動けば、ぐちゃっと下肢から嫌な音がしてしまって、思わず顔を顰める。濡れた感触は液体が人肌の温もりのある内はいいとしても、冷えてくるとその冷たさが『後始末が面倒そうだな』とか余計な事を考えさせるから嫌だった。しかも今は外だから、火照った体も流した汗も、すぐに冷えてしまう。 「大丈夫ですか?」 フェゼントの手が、俯いたままのウィアの頬を撫ぜる。 快感の冷えていく感覚に憮然としつつも、恋人の優しい気遣いが嬉しくて、ウィアの機嫌はすぐに上を向いた。 心配そうに見上げてくるフェゼントに笑って見せ、ウィアは彼の顔を両手で覆うように引き寄せてキスをする。 それから、片手だけをそっと離していくと、その手でフェゼントの胸を撫で始めた。 口付けたまま、フェゼントの吐息が震える。 「あ……」 ウィアの手は、硬くなって存在を主張している胸の小さな尖りを撫ぜ、時折摘んで、悪戯のようにフェゼントを弄ぶ。 フェゼントは触られるたびに眉をぴくぴくと震わせて、感覚に耐えるように声を抑えて熱い吐息を漏らす。 ウィアの中では、彼の欲望がまた膨らんでくるのが分かって、自分の思い通りになっている現状に機嫌良く笑みを浮かべていた……のだが。 ここまでウィアに振り回されるだけだったフェゼントが、そこでとうとう仕返しに出る事にしたらしい。 フェゼントの手が、ウィアの性器を触ってそれを軽く擦りだす。 「あ……いや、ちょっと…フェズっ」 完全に自分に主導権があると思っていたウィアは、全く反撃を予想していなかった為、自分でも驚く程反応してしまう。 すぐにフェゼントの胸を弄ぶような余裕はなくなり、恋人に抱きついて、感覚に耐える事に必死になる。 「やだ、止めろって……今日は俺がー…」 こういう時に抗議したとしても、フェゼントは止めてはくれない。 ウィアをいつでも気遣ってくれる彼だが、こういう仕返しの時は結構意地悪な事も知っている。 フェゼントの手はウィアの欲望を優しく緩やかに擦り上げ、一番敏感な先端は焦らしながら、それでも時折強く指の腹で押したりして、ウィアの感覚を押し上げていく。更には本気で彼は仕返しのつもりなのか、片手でウィアの腹から肌をなぞって、胸にまで辿ってくる。 フェゼントの事を言えず、すっかり硬くなった乳首をつんと指で弾かれるのと、性器の先端を強く速く擦られるのが同時になった。 「フェェズぅ〜、いやぁっ……」 ウィアはぎゅっと彼に抱きついて、体をぶるぶると震わせる。 フェゼントはウィアのものをぎゅっと強く握ったまま、首を伸ばして今度は唇で挟むようにウィアの乳首を銜える。銜えたまま舌を出して敏感な先端をちろちろ舐められれば、ぞくっとした快感が背すじを走る。 もう声さえ出せないで、歯を食いしばってウィアは震えるしかない。 フェゼントは今度は歯で軽く噛んで、指でもう片方の尖りを摘んだ。 更にはまた、手の中のウィアの欲望の先端を擦って、それから強く掴んでいた手を緩めた。 「くぅ……あぁ」 そこでウィアは耐えられずに吐き出す。 快感が強かった分、反動のように体から力が抜けて行く。 余韻で何も言えないウィアに、フェゼントは優しくウィアの胸の辺りにキスをした。 感覚が引いてくれば、ウィアは口をへの字に曲げる。 構えていなかった所為もあって、簡単にフェゼントに主導権を握られてしまったのが悔しくて、ウィアは拗ねたように恨みがましくフェゼントを見下ろした。 それに、フェゼントが笑って、再び頬を撫ぜてくる。 「ウィア、可愛いです」 「るっさい、可愛いは褒め言葉じゃないって言っただろー」 抗議すれば、困ったように、それでもフェゼントは笑う。 ウィアは未だ納得出来ないように拗ねていたが、それでも頬だけでなく、髪をも愛しそうに撫でられると顰めた顔も解れてくる。 「ウィア、大好きです」 「ん、俺も、だけどさ……」 機嫌を少し取り戻したウィアは、諦めて許した事を知らせる為に、フェゼントにキスをする。 最初は軽く、何度か啄ばむように。 それから深く合わせて、軽く舌を絡めて、そうして顔を離した時に、少し困ったようにフェゼントが言う。 「すいません……私も、もう、耐えられそうになくて。動いても、いいですか?」 ウィアは満面の笑顔で答えた。 「勿論」 |