賢者の森
<プロローグ・メイヤの章>
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。





  【7】




 師の部屋の窓は大きく、月明かりが多く入る。
 薄暗い部屋の中で、その明かりを受けて、動いている二つの影。正確には、二人の影、しかも裸の。

「う、あ……」

 普段の『彼』からは聞いた事がない、少し苦しげな吐息のような声が漏れて、ベッドの上から伸び上がった影が揺れる。

「うん、ん、あぁ……」

 ベッドが軋む音と、揺れる影の動きが重なる。
 二人分の荒い呼吸音が、更にそれに同調する。
 顎をあげて、長い髪を揺らして揺れる体は白く、青白い月の光に輪郭を浮かび上がらせて酷くそれは幻想的な光景だった。

「あ、やめ、あぁんっ」

 悲鳴にも似た高い声に、思わずメイヤはびくりとする。
 揺れる影の動きがさらに激しさを増し、顎を上げて上を向いていたその影の顔が下を向いて背を曲げる。それとは逆に、下にいた影が上体を起きあがらせ、月明かりをその金髪が弾くのが見えた。

「ティーダ……」

 声がそう呟いて、二つの影は激しく揺れる。
 木製のベッドが一定のリズムで軋んで、高い音を鳴らす。
 それから、体同士がぶつかるような音と、僅かに漏れる水音と、その音に併せて甘く切ない声が聞こえる。
 それが誰の声で、彼らがなにをしているか、それが分からない程メイヤは子供ではない。
 いつもの彼らとはまるで別人のように見えても、そこで揺れている二つの影が、ティーダとクノームであるというのはすぐにメイヤにも理解出来た。そして、二人がしている行為も。
 男同士のそういう行為も、珍しい事ではないというくらいはメイヤも知っている。特に、モラルが薄い冒険者同士の間では、逆に女性との行為よりも気軽にされるという事さえ聞いた事があるくらいには。
 それでも、初めて目にするそんな光景は、メイヤにとっては衝撃だった。ましてやそれが、彼ら――というよりも、自分が慕う師であるティーダのそんな姿ならば。
 目を離せず固まったようにその光景を凝視しているメイヤの視界の中で、影の揺れと音達が激しさを増し、そして、止まる。

「あぁあっ」

 ひときわ高い声を上げたティーダが、びくびくと体を震わせる。それから暫く動きを止めた二人は、ただ荒い息を吐き、無言のままだった。
 声をださず、クノームが体を更に起きあがらせて、上でまだぐったりとした様子のティーダに手をのばす。手に気づいて顔を上げたティーダのその顔を引き寄せて、二人の顔が近づく、重なる。重なったまま、頭を僅かに動かしながら水音が鳴る。やがて、甘い声が水音の合間にあがる。

「まだ……」

 呟くような声は、金髪の魔法使いクノームの声だった。

「お前なぁ……」

 少し疲れた響きの呆れた声は、確かに師ティーダの物だった。

 二人はむさぼるように何度も唇を合わせる。
 彼らの唇からこぼれる水音と、甘い吐息が、だんだんと激しくなっていくのがわかる。絡み合う二人の頭が揺れ、互いに相手の唇を追ってあわせ直しているのがわかる。
 やがて、起きあがった金髪の魔法使いに押されるように、長い髪の師の影がベッドの上にうずくまっていくように手をつく。その上へ後ろから被さるように、金髪のクノームの影が体を伸び上がらせる。

「あう……んっ」

 苦しそうな声は、それでも甘く、熱い。
 ゆっくりとした動きとともに、くちゅ、という何がが溢れる音。
 ゆっくりと波打つように動く彼らの下肢。
 荒い息の中、時折あがる、甘い声。

「これが、終わったら、流石に……やめろ、よ……あぁっ」

 喘ぎと共に漏れる声は、いつも通りの彼の口調で、けれども苦しそうで……酷く淫らに響いた。

「分かった、これが最後だ」

 少しだけ不機嫌そうな、それでも熱の分かる声がそれに返される。それと同時に、後ろから被さるクノームの影は体を起きあがらせ、目に見えて大きく腰を動かしだした。

「あぁっ」

 上がる声はまるで悲鳴だった。
 けれども、その中に快楽の悦びがあることは隠しようがなかった。
 うずくまる師にまるで腰をたたきつけるような乱暴さでクノームが動けば、それを受け入れて揺さぶられるティーダの体が激しく揺れる。
 そしてメイヤの目には、はっきりと、うずくまる師の体の中を男の肉が出入りする様が見えていた。
 被さる男が腰を引けば、彼の中から引き抜かれた雄が、濡れている所為か月明かりの中僅かに光ってその生々しい形を浮かび上がらせる。男が腰をたたきつければ、それは彼の体の中に押し込まれて、二人の下肢がぴったりと重なり、溢れる水音と共にうずくまっている体がびくんと跳ねる。
 クノームは少しだけ体を屈め、腰だけが更に動きを速くする。
 メイヤの目は、ティーダの中にクノームの欲望が消えては現れる箇所に固定されていた。
 彼の中を蹂躙する肉の楔。それを受け入れる彼の体。
 その様を見ているだけで、メイヤは自分の体さえもが熱くなってくるのを感じていた、我知らず、手が自分の股間へと降りていく。
 ここからでは見えない筈の師の顔が、まるで見えるように頭の中に浮かぶ。想像の中の彼は快感に震えて瞳を潤ませ、唇から唾液を溢れさせて熱く喘ぐ。

「あぁぁっ、お前……なぁっ」

 クノームの影がティーダの影を背中から抱きしめたように見えた次の瞬間、再び起きあがった彼の体はティーダの影を一緒に起きあがらせる。
 ベッドの上で、座るクノームの上にティーダが後ろから座るような体勢になって、長い髪の師の影は、大きく背を逸らせて頭を振った。
 上を向く彼のその長い髪の中に顔を埋めるように、クノームの顔が彼の耳元へと寄せられる。

「深いとこ……ティーダは好きだろ?」

 荒い息に、それでも笑みを含ませた響きで、クノームがそう言ったのが聞こえた。

「るせぇ……あ、あぁぁん」

 その体勢から、再び二人は動き出す。
 背中から抱きしめたティーダをクノームは下から突き上げ、ティーダはその上で自ら腰を揺らしてその動きを受け入れる。
 よく見れば、揺れるティーダの体の表面を這うように動くクノームの手が見える。その手が胸を撫で、ティーダの雄に絡みつくように動いているのが分かる。
 肉と肉がぶつかる度に、その振動に体が震えている。余程突かれた瞬間は奥まで届いているのか、その瞬間に上がるティーダの声はあまりにも苦しそうな反面、高く、甘く、快楽にまみれていた。

「やぁっ、あうっ、あんっ、あぁあっ」

 水音や肉の音が消える程、甘く喘ぐティーダの声は大きくなる。
 腰を自ら揺らし、白い腹が激しくくねって上下する。
 腰が揺れるというよりも、体が跳ねているようにも見える激しい動きの後、長い髪が大きく宙を舞って、そして。

「あ、あぁあぁぁぁっ」

 背をのばし、びくんびくんと震えながら、ティーダの体が固まるように動かなくなる。
 それを激しく突き上げて、クノームの影もティーダに少し遅れて動きを止める。
 師の掠れたような細い喘ぎが、その後に続く。
 荒い息を吐く二人は、それから再び唇を合わせた。


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お待たせしたわりに短めのエロですいません。
どうにも本当にただ見てるだけ+シルエットだけだとあまり書きようがなく……。


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