県内69カ所調査報告
「廃村」と聞くと、色彩のない寂れた景色を思い浮かべるかもしれない。だが一歩足を踏み入れると、美しい自然や人間の営みが残っている。廃村の多くは今も生きている−。そんな思いを抱かせる。
廃村とは、人が住まなくなった集落を指す。集落の再編成や水害対策、ダム・空港建設などのため移転した背景がある。
本書では、日本全国の廃村調査をライフワークとする浅原昭生さんと、金沢大人間社会研究域人間科学系准教授の林直樹さんが県内の廃村69カ所を中心に調査し報告。1カ所につき見開き2ページで写真3枚、地図1枚。廃村となった経緯や現状、過去の訪問との比較を示した。調査に要した時間や、最寄りの市街地からの所要時間も記載している。
大半が昭和40〜50年代に移転した集落だ。大破した家屋。ヨシが茂る耕作放棄地。ささやぶに埋もれた遊具。確かに、わびしさはある。
だが多くの場合、道路や耕地がある程度手入れされていることもわかる。稲刈りを終えてはざかけされた稲わらが並ぶ風景(三種町・西又)があるのは「移転しても離農はしない」という住民の思いの表れだろう。「川沿いの紅葉は見事」(鹿角市・上新田)と、自然も色濃く残る。
「『無居住化』が不可避であるなら、せめて『よい無居住化』を目指しべき」と林さんは指摘する。廃村の先にあるのは決して絶望だけではない。日本一人口減少が進む本県から、廃村の姿を見つめ直したい。
浅原さんは1962年、大阪府生まれ。団体職員。林さんは72年、広島県生まれ。
<秋田文化出版・1620円>