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悲しみは雪のように−その1

4人の中でイチバンのお寝坊さんは、ポポポンです。 いつも、みんなに蹴られたり 叩かれたりしないと起きません。 でも、本人も今ではスッカリ 慣れっこになっていて、ビクともしません。 ある日の朝、めずらしくポポポンは みんなより早く目を覚ましました。 どことなく、懐かしい山の匂いが してきたからです。 ポポポンは、 今でこそ都会暮らしが長くなりましたが、 元々はお母さんと一緒に山で暮らしていたのです。 しかし、そこがどこだったのかは 覚えていませんけど。 で、ポポポンは、 その懐かしい山の匂いに誘われて、 細い山道をエッチラオッチラと歩いていったのです。 すると、ひろーい野原にでました。 そこは、一面が真っ白でした。 「あ、もう雪が一面に降り積もっているぞ! あれ、でもおかしいぞ。他の所には これっぽっちも降っていないのに?」 ポポポンは首を傾げながら、 雪の上に恐る恐る足を伸ばして 乗っかって見ました。 しかし、全然冷たくありません。 良く見ると、それは細い毛糸で 編まれた白いじゅうたんのようです。 暖かくてほかほかです。 これはいいや! とポポポンはその上を 駆けずり回ったり、転がってみました。 すると、そこに、腰の曲がった おじいさんが現れました。 「コラコラ、まだ乗っかっちゃいけないよ。 出来上がってないんだから!」 「おじいさん、このじゅうたんはなに?」 ポポポンの問いかけにそのおじいさんは、 ゆっくりと木の切り株に腰を下ろし、 キセルにタバコを詰めながら、こう答えました。 「帽子じゃよ。あの山にかぶせるのじゃ」 そう言って、 少し離れた山のてっぺんを見つめました。 「山にかぶせるって? じゃあ、大きな大きな帽子ですね」 「そうさなぁ、大きいな」 「おじいさん、ひとりで作っているの?」 「ああ、せがれは、 こんな仕事はいやだと山をおりていったからな」 そして、木の枝に引掛けてあった ちっちゃなお弁当箱から、 のりまきを取り出すと口にほおばりながら、 ポポポンにも、一個どうじゃ? とすすめてきました。 ポポポンも、木の切り株に座って のりまきをほおばりました。 「なんで、山に帽子をかぶせるの?」 「なんでって、寒いじゃろて、山も。 冬になると木は葉っぱを落とし、 木枯らしが葉っぱを吹き飛ばしてしまう。 雪が降る前にかぶせてやらんと、みじめじゃろ? な?」 「他の山もそうなの?」 「いやいや、今ではこんな酔狂なことを しているのはわしだけじゃ。 だから、1年に1つだけじゃ」 「そんなにタイヘンなのに、なんでやるの?」 「カッカッカ、そうさなぁ、 そこに山があるから、そんな答えで良いかな?」 おじいさんの粋な答えにスッカリ感動した ポポポンでした。 そして、なにか手伝えることはありませんか? とおじいさんに聞きました。 「カッカッカ、タヌキさんがお手伝いか? こりゃ愉快、カッカッカ」 豪快に笑うと、おじいさんはポポポンに、 あれこれ命じ始めました。 つづく

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