悲しみは雪のように−その2
「まずはじゃのう、 ここに書いてあるものを集めてくるのじゃ」 そう告げると、帽子職人のおじいさんは、 タヌキのポポポンに紙切れを渡しました。 「んと、なになに、パセリ、セージ、 ローズマリーにタイム? 香草ばかり集めて何をするんでしょう?」 「気持ちが落ち着くでな。 これだけデカイ代物になると、 ダレてしまうのじゃ」 「なーるほど」 そうして、ポポポンは森の中に 言いつけられたものを探しに行きました。 パセリ、セージ、ローズマリーにタイム。 順々に見つけて、カゴの中に入れていきました。 そして、山の空気と一緒に香草の香りを吸い込むと、 またしても懐かしい気持ちになりました。 ここは、どこだろう? そして、この懐かしい気持ちはなんだろう? と。 しばらく歩いていると、 ホントに自分がどこにいるのか、 わからなくなりました。 そう、ポポポンは方向オンチだったのです。 あちこちとウロウロしていましたが、 おじいさんの所にはたどり着けません。 ようやく、見たような風景を見つけ歩いていくと、 そこはおじいさんの所ではなく、ポポロンさん たちがテントを張っている場所だったのです。 「おい、どこに行ってたんだ! みんな心配していたんだぞ!!」 ニャニャニャンが怒鳴りました。 みんな、ポポポンを探して大汗をかいている ところだったのです。 そして、ポポポンは帽子職人のおじいさんの 話をみんなにしました。 お山に被せる大きな帽子の話、 のりまきをもらった話、 香草を摘んでこいといわれて道に迷った話、 などなどです。 「なんだ、そのじじいの言うことなんか 聞かなくたっていいだろ?」 「うん、でもね、おじいさんと話していたら、 懐かしい山の匂いがしたのさ。 で、おじいさんのお仕事を手伝って あげたくなったんだよ。 しばらく、手伝っていっちゃダメかな?」 「ダメに決まってるだろ!」 ニャニャニャンが怒鳴りました。 ポポポンは、ポポロンさんに助け舟を 求めるように悲しそうな目を向けましたが、 ポポロンさんも、冬が本格的になる前に 郷にたどり着きたいから、ダメだよぉ、 と言いました。 がっくりと、肩を落とすポポポンに、 ポポロンさんは、おじいさんの所に 行って話してあげるよ、 お手伝いは出来ませんって、 言ってあげると約束しました。 そして、みんなでおじいさん の所に行ってみたのです。 「ハッハッハ、タヌキさんだけだと 思ったら、クマさん、ネコさん、ぞうさんまで、 お仲間じゃったのか」 おじいさんは、豪快に愉快に大笑いしました。 そして、ポポロンさんが、 みんなで旅をしている途中なんです、 と言うことをおじいさんに告げました。 それを聞いたおじいさんは、 「そうじゃったか。それなのに、 変なお願いをタヌキさんにたのんでしまった。 こりゃ、申し訳なかったのぅ」 「いえ、僕からお手伝いできないか、 と申し出たのですから、気にしないで下さい。 それに、パセリ、セージ、ローズマリーにタイム、 みんな見つけて、摘んできましたよ」 すると、おじいさんは香草でイッパイになった カゴに顔を埋めて、パセリ、セージ、 ローズマリーにタイム、と繰り返しました。 そして、ポポポンにお礼を言うと、 帰りにここにお寄りなさい、立派な帽子を 完成させて、お山に被せてあるはずじゃから、 と言いました。それを聞くと、 ポポポンは、半べそをかきながら、 絶対に寄るよ、と言いました。 そして、再び4人で旅に戻ったのです。 おじいさんの姿が見えなくなりそうな 場所に来ると、ポポポンは立ち止まりました。 そして、おじいさんの方を振り返り言いました。 「おじいさんひとりじゃ タイヘンだよ。誰かが手伝ってあげなくちゃ!」 そう言うと、おじいさんの所に 駆け出していきました。 仕方なく、みんなもポポポンの 後を追いかけたのです。 息を切らしておじいさんのもとにたどり着くと、 ポポポンは言いました、やっぱりお手伝いするよ! と。おじいさんは、ニッコリと微笑むと 無言でうなずきました。 しかし、ニャニャニャンが黙っていません。 「勝手なこと言うなよ!みんなで、 ポポロンの郷に行こうって決めたじゃないか! みんなで、一人も欠けることなく 仲良く最後まで行こうって決めたじゃないか!!」 ニャニャニャンの目には涙があふれました。 しかし、ポポロンさんがその言葉を遮りました。 「ニャニャニャン、ポポポンは お母さんとふたりで山を追われて出てきたんだよ。 で、街で暮らしていたけど、その街にお母さんは 殺されてしまった。そして、今、懐かしい山の懐で、 空気と、パセリ、セージ、ローズマリーとタイムの 香りの中に、自分の居場所を発見したのさ」 ポポポンは泣きながら、うなずきました。 そう、ニャニャニャンも自分の居場所が わからず旅に出たのです。 パオオンも遥かなご主人さまのもとを離れて 旅を続けているし、ポポロンさんもそうです。 お互い、口には出さないけれど同じ想いを 背負って旅をしているのです。 そして、ニャニャンは言いました。 「また、会えるよな? ぜったいに会えるよな?」 「うん、ぜったいに会えるよ!」 そして、ポポポンをおじいさんのもとに残し、 3人は旅に戻りました。 そして、ポポポンの姿が小さくなっていく 途中、叫び声がしました。 「ニャニャニャン、パオオン、ポポロンさん、 僕はここだよ! ここにいるよ!!」 3人は振り返り、笑顔でポポポンに 向かって手を振りました。 そして、再び、振り返り旅の道を歩んでいくと、 誰ともなく大声で泣いたのです。 でも、道の先にはお日さまが昇って輝いていました。