愛を眠らせて
へっぽこな演奏をしながら、 4人の楽団は進みます。 いたるところで、 文句をブーブー言われながらね。 「評判悪いね、僕たちの演奏は。 バンマスとして責任を感じるよ」 と、ポポポンは言いました。 「いつからバンマスになったんだぁ!」 と、他の3人にどつかれました。 そして、へっぽこな演奏をしながら歩いていると、 初めてヤンヤと拍手の音がします。 調子にのって、演奏を続けると、 ひゅーひゅー、ぴーぴー、と絶賛の嵐です。 あまりにもウケがいいので、怪しく思い、 拍手の方へと目をむけると、真っ白な川が流れています。 「ありゃりゃ、これはなんだい?」 「川上にいる牛が流した牛乳の川(ニャニャニャン)」 「キツネの仕業。川なんかホントはないのだ(ポポロン)」 「孝行息子が発見した、甘酒の川(ポポポンン)」 「ぱおーん(パオオン)」 恐る恐る近づいてみると、 それはウサギのキャラバン隊でした。 大勢のウサギさんが、 エッチラオッチラと荷物を運んでいます。 「やあ、ウサギさん。 こんなに大勢でどこまでおでかけですか?」 「やあ、へっぽこ楽団のみなさん。 僕たちは、山の神様のところまで行くんですよ」 「え、ひょっとして ”ポポロンの郷” に行くのですか?」 「いいえ、僕たちの目指すのは、 ちっちゃなちっちゃな ”うーちんの郷”ですよ」 「あ、ヒグマさんのおトモダチだね!」 そう、ポポロンさんが言うと、 キャラバン隊の隊長はニコニコ笑ってうなずきました。 「でも、ちっちゃなちっちゃなウサギさんたちが、 大きな荷物を運ぶなんてタイヘンですね」 「うーちんの郷の神様の大好物を運んでいるんですよ」 「中身はなんですか?」 4人は、興味深げにウサギさんの荷物を覗き込みました。 ウサギの隊長は、いたずらっぽく笑うと 「ナイショなんですよ。くっくっくっ」 と笑いつつ、中身をそっと見せてくれました。 「あーん、なんでしょう?」 「くっくっくっ、さあ、なんでしょう?」 鼻をぴくぴくさせながら、隊長は笑いました。 「くっくっく、はるまきなんですよ、はるまき」 「えー、山の神様は妙なものが好物なんですねー!」 「おっとっと、声が大きいですよ。 ナイショなんですから、くっくっくっ」 ホントに、山の神様の好物なのか、 ウサギさんのイタズラなのか、 ポポロンさんたちにはわかりませんでしたが、 ウサギの隊長のしぐさが面白かったので、 なんだか楽しくなりました。 他のウサギさんたちも、みんなで顔を寄せ合い、 鼻をぴくぴくさせて、くっくっくっ、と笑っています。 「ところで、僕たちの演奏は気に入ってもらえたようですね!」 「あぁ、あのへっぽこな演奏と言ったら・・・・・くっくっくっ」 つられて、他のウサギさんたちも笑い出しました。 まるで、授業中にイタズラ小僧が、休み時間のことを 思い出して、こらえきれずに吹き出してしまったように。 ポポロンさんたちは、初めは、ムッとしましたが、 笑うウサギさんたちを見ていて楽しくなりました。 そこで、もう1回、各々が楽器を取ると演奏を始めました。 「くっくっくっ、なんてへっぽこなんだ!」 ウサギさんたちは一斉に肩を揺らし、 くっくっくっと笑い出しました。 バカにされているようで、喜ばれているようで、 なんだか複雑でしたけど、大勢のウサギさんたちの 笑顔を見るとそんなことは吹っ飛びました。 気をよくしたパオオンは、 お礼に荷物を途中まで運んであげると言い出しました。 「いえいえ、僕たちのほうこそ、 こんなに愉快にさせてもらったのは久しぶりのことです。 それに、目的地は違うけど、同じように山の神様に 会いに行く仲間がいるなんて感激です。 ホントにありがとう!」 そう告げると、ウサギのキャラバン隊は、 再びエッチラオッチラと前進し始めました。 「大勢のウサギさんを率いる隊長はタイヘンだね。 ウサギさんは淋しくなると死んじゃうからねぇ」 ポポロンさんは、つぶやきました。 でも、自分たちの演奏の話を肴に、 しばらくは楽しい旅が出来るかな、 と思うとちょっとうれしくなりました。