知らなくていい事
将軍と側近での二人。二人のいちゃいちゃ+セイネリアが裏でちょっと動きます。



  【3】



 その日の夕方は、カリンとエルと、ついでにフユもきて、セイネリアはエルが例の神官から聞いてきた話の報告を聞く事になっていた。ちなみにシーグルはキールの事務仕事を手伝いに行っているから、夕飯時間になるまではこちらに帰ってこない。

「まず、あの神官は大神殿で一時期、ウォールト王子の相談役をしていたんだとさ。ンだからまぁ……それなりに仲良くなって、友達っぽくなってたみたいなんだよ」

 セイネリアは目を細めた。その名が出ただけで、シグネット――というよりその父であるシーグルに対していろいろ思う事があるのは想像出来る、ただし。

「まさか、シーグルがウォールト王子を殺したと思っている訳ではないのだろ?」

 それを聞けば、エルは急いで首を振る。

「あぁ、そりゃ勿論、あれが王様のでっちあげた出鱈目の罪ってのは分かってたさ。実際の犯人は王様が差し向けたんだろうとも言ってた、だからそれで恨んでいる訳じゃない」

 即そう返したエルだったが、その次の言葉はすぐに出ずに困ったように頭を掻いていた。

「いや、んー……なんていうかさ、ソイツ結構頭がいい人間ってか考え方がな……そう言われたらまぁそうだなって話なんだけどさ、所詮結果論だし仕方ない事だけどって本人も言ってたんだけどよ……」
「何がいいたい?」

 やたら歯切れの悪いエルの言葉を断ち切るように聞き返せば、エルは嫌そうにため息をついてから真面目な口調で話し始めた。

「最初からシルバスピナ卿が王を打倒しようと立ってくれていたなら、ウォールト王子も、シルバスピナ卿も死なずに済んだ筈だって――王座にいるシグネットを見るとそう思っちまうんだってさ」

 内容が内容だけに、セイネリアも眉を寄せた。険悪な空気を感じたのか、エルが焦って言葉を続ける。

「あー、だからって本当にシグネットを憎々し気に思ってる訳じゃないんだってさ、ウォールト王子が王座にいるべきだったなんてのも思ってねぇってよ。実際、もしシルバスピナ卿が王を倒したとしたって、ウォールト王子は性格的に王になるのは辞退しただろうって言ってたしな。だから、えーと、その、なんだ……」

 そこまで聞けば、エルがどうしてそこまで話し難そうにしているのかもセイネリアにはわかっていた。

「つまりあの神官は、何故アルスオード・シルバスピナが王を倒そうと立たなかったのかそれが納得できずにいて、シグネットを見ると憤りを感じてしまうという事か?」
「あー……うん、まぁ……そう、だな」

 久しぶりに明らかに怒っているセイネリアの声を聞いたせいか、エルが顔を引きつらせる。それでも彼は頭を掻いてから、諦めたように聞いてきたことを全部話した。

「シルバスピナ卿が最初から王に反旗を翻して戦ってたら、確実に将軍はシルバスピナ卿についただろうし、結果は今と同じになったろうって。……いや本人も結果論だって分かってるし、今更思っても仕方ないことだって言ってたけどさ……その、皆は悲劇の英雄とか言ってるシルバスピナ卿だけど……って」

 益々言葉を濁して聞こえない声でボソボソ呟いたエルだが、それを補うようにセイネリアが言ってやる。

「アルスオード・シルバスピナは英雄などではなく、王に逆らう決断が出来なかった臆病者とでも言っていたか?」

 エルは焦って言い返した。

「言ってない言ってない、そこまで言ってないぞ。単にどうしてそう決断をしなかったのかって言ってただけだ。そうしたら玉座にあんな幼子が座る事もなかったのにって……げ」

 言ってからセイネリアが更に不機嫌そうにしているのを見て、エルは引きつった顔でカリンとフユを見て、それからガクリと下を向いた。

「あー……言ってたのはそれだけだ。えと、本気で真っ当にクソ真面目な神官だったからさ、悪意とかはなさそーなんで、怒らないでやってくれっと……」
「それでエル、当然その話は他で言うなと言ってあるな?」
「あ、あぁ、それは勿論。本人もシルバスピナ卿を貶めたい訳じゃないって言ってたからあくまでそいつの胸の内の話だって」
「分かった」

 エルが盛大に安堵の息を吐く。
 だがそれを茶化すようにフユが口を開いた。

「確かにその神官さんが言う事も尤もっスね。あの坊やが最初から王様倒して自分が王になるか、ウォールト王子を立てようって思っていたら全部上手くいった話だといえばその通りっスからね」

 それにエルが恨めしそうな顔をしてフユを睨む。フユは当然、その飄々とした笑みを崩さない。

「そして勿論、それはあの坊や自身が一番分かってて自分を責めてる事スから、あの坊やの耳に入ったら落ち込む事は確実でしょうねぇ〜」
「だよっ、だからわざわざ言うんじゃねぇって」

 さすがにエルもフユの言い方にはムカついたのか、怒って怒鳴った。
 だがエル以上に怒っているのはセイネリアの方だ。嫌な予感はコレだった訳かと、久しぶりに苛立ちのまま机を指で何度か叩いた。

「エル、事情を聞いてきた事はご苦労だった。だがそいつには俺が直接話した方がいいようだな」

 げ、という声を上げてエルが酷い形相でこちらを見てくる。

「ボス、脅し過ぎて自殺とかさせないでくださいね、チビ王様が疑っちゃいますよ〜」

 気楽そうにそう言ってくるフユはこれでも一応本気で忠告しているつもりだろう。別にセイネリアも怒ってはいるが後先考えず相手を潰そうとしている訳ではない。そもそも怒りよりも、シーグルにその神官の言葉を聞かせないようにしなければならないと、そちらが最優先事項だ。

「えーと、分かってるとは思うけど、マスター……加減してやれよ」

 最後にエルがそう言って、助けを求めるようにカリンに視線を送るが……カリンは肩を竦めて苦笑するだけだった。







 シーグルが騎士学校に行った日の夜は、学校でどんな事があったか等を話すのがいつもの事になっていた。だから今日も夕飯からその後のお茶の時間まで、セイネリアは基本聞き役になってシーグルの話を聞いていたのだが。

「……セイネリア、お前、俺に隠して何かやろうとしていないか?」

 セイネリアがそれで動揺するなんて事はないが、唐突にそう聞かれたから内心では溜息を吐きたい気分になる。

――こういうのに気付く前に、スケベ心で近づいてくる馬鹿や、わざと大変そうなふりをして同情を引こうとする連中に気づいて警戒して欲しいんだが。

 本音としてそんな愚痴を本人に言いたくなる。だがその言葉はぐっとこらえて、セイネリアは何も気にしていなさそうな声で聞き返した。

「何故そう思う」
「いつもなら、俺が学校から帰ってくるとベタベタベタベタしまくって、傍から離そうとしないじゃないか」

 まぁ確かにそれはそうだが。だが執務室に入ってきたシーグルの兜をさっさと取って、記憶が飛ぶくらいキスして抱きしめて、何でこんなに時間が経ってるんだとシーグルが怒るところまではいつも通りだった筈だ。

「いつも通り、帰った時にはお前をしっかり満喫したろ。そうか、お前はあれでは足りなかったのか」
「いや、そういう事を言いたいんじゃないっ、いつもなら帰ってきたら少なくとも一日中傍にいないと不機嫌になるだろお前はっ。それがキールのところで人手が足りないから行ってこいなんてどう考えてもおかしいと思うだろっ」
「泣きつかれたからな、仕方なかった」
「いつもなら無視するだろ、お前」
「貴族用文書が多いからお前がいないと困ると言われた」
「いやそれでも、いつものお前なら絶対それでも明日にしろと言っただろ!」

 セイネリアはわざとシーグルの顔を見て笑いかける。シーグルは嫌な予感がしたのか身を引こうとした……が、その前にセイネリアは彼の腕を掴んだ。

「勿論俺はとしては嫌々了承してやったに決まってる。その分、夜にまとめて楽しませてもらうつもりでな」

 引き寄せて抱きしめてやれば、シーグルは本気で逃げようともがき出す。だがここまでくればもう遅い事は彼だって分かっている筈だった。

「セイネリアっ、明日は昼前に会議が……ってうわっ」

 抱き上げれば、シーグルは慌てる。

「お前がキールのところにいる間に済ませた。会議結果はあとで教えてやる。だから明日は昼まで寝ててもいいぞ」
「ふざけるな、俺はそんなに寝ていたくないぞ」
「大丈夫だ、寝ていたい気分にしてやる」
「やめろ、調子に乗るなっ……ン……」

 そこで唇を塞げば声は止まる。実際のところ、夕方は仕方なく彼と離れていたというのは嘘じゃない。そうしてその分、夜はたっぷり彼を楽しむつもりだというのも当然、嘘じゃない。

「ぅ、ン、ン……」

 最初は抗議して、肩を叩いたり蹴ったりしてくるのはいつもの事だが、彼もそれが無駄な事は分かっている。舌を絡ませて、擦り合わせてやっていればやがて彼の体からは力がなくなっていって……次に彼が気づいた時はベッドの上という訳だ。
 おそらく、シーグルは怒るだろうが、これでもまだ結局彼が許してしまう範囲だというのは分かっていた。




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 こんな終わり方ですが次回はまだエロじゃないです、すみません。
 



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