※この文中にはエロさがほぼないですが性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【8】 「セイネリア」 呼べば彼の瞳が開かれて自分を見る。怯えと不安と怒りを混ぜた金茶色の瞳を正面から見れば反射的に身が竦みそうになって、それでシーグルは精一杯の笑みを浮かべて彼に言ってやる。 「大丈夫だ、どんなお前でも俺はお前の傍にいる。俺は契約を違えない。だから不安なら好きなだけ俺を求めていい、好きなだけ俺をやる」 セイネリアの瞳は一瞬だけ大きく開かれて怯えたようにシーグルを見る。だからシーグルは更に笑みを作って彼に向かって手を伸ばす。 「俺はお前のものだ、ちゃんと確かめろ」 そうすれば、再び彼は自分に口づけてきて、キスしながらもこちらの足を抱え上げ、猛り切った彼のものを押し付けてくる。覚悟はしてきてもいきなり入れられると思わなかったシーグルの体は強張るが、それでも幸い、先ほど一度抱かれていた体はどうにか彼を受け入れていく。ただ、いつもならこちらの様子を伺いながら少しづつ深くまで入ってくるそれがいきなり奥にまで入ってきた事で、その瞬間シーグルは、ぐぅっ、と唸った後咳き込みそうになった。 「シーグル……お前は、俺と共にいてくれるか」 キスの合間に聞かれた言葉には、彼の頭を抱きしめたままその髪を撫でてやって、宥めるように答えてやる。 「あぁ、ずっとお前といる、だから安心してくれ」 セイネリアの口元が皮肉げに歪んで噛みしめられる。それから彼は苦しそうに目を細め、まるで憎むように、けれども愛しそうに自分の顔を見つめてくる。 「安心、か……」 そこで彼は言葉を切って、唐突に体の中に入り込んだままの肉で奥深くを突き上げてくる。その強さに息が詰まるが、シーグルは懸命に呼吸を整えて彼の首に縋りついた。 「う、ぐ、ぐぅ……ぐ、ぁ」 感じる以前にあまりにも激しく突き上げられて体がついていけない。奥へ奥へと突き上げられて、ベッドの上で体がどんどん上へと押し上げられていく。背中がシーツを擦って滑る、足が更に広げられて彼の体が叩きつけられる。ついには頭がベッドのヘッドボードに当たれば、セイネリアの腕が背中に入って体毎持ち上げられた。今度は彼に前から抱きついて座り込むカタチになって、自重で深くに入ってくる彼の肉の感触をより強く感じる。更には下から突き上げると同時に体を持ち上げて落される。 「うあ、が、う、はぁ……」 いつものようなこちらへの気遣いはなく、彼は最初から思い切り突き上げてくる。それでも慣れた中の肉は彼を締め付けてびくびくと快感に震えているのだが、彼の動きが激し過ぎてその感覚だけに溺れる訳にはいかない。急激な圧迫感と腹の中を突きあげられる感覚は苦しさの方が強くて吐き気さえしてくる。 「シーグル、シーグル……」 だがそこで耳元に小さな呟きが聞こえて、シーグルは腕に力を入れた。 「セイネ……リア、だい、じょうぶ、だ……俺は大丈夫だ、から」 そうすればより一層ぐんっと奥に彼が叩きつけられて、シーグルは衝撃に意識を持って行かれそうになる。それでもどうにか意識を引き寄せて、彼の首に回したその腕を離さずに済んだ。 「う、が、あぅ、あ、は、ぁ……セイ、ネリア、うぁ、セイネリア」 悲鳴は喘ぎにならなくて、それでも必死にいつも通り快感の波にのまれようとして、けれどもそれは叶わなくて。だからせめてと、シーグルは出来るだけ出す声があまり苦しそうにないようにしようと努める。ちゃんと、彼を自分が受け入れているのだと伝えなければならない、彼を求めてやらないとならない。 「は……ぐ……んあ、ぁ……」 その中で彼が爆ぜれば、これでやっと終わったのかと安堵で気が抜けかける。けれど彼がそれで終わる訳もない。セイネリアは動きを止める事もなく、今度はシーグルの体をベッドに下すと横に倒し、片足だけを抱き上げて深くを突き上げてきた。 「う、はぁ」 やはり最初からぐんっと奥を抉ってくる体の中の肉塊に快感など感じられない。ひたすら腹の中を押されてかき回されるような感覚だけが感じる全てで、吐き気を押さえるのが精一杯だった。喉から出るのはまるで何かが潰されたような醜い声で、彼に感じているふりをしてみせる事さえ出来なかった。 目から落ちる涙は、悲しい所為か、ただ単に苦しさで出ているものなのかさえ分からない。ただ滅茶苦茶に揺さぶられて、叩きつけられて、体の中を抉られる。 体を支えようとシーツを掴む手にも感覚がなくなってきて、それでも必死に彼の動きを受け止めようと握りしめた。 ガクガクとひたすら揺れる視界に意識が朦朧としてきても、まだ手放してはならないと歯を噛みしめて、次の瞬間に体の中にどん、と重い衝撃を受けて呻く。彼が再び達していたのかそうでないのかはもう分らないが、前よりも滑りがよくなったらしく動きは更に激しくなっていく。勢いをつけて中を突かれて、引かれてまた勢いをつけて突き上げられる。いつまでたっても終わらない、永遠に続くようなこの感覚にまるで拷問だと思っても、逃げたいと思ってはならないと自分にいい聞かせる。最後まで彼を受け止めてやらないとならない、決して彼を拒絶してはならないと、頭で唱えて叫びたい衝動を抑えこむ。 そうしている内に一瞬だけ意識が飛んでたらしく、いつの間にか体勢が変えられていて、気づけばまた彼の顔が目の前にあった。 彼の目の事を『肉食獣のよう』とはよくいったものだと思うくらい、虚ろな琥珀の瞳は慣れている筈のシーグルでさえ見ただけで本能的な恐怖を呼び起こす。 ――そんなに、怖いのか? シーグルの瞳からは涙が溢れる。 激しく揺さぶられる度に、その涙がぱた、ぱた、と頬から流れ落ちていく。 喘ぎも、叫びも遠くて、自分の声を認識できない。意識も薄くなってきて、ただ不気味に見下ろしてくる虚ろな瞳を見つめる事しか出来ない。 ――なぁ、セイネリア。どうすればお前を救える? その内声も枯れてきて、口からはぐ、ぐ、と奥を抉られる度にそんな音しか出せなくなってくる。だから歯を食いしばって、どうにか笑みを浮かべてやって、最後の力を振り絞ってシーグルは手を伸ばすと彼に抱きついた。 「すまなぃ……セイネリア」 俺の力が足りないから、俺がお前を受け止めきれないから、お前を不安にしてしまった――言うと同時に、シーグルは最後の気力を使い果たし、そのまま意識を手放した。 頭に響くのはただ自分の声だけ。 はぁ、はぁ、と荒い自分の呼吸音だけ。 後はもう、目の前に在る彼を貪る事しか考えられなかった。 もっと彼を強く感じたくて、もっと彼が自分のものであるという確かな感覚が欲しくて、ただ彼を貪った。 そうして――いつの間にか、抱いている存在がまるで人形のように力を無くして何の反応も示さなくなってから、やっと自分が何をしているのかに気付いた。 セイネリアが気づいた時、その腕に抱いて、犯していたのは『彼』ではなかった。 いや実際は『彼』だったのだが、『彼』であったものだとセイネリアは思った。 「シーグル?」 自分は何をしていたのだと、動かない彼を見て初めて気づいた。 震える手を伸ばして、彼の呼吸を確認しようとしたら、震えが酷すぎて彼の鼻の下にまで手が届かなかった。がちがちと鳴る歯を噛みしめ、どうにか彼の胸に顔を下していって、そこで初めてその胸が上下している事に気付いた。気付いた途端にやっと大きく息を吸う事が出来て、セイネリアは崩れるように彼の上に倒れ込んだ。 完全に、思考が飛んでいた。 夢中で彼を貪っていた自分が抑えられなかったというのではなく、完全に思考も理性も全てが飛んでいた。気付いたセイネリアは自分自身にぞっとした。自分が何をしているのかまったく認識さえ出来ていなかったのは始めてだった。 「……馬鹿か、何故、お前が謝る。悪いのはすべて俺だろう」 まだ震えて鳴る歯を無理に噛みしめ、無理矢理笑みを浮かべてセイネリアは笑い声を上げた。嗚咽のような引きつった笑い声を上げて、震える手で自分の顔を掴むように覆う。あまりにも自分が愚かで、おかしくて、恐ろしい。 「無様だな……まったく、無様な化け物じゃないか、俺は」 限界を越えて意識を飛ばしたシーグルの顔を見つめて呟くと、セイネリアは起き上がって彼の体を抱き上げた。 「結局……こいつを脅かす一番の厄災は俺自身という訳か」 --------------------------------------------- 「まったくだな!」(ウィア談) ……という事で、シーグルがただただ辛そうなエロでした。 次回は治療役サーフェスと気が付いてからのシーグルのお話。 |