※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【5】 完全にランプを消した室内はただただ暗く、新月に近いヴィンサンロアの月でさえ部屋を照らす明かりになる。 僅かすぎる光でも浮かびあがるのは、ベッドの上で揺れている人物の長い金の髪だけ。揺れる度に舞う金糸が頼りない光を弾いてきらきらと光る。 部屋を満たす音は吐息。荒く、少し苦しそうな二人の吐息が混ざり合って、本来そこまで大きな音ではない筈なのにやけに耳の中で反響する。けれどそんな錯覚を打ち消して、一人の声が部屋に響いた。 「お前ってさ、本当に上乗るの好きだよな」 苦しさに少し掠れた声に、上で揺れていた人物の動きが一度止まる。けれど『彼』はまたすぐにゆっくりとした動きを再開した。 「そりゃ、な、見下ろす方がいいに……ん……決まってる」 その答えに声を出して笑ったのは言われた男の方で、ベッドに寝転がった体勢のままの彼の腹が上下に揺れて、上に乗っている人物を大きく揺らした。 「ぁぅ……この、笑うな」 突然大きく突き上げられるかたちになり、思わず喘いでしまった後、上にいた影は下の男を思い切り睨む。 「何笑ってんだ、お前」 「いや、お前らしいと思ってさ、リーメリ」 文句を言うために少し屈んだ彼の顔に、ウルダは手を伸ばした。 「お前みたいなのを、ある筋では女王様っていうんだぜ」 「なんだそれは」 思い切り不機嫌そうな声が返っても、リーメリは触れている手を振り払おうとまではしない。おそらく、暗くてよく見えない彼の顔もとんでもなく不機嫌なんだろうと思えば、ウルダは口元の笑いを抑えられなくなる。出来るだけ腹が動かないように、くくくっと喉だけを震わせて、ウルダは彼の金の髪を軽く顔から払ってやってから手を下ろした。 「まぁあれさ、自分が従えてる気分じゃないと気が済まない奴の事を言うわけだ」 「それにしても女王はやめろ、冗談でも」 「『女』ってついてるのが気に食わないんだろ、お前は」 それでまた抑えられずにウルダが腹を揺らして笑えば、リーメリは言葉では返さず、腰を浮かせて一度情事を中断してしまった。これは相当に機嫌を損ねたかと思っていれば、彼はそのまま僅かに移動して、どうするつもりか全く予期していなかったウルダの腹の上に思い切り勢いをつけて飛び乗るように座りこんでくれた。 「ぐぇっ」 今度はリーメリの笑い声があがる。 思惑が上手くいって咳込むウルダを見下ろす彼は、相当に楽しそうだった。 「ウルダ、俺程度の体重で咳込んでるようじゃ鍛え方が足りないな。やっぱりおっさんたちにもう少ししごいて貰ったほうがいい」 「ってぇ……突然やるなよっ、しかも思い切り」 ふふんと彼が鼻で笑ったのを気配で知って、ウルダはがばりと上半身を起こす。乗っている人物がそれで体勢をくずすのを狙ったのだが、当のリーメリはその前に立ち上がって、ウルダの思惑はからぶりに終わってしまった。 くそ、と呟いたものの、相手が上から完全にどいて、ベッドからも下りようとしているのが分かれば、ウルダとしても流石に焦る。 「おい、まさか本当にこれで終わりにする気か?」 そのウルダの胸を、リーメリの足が軽く蹴る。 「止めて欲しくないなら寝てろ」 ほぼ真っ暗にも近い部屋の中、嫌な予感しかしないながらも、ウルダは大人しく、そのまま上半身を倒してベッドに背を付けるしかなかった。 ベッドの傾きで、リーメリが動いたのが分かる。 そうして唐突に触れてきたものに、ウルダは驚いて間抜けというか女の悲鳴のような声を上げてしまった。なにせ、触られたのはウルダの急所、つまり男性器だったので。 「――!」 「途中だっただけあるな、流石にこっちはまだやる気満々か」 「お前っ、何やって?!」 触っているのがリーメリなのは間違いないのだが、どうにも感触に覚えがなくて、ウルダの額に嫌な汗が浮かぶ。手にしては柔らかさが足りないし、なにより指の感触じゃない。かといってもモノで触れられているという冷たさはない。 得体の知れないもので、暗闇の中、男としての急所を触られているというのは妙な緊張というか怖さがあって、感覚が鋭くなって頭にまで直結する――ひらたくいうなら、興奮する。 だが、そうして何度もゆっくり擦られていれば、鋭敏になった感覚は、やがてソレが何なのかをおぼろげながらも教えてくれた。 「リーメリお前……もしかして、足で触ってんのか?」 笑う気配と、揺れたせいで、ソレがまた違う感触で擦ってくるという事態に、ウルダは思わずイキそうになって歯を食いしばった。 「正解。ほーら、大人しくしてろよー、ベッドの上は揺れるからな、バランス崩すと踏み潰すかもしれないぞ」 「おっそろしーこというなっ」 「おっそろしぃ? へぇ、こっちは益々固くなってるけどな」 「いやそりゃ……っ」 そこで強く、先端から半分踏みつけるように強く擦られて、ウルダの雄はあっさり白旗を上げた。 「……うぇ、足についた」 「自業自得だっ」 なんだかすごい気分が落ち込んで、ウルダは思わず怒鳴り返した。 リーメリの足は既に離れていたが、ベッドの揺れで彼が笑っている事だけは分かる。しかも彼には珍しくかなり盛大に笑っているようで、やがて笑い声まで聞こえてくれば、彼が今ベッドの上に座っている事までが分かる。 「お前、笑い過ぎだろ」 「いやなんか……今お前がしてるだろー顔考えたらすごい笑えた」 「ほんっとにお前、年々性格悪くなってるな」 「それでも俺とヤリたがるのはお前だ」 「まぁ……そりゃな……」 ウルダはそこで口ごもる。リーメリの笑い声はまだ聞こえるものの少しは収まってきたようで、それには少しだけほっとする。それに、どうにも声の調子からして、リーメリの機嫌は直ったらしいと判断出来た。 「俺が女王様だっていうなら、お前は下僕な訳だな。なにせ足で擦られてイクんだからさ」 だから、やたら機嫌良さそうに言われたそれには、反論はしない事にした。 「あぁそーかよ、勝手に言ってろ」 リーメリはまだ笑っている。けれどもこれは機嫌のいい笑い声だから、ウルダは少し相手の出方を待ってみる事にした。そうすれば予想通り、というよりも期待通り、リーメリの手がそっとウルダの腹を撫でてきて、それから下がってウルダのまだ欲に膨れる雄に触れてきた。 「まだいけるか?」 「とーぜんだ」 そうすればリーメリの手がそれをしっかり握ってきて、ちゃんと意図を持って扱いてくる。ウルダは思わず出そうになった声を抑えて、今度は繊細な彼の手の感触に意識を集中した。 「成程、若いだけはあるんだな」 「おっさん連中と一緒にするな……それとも最近、俺より年上とヤったのかよ?」 「さぁ、どうだったかな」 リーメリの手の動きは気まぐれな彼の性格と同じで、突然強くなったりゆっくり触ったりと予想がつかない。しかもこの暗闇だから、急に強く擦られた時にはかなり抑えるのがきつい。思わず体にぐっと力が入れば、気づいたリーメリの手が止まった。 「なぁ、ウルダ。このまま手がいいか? それとも――」 「お前の中がいいに決まってるだろっ」 手だけではなく声も止まってしまったリーメリに、僅かに見えるその金髪のシルエットを目指してウルダは手を伸ばす。そうして、出来るだけ優しくその髪を撫ぜてから、ウルダは彼に言った。 「手よりも足よりも、お前の中が一番気持ちいいに決まってる」 言われればリーメリは、ウルダの手を軽く払う。そうして今度はベッドが軋んで、リーメリの体全体が動いた事をウルダに知らせる。体の両脇が深く沈んで、その気配が移動してくれば、ゆっくりとリーメリの体が降りてくる。期待と欲に膨れて欲しがるウルダの性器が、柔らかく熱い彼の肉に包まれていく。 「ん……はぁっ」 深くまで届いた途端、リーメリが喘ぐ。 同時に、ぎゅうっと締め付けられたウルダも歯を噛みしめた。 「う、ぁんっ」 少しだけ腰を浮かしてから、リーメリが全体重を落とした。当然反動で彼の深くを抉って、またリーメリが喘ぎ、締め付ける。ウルダは彼の腰を支えて、次にまた彼が腰を浮かせた後、落とすタイミングに合わせてぐんっと突き上げた。 「あぁっ」 締め付けるだけでなく、びくびくと中が痙攣するように引き攣るのをウルダは感じる。だから手探りで、片手を彼の足の間へと持っていく。 「やっぱり、お前も限界じゃないか」 「うる……さい」 そっと手でそのかたちを辿って、先端を強く擦る。そうすれば中がきゅうっと締め付けてくるから、ウルダもまた強く突き上げてやる。 「あ……あぁ、んっ」 リーメリの上半身ががくりと倒れるように揺れて、腰が逃げるように浮き上がる。それを許さないようにウルダが下から強く突き上げれば、彼の体から力が抜けて、その体重が全部掛かって、これ以上なく奥深くまで彼の中に飲み込まれる。その度にリーメリが大きく喘いで頭を振っているのが、きらきらと暗闇に舞う彼の金の髪で分かる。 ウルダの動きに合わせるように、リーメリの腰も次第に速くなる。ウルダはリーメリの雄を扱いてやりながらも、腰の突き上げを更に速く、強くしていく。 二人の喘ぎと吐息だけの音の世界に、肉が肉を打つ音と溢れる水音が入り込んでくる。それに負けないように更に喘ぎ声が大きくなれば、速くなった肉と水の音もまた高くなる。 「あ、あん、あぁ、は、あ、ぁ……あぁっ」 ばさり、と大きくリーメリの金髪が宙に広がって、それから体に落ちて、彼の体の動きが止まる。止まったままびくびくと震えて、ウルダの腹に慣れた温かい感触が飛び散った。 ウルダはそこで歯を噛みしめると、リーメリの腰を持ち上げる。その意図が分かっているリーメリは素直に腰を上げて、そうして抜けた直後に、ウルダの雄もまた勢いよく白濁の体液を飛ばした。 「お前すごいぎりぎりだったろ、尻から背中まで飛び散ってる……ちゃんと拭いとけよ」 「そっちこそ、俺の腹の方もすごい汚れ方なんだがな」 終わった後、互いに憎まれ口を叩くのはもはや恒例行事ともいえた。 とはいえ、互いに後始末はちゃんと協力する、というのがこうして長く関係を続けていける必須条件だったりはするのだ。 シーツを剥がして、互いを拭いてベッドの下に放り投げる。シーツに関しては毎日自分たちで洗う事が決まっているから、いくら汚してもいいと割り切っている為扱いは雑だ。それから、どうせ2台のベッドの1台は使ってないのだからと、後処理が終わったら綺麗な方のベッドに二人で移動して眠る。 シルバスピナの屋敷で生活をするようになって、もう、そんな事がお約束として決まるくらいの日時が経った。結局、騎士団を辞めてからも二人して同じ仕事についてしまって、しかもヘタに主が話が分かるものだから、こうして二人だけの部屋まで貰ってしまって――一体いつまでこの関係が続くのかと、互いにこれに関しては先が見えない。なにせ困った事に、二人ともこの先もだらだらこんな状態でいる未来の方が、互いに別れて結婚して……なんて未来より現実味があったりするのだ。 「さすがにいい年になってから俺は女役やりたくないぞ。というかお前も、おっさんになった俺には勃たないだろ」 「……まぁ、どうだかなぁ」 言葉を濁してから、いい年のおっさん同士で絡む姿を想像して、思わずウルダの顔は引き攣った。 「ただ、じーさんになってからも、文句が多くて口うるさいお前と言い合いしてる姿は想像出来るな」 言えばリーメリも嫌そうに唸りながら、寝返りを打つ。 「あー……俺もそれ想像出来るな。じーさんになっても、一言余計で俺に蹴られるお前の姿」 言ってから、なんでこういう時にそんな想像をしなくてはならないのかとでも思ったのか、リーメリは唐突に黙って何も言わなくなる。そしてウルダも、なんだか今の自分達の状況と想像の場面を照らしあわせて落ち込みたくなってしまった。 騎士団の時からだが、こうして行為の後二人して同じベッドで眠ることは慣れているものの、さぁ寝るかとなると自然と互いに背を向けて横になるのは不思議なところだ。 理由を考えれば、素に戻るとなんだか顔をあわすのが気まずい、とか目が覚めた時に相手の寝顔が目の前にあった、なんて状況を避ける為だが、そのあたり、互いに意識せず線引きしているからこそ、居心地が良くて続いているんだろうなとも思う。 まぁ、こういう関係も悪くないよな、なんてついついウルダも思ってしまって、続くまで続ければいいか、と今では思ってしまっていたりするのが一番の問題なのかもしれない。 二人とも大商人の息子とはいえ、長男ではないからどうしても結婚しなくてはならない訳ではないし気楽な身分だ。それでも普通なら世間体がどうとか言われるかもしれない歳なのだが、シルバスピナ卿の下で働くという事で、親は全面的に喜んで、細かいケチをつけてくることもなくなった。 なにせ、港町リシェに住む力ある商人達にとっては、シルバスピナ家が末永く今の体制のままリシェを治めてくれるというのが共通の、一番の願いだ。 最終決定権は領主にあるとはいえ、基本はこの黙っていても金が集まる街の運営を街の有力者達の議会に任せて、領主としては議会から必要分しか金を受取らないという体制は、どの国どの領地を見てもありえない。おまけに領主自身が騎士としての役目を重んじるシルバスピナ家の特性上、下につく守備兵達の質が高い事も有名で治安もいい。 どこからどこまでも商人達にとっては都合がよいこのリシェを、もしシルバスピナ家以外が治めることになればこのまま続く筈はない。 だからこそ、街の有力者達にとって、シルバスピナ家を守るというのは最優先事項だった。自分の息子がその下で警備兵をしている――しかも側近扱いとなれば、父親達にとっては鼻が高い上に、他の大商人達に対して『自分の家はこれだけ街に貢献している』と言うことが出来る。世間体や、他の有力者との親類関係を築く道具としての役目も、この際目をつぶってくれるというものだ。 特にウルダの父親は、喜び過ぎ、というかはしゃぎすぎて、ウルダがシルバスピナ家に雇われることが決まった途端、やりすぎというくらいの準備をしてくれていたりする。 それでふと思い出したことに、咄嗟にウルダは背中に感じる相方に声をかけた。 「あぁ、そうだリーメリ、まだ起きてるならちょっと話がある」 それでごそごそと動く気配の後、なんだ、と不機嫌そうな声が返ってきたことで、ウルダは続きを話す事にする。 「うちの親父が、俺があの人の下で働くって決まった時にな、俺に船をくれたんだよ」 「……どういう親バカだお前のとこは」 それには乾いた笑いを返して、ウルダは一応辺りの気配を探ってから、他に誰もいない事を確認して少し声をひそめる。 「いや、いくらバカでもただドラ息子のご褒美にくれた訳じゃないって。シルバスピナ家に何かあった時の為にって、俺が自由に使える船をくれたんだよ」 「……成る程」 憎まれ口が通常仕様のリーメリであっても、それにはさすがに納得する。彼も一応は商人の息子らしい、とウルダはこっそり思ったりもしたのだが。 「勿論、表向きはただの商船だし、たまには比較的近場の仕事に出てたりもする。ただ基本的には予備船扱いで港で待機させてる。『夜明けの月』号ってやつだ、大抵は9番にいる。少し小さめだが外海に出れるし足も速い」 だがそこまで一気にいいきれば、いつも通りの不機嫌そうなリーメリの声が、彼がこちらを向く気配とともに返ってくる。 「何そんな事俺に言うんだ」 「当然だろ、あの人やリシェに何かあって、俺が動けない状況の時はお前が代わりに船に連絡をとってくれ」 リーメリは黙る。 ウルダは暫く待ってみたものの、何か返してくる気配が相手にないのを察したところで少し笑って、軽い声で言ってみた。 「こういう事はお前にしか頼めないだろ、相棒」 そうすれば暗闇の中で舌打ちの音が聞こえて、彼がまたこちらに背を向けてしまったのが背中越しにわかる。 「わかった。……っとに、都合いい時だけ相棒扱いか」 「なんだよ、相棒は相棒だろ。こーゆーのやってても恋人ってガラじゃないし」 「当然だ、気持ち悪い」 ウルダはそれに本気で声を出して笑ってしまう。 それでも笑いが収まれば、また少し声を落として彼に静かに告げる。 「船いけば、必ず一人は誰かいる筈だ。お前の名前は伝えてある、あの人の為だと思うなら、お前の判断で動かしていいからな」 「わかったよ」 今度はあっさりと了承の返事を返してきた相方に、ウルダは満足そうに笑うと上掛けを顔の半分程までひきあげた。そうして、もう寝てしまおうとした時に、また後ろで少し動く気配があって、一度閉じた目をウルダはまた開ける事になった。 「……分かったけどな、出来るだけはお前がちゃんと連絡とれよ。……不潔で汗臭くて声がでかくて船乗りは嫌いなんだ、出来れば話したくない」 ウルダはもう少しで吹きだしそうになって、手で口を必死に抑えた。 「俺が船乗り共と話を付けなきゃならなくなったら、お前に当たり散らしてやるからな」 「そりゃ確かに後が怖いな」 「そうだ、よーく覚えとけ」 「うん、分かったよ」 笑うというよりにやけてしまって、これが暗闇で、しかも顔をみれるような体勢じゃなくて良かったとウルダはつくづく思う。 だからウルダはその夜はなんだか幸せな気分のまま、夢の中に沈んでいく事が出来た。 --------------------------------------------- ウルダとリーメリのちょっとアレなプレイでした。 ウィア達とは違う感じでラブラブです。 |