【13】 「あのさ、いくら最後までしてないっていっても、栄養失調と寝不足でぼろぼろの人間を2回もイカせりゃそりゃよくないに決まってるでしょ」 サーフェスが言えば、セイネリアも自分が悪かったのは認めているのか大人しく、あぁ俺が悪かった、とまず謝った。 「それだけじゃなくどんだけ長い間あれこれやってたのさ、なんか夜中から朝までずっと坊やの声が聞こえてたみたいだし」 それはあれからもセイネリアが全身まだ終わっていないと言って腹から胸、首、更にはその後背中もじっくりキスをされまくったからで……と考えたシーグルは、サーフェスの言葉をよく考えてちょっと青くなった。 「聞こえて……た?」 「そうだよ、だって部屋のドア壊れたままだったでしょ」 それでシーグルもセイネリアがドアを壊して入って来た事を思い出して、今度は顔中を真っ赤にした。 「セイネリア、お前……」 睨めば彼は平然と言う。 「部屋を移動している余裕もなかったからな」 それから彼はばさりとこちらを上掛けでくるむと唐突に抱き上げ、こちらに文句を言わせる暇もなく声を上げた。 「ソフィア、俺とシーグルを俺の寝室に飛ばしてくれ」 それには待っていたのか、というくらいすぐに彼女は現れる。 「はい、マスター。すぐに飛ばしますね」 「あぁ、それとこいつの装備も後で飛ばしておいてくれ」 「了解しました」 なんだかやたらと彼女の声が明るく聞こえたから、シーグルは今の体勢のみっともなさもあって妙にいたたまれない気持ちになった。彼女の顔を見ればやはり嬉しそうな笑顔で、彼女が現状を喜んでいるというのが分ってしまう。 「ソフィア……」 「はい、シーグル様、何でしょうか?」 にこにこと笑う彼女に、思わずシーグルは聞いてしまった。 「昨夜、俺の声はそんなに……聞こえた、だろうか」 「はい、でも私は慣れていますので」 シーグルは真顔で固まった。確かにクーア神官の彼女なら、そもそも自分のアレな姿さえ見えていたのではないかと思えば赤くなるどころか青くなる。 「あ、でも大丈夫です、こちらの館の者は皆分ってて慣れてますので」 ――皆慣れてる程、今までももしかして聞こえていたのだろうか。 「あぁそのっ、皆聞いても聞かないふりしてますからっ、大丈夫です」 落ち込んでいくシーグルの顔を見てソフィアは焦って一応フォローをしようとしているようだが、シーグルが余計に落ち込んだのは間違いなかった。 この団で医者と呼ばれる男は、やれやれ、と首を回してながら肩を叩いて、それから自分の部屋の隣の部屋のドアを開ける。ここは一応患者用の部屋で、サーフェスが付いて診なくてならない病人や、擬体をつくる人間を暫く置くための部屋となっていた。 現在この部屋にいるのは一人、その人物はサーフェスを見ると心配そうに聞いてきた。 「たい……じゃなく、レイリース様の状態はどうでしたか?」 それにはちょっとだけ苦笑して、サーフェスは鞄を置いて答えた。 「んーもう大丈夫じゃないかな、今朝からは少しづつ普通の食事もとりだしたみたいだし」 そうじゃないと困る、なんの為の荒療治だったのか分らないし……と心の中ではこっそり呟きを足して。実のところ、シーグルの状態がちょっとマズそうなのは彼が帰って来た次の日あたりからサーフェスも気付いていた。ただシーグルは意地を張って大丈夫だと言っていたし、セイネリアも気づく様子がなかったから、ここはいっそ誰が見ても『大丈夫じゃない』と思える状態までは様子を見てみようとサーフェスは思ったのだ。 まぁ結果的には全て上手く行った訳だが、あれでシーグルがどうにもならなくなるところまで行っていたら……考えるだけでも恐ろしい事態しか想像出来なくて内心かなりヒヤヒヤしてもいた。だからやっとその心配もなくなってサーフェスは相当に安堵していたの、だが。 「そうですか、そいつは良かった」 こちらの安堵以上にそこでほっと満面の笑みを浮かべたアウドに、サーフェスは少し止まって考え込んだ。それから、何も知らずにこにこと嬉しそうな彼と目が合うと少し首を傾げて彼に言った。 「ごめんね」 当然だがアウドは訳が分らず目を丸くする。 「なんの事ですか?」 「んー……まぁ気にしなくていいよ」 「いやそれ気になりますって」 「聞かない方がいいと思うけどなぁ」 「ドクタぁ〜」 聞いてしまったらきっと、彼は足を引きずってでも自分についてこなかった事を後悔するに違いない。そうすれば今安心しきって眠るあの青年を抱いているのは彼だったかもしれない……と考えて、いやそれはやっぱりないかな、とサーフェスは思った。 >>>>>END. --------------------------------------------- アウドさん……可愛そうに。 |