※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【11】 目を開けると部屋の中は暗くて、けれども目の前にはパチパチと音を立てて赤く光る暖炉があって、シーグルはもう日が暮れる程の時間になった事を知る。 軽く身じろぎすれば体に纏わりついていた布が少し肌蹴て、思わずシーグルはそれを引き寄せて布の中にくるまった。 「起きたか? 寒くないか」 掛けられた声に顔を上げれば全裸のセイネリアが立っていて、暗闇の中暖炉に照らされて浮かぶ見事な筋肉の隆起と影とのコントラストに思わず圧倒される。 「お前こそ、寒くないのか」 だからそんな事を言ってしまったのは、男として少しばかり悔しかったからかもしれない。 「俺は問題ない。なんならこのまま外へ行ってもいいくらいだ」 「……お前の場合、冗談ではなく本当に行きそうなんだが」 「そうだな、一人だったらこのまま体を洗いに行ってもいいんだが」 平然としたまま彼は傍に座ったかと思うと火にかけていたポットを下す。それからコップにポットの中身を注ぐと、それをこちらに差し出した。 「喉が渇いてるんじゃないのか?」 彼の顔が楽しそうなのは、こちらが喉が渇いているその理由の所為だろう。 シーグルは少し赤くなりながらも大人しく受け取った。 「……あぁ」 まったく、朝からどれくらい彼に抱かれたのだろう。あれだけ喘いでいたのだから喉が渇いて当然だ。 それでも飲む為に起き上がらせた体はそこまで酷い状態でもなく、問題なく動けた事には多少驚きもする。渡されたハーブ茶は丁度飲み頃の温度だった為、シーグルは少しづつ喉を潤すようにそれをすすった。そうしている内に自分の分を注いだセイネリアがコップを持ったまますぐ近くに座り、こちらの布をめくり上げて自分もその中に入ってくる。 「っ……お前、少し冷えてるんじゃないか」 「かもな。お前は暖かいぞ」 少し冷えた彼の体がぴったりと横にくっついてきて、それにぶるりと震えながらもシーグルはそのままの体勢でいた。そうすれば調子に乗ったセイネリアの手がシーグルの腰に回されて、そのまま更に引き寄せられる。 「一日、と言ったんだ、期限は明日の朝までだな?」 唐突な言葉にシーグルがセイネリアの顔を見れば、先ほどまで楽しそうに微笑んでいた彼の顔から笑みが消えていた。 「本当は日が暮れるまでのつもりだったんだが」 「それは無理だ、まだ足りない」 口づけてくるセイネリアを受け入れてしまった時点で、シーグルはここは自分の負けだと思った。 「どうせ、朝まで出発は出来ない」 「そう……ぁ……だな」 すぐに彼の手が体を触って来て、彼の唇が首筋から肩までをなぞりだす。 「でも、あと一晩お前に……ん、つき、あったら……動けなくなりそう、だ」 シーグルの体を完全に床に寝かせてその上に伸し掛かってきながら、セイネリアは舌を出してシーグルの胸の尖りを舐める。わざと舌を伸ばして先端だけをくすぐるように数度舐め、そうかと思えば完全に吸い付いてぴちゃぴちゃと音を鳴らして舐める。それを見ているだけで体が完全に熱に取り込まれてしまうのだから、慣れている男相手の抵抗の虚しさをシーグルは感じていた。 「ん……はぁ」 抑えようとしなければ自然と吐息と共に高い声が鼻から抜け、疼いてどうにもならなくなってくる体に従って足を開き、その間に入ってくる彼の体を受け入れる。 「安心しろ、動けなくなるような抱き方はしない。じっくりと優しく……愛してやる」 わざわざそんな言葉を耳元に言ってくるのだから、本当にこの男は慣れている、腹が立つ程に。 「そう、願いたいな」 だから悔しまぎれにそう言えば、彼が耳元でくすりと笑う。 それから、唐突に体を軽く持ち上げられたと思えばひっくり返されて、うつ伏せにされたと思うと腰を上げさせられる。そうなれば、彼がどうする気かというもすぐに分かって、シーグルは逃げようとしたのだが――すぐに上から被さってきた彼にそのまま押さえつけられて、触れたと思った途端に彼が体の中に入ってくる。 「あぁっ」 思わず床についた手を握って喘いでしまえば、彼は入ってきただけで動かず耳元に唇を寄せてくる。 「あまりやりすぎるとお前がもたないからな、お前の中を感じるだけだ」 シーグルにはその言葉の意味が分からなかった。 けれどもその体勢のまま、体を撫でていたセイネリアの手ががっちりと腹を抱えてそのまま持ち上げてきて、体を起こされるに至って彼の意図が分かる。 「うぁっ……ん……お、前……そういう事か」 セイネリアが座った上に繋がったまま背を向けて座るような体勢にさせられて、やっと彼が手を離す。とはいえ深くを貫かれたままのシーグルは身動きのとりようがなく、少しでも腰を浮かせたくて背を丸める。 だが、それをセイネリアは許してくれない。 セイネリアの手がシーグルの体を支えて顎を引かせ、そのまま顔を後ろに向けさせて口づけてくる。いくらなんでもこの体勢は辛いのだが、キスを受け入れてしまえばそれに応えるのに夢中になって、頭が考えている余裕さえなくなってくる。 「辛いか?」 それでも、唇を離して彼がそう言ってきたから、シーグルは抗議の声を上げた。 「当たり前、だっ」 「悪いな」 それでも彼が本気ですまなそうにそう言ってくるから、それ以上文句を言えなくなってしまってシーグルは黙るしかない。そうすればセイネリアは静かに、出来るだけ負担を掛けないようにしながら、シーグルの足を持ち上げて体勢を整えさえ、納まりのいい姿勢にさせる。 ほっとはしたものの、やはり体の中にある彼を感じてしまう事はどうにもならない。少しでも彼が動けば、中が反応してしまうのを抑えられない。 「シーグル……」 すぐ後ろで名を呼ばれれば、それだけでぞくりとする。 「愛してる」 いいながら、セイネリアはそっと後ろからうなじに口付けてくる。 「愛してる」 囁いて、再び首筋に口づける。 「愛してる」 今度は耳の後ろに。びくりと体が震えてしまえば、体の中で彼を強く感じてしまう。 「愛してる」 それから、髪に、目尻に、頬に。 全く抑揚のない平坦な声なのに、どうしてこんなに彼の想いが分かってしまうのかとシーグルは思う。 「愛してる……」 語尾は少し震えていたかもしれない。 そうして彼はまた首に口付けたまま顔を肩に埋めて暫く黙ってから、今度はゆっくりと滑らせるようにそこから肩の先、腕になるぎりぎりまでを唇でなぞった。 それから、軽く肩に歯を立ててきて、少し驚いたシーグルが振り向こうとすれば、彼が吐息を震わせながらまた口を開いた。 「お前以外は何もいらない……お前を失ったら、俺は確実に俺でいられなくなる」 掠れた声はあまりにも切実で、震える吐息は苦しげで、その言葉全てが真実だと分かるからこそ、シーグルは言葉を返せなかった。 愛しているというその一言に、彼がどれ程の想いを込めているかを考えて怖くなる。自分の存在一つで、この男の全てが変わってしまうと思うと逃げ出したい気分になる。 「愛してる」 ため息を付くように言われる言葉はあまりにも胸に痛い。だからそれに耐えられなくて胸を押さえれば、体制が変わった事で彼を受け入れている中がびくんとその存在を感じて蠢く。 「……ッぁ」 それで沸き上がった熱が体全体に広がる。そうすればよりびくびくと中にいる彼を締め付けてしまって、それを止められなくてシーグルはどうしようもなく息を荒げる。 後ろでセイネリアの笑う気配がした。 「愛してる、シーグル」 再び彼は呟くと、シーグルの顔をまた押さえて口づけてくる。無理矢理振り向かせたシーグルの顔の、その情欲を隠しきれずに困っているという表情をみて、セイネリアは優しく笑うと手を顔から離し、シーグルの体の表面をゆっくりと胸から腰までなぞるように撫でてくる。 「あ、だめ、だ……」 触れられているだけなのに、普段なら感じるような場所でもないのに、彼の手が触れた場所からぞくぞくと背筋を震わせる快感が生まれる。下肢が耐えられずに揺れて、中が彼を欲しがって締め付けてしまう。 「欲しいか、俺が」 囁かれたその声にも体はまた反応してしまう。自分の体の反応がどうにも出来なくて、シーグルは助けを求めるように彼を見た。 セイネリアがそれに口づけて、それから顔を離すと言ってくる。 「俺を欲しいと、言ってくれ」 その顔にあったのがいつもの彼らしいこちらをからかうような表情ではなく、酷く苦しそうな微笑みであったから、シーグルは自然と声を出していた。 「あぁ、お前が欲しい、セイネリア」 苦しそうなままながら、セイネリアの口元の笑みが深くなる。 そうして彼は両手でシーグルの足、ふくらはぎから滑らせるように手でなぞって太股までをを撫であげると、足の裏に手を入れて軽くシーグルの体を浮かせる。そうして、下から突き上げるのと同時に、浮かされた体を落とした。 「あぁっ……ぅん」 ずくんと深くに響いて、望んだ刺激を与えられた中が蠢く。 それに軽く前のめりになると、足を離したセイネリアの手が後ろからシーグルの雄を掴んできて、それをゆるく指で弄(もてあそ)び出す。 「おい……やめ」 「体の方も欲しがってるな……締め付けてるぞ」 「馬鹿、そういうのは……」 耐えきれなくて、もっと強い刺激が欲しいのに、セイネリアは動いてくれない。 それがもどかくしくて、シーグルは我知らず腰を自分で揺らしていた。 「もっとだ、シーグル。もっと限界まで……俺を欲しがれ」 耳元で囁いてきて、耳たぶを吸って、うなじを舐めて。そうしながら片手でシーグルの雄を扱き、もう片手でシーグルの胸を撫でる。その動きはあくまでゆるやかで、シーグルの熱をもゆっくりと上げようとしてくる。 「俺を感じているか、シーグル」 言いながらも、ゆるやかな彼の愛撫は止まらない。 「この体勢で、感じてない訳ないだろっ」 強烈な感覚よりゆっくりとした快感は耐えるのが難しくて、体の熱をどうにもできなくて、もどかしくて、シーグルは体中の疼きを持て余すしかない。 「俺も、お前を感じてる」 耳元に顔を埋め、満足そうな息を吐いたセイネリアは、首筋から背中を何度も唇でなぞる。そうしながらも、やはり彼の手は止まる事なくシーグルの体のあちこちにゆるい愛撫を与えている。 「は、ぁ……ぁ」 与えられるものをそのまま受け入れれば、体は簡単に感じてしまう。その度に体の中の彼の質量を感じてしまって、それを締め付けてしまって、『彼』が自分の中にいる事を強く意識する。自分が彼のものになった事に、全てを愛する者に支配されている感覚に、心さえもが酔う。 「お前が、俺の中にいる」 呟けば、笑った気配と共に彼が耳元で囁く。 「お前が、俺を包んでる。蠢いて、締め付けて、俺を欲しがってる」 「あぁ……俺は、お前が欲しい、セイネリア」 言いながら耐えられなくて腰を揺らせば、彼の腕がまたこちらの足裏を掴んで開かせるように持ち上げてくる。体を浮かし、それから落とす。下から突き上げてきて、今度は止まる事なくゆるい抽送が始まる。 「いくらでも俺を欲しがれ。いくらでも与えてやる」 囁きながらも荒くなってきた彼の息遣いを感じて、シーグルもまた、下から突き上げてくる彼の動きに合わせて自ら腰を揺らす。 目の前にあるのは暖炉の火。 それに赤く照らされた体が、暗闇の中で蠢く。 荒い二人の息とともに上下に揺れる二人の影が、森の中にぽつりと立つ小屋の中で揺れている。 「セイネリアっ、セイネリアっ、セイネリア……」 いつの間にか激しく髪が跳ねる程揺らされて、シーグルの体が揺れるというよりも飛び跳ねる。下ろされる度に自重で深くまで貫かれ、その衝撃に反射的に強く彼を締め付けてしまって、シーグルは歓喜の声を上げて喘ぐ。 今自分を抱いているのは、誰よりも自分を愛してくれる愛しい男。 この男にだけは全てを委ねてしまっていいのだと、解放される体と共に、心が悦びに打ち震える。愛して、愛されて、心と身体の飢えが満たされる幸福感に酔う。 今だけは何も考えずに、ただ彼を求めて彼を感じればいいと――そう、思って喜ぶ心とは逆に、シーグルの瞳からは涙が落ちた。 --------------------------------------------- そんな訳でエロはここまで。 |