【3】 「どーする、しーちゃん。今日はおとなしく俺に抱かれとく?」 「ふざけるなっ」 返された予想通りの言葉に、セイネリアは心からの笑みを浮かべる。 まだ成人してもいない、若い騎士の青年は、兜ごしでもその気迫が分かる、はっきりとした敵意の視線をこちらに向けていた。 シーグルは一度もセイネリアに勝てた事はない。 いつもセイネリアに負けて、そして、惨めに体を嬲られ続けている。 それでも、彼の瞳からその強い意志の光が消える事はない。 何度打ち負かしてもその心は折れず、ずっと自分を睨み続ける。嬲っている最中さえ、意志だけは拒絶を返す。 諦めてしまえば楽だろうに、受け入れてしまえば快楽しか感じずに済むだろうに、勝てないと分かっていてさえ、彼は抗い続ける。 ゆっくりと、シーグルが剣を構える。 その青い瞳はおそらくこちらを凝視したまま、手を顔の横に引いて、剣先をこちらに向ける。それにセイネリアは剣先を下ろしたまま待ち構える。 彼の口元が一度開き、大きく息を吸い、呼吸を整える。直後にあがる掛け声と共に、銀色の痩身が風とも思える速さで近づいてくる。 また、速くなっている。 そう感じただけで、背筋にぞくりと走るものがある。 たとえそれが、セイネリアにとっては完全に見えていて危機感を全く伴わないものだとしても、諦めずに更に磨いた彼の成果が見えるだけで背筋が震える、喜びの笑みが止まらない。 ざり、と足下の砂利が鳴るのは一瞬の事。 チッ、と微かに擦れた鉄の音は、更に短い。 渾身の一撃を避けられた彼の剣先は、それでも鈍らず、すぐに切り返して、すれ違いざまに薙ぎ払おうと線を描く。 見えてはいても、セイネリアでさえそれに剣では追いつかない。腕の装備で弾き、軌道をずらす事で対処する。 二撃を防がれた事で、体勢を整える為、彼はその勢いのまま距離を取る。 セイネリアは、後方へと回り込んだシーグルに振り向いた。 「いい打ち込みだったね、しーちゃん」 彼の細い身体では、今の攻撃だけでも相当に消耗した筈だった。本当は、今の攻撃が避けられた時点で、諦めても仕方ないくらいには渾身の打ち込みだった筈だ。 それでも彼の意志は折れない。 すぐに息を整えて、剣を構え直す。 向けられた彼の気迫は衰えず、隙も無駄も全て切り捨てた構えの美しさもそのままだった。 明らかに体力が劣る、腕力が劣る。技術と経験以前に厳しいその条件を、けれども彼は諦めない。負けた言い訳にもしない。 真っ直ぐ、無駄なく、空気の隙間を縫うように伸びた剣先を、セイネリアは目を細め愛しげに見つめる。勿論それは瞬きにも満たない時間の事で、シーグルも、セイネリア本人にさえも気づけなかった事だったが。 意識よりも先に体が動く。 今度は剣と剣が当たる澄んだ音が響いて、鉄同士が青い火花を散らした。 だが、勢いと、払うこちらの力からすれば、彼の手から離れて飛んでいくと思われた剣は、まだ彼の手の中にあった。 セイネリアは軽く驚くと共に、笑みを更に深くする。 歯を噛みしめて、意地だけで剣を手放さなかった彼は、その代わりに大きく体勢を崩してよろけ、無様に倒れそうになりながらもこちらから距離を取る。 「どうしたシーグル、足に来てるぞ」 「うるさいっ」 言って足を踏みしめる、彼の息は荒い。 三度構えたその姿は、未だに関心する程整ってはいたものの、一歩踏み込んだその足の動きだけで、体力的な限界が来ている事が見えてしまう。 だからセイネリアは思う、今日はここまでかと。 これ以上やっても、後は彼の体力的に剣は鈍るだけだろうと。 シーグルの踏み込みに合わせ、セイネリアが同時に踏み込む。 刃に刃をまともに当てれば、互いの勢いを全て受けて、軽いシーグルの体は文字通りふっとぶ。それでもかろうじて自ら後ろに退き、片膝片手を地につく程度で耐えたのは大したものだった。 けれど今度は、彼が構え直すのを待ってはやらない。 セイネリアが蹲る彼を蹴れば、腕でそれをガードするものの、シーグルの体は今度こそ地面に転がる。それでも、転がる反動でどうにか起きあがって体勢を整え直そうとしているところで、セイネリアの二回目の蹴りが入る。 銀色の兜が地面に転がる。代わりに、兜の光沢にさえ負けない銀糸の髪が姿を表す。 そして、色素の薄いその顔の中から、宝石をはめ込まれたように濃い青が現れる。 「はい、今日も負けちゃったね」 わざと馬鹿にした口調で言えば、彼は歯を噛みしめて青い瞳に憎しみの灯を燃やす。その瞳の輝きは、まさに彼の折れない心を象徴するように、深く、強く、どこまでも澄んでいる。 折れない意志、曇らない瞳、それだけでもうセイネリアの体は熱く滾っていて、その身体を貪りたくて仕方がなくなる。自分の中に、まだこれ程まで強い欲求が残っていたのかと思う程、その感覚は激しく、冷えきった筈の心にさえ熱を灯した。 「派手に転んだな、顔に泥がついてるぞ」 見下ろして、セイネリアは言いながら少ししゃがんで、地面に仰向けに倒れている彼の頬の泥を軽く拭ってやる。 「お前の顔は白いから、汚れると目立つ」 白い肌、銀色の髪、その中で唯一色を主張する濃い青色は、じっとセイネリアに向けられたまま動かない。 どこまでも曇りない、綺麗なままのこの青年を、これからこの泥のように犯して汚してやるのだと思えば、心も体も熱く滾る。 それでもきっと、この瞳は曇らない。 それでもきっと、彼の心は泥にまみれて沈んでいったりはしない。 だからこそ、こんなに愉しいのだ、とセイネリアは思う。 勝てないと分かっていても諦めず、歪まず、曇らず、さらなる磨きを掛けて現れる彼なら、もしかしたらいつか、自分の予想さえしない強さまで上ってくる事だってあるかもしれない。 そう、思っただけで、心の中から消えた筈の熱い疼きを感じる。その感覚は、どんな極上の酒よりも心地よくセイネリアを酔わせてくれる。 泥のとれた顔の中、じっと睨みつけてくる青い目を見つめたまま、セイネリアは顔を近づけていく。だが、唇同士が触れる直前、ぎり、と彼が歯を噛みしめる音が聞こえて、無意識に口づけようとしていた自分に気づいたセイネリアは、口元に思わず笑みを引く。顔を離せば、まだ敵意丸だしでこちらを睨む彼の目と目があった。 「いい加減、噛むのは止めてもらいたいんだがな」 「なら、口付けてこなければいい」 「やれやれ、この分じゃお前の口につっこんだら噛みきられそうだな」 「あぁ、噛み切って、男じゃなくしてやる」 「それは怖い」 笑えば、さらに彼は瞳に憎しみを増やす。 「なら、そのうちお前に俺のを飲ませてやろう。吐き出す程にな」 カッと赤くなるシーグルの顔に、セイネリアは喉を震わせる。 「誰がッ」 起きあがろうとする彼の体の上に乗り、その体を押さえる。暴れて引き離そうとする彼の抵抗を全て無視して、その装備を剥いでいく。 やっと見えた彼の肌に手を這わせながら、セイネリアは嬉しそうに笑った。 「お前の中も、肌も、体中俺のもので汚して一杯にしてやろう。俺のものだという事をお前に思い知らせてやる」 引き剥がそうと、暴れる彼の両腕を地面に縫いつける。下肢を重ねてやって、こちらの昂ぶりを彼に押しつけてやる。 「嫌だっ、嫌だっ、くそぉおっ」 彼の叫びが、耳に心地よく響いた。 --------------------------------------------- 次回、セイネリア×シーグルでエロです。えぇ、久しぶりにこの二人の書いてます(・・* しっかし、この頃のセイネリアさんはヘンタイってシーグルに言われても仕方ないですね。 どうみても、ヘンタイ以外の何者でもない。 |