魔法都市と天才魔法使い
<クノームの章>
※そのものシーンでないですが、女性とメイヤの軽く性的接触のあるシーンがあります。





  【4】




 言って彼女は再び狂気じみた笑みを浮かべる。
 目の前のその顔に、メイヤがぞくりと背筋を震わせるくらいに不気味な笑みを。
 彼女はその真っ赤な唇に指先を当てて、赤い舌でちろと舐めると、その指先をメイヤの唇に当てる。それから、ついとその指を滑らせてメイヤの喉を辿り胸元まで濡れた線を描く。

「坊やはまだ、経験ないんだろう?」

 言いながら、下ろしていった彼女の指はメイヤの服に触れると、服を止めていた胸の布紐を解く。
 そうすれば簡単に服は広げられて、メイヤは肌に空気を感じた。

「や、めろ……」

 青い顔でメイヤが言えば、ころころと楽しそうに彼女は笑う。

「大丈夫、ちゃんと気持ち良くしてあげるよ。坊やは私に任せておくだけでいいのよ。ちゃぁんと男にしてあげる」

 肌蹴られた胸を、彼女の指が辿る。
 線を引くようにすーっと指は胸を過ぎて腹を伝い、ついには下肢の衣服にまで辿り付く。それからやんわり服の上からメイヤの股間を撫でると、ズボンの紐をゆっくり外し、撫でる延長のように自然にそれを下ろしていく。

「ふふ、可愛いわねぇ」

 ぽろ、と飛び出した自分のモノと、言われたその言葉に、メイヤの顔は真っ赤に染まる。耳まで熱を感じて目をぎゅっと瞑り、メイヤは自分の股間から顔を背けた。
 感触で、あの細い指が、すっと自分のモノを伝っていくのが分かる。

「うぁっ……」

 初めての他人の手の感触に、メイヤはそこが痛いくらいに反応してしまった事を知る。
 指は暫くカタチをなぞるように表面を撫で、それから突然、掌全体でそれを握られた。
 メイヤは歯を噛みしめる。
 耐えようと思っても初めての感覚に、頭はともかく欲望に膨らむその部分は意志でどうにも出来ない。
 暖かい他人の手の感触は強烈で、思わずメイヤの腰が動く。

「や、め……」

 動かない体をそれでもどうにか動かして、彼女から逃げようと試みる。
 けれど今度はそれを手で扱かれて、その強い感覚に思わず目を開けたメイヤは、目の前で不気味な笑みを浮かべる彼女の顔を見た。
 顔は近づいてくる、そして。

「ンンッ……」

 柔らかなモノが唇にふれる。
 目の前いっぱいに広がる相手の顔と唇の感触に、メイヤは自分がキスされたのだという事を知る。
 しかも、ぬるりと彼女の舌が口の中へ入ってくると同時に、下肢では彼女の手が強くメイヤの性器を擦る。

「ン……うぁ……」

 意識しなくても下肢ががもぞもぞと動き、舌を絡められてとろとろと滑るその感触に頭がぼうっとなってくる。

 だが、そこで。
 頭の中に響く声が聞こえた――メイヤ、俺を呼べ、と。

「クノームさんっ」

 流されていきそうな体と頭を振り切って、メイヤは叫ぶ。
 途端、響くのは彼女の悲鳴と、バリバリと何かが引き裂かれるような音。

「この馬鹿っ」

 体を離して床に倒れ込み、悲鳴をあげて苦しそうにのたうち回る女をみて、メイヤはほっと息をつく。

「ったく、俺の言う事守らないからだ、手間掛けさせやがって」

 言いながら近づいてくる金髪の豪奢なローブを着た魔法使いのシルエットを見て、メイヤは気の抜けたような笑みを作る。
 彼の名を呼ぶだけで気力のすべてを使い切った今、言い訳も、謝罪も、言うだけの力がメイヤには残っていなかった。
 ただ、彼の姿を見たら安心してしまって、ただでさえ力の入らない体がまったく動かなくなる。
 彼の姿を見ているのさえ億劫で、だんだんと瞼が落ちてくる。
 そうして、メイヤの意識は一度完全に暗闇へと落ちた。






 冷たい感触にびくりとしながら飛び起きたメイヤは、足を組んで不機嫌そうに見下ろしている金髪に仮面の魔法使いと目があった。

「目、覚めたか?」

 まだ少しくらくらする頭を振りながら辺りを見回せば、そこは狭い部屋の中で、窓もなく小さなランプが青白く部屋を照らしているだけのテーブルと椅子しかない殺風景な空間だった。
 冷たい感触は水の入ったグラスだったらしく、押しつけられたそれをそのまま受け取って、メイヤはこくりと中身を飲んだ。

「ったく、表通りは魔法が閉じられてるから問題なくても、一歩でも裏通り入れば見た目と実物が違ってるのは普通なんだ。入り口に空間をいくつか重ねてあって、何処に飛ばされるか分からないのも珍しくない……」
「空間を重ねて、ですか……」
「そう、表面上の建物は規定に合わせて作った後も変えられない分な、違う場所と空間繋げたりして中身はかなりぐちゃぐちゃなんだよ」
「それならそうと教えておいてください……それじゃ本当に魔法都市じゃないですか、魔法使い用の施設が集まってるだけの場所どこじゃない」
「知識がないやつに詳しい事教えてられっかよ……その後、建物の規定の説明までしなきゃならなくなるしな、面倒だ」

 建物は規定通りに作らないとならない……街全体が魔法陣になっているからだ。
 と、それを思い出してから、それを教えてくれた彼女の事をメイヤは連鎖的に思い出す。

「あ……彼女は?」

 クノームは更に不機嫌そうに口を曲げた。

「逃げたよ。派手にのたうち回ってたから逃げれないだろうと思ったんだけどな、途中からその姿自身が幻だったらしい。まぬけな話だが、この俺がまんまと騙された」

 頭を掻いて舌打ちをする彼は、本当に悔しそうだった。
 けれど多分、彼がそんな失態を犯したのは自分が原因なのだろうとメイヤは思う。メイヤの様子をみる事を優先させた所為で、彼女を逃したのだというは容易に想像出来た。

「すいません。完全に俺が悪かったです。助けて頂いてありがとうございました」

 だからメイヤは今回は素直に謝って礼を言う事にする。
 あまりにもあっさりとメイヤが謝った所為なのか、クノームの方は少し驚いたようにした後、口元に軽く笑みを浮かべた。

「さすがに素直だな。まぁ、基本躾はいいしな、お前は……さて、結構時間経っちまったな、立てるか?」

 言われてメイヤは立ち上がる。
 まだ体はどことなく力が入りにくい気はしたが、動けないような事はない。これなら普通に歩く事も可能だと思う。

「帰るか、と言いたいとこだが、お前がちゃんと体が戻るまでは待つぞ。ティーダにはこの事言う訳にはいかないしな。……お前だって、言いたくないだろ?」

 嫌味っぽく言われた言葉に、メイヤは黙る。
 クノームは溜め息をついた。

「まぁ、嫌味だけじゃなく、ティーダにはこの事は言うな」

 クノームの声には今度は冗談の一欠けらも入っていない。真剣な様子の彼に、メイヤは不安になる。

「彼女は何者なんです?」

 だからそう聞けば。

「ちょっとな、過去の亡霊集団っていうか、一言でいや魔法ギルド内の過激派って奴なんだがな。ちょっとティーダとは因縁があって、出来れば奴らがまだいるって事をあいつには知らせたくない。あいつの居場所を知られるなんてのはもっての外だ。……まぁもっとも、場所分かったからってすんなり奴らが来れるような場所じゃないけどな」

 忌々しげな口調のクノームの様子からすれば、詳しい理由は分からなくても、ティーダに彼らを会わせてはいけないのだというのは分かる。

「師匠が生きているのかって聞かれました。それと、何処にいるんだって」
「だろうな。言ったのか?」
「いえ、言わずには済みました」
「そうか、そりゃ偉いな」

 クノームが口元に少しだけ笑みを纏って、メイヤの頭をぽんぽんと軽く叩く。

「まぁ、お前がティーダと関わったって事が漏れてたんなら、今後も森の外へ出る時は気をつけろ。魔法使いは基本信用しないくらいには思っておくんだな」
「そうします」

 唇を引き結んで下を向いたメイヤをちらりと見て、クノームは肩を竦めると口元を意地悪く歪めた。

「で、だ。どこまでやってもらったんだあの女に?」

 口調を変えていつも通り揶揄うように言われた彼の言葉に、メイヤは瞬間顔を赤くしてクノームの顔を見返した。

「どこまでって……途中までですっ」
「そらすまなかったな。いい機会だし、どうせなら男にしてもらってから助けてやれば良かったか」
「良くないですっ、というかもっと早く助けてくれればっ……俺……した、から」

 いいながら声を窄めて再び下を向いてしまったメイヤを、クノームは腕を組んで観察するように見つめた。

「何されたって?」

 メイヤはぎゅっと掌を握り締める。

「キス、されました……」

 クノームは呆れたように体の力を抜いて、座っていた椅子に寄り掛かった。

「なんだ、それだけか」

 メイヤは睨み返す。

「それだけじゃないです。舌入れて来て……俺、あーゆーキスは初めてだったんですからっ」

 クノームは顔を引き攣らせて、大きく溜め息をついた。

「お前本当に、そこまでお子様だったのか……それでイキナリ男に告白とかな。
 言っとくが、お前本気でティーダとそういう関係になりたいなら、一回くらいとりあえず女でいいから相手してもらってこい。初めてで男はやめとけ、お前は俺と違うんだからな、いざとなったら金払ってでもちゃんと教えてもらってこい」

 反論しようとしたメイヤは、クノームのその言い方に引っかかりを覚えて、そして思いついた事を尋ねる。

「それはもしかして……経験からの意見ですか」
「……聞くなよ」

 そういえば彼は、ティーダ以外とはそういう接触が出来ない理由があった。となれば当然、ティーダと事に至った時は、完全に初めてだった訳で……。

「……忠告としては聞いておきます」
「お前今同情したろ、くそ、やっぱ可愛くないなお前」
「とりあえず、すっごい実感こもってたのは分かりました」
「本当にイイ性格してるよなお前」

 言って上からメイヤの頭をごりごりと撫でるというには乱暴に掻き回してから、彼はまた大きく溜め息をついて手を離す。

「まぁ、最後にまた言っとくけど、今日の事はお前の中でとどめておけよ、ヘンな様子みせてティーダに勘ぐられないようにな。あいつに心配は掛けさせたくないだろ、お前も」
「……はい、分かってます」

 それからまた少しだけメイヤの様子を確認してから、二人は魔法でティーダのいる森へと帰った。




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メイヤ君危機一髪。どうにか回避?
いや、多分ここで男にしてもらった方が後々良かったかもzzz


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