WEB拍手お礼シリーズ27 <秋のスイーツ対決編> ☆秋といえば? (1/3) ある日、唐突にウィアが叫んだ。 「秋と言えば食欲のあーーきっ」 まぁ、思いつきでウィアがいきなり大声宣言するのも珍しくはない為、それを聞いた優雅なお茶会の面々は、今日は何があったのだろう、と思った程度だったのだが。 ただし、付き合いの長い&恋人であるフェゼントだけは反応が一歩先を行っていた。 「はいはいウィア、それで何が食べたいんですか?」 「おうっ、俺はなっ、やっぱ秋の味覚といえば甘いモノに重点を置きたいとこなんだよなっ」 「あー、つまりウィアは、にーさんにお菓子を作って欲しいって事なんだね」 「まぁその言いかたも間違ってはいない」 「いや、ハッキリそう言いなよ」 つっこまれたのを何故か偉そうにいい返すウィアに、さすがのラークも呆れる。 「そうですね、ウィアのリクエストで私が作っても良いのですが……どうせですから、皆でいろいろ作ってみませんか? 作りたいものがあれば私が作り方は教えますので」 と、フェゼントの提案で皆で秋のお菓子作りパーティーをする事になったのだが……ウィアやラークはともかく、ロージェンティも作る事になるという事で一つの問題が持ち上がった。 「折角作るのなら、やはりアルスオード様が召し上がれるようなものを教えて頂きたいのですが」 というロージェンティの発言は妻としては当然とも言えるものだが、何せその対象者がシーグルとなるといろいろ問題がある。 「シーグルが確実に食べてくれるようなお菓子というと何がいいでしょうか」 「えーと、シーグルって甘いモノ苦手だよ……な」 「そもそもウィアが甘いものがいいって言ったのが悪いんじゃない」 「シーグルも甘いモノが全く食べられないという訳ではないんですよ。甘さ控えめにして、ロージェンティさんが作ったといえば食べると思います」 「えーでもさ、どうせなら食べさせてから『それ作ったのは誰だと思うー』とかってサプライズ的なのやりたいんじゃないかな、やっぱ」 こそこそと兄弟+ウィアで相談をしてみても、なかなか話が纏まらない。 だが唐突にウィアが手をぽんと叩いて発言した。 「あ、ならさ、ただのお菓子作りパーティーじゃなくてお菓子作りコンテスト風にしてさ、シーグルは審査員って事にすればあいつも絶対食うんじゃね?」 「それは……確かに、シーグルは責任感は強いですからそれは確実でしょうけど」 でもそれは、シーグルの責任感を逆手にとって有無を言わさず無理矢理食べさせるにも等しいんじゃないだろうか――とフェゼントは思ったものの、まぁシーグルがこれで少しでもいろいろ食べれるようになればいいかも、と思う事にした。 かくして、明日は皆で何を作りたいかを考えて、明後日に買い物をして、シーグルも休みである明々後日のお茶の時間に、身内だけのお菓子作りコンテストが行われる事になったのであった。 ☆☆秋といえば? (2/3) 『秋といえば食欲の秋』というウィアの発言で、皆で秋のお菓子作りをする事になったのだが……シーグルにも確実に食べさせようという事で、身内コンテスト風にしてシーグルに審査員にさせようという事になってしまった。 と、その話を聞いて、全く関係者じゃないくせに、何故か盛り上がる男が一人。 「ふははははー、スイーツコンテストなら俺様が見本を見せてやらねばならないだろーーー」 「いや、あくまであの坊やの身内でのお遊びですから、レイには関係ないっスよね」 と、やたら燃える相方につっこむフユだったが、一度火のついた料理人(バカ)の勢いは止められない。 「ならば俺はっ、マスターの代理という事でっ」 「いやなんかソレ言ったら絶対審査拒否されそうっスよ、あの坊やに」 「ならば誰かに入れ替わればっ」 「いやー、レイじゃあそこのメンツの一人に化けるのは無理っスね。主に身長的な問題で」 「くぅっ、ならばもうさすらいの天才料理人あらわる!枠で出場を……」 「そうっスねー、いっそすがすがしくそう名乗った方が前二つより可能性ありそうではありまスけどねー」 「とりあえずここで悩んでても仕方ないっ、作るお菓子を考えながら俺は買い物に行ってくるぞーーー」 そう宣言するとレイはあっという間に出ていく。いや悩む以前にそこの問題クリアしないと出れないんですけどねーと思いつつも、さてどうしたものかとフユは考えた。 一方、街をぶらぶら歩きつつ、ウィアは悩んでいた。 「やっぱさ、コンテストってなったら一番取りたいよな。それも皆にうぉぉっと言われるようなすごいの作って見せたいしっ」 どうにも勝負事という事になってしまうと妙に燃えてしまうウィアは、街に繰り出して、カフェやら食堂がある通りをうろうろし、作るお菓子でいい案がないかと考えていた。 「えーと、おちびの神官さんっ」 「あぁん? 今ちびって言ったのはお前かぁっ」 お約束の反応でウィアが振り返れば、灰色の髪と灰色の目の、見知った顔がそこにはあった。 「なんだ、またセイネリアの奴が何かいってきたのか?」 彼ならば当然そっちの話題だと思ったのだが、フユはそこで困ったように頭を掻くと、ウィアにちょっとついて来て欲しいと告げてきた。そして――ー。 「うぉぉぉ、すげー、なんだこれーーー」 唐突に連れてこられた場所で出されたソレにウィアは驚く。 「ふふふふははははー、見よ、このどこからどこまでも完璧なスウィーツをっ、この完璧さを称えてこれをパフェと名づけよう〜」 ……と、いう事で、ウィアがフェゼントに掛け合った結果、今回は二人一組でチーム戦という事になり、ウィアは自称『さすらいの天才料理人』氏と組んでお菓子を作る事になったのであった。 ☆秋といえば? (3/3) ひょんなことから皆でお菓子作りをする事になり……シーグルにも確実に食べさせようという事で、身内コンテスト風にしてシーグルに審査員をさせようという事になってしまった。 「何故こんな事になったんだ……」 とシーグルが愚痴る中、お菓子作りコンテストが始まった。ちなみに今回は二人一組参加という事で、フェゼント&ラーク、ロージェンティ&ターネイ、そしてウィア&さすらいの料理人氏となっていた。審査員はシーグル……が一人だけは嫌だと拒絶されたので、首都シルバスピナ家の館の使用人からスイーツ大好き女子二人が選出され、それにテレイズ、ファンレーン(フェゼントの師匠の女騎士)が招待される事になった。 ちなみに司会はヴィセントである。 「まず最初はかぼちゃのパンケーキに栗の風味をつけたハーブティーです」 一応審査員には誰が作ったかは公表されていないが、最初の審査はフェゼント&ラーク組で、すりつぶしたかぼちゃをいれたパンケーキはほんのり甘さ控えめでどの審査員からも評判が良かった。 「次はローズクッキーです!」 これはロージェンティとターネイ組のもので、バラの花びらの塩漬けをのせたクッキーは上品で良い香りだと評判だった。 「次は……」 「俺達はこれだぁぁぁぁっ」 審査員には誰が作ったか内緒、という前提を全く無視してウィアが叫ぶ。まぁ身内お遊びだし、という事で苦笑で済んだが。 ウィアとさすらいの天才料理人氏が出したものは、とにかくガラスの器の上にフルーツとクリームが綺麗に盛り合されたもので、その美しさに審査員だけでなくその場にいた全員が驚いた。 「ふははははー、どうだ諸君俺様のスペシャルでプァーフェクトゥなスゥゥウィーツに感動するがいいー」 ウィアの横の人物の怪しさは皆からどん引きされたものの、ウィアが知り合いだというから一応は問題ない人物だろうという事にはされていた。それに確かに、見た目も、味も、大口を叩くだけの豪華さと美味しさがあると審査員達は皆感動していたというのもある。 ――のだが、審査結果は……。 「一位はロージェンティさん&ターネイさんの組です!」 そのヴィセントの発表に、文句を言う二人。 「えーーーー、どうみても俺達のチームが最高だったじゃないかー」 「うむ、自称天才としては納得がいかないなっ」 だが、その二人ににこりと微笑んでヴィセントは続ける。 「うん……審査員の得点だけどね、シーグルさんは特別点として倍得点となってたから……ロージェンティさんのクッキーがスパイスクッキーで殆ど甘くなかったのが勝因だと思うよ」 それには二人して一応文句を言ったものの、ロージェンティが嬉しそうに審査員長(?)のシーグルから祝福を受ける姿でその文句もなくなり、後は皆でのんびりとお茶会という事になった。 「まぁやっぱここは奥さんの愛が勝ったって事にしとくかな。スイーツ対決としては甘くないお菓子が得点高いのはちっとなっとくいかないけどさ」 「まぁ、奥方の愛、と言われたら俺も潔く引き下がるしかないだろう」 ******** 「――という事があったそうです」 そうカリンがセイネリアへの報告を締めくくれば、最強の騎士は不機嫌そうにつぶやいた。 「あいつが食うなら俺も作ったのだがな」 「え? ボスがお菓子作りですか?」 思わず顔を引き攣らせたカリンに、セイネリアはさらりと返した。 「冗談だ」 明らかに安堵したカリンをセイネリアはちらと見る。 「甘いモノが苦手なあいつに作るなら菓子以外にするさ」 つまり作る気はあるんですね、とカリンは内心ちょっと想像して怖くなったそうな。 <おまけ> 「ふははははーー、どーだっ、この天才料理人である俺様のスゥイーーーツはっ」 「おぉう、この甘さがきっくぅー」 お菓子作りコンテストは終ったのだが、なぜかウィアとさすらいの料理人氏はそのまま盛り上がり、自称さすらいの料理人氏はあの後も日が暮れるまでお菓子を作り続け、ウィアはその度に大喜びで食べまくっていた。 勿論、その甘い匂いだけで早々にシーグルは自分の部屋へと逃げ、それに付き合ってロージェンティもその場を去り、ターネイはお土産を貰ってロージェンティについて行き、テレイズも仕事で帰り、そしてとうとうファンレーンも「ごちそうさま美味しかったわ、またお茶に招待してね」という言葉と共に帰ってしまった。 となるとさすらいの料理人氏以外で残されたのはウィア、フェゼント、ヴィセント、ラーク、それから使用人のスイーツ大好き女子二人となる。 とはいえ、ヴィセントはただその場にいて本を読んでいるだけで、マイペースでお茶を飲みながら菓子はたまにつまむ程度だ。主に食べているのはウィアとラーク、それから女子’S2人の4人で、フェゼントは各種のお菓子をウィアから一口だけ貰い、作り方を聞いたりメモしてたり考えたりするのが主だった。……のだが、ここでラークが突然自分の手やその辺りのものの匂いを嗅ぎ出して言った。 「……なんか甘いものばっか食べてたら鼻がおかしくなったかも。これじゃこの後調合出来なくなるんで俺もそろそろ部屋に帰るよ、おなかも一杯だしっ。夕飯いらないや」 そうすれば残りの戦力(?)は主に3人となる。 「俺はまだいっくらでも食べられるぞっ」 「私たちも大丈夫です! 旦那様も好きなだけ食べてていいとおっしゃってくださいましたし!」 「さぁ、次が出来たぞー、今度は秋らしくサツマイモのプリンだーー」 と、盛り上がる彼らを見ていたフェゼントは、そこで一口貰ってメモを取りながらもとっぷり暮れた外を見て、そろそろシーグルの夕飯の支度をしなくてはと思い出した。ウィアや自分達は菓子でお腹一杯でも、シーグルにはちゃんと食べさせなくてはならない。……という事で、にっこりと食べている人達に言ってみる。 「おや、もうかなりいい時間ですね、さすがに皆さん甘いものを食べ過ぎではないでしょうか。ウィア、太 り ま す よ」 呼びかけはウィアにではあったが、最後の言葉が響いたのは女性陣であったらしい。 「……そ、そうですね、え、え、ぇぇえ、そろそろ止めておきましょうか」 そうして女子’Sも離脱となれば、後はウィアくらいなの、だが……。 「うぉぉ、これもうっまいなぁ♪」 「次が出来るまで、ちょっと口直しに栗のグラッセとキャラメルナッツをどうだっ」 「おぉ、これもシンプルだけど美味いなぁ。あ、フェーズ、お茶おかわりっ」 最後の手段はこのお茶に睡眠薬を入れるしかないだろうか、とか考えつつ、とぽとぽお茶を注いでいたフェゼントだったが、ふと顔を上げると……。 「うっ」 食べるウィアを見て腕を組んで頷いていたさすらいの料理人氏が、唐突にヘンな声を出したかと思うと立ったまま首だけがっくりと項垂れる。ちなみにウィアは食べるのに夢中でそれに気づいてはいないようだった。 「おぉっと、俺様はもういかねばならないようだ」 どこか棒読みっぽくも俯いたままの彼が言いだせば、ウィアがやっとそこで顔を上げた。 「えぇっ、まだ俺は食えるぜっ」 「いやついつい長居してしまったが、さすらいの料理人として一つのところに長く居すぎる訳にはいかない。お菓子を求める次の誰かの為に、俺はいかねばならないのだ」 なんか身振り手振りが不自然にだらんとして操られているように見えるが、ウィアは気にしていないようだった。 「そっか、『さすらいの料理人』なら仕方ないな」 「あぁ、ではさらばだっ」 「またきてくれよな〜さすらいの料理人さん〜」 去っていく、というかこちらをむいたままずりずりと後ろへ下がっていく人物を見ながらも、ウィアに向かって『最後までさすらいの料理人で通すあたり、ウィアの知り合いじゃなかったんですか? 彼は何者ですか? いやそもそもあの人怪し過ぎますけど、なんか後ろで誰か操ってませんか? そこ気にならないんですか?』とフェゼントは脳内でつっこまずにはいられなかったという。 ちなみにその後、すっかりお菓子作り一色に支配された厨房の掃除には、ウィアが相当がんばらされた、という事である。 * * * * * * * * 「はっ、ここはどこだ?」 気付いたレイの頭を、笑顔のままフユはパカンといい音をさせて叩いた。 「な、なにをするっ、俺のスゥイイーーツの虜になった者達に俺の……」 そこで二発目のパカンという音が鳴る。 「いやぁ、さすがレイの頭はいい音がなるっスねぇ」 「くぅっ、何をするっ、痛いだろっ」 するとフユは笑顔のまま、声を低くして背中に『ゴゴゴゴゴ……』という擬音がつきそうな凄みを出してレイを睨んだ。 「レイ、いくらなんでも調子に乗りすぎっスよ。文句があるなら、今夜は2,3日声が出ないようにしてあげましょうかね」 --------------------------------------------- このお礼文章がレイが一番活躍している話かもしれないですね。 |