WEB拍手お礼シリーズ32 <兄弟揃って冒険者のお仕事編> ■冒険者の仕事? <1/4> 仕事で少し遠出をしたと思ったら、なかなか帰ってこなかったシーグルが、1週間と少しぶりにやっと家に帰ってきた。 しかも現地で何かあったらしく、こんなに遅くなったのは、シーグルが向こうで寝込んでいたかららしい。 「そんなに心配しなくていい。もう大丈夫だといっているだろ」 「だーめーです、この際です、少し休暇をとって下さい」 「休みなら向こうで十分取った、もう……」 帰ってくるなり、付き添いできた、やたらと体を気遣う部下達と言いあっていたシーグルだったが、迎えに出て様子を見ていたフェゼントの一言で、あっさりと決着が付いてしまった。 「シーグル、だめです。皆さんがこれだけ言っているんです、休暇を取って下さい」 さすがのシーグルも、笑顔でそういうフェゼントに反論する事は出来なかった。 と、いう事でシーグルは一週間程休暇を取る事になったのだが、ウィアとフェゼントにとっては少々困った問題があった。 「どうすっかぁ、丁度俺達明日仕事なんだよな」 「断りましょう、もしくは延ばしてもらうか。私はシーグルの看病がありますし」 「だから兄さん……もう体は大丈夫だから」 「だめです、暫く安静にしていて下さいって皆さん言ってたじゃないですか」 「いや本当に、もう体はいいんだ。そもそも病気ではないし。向こうで十分すぎるくらい寝ていて、正直もう明るい時間に寝ていたくない……」 と、切実すぎるシーグルの台詞と、言うだけあって顔色も悪い訳じゃないその様子を見て、ウィアはふと閃いた。 「んじゃさ、シーグルもくるか? どーせ俺らの仕事はただの指定薬草集めだし。山道歩くけど、お前にはいいリハビリになんじゃね?」 もちろんそれに、フェゼントが反対するより早く、シーグルは行くと即答した。……あぁ、相当寝たきり生活に苛ついてたんだろうなーと、ウィアは思わず同情したくなったくらいだったが。 だがそこへラークが。 「じゃ、俺もいくよ。なんか一人だけ留守番もシャクだし」 と、そう言ってきて、おーという声と共にウィアがいいぞと返せば、魔法使い見習いの末っ子は、得意げに腕を組んで不敵な笑みをその顔に浮かべた。 「だからウィア、植物系の魔法使い見習いが一緒に行くってその雇い主にいってみなよ。きっと喜んで採集リストに高ポイントの追加入れてくるから」 「おぉっ」 ちなみに、ウィア達がよく請け負う、指定植物(主に薬草)の採集だが、基本は欲しいもののリストを雇い主から貰って、その中で見つかったものを採集して帰ってくるという仕事である。リストの植物にはそれぞれ貴重度合いによってポイントがつけてあって、謝礼はポイントの合計値によって払われることになっている。 「雇い主って魔法使いでしょ? 高ポイントの珍しい植物は、専門家が一緒じゃないと判別出来ないから頼めないんだよね」 「おぉっ、さっすが専門家! 頼りにしてるぜ!」 「まかせてよ」 そうしてがっちりと握手を交わす二人を見ていて、シーグルは思わず声を漏らす。 「あの二人は、普段は喧嘩してるのに仲がいいんだな」 「喧嘩する程仲がいいって見本みたいですよ。実は二人ともすごい気が合うんです」 「そうか……」 だがフェゼントは、笑顔で二人を見ているシーグルの表情が、どこか寂しそうなことにも気づいていた。 「俺よりも余程、兄弟みたいだ……」 ■冒険者の仕事? <2/4> シーグルは強制的にとらされた休暇中、フェゼント達の仕事についていくことになった。 仕事内容は、山へいって植物採集。フェゼントが弁当をつくり、気持ちのよい青空の下でおしゃべりしながら歩く様は、仕事というよりまるでピクニックだとシーグルは思った。 だが、そんな中で事件が起こる。 突然、道の中央に立つ黒い影。 すぐにシーグルは前に出ようとしたが、それをフェゼントが笑顔で引き留めた。 「おぉぉおおおおっこいつはぁっ、ラーク、分かってんな?!」 「まっかせてよ」 その会話の後、ウィアが呪文を唱えながら前に走っていけば、道にいる黒い影もまた、ウィアめがけて走ってこようとしている。 再びウィアを助けようとしたシーグルを、フェゼントがやはり引き留める。 「大丈夫です、二人はイノシシ退治は得意なんですよ」 道にいた黒い影はイノシシだった。 サイズは小ぶりではあるが、人間の子供の体重くらいある大人のイノシシだ。 「まぁ、盾の呪文も使っていましたから、最悪でもそこまでの大けがはしないでしょうし」 言った途端、ウィアのいる場所がパァっと明るい光に包まれる。それが目くらましの為のリパの光の術だと思った直後、イノシシの悲鳴のような鳴き声が響く。 それから、どたどたと、ひたすら走る二つの影。 「ウィア、それじゃ逆効果だ」 目くらましの光に逆上したイノシシが、走るウィアを追いかける。 「いえ、怒らす為ですよ」 シーグルは危なっかしくて見ていられないのだが、フェゼントは慣れているのか、落ち着いて見ている。 そんな中、追いかけられていたウィアが木に飛びついてよじ登れば、勢いあまったイノシシが木にぶつかって、ドーンという派手な音を辺りに響かせた。そして。 「今だっ」 という声が聞こえた直後、木にぶつかってふらついているイノシシの足下から、わっと茨のような植物が沸くように生える。植物はわさわさとすごいスピードで成長し、イノシシを絡め取ってしまった。 「よっしゃ、ナイス、ラーク」 木から飛び降りたウィアが、イノシシの傍で杖を構えるラークに向けて手をあげる。 「ウィアもさすがの逃げ足だったね」 二人は近づくと、パン、とこぎみいい音をならしてハイタッチをした。 「当然よっ、逃げるが勝ちってね」 「確かにその言葉は、ウィアの為にあると思うよ」 二人の様子にくすくすと笑うフェゼントとは別に、シーグルは正直少しだけ落ち込んでいた。 「本当に、息がぴったりだ……」 シーグルが家族の元から去った時点のラークはまだ赤ん坊で、当然シーグルと兄弟だったという記憶が彼にはない。だから彼がシーグルを兄弟と認められない気持ちも分かるのだが、シーグルには籠の中で眠っている赤ん坊を眺めて、小さな手をおそるおそる握ったり、フェゼントと一緒に笑わせて遊んだ記憶がある。正直寂しいとは思っても彼に無理強いをする気もなく、どう接すればいいのか未だに分からない状態なのだった。 そんな様子のシーグルに気づいて、フェゼントは苦笑しながらも、さてどうしたものかと考えた。 ■冒険者の仕事? <3/4> シーグルは強制的にとらされた休暇中、フェゼント達の仕事についていくことになった。 仕事内容は、山へいって植物採集。なのだが、途中の道でイノシシが出現し、見事ウィアとラークの連携プレイで捕獲されたのだった。 のだが。 「よっしゃ、今晩はイノシシ料理ー」 「肉食べ放題だね!」 とはしゃいでいる二人の側で、ラークの出した茨に絡め取られていたイノシシがまだ諦めずに暴れていると思ったら……外れて逃げ出した。 しかも、逃げて走り出した方向の目の前にはフェゼントがいて、フェゼントも考えごとをしていたせいで反応が遅れた。 だから、その場にいた人間の内、一人以外は全員固まったまま事態が理解出来ないでいた中……断末魔の鳴き声が、彼らの止まった時間を動かした。 フェゼントの前に立つのは、ここにいる皆が見慣れた銀色の騎士。 そしてイノシシは、シーグルに斬られても尚、走った勢いのままに、フェゼントに届く少し前の場所に倒れて絶命していた。 「うん……なんていうか、そりゃシーグルならあっさり倒すだろうとは思ったけど……反応は、能力以前に実戦経験の差だぁな」 ウィアが呟けば、隣にいてやはりなにも出来なかったラークがぷぅと頬を膨らませる。 「大丈夫だった? 兄さん」 「え、えぇ、シーグル、ありがとう」 剣を収めたシーグルがフェゼントに声を掛けると、そこへ近づいてきたラークがシーグルを見上げて言う。 「俺とウィアは、こんなのよりもずっとずっと大きいイノシシしとめた事があるからね!」 「それはすごいな」 「バカにしないでよね」 「してない。本当にすごいと思ってる」 シーグルは本気で言っているのだが、ラークの機嫌は直らない。 だがそこへウィアが割り込んできて、二人の背中をばんばんと勢いよくたたいた。 「なぁシーグル、お前さ、こいつくらいならもって運べるか? なぁに、そんな遠くまでって訳じゃないんだ」 「あぁ、大丈夫だと思う」 「んじゃぁ悪いけどさ、この近くに猟師小屋あるからそこまでそいつ持っていってくれないかな。で、ラークは道案内よろしく」 「えぇっ?!何で俺が?」 「俺とフェズはこの辺りで植物探してるからさ、な、案内だけだったらいいだろ? 力仕事はにーちゃんに任せて、お前は前歩くだけでいいんだからさ。頼んだぜっ」 ウィアの意図に気づいたフェゼントもにっこりと笑顔で頼めば、しぶしぶながらラークも首を縦にふらざるえなかった。 さて、そういう事でシーグルとラークは歩きだしたのだが、二人共話す事が思い浮かばず、ひたすら無言が続いていた……ところ。 「あ」 唐突にラークが道の脇に走っていって座り込んだ。 「どうしたんだ?」 「ちょっと採集するから待ってて」 言うとラークは腰の麻袋を開く。 「それはリストにない植物じゃないか?」 ラークの手元をのぞき込んでシーグルが言えば、魔法使い見習いの少年は得意げに胸をはる。 「こっちは俺の採集分。植物系の魔法使いはね、とにかくたくさんの種類の植物のサンプルが必要なんだよ」 「集めているのは薬草だけだと思っていた」 「まぁ、薬草はいくらあってもいいんだけどね、珍しい植物を集める事も重要なんだ」 「そうだったのか……なら、今度からは薬草だけではなく、そちらにも注意しておく。おそらく、来月の遠征訓練はラシャット山に行くから……」 「ホント?! あそこは保護区だから許可とらないと入れないんだよね。んじゃ家帰ったら、特に探して欲しい植物の絵を描くからさ」 「あぁ、空き時間には必ず探す」 「うん、あ、でもリストになくても、見たことない植物あったら採集してね。うーん、惜しいなぁ、今が種がついてる時期ならいいんだけどなぁ……」 夢中になって話すラークを見て、シーグルは嬉しそうにほほえんだ。 ■冒険者の仕事? <4/4> シーグルは強制的にとらされた休暇中、フェゼント達の仕事についていくことになった。 仕事内容は、山へいって植物採集。だが、途中でイノシシをしとめ、それはシーグルとラークの二人が猟師小屋へと持っていった。 帰ってきた二人を、やたらとにこやかなウィアとフェゼントが迎える。 「おー、おっつかれさーん」 「本当に、二人ともお疲れさまです」 「ホントにさ、体力のない魔法使いを余分に歩かせるのってひどいと思うね」 「まーまーまー、くさんなよー。ほら、俺たちもいろいろ探してきたしさー」 そう言って、自分の採集袋を見せるウィア。 「あ、アオネコベラがある、近くに水場あったの?」 「おう、ちぃっとそっちいくと小さな沼があんぜ。あ、もちろん仕事分とは別にお前の収集分もあっからな」 「わー、さっすがウィアー」 と、二人がはしゃぎながら沼へ向かった後ろを、シーグルとフェゼントが歩いていく。 二人共表情は柔らかかったが、フェゼントは歩きながら、何か思い出したようにくすりと音を漏らした。 「兄さん?」 「あぁいえ、そういえば小さい頃、シーグルはよく、大きくなったら兄弟3人で冒険するんだっていっていたなって」 「あぁ。確かその時言っていたのは、俺が騎士で、兄さんが神官で……ラークは考えていなかったが、まさか魔法使いになってるとは思わなかった」 「私が騎士になった分はウィアがいてくれますからね。パーティとしてはなかなかいい組み合わせですよ」 「確かにそうだ」 「少し遠回りしましたけど、その願いは叶いましたか?」 笑顔のフェゼントに、シーグルも笑う。そんなシーグルを見て、フェゼントは更に笑みを深くする。 「でも、本気で冒険者の仕事をするには、私たちでは貴方の足をひっぱってしまいますね」 「そんな事はないさ。いれば十分心強い。後ろを気にしなくていいんだから」 「あぁそういえば、本来なら役割的に私たちが前にいる筈なのに、今は後ろにいるべき人たちが前に行ってしまいましたね」 フェゼントの言葉に、シーグルも一瞬目を見開いて、それから吹き出す。 「そういえばそうだ。騎士二人が神官と魔法使いの後から行ったとなれば格好がつかないな」 「なら、いそいで追いつきましょうか」 シーグルとフェゼントが追いつけば、先に行っていた二人は沼の傍にそれぞれしゃがみ込んで、夢中で採集作業をしているところだった。 だが、ならばとシーグルとフェゼントも別れて採集作業に入ってすぐ、シーグルは沼の方からぽちゃりと、何かが落ちた音を聞いた。 近寄っていってみれば、風が吹いて、静かな水面に小さな波をたてる。それをみたシーグルは、一瞬、足が止まった。 「?……まさかな……」 風がやんだ水面はただ鏡のように風景を写すだけで、特に異常は感じられなかった。 「どーした、シーグル?」 「あぁ、いや、なんでもない」 立ち尽くしていたシーグルの傍にウィアがやってきて、その視線をたどって彼もまた水面を見る。 「うーん、やっぱり、おまえと並ぶと身長差が目立つなぁ」 急に顔をしかめたウィアに、シーグルは苦笑する。 「それでも少し伸びたんじゃないか、ウィア」 「え、やっぱそう思う? へへー、前はフェズにちょっとだけ負けてたんだけどさー、今は抜かしたんだぜっ」 そう言えば、今度は名を呼ばれたフェゼントがやってくる。 「ウィーア、まだ抜かされてはいません。この間の時は、貴方はすこし踵が浮いていましたよ」 そうして、三人が集まっていれば、ラークも当然やってくる。 「俺まだウィアに負けてるけどさっ、年齢的に、一番これから伸びる可能性あるからねっ」 「俺もラークの歳の時はそこまで高くなかった。その後に伸びたんだ」 「ほらー、俺だってもっと伸びる可能性があるでしょ、シーグルにーさんの弟なんだからっ」 フェゼントに言われた時くらいしか言わない『シーグルにーさん』という言葉に、思わずシーグルはラークの顔をみる。 フェゼントとウィアもラークの顔を見れば、ラークは顔を赤くしながらも下を向いた。 <おまけの後日談>------------ 「まったく、至急の信号を送ってくるから何かと思えば……」 水鏡に写る銀髪の騎士の姿を見て、全身を黒で固めた騎士は、彼らくしない柔らかな笑みを顔に浮かべた。 フユからの連絡石が一番急ぎの信号を送ってきたので通信用の水鏡の用意をしてみれば、写ったのは灰色の髪の部下ではなく、セイネリアが一番見たいと思っている人物の姿だった。 兄弟達と笑顔で話す彼の顔は、セイネリアが見たことのない幸せそうな心からの笑顔で、その姿をみれたという喜びとは別に、胸を締め付けるようにせりあがる感情がある。 琥珀の瞳を細めて、セイネリアはシーグルの姿を見つめる、聞こえる微かな声に耳を傾ける。 その口元に笑みを浮かべたまま、静かに水鏡を見つめる彼の顔は、彼の部下達の誰もが見たことがない程幸せそうに見えた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「どうやらバレなかったようっスね」 シーグル達が去った後、沼から魔法石を回収しながらフユは呟いた。 水鏡同士を繋げて、互いの姿と声を交わす為のアイテムであるこの石は、澄んだ水を張った場所に入れることで使うのだが、当然高価で、部下達が使うのは緊急用と限られている。 それでも、今回は主が許すだろうという事は疑いようがない。 ただ、今回は一方方向にしか声も映像もとばさないようにしたものの、本来は互いの声と映像を交わしあう魔法の為、いくら調整しても繋がった瞬間だけは水面に向こう側が映ってしまう。だから一瞬、水面にセイネリアの姿が映ってしまったのだが、どうやらシーグルには気づかれなかったらしい、とフユは胸をなで下ろした。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 一方、その次の日の夜。 仕事が終わって帰ってきたシーグルは、装備の汚れを拭いながら考え込んでいた。 「俺は、そんなにあいつの事を考えていたのか……」 沼を見た一瞬、風が吹いて凪いだ水面に、セイネリアの姿を見た気がした。波が収まった水面を見れば自分が映っているだけだったのだが、シーグルとしては少なからずショックではあった。 「くそ……」 舌打ちをして、シーグルは頭の中の人物をふりはらう。 けれどもその夜は、ベッドに入っても何故だかなかなか寝付けなかった。 --------------------------------------------- 騎士団編、嫌われ子供の子守歌、の後のお話。長くなっちゃって困った小話でした(==; |