※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【3】 クォンが昔潰してやった盗賊団の者達に捕まったと聞いた時、セイネリアは正直なところただ失望した。 あんなくだらない連中に捕まるならその程度の男だったのかと。 だから勿論、助ける気などまったくなかったし、捕まえた連中が何かを言ってきてもすべて無視するようにカリンには伝えた。 ただ、ここでこのまま彼が死んだら、それはそれで少々面白くない事もある。 クォンがあれだけ『愛している』という対象の『彼女』が誰なのか、その顔くらいは見てみたいものだとセイネリアは思っていた。だが彼に対して調べてみても、入団希望時に申請させた情報以上の事が何も分からない。出身は国外の蛮族の一つであるからそこまで行って調べてこいとまでカリンに言う気はないものの、冒険者事務所からの仕事の経歴を見てさえあの男の言う『彼女』は分からなかった。 セイネリアが持つ情報網は、魔法使い達を別とすれば、国内で一番優秀であると言っていい筈だった。それでもここまで分からないというのは不思議なくらいで、何も分からないまま彼が死んで終わりというのは後味が悪すぎた。 「……それこそ、後は本人に聞くくらいしか方法がないか」 不快な音に顔を顰めて、クォンはただ天井を見ていた。 醜い男達の顔が次々と現れては消えて、自分の中に欲を吐き出して去っていく。 『お前、セイネリアのオンナなんだろ? てめぇをぐちゃぐちゃに犯して、生きたまま体を切り刻んで奴に返してやる』 どうやら彼らはセイネリア・クロッセスに相当な恨みがあるらしく、自分の事を彼の情人だと思ったらしい。 ――あぁ確かに、あの男はそういう意味でも有名だったか。 けれどもクォンはあの男とはそういう関係はないし、あったとしたら暗殺の方法がもう少し増えただろうかという程度の感想しかない。 「くっそ、人形かよこいつ。何の反応もねぇな、つまらねぇ」 その割にはしっかり中に吐き出していく男に笑ってしまう。 次の男がやってきても結局やる事は同じで、足を広げられて、突っ込まれて、揺らされるだけだった。 勝手にやらせておけばいい。 体を投げ出して好きにさせておけば、いつか終わる。 ――あれ? 何の関係もない筈の風景、一瞬、クォンの頭の中に、こことは違う部屋で違う男が見下ろしている映像が見えた。そこがどこだったのか、その男が誰だったのか、考えた途端に頭がズキリと痛んだ。 「おい、こいつつまんねぇよ。もう殺してもいいよな? ケツに剣でもぶっこんでみるかぁ?」 それを聞いて頭で理解した途端、クォンの思考は戻ってくる。 彼らに性欲処理をさせているだけならいいものの、殺されるとなれば話は別だった。クォンはまだ死ぬ気はない、まだあきらめない、『彼女』の為に、必ずここを抜け出してあの男を殺さなくてはならない。 「あ、ぁんふ……」 鼻から抜く声を出せば、自分の上で動いている男の顔が変わる。 「なんだ、やっと感じてきやがったのか」 先ほどまで自分を犯していた他の男達までもが見おろしてきて、クォンは彼らに見せつけるように、切なげに眉を寄せて体を捩った。 「ん、んう……はぁ……」 腰を揺らして、けだるげに顔を横に背けて、耐えるように目を閉じる。そうすれば上に乗る男はこちらの足を更に広げて、床に押し付けて、深くを抉るように腰を叩きつけてくる。 「あんっ」 びくんと体を震わせて中の男を締め付けてやる。自分から腰を揺らめかせて男を誘ってやる。 「おぉ、いいぞ、やっと中もほぐれてきやがった」 既に中は今まで入ってきた男達の吐き出した体液で濡れきっているから、男が動きを速めても、その動きを阻害しない程スムーズに受け入れる事が出来る。 「あんっ、あうっ、はぁ、ぁぁ……」 男が体毎自分に覆い被さるようにして腰だけを小刻みに動かす。奥の辺りだけを擦られて、それを締め付けて、クォンは耐えられないのだという嬌声を上げてその男に抱きついた。 「あぁ、やぁぁあああんっ」 抱きついたところで男も呻く。中の男が吐き出して、体の深いところにびしゃりと液体がぶちまけられる。 「は、あ、やぁ……」 甘えるように男に抱き付いて、足さえ男の腿に絡めて、もっと欲しいのだと言うように腰を揺らして、中にいるままの男を意識して締め付ける。 「なんだよ、急に売女みたいになりやがって……もっと欲しいのか、んん?」 男がキスしてくる。舌を絡めて、唾液を流し込まれて、ちゅくちゅくと水音を鳴らして口腔内を舐められる。 鼻息も荒く体を押し付けて口付けて来る男に、クォンもまた自分から体を擦り付けて男の背に腕を回した。 ――あぁ、本当に馬鹿な男だ。 クォンの手が男の背筋を撫でるように、娼婦のように滑らかに動く。つつつ、と指は男の背の真中を首筋から腰まで伝って、そうして男の腰を撫でて自らの腰を押し付ける。そのタイミングに合わせて中で締め付けてやった後、手はごく自然に男の腰にあった短剣を抜いた。 ――こういう時は武器は抜いておくものだ。 流れるように抜いた短剣が男の腹を刺す。 耳元で鳴る濁った男の悲鳴を心地よく聞いて、クォンは愛し気に男の背をまた撫でて、今度は男の喉に短剣を走らせる。 吹きだした暖かい血がシャワーのように顔に落ちてくる。それをうっとりと顔に浴びて、クォンはもう動かない男の体を振り払うと立ち上がった。 真っ黒な布に包まれた男が傭兵団にやってくれば、辺りの者が警戒して騒ぎになるのは当然の事だった。 誰何(すいか)の声にその布が落ちて、全身血まみれの男が笑顔で『ただいま帰りました』と言いながら姿を現せば、いくら手練れ揃いの黒の剣傭兵団の者であっても瞬間場が凍り付いて皆が皆息を飲む。 そうして男はぺこりお辞儀をして、申し訳なさそうに言ったのだ。 「クォン・テイ・ナグトです。マスターに帰ってきたと伝えて貰えませんか?」 クォンが自力で帰ってきた、という報告を彼の状態込みで聞いたセイネリアは、さっさと体を洗わせるように言うと、殺して来たろう連中の事を聞き出してそこの状況を見てこいと指示を出した。 おそらく現場は酷い状態に違いない。一人二人ならいいが、派手にやりすぎた場合は予め警備隊にこちらから報告しておいたほうが良い。ただの冒険者同士の怨恨によるトラブルだと、こちらから報告しておけば面倒事は少なくて済む。 そうして体を洗い終わった後連れてこられたクォンを、セイネリアは呆れたように見つめた。 「申し訳ありません、少々ヘマをしてしまいまして」 あっけらかんとそう答える男の笑みは昨日見た時と何も変わらなくて、セイネリアのこの男に対する興味は僅かに増す。 「別に構わんぞ、どうせ助ける気もなかったからな」 「そうですよね」 その顔もただ同意をしたというだけで、残念だとか悲しいだとかいう弱者の感情は一切浮かんでいなかった。 「あんなザコに捕まるようなまぬけはいらんと言うところだが、自力で帰ってきたならまぁそのままいる事を許してやる」 「あぁそれはよかった。それが一番心配でしたから」 体を洗った全裸の上に布を被っただけの彼は、言いながら頭を掻くとその腕から胸までが露わになる。そこにあちこち痣やらうっ血の跡が見えれば、セイネリアは軽く眉を寄せた。 「捕まった先で犯されたのか?」 聞けばやはりクォンは笑う。 「あぁはい、それがどうも俺は貴方の情人だと思われたらしくてですね、犯して体を切り刻んで貴方に見せつけてやるとか言ってました」 「それはまた、頭の悪い連中だな」 「ですね、いやーそんな奴に捕まったなんて、自分で自分が情けなくて、これでは貴方に呆れられても仕方ないなと」 不自然なまでに、殺してきただろう男達を全く気にしない彼のその笑顔は、壊れたもの特有の不気味ささえある。 「まったく、まぬけな話だな」 けれどセイネリアとしては、別にこの男がマトモかそうでないかなどたいした問題ではなかった。団に置いておくなら、そして契約をするなら、使えるのか使えないのかさえ分かればいい。そして現状、能力についてだけならなかなか使えそうだと判断してもよさそうではあった。 「えぇまったく。――あぁそういえば、もし貴方と寝るくらいの関係だったらもう少し暗殺手段が増えるかなとは思いましたが」 だから、クォンが冗談めかしてそう言った言葉に、セイネリアは何でもなく答えた。 「そうか、なら試してみてもいいぞ?」 「え?」 その驚いた顔が本心なのか演技なのかはどちらでも構わないが、こちらがそう返す事を分かっていて言ったことは分かっている。 「寝ている間に俺に隙があるか試してみたいならいいぞ。言っておくが、そういうのを考える奴は多くてな、こちらとしては飽きてるくらいだが」 セイネリアが笑みを浮かべてやれば、彼は頭を掻きながらやはりにこりとこちらに笑い掛けてくる。 「はぁ、確かに貴方ならそうかもしれませんね。でもまぁえーと、そうですねぇ……折角だから試してみましょうか」 「いいぞ、どうせその恰好なら脱がせる手間もないしな」 言えば男は自分の姿を見てからはははと笑い声を上げて、そうですね、とやはり笑顔のまま返してきた。 --------------------------------------------- 次はセイネリア×クォンのH。 |