後悔の剣が断つもの
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【8】



 逆光の中、見上げる男の顔は、欲に塗れ、嘲笑うかのように唇は笑みを浮かべている。
 未だ喉が息を吸い込むだけでひゅーひゅーと掠れた音を上げ、苦しさに時折咳が上がる。荒い息を吐きながらも、シーグルは呆然と男達の影が動く様を見ている事しか出来なかった。

「流石貴族様は肌も綺麗じゃないか」

 アルスベイトの手が外気に曝されたシーグルの肌を撫でる。
 びくりと、肌を引き攣らせて歯を噛み締めたシーグルを見て、アルスベイトは殊更醜い笑みを浮かべると、今度は手ではなく顔を近付けて胸に舌を這わせた。

「やめっ……」

 その頭を引き剥がそうとすれば、腕をシェンに押さえられる。
 わざと唾液を溢れさせて、ぴちゃぴちゃと水音までさせて、アルスベイトはシーグルの胸全体を舐める。そこから首筋を舐め、鎖骨を舐め、脇の近くを舐める。胸は敏感な頂きの周囲をわざと避けて、下品な水音を立てて筋肉の窪みに沿って舌でなぞり、ぴくぴくと動くその様を楽しんでいるように見えた。
 曝された肌は男の唾液に塗れ、外気に冷やされて、その感触にさえ体の内に熱を呼び起こしていく。
 そうして散々体を汚らわしい唾液で汚した後に、アルスベイトは唐突に放置していた朱い尖りに舌を絡めた。

「んぅ……」

 口を引き結んでいたのに、瞬間、吐息が鼻に抜けて甘い音になる。
 シーグルは羞恥に頬を染めたが、相手は気にせず、今度は執拗にその硬く存在を主張しだした乳首を舐める。
 唇で吸い上げ、歯で甘噛みし、やっと離れたと思えば舌で先の方だけを擽るように舐める。その間にももう片方では、唾液で濡らされた指がそのぬめりを擦り付けるように動いていて、確実に体の中の熱を溜めて行っていた。

「やめろ……くそ……」

 そんな呟きは当然無視をされる。
 アルスベイトは執拗にシーグルの乳首に舌を絡め、シーグルはただ顔を顰めて感覚を耐える事しか出来なかった。舌はぬるぬると激しく先端を舐め、時折回りをぐるりと舐めてから強く吸い上げる。
 指で弄っている方では、爪を立てられてちくりとした痛みを伝えた後、痛みが去っていくじんわりとした感触と共に、くるくると指先で転がすように撫でられる。
 それからやっと手と唇が離れたかと安堵すれば、今度は皮膚の固い男の手が、胸の筋肉を女の胸のように揉みながら、胸全体を外側から内側へと撫でる。勿論、ちゃんと掴める程胸の肉がある訳がないので、揉むというよりも胸の筋肉に指を立てているような状態ではあったが。ない肉を絞るように指で掻き、最後に乳首をまた摘み、その先端を舌で舐める。
 声を抑えているシーグルも、吐息が震えるのは抑えようがなかった。

「まぁ、男じゃこんなもんか」

 さんざん卑猥な水音をたてて胸を嬲っていたアルスベイトは、そういうと顔を離して唾液で濡れそぼった口元を手で拭う。
 そんな男の仕草さえ見ているのが嫌で、思わずシーグルは男から目を逸らした。
 それに気付いたアルスベイトが、笑みを浮かべてシーグルに顔を近付ける。

「どうだ、俺は優しいからな。抱くならちゃんと相手も気持ち良くなきゃならんと思ってる。大人しくしてれば悪いようにはしないぞ、お前さんくらいの上玉なら、俺も出来ればじっくり味わって楽しみたいからな」

 顔を掴まれ、無理矢理目を合わせられた相手の顔をシーグルは睨む。
 それにさえアルスベイトは笑い、更に顔を近付けるとそのままシーグルに口付けた。
 だが。

「――ッゥ」

 アルスベイトが顔を顰めて唇を手で押さえる。
 その顔は痛そうだが、急いで噛んだ為に入ってきた舌がまだ浅く、すぐに引かれて大した怪我にはならなかった事がシーグルにはわかっていた。案の定、ゆっくりと手を離した後も、彼の口元に血は見えず、表情も痛いというよりもすぐに不機嫌を含んだ笑みへと変わる。

「……いい加減にしとけよ、俺が遊んでやるのは一回だけだ。お楽しみ中の中断は嫌なんだよ。てめぇは負けたんだ、後は大人しく足開いてろ」

 男の口元には笑みがあるが、瞳には笑みはない。

「次にふざけた抵抗したらその度に腕を折るからな、腕が終わったら足、その次は目だ。……俺も綺麗なままのてめぇで楽しみたいからな、出来りゃそんな事はしたくねぇ」

 じっとシーグルを見下ろすその瞳は、歴戦の戦士であり多くの人間の上に立つ者特有の威圧感を持っていた。言葉がただの脅しではなく、本気だという事は疑いようがない。

「そうだよ、シーグル君、ちゃんと思い出したまえ」

 頭上からは、シェンの声が聞こえてくる。

「私はここにいてもすぐに仲間と連絡が取れる。だから、君の兄上が大切なら大人しく従うしかないなんて事、最初から君は分かっていただろう? 散々私のいう事を聞いてきたんだ、今更抵抗など何の意味もない。どの道君に逃げ道などないんだよ、なら大人しく言い成りになっていたほうがいいじゃないか」

 口調だけ、声だけならば、本当にシェンの声は優しく、親友の息子を心配する声に聞こえる。

 ――何故自分は抵抗などしたのか。無駄なのに、無駄なのは分かっていたのに。

 シーグルは目を見開き、体中から力を抜いた。
 アルスベイトの顔が再び近づいてくる、唇が相手の唇で覆い尽くされる。顎を押さえられ、深く口内をまさぐられ、唾液を口の中へ注がれる。ぬめる舌が荒々しく口内で暴れ、シーグルの舌を絡め取る。
 男の息の音も、鼻に抜ける相手の臭いも、それだけでも吐きそうになる。けれどシーグルはされるがままに舌を合わせ、喉を動かして口腔内の液体を嚥下した。
 唇が離れ、征服者が勝利を確信した時の笑みを男は浮かべる。

「いい子だ、そのまま大人しくしてな、可愛がってやるよ」

 再び合わされる唇。
 それに大人しく従いながら、まだ開いている瞳からは涙が落ちた。

 逃げ道などない。
 従うしかない。
 抗う必要も意味もない。
 そもそもこの体には、今更抵抗して守る程の価値がない。
 何度抱かれた? 何度体の中に男の精を受け止めた? 何度男に抱かれて自分もイったかなど、覚えてさえいない。祖父でさえ、この体の使い道などその程度だと言ったではないか。
 体など呉れてやる、それはもうとっくに決めていた事だった。今更抗うなど、愚か以外の何者でもない、なのに――――だが考えても、シーグルの頭は既に思考力を殆ど失っていた。考えれば余計に涙が出てくる、嫌悪感で逃げ出したくなる。抵抗をせずに言い成りになるには、何も考えないようにするしかなかった。

「おい、お前突っ立って見てるだけならこいつのケツの準備しとけ」

 アルスベイトの声が遠い。
 虚ろに天井を見上げるシーグルのその視界の中で、何か小さなものが投げられたのだけが見えた。
 それから視界の中に、再びアルスベイトの顔が映る。だが今度は近づいてくるのではなく、髪を掴んで顔を持ち上げられた。
 抵抗をする気もなくされるがままに顔を上げれば、目の前にはグロテスクとも言える大きく膨らんだ雄の欲望が唐突に現れた。

「おしゃぶりだ、口開けな」

 シーグルは迷う事なく口を開く。
 だが、すぐに入ってきた肉塊はいきなり喉の奥にまで届き、シーグルはえずいて目を見開く。激しく咳き込み出したシーグルに気付いた男はすぐに腰を引いたが、それでも吐き気と咳で激しくむせる。

「ち、面倒だな。へたくそめ」

 必死に吐き気を耐えながら、再びつきつけられたものを口に入れる。
 どんなに喉の奥から吐き気がこみあがってきても、男のモノに歯を立てない為に、無理矢理口だけは開いたままにしなくてはならない。口一杯を占領する肉塊以上に口を大きく開いて空気を吸い込み、どうにか息を整える。頬はずっと濡れたままで、えずいた所為の生理的な涙なのか、それとも悔し涙なのか自分でも分からなくなっていた。
 シーグルの呼吸が一段落したと思ったアルスベイトが、再び少し奥へと押し込んでくる。ただし、今度は勢いをつけずに様子を見ながら。
 シーグルは喉にまで届かないように加減しながら、口の中を占めるそれを舌で舐めだす。

「奥まで銜えられねぇんじゃ、せいぜいがんばってしゃぶれよ」

 満足そうな声でアルスベイトが言う。
 銜える前から既に硬くそそりたっていたそれは、その凹凸にあわせて舌で刺激すれば更に膨れあがり、口腔内に青臭く苦い味を零していく。
 そこへ今度は、下肢に人の気配がすると同時に、足が掴まれて大きく開かされる。更に、後孔にひやりとしたものが押し付けられる。

「ンウッ……う……」

 ぬるりと、何かのぬめりとともに指が体の中へ入ってくる。ここ暫く何度か抱かれて、その感触を覚えてしまった男の指が、そのぬめりを奥へと塗り込めるように体の中で蠢いていた。
 その感触に、体が熱くなる。
 腰が揺れる。
 触れられてもいない自分の雄が、欲望を映して反応してきているのさえ分かる。

 ――本当に、もう、体は完全に堕ちている。

 確かにこれではもう、この体はこんな事にしか使い道がないのかもしれない。
 貴族でも騎士でもない、男としてさえ見らない抱かれる為のオンナ、堕ちたものだと自分で自分を嘲笑うしかない。

 そうして、下肢に気を取られていた所為で舌の動きが止まったからか、アルスベイトの手がじれったそうに前後へと掴んでいる頭を揺らす。気付いたシーグルが、その動きに合わせて唇で男の性器全体を扱くようにすれば、膨れきった男のものが震えて大量の液体を口の中にぶちまけた。

「うぐっ……うぅっ、う、ぐ、う……」

 頭を固定されたまま逃げ場がないシーグルの口の中に、それは全て吐き出される。頭は反射的に逃げようとしても、逃げる事は許されなかった。
 更に。

「飲み込め」

 冷たく言い放たれた声とともに、口の中から男が去る。
 シーグルは懸命に口を押さえて吐き気を耐え、ぐぅと喉を鳴らして、無理矢理すぎて入った空気毎飲み込んだ。
 口淫は何度目だったか、飲み込んだのは初めてか。確実に体はこの手の行為に慣れていっている。その内こんな事は何でもなくなるのだ。――そう思えばもうシーグルには笑みしか浮かんで来ない。自分で自分を嗤いでもしなければ、現実に心が潰されそうだった。

 アルスベイトの影が一度離れ、今度は下肢の方から近づいてくるのが見える。
 先程まで下肢の方にいたシェンは、位置を譲り、離れた位置でシーグルを見下ろしていた。
 足が掴まれる、大きく開かされる。
 尻肉を掴まれて入り口を広げられ、そこへ今口の中で暴れていた雄が押し付けられた。

「う……ぁ……」

 ミシミシと、下肢から軋むような音が聞こえる。
 目一杯広げられた入り口の皮が突っ張って痛みを訴える。
 けれども、中に塗られた何かの所為ですべりは良く、一度大きく広げられれば、あとは一気に奥まで男が入ってくる。

「ぐぅ……」

 唸りながらもシーグルは歯を食いしばって、だが衝撃に目を見開く。
 塗られたものの所為で痛みは思ったよりも少なく、入ってきた最初の瞬間が一番の痛みだったらしい。後はぬめりにまかせて一気に奥まで届き、痛みを感じる間さえなかった。
 だが、痛みがない所為で逆に異物感が酷い。
 更には圧迫感。アルスベイトのものはその太さももちろんだが、口に含んでいた時にも根元まで含み切れなかった程長く、体の奥のほうまで届いている。奥の内臓までをも広げられる感触はただ只管苦しく、シーグルの額には油汗さえ滲んでくる。

「せっめーなぁ、まぁ当然か、この細い腰じゃあなぁ」

 苦しさと、競りあがってくる嘔吐感を必死に抑えているシーグルの上から、アルスベイトの言葉が笑い声と共に掛けられる。

「ぎゅうぎゅう締め付けやがって、いいぞ、たまんねぇ」

 言って彼は一度半ば程まで抜き、そしてまた勢いよく奥を突く。
 シーグルの体があまりの衝撃に、びくんと大きく背を逸らして跳ねた。
 シーグルは目を見開いて、声だけは歯を食いしばって耐える。
 けれど、そんなシーグルを嘲笑うかのように、アルスベイトの動きは止まらない。抜く時はゆっくりと去っていくソレは、突く時は一気に勢いをつけて奥を穿つ。何度も、何度も、止まらずに、一定のリズムでシーグルの中を擦り上げる。
 深く強く突き上げられる度に体が上に押し上げられるのを、時折持ち上げられた足を引いて引き戻され、より強く奥を抉られる。
 男を深く受け入れる度に、その衝撃に腰が浮き、肩を床に押し付けるように胸が上がる。
 それでも、痛みがない分、それが快感となるのには然程の時間がかからなかった。

 体が熱くなってくる。
 肌が上気し、頬が熱くなり、吐く吐息さえ熱を持ち始める。
 食いしばっていた歯が時折緩み、ぽかりと口を開いて喘ぎそうになる。
 喘ぐまではいかずとも、吐息に熱が篭り、鼻を高い音が抜ける。

 それでもまだ。まだ、全てを快楽に委ねた訳ではない。

「う……だめ、だ……」

 まだ、心は残っている。拒絶し続けている。
 何時の間にか、腰が男の動きを追って蠢いていても、男の体を受け入れようと自ら足を開いていても。

 それでもまだ、嫌だと叫ぶ心がある。だから、まだ、耐えられる。

 アルスベイトの大きな体が、体の上に覆い被さってくる。
 何時の間にか腰の揺れは、速く、小刻みなものに変わり、吐く息の荒さに同調して互いのハァハァという呼吸音だけが、肉を打つ音の間に入る。
 乱暴な抽送で、肉が叩く音が速く激しく響く。
 体の中は、塗られたぬめりと男の先走りの液体で満たされて、それが入ってくる雄の動きを助け、ぐぶぐぶと水音を鳴らす。
 シーグルの瞳は快感に虚ろに蕩け、口は大きく開き、声は出さずとも口の端からは唾液が溢れていた。意識さえ遠くなってくる。
 競りあがってくる感覚は切なく、逃げ場のない疼きのようで、シーグルは我知らず腰を浮かせて背を逸らし、快感に飲まれていく頭を否定して顔を左右に振った。
 頭だけは快感になど流されない。心だけはこんな男に呉れてやるものか。
 そう思っていても体に引きずられそうで、もう閉じられない唇からは喘ぎが漏れてしまいそうだった。

 ――痛みが、欲しい。
 せめて痛みがあれば、快感を忘れられるのに。

 男の抽送に腰を揺らしながら、限界が近い事を感じたシーグルは思考力のない頭でそう考える。

 アルスベイトの喉が唸る。
 動きが止まって、中で男のモノが更なる質量を体の中へ吐き出した。
 体の奥へ注ぎ込まれるその熱の感触と、奥を液体で広げられる感触、びくびくと震える体と、蠢く男を包み込む体の内の肉。
 それらの全てが快感なのだと悟ったシーグルは、残った理性の欠片で自分の腕に噛み付いた。

 満足げな息を吐いていたアルスベイトの顔が、そのシーグルを見て顔色を変える。

「な……に、やってんだてめぇ」

 びゅくびゅくと、未だ体の中に注ぎ込まれる男の体液。それを飲み込むように蠢き、男を締め付ける体。確実に強烈な快感を覚えて自らも達しようとしていたシーグルの感覚は、噛み付いた腕の痛みに少しだけ引き戻された。

「ふざけた事はすんなって言ったよな」

 アルスベイトの声は明らかに怒っていた。
 噛み付いていたシーグルの腕を顔から離し、床に叩きつける。
 シーグルは、虚ろになりかけた瞳のまま、唇にうっすらと笑みを浮かべた。

「抵抗して……は、いない」

 そう返したシーグルの言葉に、は、と声を上げると、アルスベイトはシーグルの頭を掴んで顔を上げさせる。

「いいだろう……確かにそりゃぁそうだな、お前の言う通りだ、それは違いねぇ。……馬鹿な奴だ、大人しく抱かれて善がってりゃ気持ち良くなるだけだったのによ」

 言いながら、繋がったままのシーグルの足を掬い上げて腕を背まで回し、その体を抱え上げて起こす。単純に言えば、抱き合ったまま座って繋がっている体勢になって、自重で更に深くまで男をくわえ込む形になったシーグルは、思わず目の前の男を掴んで体を浮かせようとした。
 その、シーグルの耳元でアルスベイトが囁く。

「逆らう気がこれっぽっちもなくなるように、目茶目茶に犯してやるよ。喜んで足を開いて腰振る事しか出来ない人形にしてやって、無様に転がるセイネリアの前でウチの連中皆で犯してやろう」

 男の声は脅してではない。それくらいは思考力のなくなっているシーグルでも、咄嗟に理解出来た。
 考えるより前に、反射的に背筋が恐怖に震える、噛み締めた歯さえ震えて音を鳴らしそうになる。

「お前が悪いんだぞ。素直に抱かれてりゃ、俺はお前を大事に可愛がってやる気だってあったんだ。勿体ねぇなぁ、こんな上玉なのによ、お前はボロボロのゴミになるの決定だ」

 言って男の腕がシーグルの体を持ち上げ、落す。

「うぁ、あ……」

 アルスベイトは、シーグルの顔を冷ややかな目で見つめながら、口元を笑みに歪ませた。そうして再びシーグルの体を持ち上げると落し、更に自らも突き上げる。今度は間を置く事なくすぐにまたシーグルの体を持ち上げ、落す。
 休む事なく、シーグルの体が男の上で跳ねて、揺れる。

 シーグルの、喘ぎというよりも悲鳴が部屋に響いた。



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なんか思ったよりも長くなった……かな。
次回はこの話の後の補足的な文章なので短いです。


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