※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【6】 その言葉に、シーグルは目を見開いた。 「何故だ」 「試すのさ」 クリムゾンは笑みを浮かべたまま、シーグルの装備を外して行く。 「あの人は完璧だったんだ。完璧な強さ、誰にも負けない、どこにも弱点がない、あの人の中のどこにも弱さも甘さも存在しなかった」 じっと見下ろして来る赤い瞳に欲望の色は殆ど見えない。ただ、狂気にも近い愉悦の色は読み取れて、シーグルは、少し前まで自分を脅迫して抱いていた父の元親友の男を思い出した。 「そうだ、完璧だったんだ……だけど、最近のあの人は違う。お前の事に拘る。お前だけは特別で、他の人間のように切り捨てて考えられない。お前の事を切り捨てられない所為で、あの人に付け入られる隙が出来た」 曝された肌の上を、クリムゾンの手が撫でる。最初は、胸全体の表面の感触を確かめるように。だが彼は、左胸のところで手を止めると、まるで心臓を掴もうとするかのように、その場の筋肉を掴んで肌に爪を立てた。 「だから、俺は試したいんだ」 「――ッ」 予想していなかった痛みに、思わずシーグルは顔を顰める。 それに大きく口元を歪ませたクリムゾンは、今度はその顔を胸に近付けて来ると、舌を思い切り伸ばして、今彼が爪を立てた場所を舐めた。ぴちゃ、と殊更唾液を含ませて濡れた音を立て、ゆっくりと、そして執拗に何度も少し赤く腫れた爪の跡を舐める。 ぴりぴりとした痛みを訴えていた場所が、舐められるその感触を伝えて、じんわりと熱が競りあがって来る。 シーグルがその感覚を考えないように顔を背けて目を閉じていれば、クリムゾンの舌は離れ、直後に今度は乳首を指で強く摘まれる。 その痛みに、シーグルの体がびくりと跳ねた。 くくっ、と喉だけで笑うクリムゾンの気配が伝わる。 「もし、俺がお前を抱いたら、あの人がどんな反応をするか。……怒りにまかせて俺を殺そうとするならあの人はもうだめだ、感情で完全に強さを失ってしまっている。あの人が今どこまで弱くなったのか、それを俺は知りたい」 クリムゾンは、摘んだ朱い尖りを痛みを感じる程の強さで指で挟んだまま転がすように弄ると、最後に爪を立ててから解放する。 そして、離されたものの痛みを伝えるそれを、再び舌で嬲りだす。 「やめ、ろ……」 思わず言った言葉に、クリムゾンが笑ったのが、肌の上に吹き掛けられる空気で分かった。 夜の静けさの中、胸の上で鳴る水音が小さい音の筈なのにやけに大きく耳に届く。 「知ってるか? 体が慣れて来ると、痛みでさえ感じるようになる」 シーグルの顔が強張る。 痛みは、シーグルにとって、この行為における最後の逃げ場だった。 それさえもが快感に繋がれば、最早シーグルにはただ耐える以外に道がなくなってしまう。そして、それがどこまで通せるのか、今のシーグルには自信がなかった。 「男に抱かれる快感はあの人に教え込んでもらったんだろ? だったら俺は痛みさえも感じるようにしてやろうか?」 シーグルは歯を噛み締める。 「何処にも逃げ場がなくなれば、お前はあの人のものになるしかなくなるだろ?」 クリムゾンは舐めながら、空いている手で肌を撫で、それを下肢へと下ろしていく。まだ身に纏っている服の中に手を入れ、僅かに熱を持ったシーグルの性器に指を絡める。 「俺は、最初から嫌な予感がしてたんだ」 シーグルは息を飲んだ。 体の一番快感に弱い部分を、ゆっくりと、優しく、緩やかな刺激を与えて来る手の感触。 水音を立てて、淫らに舐められる胸。 クリムゾンの顔には色欲の色はなく、けれども自分は与えられる感覚に体を欲情させている。そんな状態が嫌で感覚を耐えようとしても、吐息が熱く色づいているのは抑えようがなかった。 クリムゾンが顔を上げ、口元を拭いながらシーグルの顔を見る。 見下ろす瞳は冷たく、けれども口元には歪んだ笑みを浮かべて、彼はシーグルの欲望を弄びながら、唾液で濡れそぼった胸も弄る。 「あの人がお前を犯して遊んでいた時から、何か嫌な予感はしてたんだ。知ってるんだろ、お前を見張ってる役がいた事。俺も何度かお前を付けてた事がある、お前があの人に犯されてる姿も見てた」 シーグルの顔が羞恥に染まる。 クリムゾンは胸を弄っていた手を離し、その手をシーグルの顔に伸ばす。 そして、噛み締めて震えている唇に触れると、そっと、指でその形をなぞった。 「けど、お前は知らない。お前が気を失った後、あの人がどれだけこの唇に触れていたか。何時からかは俺も知らない、だが、何時からか、お前が気を失うとあの人はずっとお前の唇を貪るように口付けてた」 クリムゾンの顔から笑みが消える。 「あの人は団じゃ特定の相手を決めてる訳じゃないから、あの人と寝た事がある人間は多い。俺も寝た事はある。でも、お前以外に、あの人があんな顔をする事はない」 シーグルは言葉の意味を理解して、一瞬、表情を凍りつかせる。けれどもすぐに、見つめて来る赤い瞳を強く睨み返した。 クリムゾンの手が唇から離れ、シーグルの頬を撫でる。 「決定的だったのは、捕まって雑魚どもに犯されたお前を助けに行った時だな。何時ものあの人だったら助けに行くのさえおかしいのに、明らかに怒って、汚されて無様に転がるお前を自分で抱き上げて連れ帰った」 クリムゾンが、手の中にあるシーグルの性器に爪を立てる。 流石にシーグルの顔が痛みに歪む。クリムゾンは笑みを浮かべて体を伸ばし、その耳元に唇を寄せた。 「せめて、さっさとお前があの人のものになればまだ良かったんだ。あの人の手の中に閉じ込められてくれれば、あの人がお前にここまで気を煩わせる必要なんかなかった」 ひっかくように爪を立て、そうかと思えば優しく先端を指で撫で擦る。 その度にびくびくと反応する体を宥めるように、もう片方の手は優しく体全体の肌を撫でる。 確実に痛みを感じているのに、体に溜まっていく熱を、シーグルは自覚しない訳にはいかなかった。 「お前の所為だ」 言いながら更に強く手の中のシーグルに爪を立てる。 歯を食いしばったシーグルの頬を軽く舐めて、それから本格的に、クリムゾンはシーグルの欲望を手で扱き出す。 「う、あ……」 そのまま舌を喉に這わせ、肌をなぞって胸へと辿り付き、再び胸の尖りを、舌を尖らせてその先端だけをつつくように舐めた。 手の動きが速くなる。 今度は下肢から水音が聞こえて、自分のものが快感に震えて零している事を嫌でもシーグルに教えた。 「やめ、ろ。嫌だっ……」 歯を噛み締めて耐えようとしても、体は快感を追おうとする。 息は熱くなり、体は疼き、肌が震える。 耐えようとして身を捩っても、逃げるどころか更に刺激を与えられて、体がびくびくと跳ねた。 「やだ、や……」 言葉も出せなくなって歯を噛み締めれば、上り詰めた感覚がとくりと波打つ。 その瞬間、今までにない強さで、クリムゾンの指がシーグルの乳首を摘むというよりつねりあげた。 「つァっ……」 目を見開いて、シーグルは思わず声を上げる。 クリムゾンが笑い声を上げて、手を離した。 解放されたシーグルは、目を閉じたまま、ただ荒い息をつく。 「こうやって、痛みと同時に快感を教えてやれば、そのうち痛みでイけるようになる」 「やめろ……」 弱々しく呟くシーグルの声を聞くと、彼はまた笑い声を上げて、そうしてシーグルの下肢の衣服を剥ぎ取り、足を掴んで広げる。それから、濡れた手でシーグルの尻を割れた溝に沿って這わせ、まだ固い蕾を軽く撫ぜた。 それがこの先の行為を知らせて、シーグルは体を固くする。 「お前、あの人以外にここでどれくらい男を銜えた? 一回や二回じゃないよなぁ、あの人のもののくせに、何度も別の男に抱かれたよな? そうして、自分の身さえ守れない程弱いのに、何故まだあの人を拒む?」 チキ、と何かの金属音が下肢で鳴る。 シーグルが恐る恐る目を向けても、月明かりだけしかない夜の闇の中では、影になったクリムゾンの手元は見えはしない。 ただ、嫌な予感だけはして息を飲めば、冷たい感触を尻に感じて、直後に後孔に何かが押し込まれた。 「ぐ……」 苦しさに思わず喉が鳴る。 体の中に入って来た何か。それが指や男性器ではない事はすぐに分かる。 冷たい無機物は固く、まだ解れていない中を強引に割り開いて、体の深くへ入ってこようとする。 「何、を……?」 歯を噛み締めながら下肢のクリムゾンを見れば、彼は顔を上げて見返して来る。 「簡単に入ったぞ」 言いながら、体に押し込んだ何かを一度引き抜き掛け、そしてまたぐっと奥へと押し込む。 固い、棒のような何か。太さは男性器よりも細く、指よりは太い。長さは思った以上にあるようで、少なくとも指では届かない奥まで突き上げて来る。 恐らく表面が濡らされている所為か、体の中をスムーズに行き来しているそれ。激しく中を突き上げて来ると思えば、奥をかき混ぜててきて、その動きに合わせてシーグルは息を弾ませる。 「何を、挿れているんだッ……」 「さぁてね」 じゅ、じゅ、と粘着質な水音を立てて、それは体の中を動いている。 それだけでも切ない疼きを体に溜めて行っているのに、やがて再び反応していたシーグルの雄が、今度は濡れた暖かい感触で包まれた。 「な……に?」 瞑っていた目を開ければ、クリムゾンがシーグルの性器を口に含んでいた。 クリムゾンはシーグルと目が合うと、銜えたまま笑みを浮かべる。と同時に、軽くその中のものに歯を立て、更には、シーグルの中に入れているものを激しく出し入れさせた。 「う、く……っぁ」 下肢が怠い。 一度放った後の所為もあり、気怠さを残した腰に、再び甘い疼きのような快感が湧き上がる。 体の内壁を何かで擦られながら、性器には痛みと快感を交互に送り込まれる。 痛みで体に力が入れば、体の中を犯す何かを自分の肉壁が浅ましく締め付ける様さえ実感する。 「くそっ、あ……い、や……」 呟くように掠れた声を上げて。 「うぁっ」 先程と同じように、シーグルが達するタイミングにあわせて、クリムゾンは痛みを与える。口の中の、欲望の証を零すその先端に歯を立てる。 地に頭を預け、荒い息を吐くしか出来ないシーグルのその顔の傍に、何かが投げられた。地面に刺さったそれを見て、シーグルは唇を引き結ぶ。 「何で犯されてたか知りたかったんだろ? お前は今、そいつの柄をつっこまれてイった訳だ」 それは短剣というよりももっと小さな、ナイフと言った方がいい代物だった。恐らく投擲用として使うそれは、刃は短く親指程度の長さしかないのに、柄は掌の付け根から指先程の長さがある。 月の光を受けて光る刃の部分はまだしも、柄部分が濡れている所為で同じく月光を反射して見えるその様が生々しかった。 クリムゾンの指が、またシーグルの後孔を撫でる。 それにびくりと体を跳ねさせて瞳を見開いたシーグルを、クリムゾンは笑みを浮かべて見下ろした。 「こんなんじゃ物足りないんだろ? やっぱりあの人に仕込まれてる体だけあるな。嫌だって言いながら、体は物欲しそうに誘ってる」 クリムゾンは体を起こすと、自分の下肢に手をあて、ゆっくりと、見せ付けるように自分の性器を取り出す。 それを目を見開いてじっと見ていたシーグルは、だが、ふいに眉を寄せると目を閉じた。 シーグルのそんな態度に、クリムゾンが構う事はない。 彼はシーグルの足を開くと、その間に自分の体を押し付けて、そして、自らの欲望をシーグルの中へ埋めていく。 諦めたように抵抗を止めたシーグルの顔が、一瞬、苦しげに歪む。けれども瞳は開く事なく、体からは力を抜いて、大人しくされるがままにクリムゾンを受け入れようとする。 その顔を見下ろしたクリムゾンが、強引に根元まで自分のものを押し込んだ。 衝撃に、歯を噛み締めたまま、シーグルの顎が上がる。 笑みに歪んだ唇を舐めて、クリムゾンは溜め息と共に呟く。 「流石に、いい具合じゃないか」 そうして、ぐっと奥を突き上げれば、シーグルが小さく呻いた。 クリムゾンは体を倒し、歯を噛み締めている所為で筋が浮いたシーグルの喉から鎖骨に舌を這わせる。下肢は緩やかな動きで、だが、シーグルの体内にある彼の肉は確実に快楽を刻んでいく。的確に、そしてリズミカルに。体の中のどこを探れば感じるのかを分かっている彼の動きは慣れている者のそれだった。 「う……く、っぁ」 漏れそうになった声を抑える為に、シーグルは歯を噛み締めて首を振る。それでも零れた声を喘ぎにしない為、必死になって高い音を抑えれば、まるで獣の唸り声のようになる。 せめて、腕が自由であれば。 口を押さえる事も、自分に痛みを与える事も、何かを口に詰め込む事も出来たのに。 「そうして、声を抑えて、お前は何を守ってるんだ?」 優しい気がする程穏やかな声で、クリムゾンが囁く。 「散々犯されて汚されまくったお前に、何処に守る価値がある?」 ――そうだ、今更自分に何の価値がある? 思考に絡みつくようにねっとりといわれた言葉が、シーグルの心を凍らせる。 それでも、まだ。 まだ、シーグルには渡せないものがある。 心だけは、まだ、自分のものである筈だった。 「ここ、ろ、は、まだ……」 聞いたクリムゾンの顔の中、赤い瞳が見開かれ、それから更に顔全体が狂気の笑みで彩られる。 「成る程、な」 「うあっ」 緩やかに動いていたクリムゾンが、急に体を押し上げるように乱暴に腰を打ち付け出す。肉と肉がぶつかった鈍い音と同時に、体の奥が抉られる。 痛みというよりも苦しさに、シーグルは目を見開いて呻く事しか出来ない。 クリムゾンの動きは更に速くなり、霞掛かって来た意識の中で、シーグルは彼の笑い声を聞く。 「う、あ、あ」 ぐぷぐぷという水音と、肉が当たる乾いた音、それに男の笑い声が重なって、快感に思考力が無くなって来たシーグルを追い詰める。 ――最早、守るべきなんの価値もないのに、どうしてまだ耐えようとする? そう考えれば、瞳から意思が抜け落ちていく。 目も口も大きく開き、動きに併せて上がるまま声を出す。シーグルは、自分が今、苦しさだけを感じているのか、それとも快感を感じているのかも分からなくなっていた。 ただ、体は陵辱者の動きを受けて跳ね、奥を抉る相手の雄の凶器を受け入れて腰が蠢く。体を覆い尽くす熱に身を任せ、もどかしく競りあがって来る感覚に身を捩る。 そうして。 クリムゾンの笑い声の中、体の奥に熱い流れを感じて、シーグルは意識を手放した。 --------------------------------------------- エロ回でした。 クリムゾンがシーグルを調教しかけてますが、まぁ、遊んでるだけなのでまだ……多分。 |