<番外編・ウィア16歳のお話> 【6】 今までに、遊びでじゃれるようなキスは何度もした。 互いの欲望をぶつけ合う激しいキスだって、数え切れない程。 けれども、エルとのキスはそのどれとも違っていて、互いの粘液を舌で絡めあうような深い欲望のキスなのに、何故か優しくて、こちらが感じるのを待つようにゆっくりで、心が痛くなるようなキスだった。 唇を離した時には、瞳には涙が滲んでいて、ウィアは我ながら自分の反応に訳がわからなくなる。 「ホントに、お前は馬鹿だなぁ」 苦笑するエルは優しくウィアの前髪をかきあげて、そうして額にキスを落とす。 それが、彼が最後に、ウィアにウィアとして掛けた言葉だった。 エルは再びウィアに口付ける。 今度は、先程よりもまだ深く、何度もあわせ直して、舌を触れさせて。 そうしながら、手がウィアの体の表面をなぞるように触れてくる。最初は顔の輪郭を撫ぜて、喉に、胸に、腹に、腰にへと、まるでそこにいる体を確認するかのように。 それからやっとウィアに覆い被さってきて、胸と胸が合わさって互いの鼓動と体温が重なる。 ウィアはすがりつくように彼に抱きつき、自らも彼の唇を求めて口を開く、舌を伸ばす。エルはウィアから残った服を脱がしながらも、それに応える事を忘れない。キスを強請るウィアに被さるように口を合わせて、震えるウィアの舌を絡め取ってやる。 「う、ぁ……」 大きな手が、逸らしたウィアの背に回り、引き寄せるように背中から腰へと滑っていけば、ウィアの腰が上がって、晒された下肢がエルの肌に直接触れる。 それだけで目に見えて反応してしまう自分に少し恥ずかしくなりながらも、もっと彼を感じたくて自分からも腰を押し付ける。ウィアの状態を察したエルが、掌で包み込むようにウィアの性器を握り、親指を押し付けて緩くその先端を擦る。 「あぅっ」 急に直接的な感覚を与えられたウィアは、肩を跳ねさせて驚き喘ぐ。 それに宥めるようなキスをして、エルは本格的に掌の中のものを扱き出した。 大きな手、あちこちささくれだった硬い肌、胼胝のある指。そのどれもがいつもウィアが付き合ってきた神官見習達の手にはない感触で、なのに今までで一番優しく触れてくる。 性急に刺激を求めるウィアの体を宥めるように、エルが与えてくれる快感はあくまで緩やかで優しい。全てを委ねれば、その優しさにあわせるように、ゆっくりと熱が体の中を巡っていく。 「あ……エルぅ」 その感覚をただ追って、ウィアはエルの体にすがりつく。 触れる手は緩やかで、決して強く触ってはこないのに、快感を途切れさせる事はない。喘ぐ唇には時折彼の唇が与えられて、それだけで安心して体の力を抜く事が出来た。 ゆっくり、ゆっくりと下肢に溜まっていく快感を、感覚で只管追って、そうして開放される。 ウィアは目を開き、呆けたように溜め息をついた。 時間を掛けて引き出された快感は引くのも遅いのか、まだ体の感覚が戻り切らずにふわついた感じがする。ゆらゆらと炎の光で揺れる天井を眺めながら、ウィアはその余韻に本当に呆然としていた。 その視界をエルの大きな体が遮り、影になった顔の中、それでも分かる水色の瞳がウィアを見つめてくる。それは少しづつ近づいて、何度目か数え切れない程くれたキスをまたくれる。そうして、微笑む。くしゃりと、目を細めて。 ――あぁ、そうなんだ。 唐突にウィアは理解する。 ずっと幸せそうに見えていたエルの笑顔、その瞳の視線はいつも何処か遠かった。細めた水色の瞳は、笑っていてもその奥にやはり哀しみが埋もれていた。けれども、それでこそ彼の笑顔があれだけ幸せそうに見えたのだと。 ウィアは、エルに手を伸ばす。 エルは応えるように頭を近づけてくれたから、その首に腕を回し、必死にすがりついた。 エルが体を割り込ませながら、ウィアの足を開かせる。 ウィアが気付いて自ら足を開けば、尻に濡れた手がまわされて、空気に触れた所為で冷たくなった粘液の感触が後孔に触れる。それからすぐに、粘液にたっぷり濡らされた指が中へと入ってくる。 「あ、……っぅ」 今までの相手だった学生達の細い指と違って、それは指一本でさえ中を広げられている感触が強い。十分なぬめりの所為でスムーズに入ってくるものの、その指が抽送を始めれば、それだけで声が耐えられなくなる。 指が増やされ、中を広げられれば、ウィアは我知らず足を思い切り開いて、出来るだけ楽に中のものを受け入れようとしていた。 指が何度も丁寧に中を慣らそうと動き、その度に溢れる程含まされた粘液が音を立てて、耳からもウィアの感覚を煽る。体内に塗り込まれたウィアが自ら吐き出したそのぬめりは、もう冷たくはなく体温と同じまで温もっている。指の動きは乱暴ではなくとも、その太さはまだ解れない中を開き、擦り上げ、一度果てたウィアの快感を引きずり出す。 「ふ……うぅん、あぅ」 自ら腰を揺らして、奥まで銜えようとして、既にそのものが中に入ってきているような錯覚に陥ったウィアは、目を閉じ、顎を上げて只管甘い声をあげる。 ちゅく、ちゅく、と指と孔が上げる水音がその声に混じり、実のところ、感覚を抑えきれなくなっていたのはウィアだけではなかった。 エルがウィアにキスをする。 けれど今度は、今までの深くても優しいキスではなく、欲望を露にした荒々しい舌がウィアの口腔内を蹂躙する。唇をあわせ直す度にエルの荒くなった息遣いを聞き、ウィアもそれに引きずられるように抱きつく腕に力を入れて、強く唇を押し付けた。 何時の間にかウィアの中で動いていた指は抜かれ、足が掴まれて地面に大きく広げた形で押し付けられていた。 目の前の男の猛々しい雄そのものを一瞬だけ視界に納めて、そしてすぐにウィアは見なかったふりをして目を閉じた。 最初の感触は指。入り口を広げるように添えられて、そうしてやはり濡れた、生暖かい感触が押し当てられる。それから一気に肉壁を広げられて、僅かに先端が中へ埋まった。 「うぅっ、あぅあああっ」 正直、苦しい。 まだ少ししか入ってない筈なのに、これ以上奥にそれが入ってくるのが怖いとウィアは思う。 その気持ちを振り切るように、エルに抱きつき、その体に顔を埋める。土と木の匂いが染み付いた彼の肌の温もりを感じる。 ずる、とまた少しエルが腰を進めて、中が広げられていく。そこから一度抜きかけて、またぐっと押し付けられる。何度も、何度も、浅い抽送を繰り返して、少しずつ奥へとそれが埋まっていく。 「レジーナ……」 エルの呼吸が大きく乱れて、強く腰が押し付けられる。 「うあっ」 一息に根元まで入ってきて、ウィアは思わず悲鳴に近い声を上げた。 そこからの彼は止まらなかった。 大きすぎる質量がウィアの体の中を何度も行き来する。 奥深くまで広げられて、中の肉ごと引きずり出されるように抜かれて。 他人の熱で埋められた中は、ウィアの意志とは関係なく蠢いてその熱に絡みつく。今までになく広げられたそこは、それでも受け入れる事を慣れている分、直に穿たれる肉の動きに同調する。 ウィアの耳には、すぐ傍にいるエルの荒々しい息遣いの音と、それに混じる名を呼ぶ声が聞こえた。 レジーナ、というのが死んだ彼の最愛の女性の名なのだろう。 荒い息遣いの中には、何時しか嗚咽の声さえ混じりだす。 だが、その頃にはもう、ウィアも快感を追うだけで一杯一杯で、体を震わせながらただ喘ぐ事しか出来なくなっていた。 「レジーナ、レジーナ……」 「エル、エル……」 呼ばれているのは自分の名ではなくとも、ウィアの唇からは自然と彼の名が零れた。 激しい動きで、小柄な体は上へと押し上げられていく。 それでもエルの動きは止まらない。 先に上りつめたのはウィアの方で、背を撓らせて目一杯開いた口から声を上げて達すると、それにあわせて激しく締め付けたその中にエルが吐き出す。 二度目の開放だったウィアは、大きく肩で息をして呼吸を整える。 エルもウィアに覆い被さりながら、荒い息を吐いていた。 だが、ウィアの呼吸が整う前に、エルはウィアの背に腕を回すと、未だ繋がったまま体を起こした。 「や、あぁぁ」 自重でより深くを抉られたウィアが叫ぶ。 その声を口付けで遮ると、エルは座った体勢のまま、ウィアの体を突き上げ出した。 「ふ……あぁ、あぅ、あぁ……あぁん」 突き上げる度に唇が離れ、ウィアの声が漏れる。 体勢の所為だけでも奥まで入っているのに、突き上げられて反動をつけられると、まるで食い込むように彼の肉が奥をひらいた。奥深くを抉られる度に、頭の先まで響くような、重い衝撃がずんと襲い掛かってくる。 こんな深くまで入れられたのは初めてで、ウィアは喘ぎながら意識が白くなりかける。体からも力が抜けて来て、感覚さえあやふやになってくる。 けれど、エルはその体を支えて抱き締める。少し苦しいくらいに強く抱き締められて、ウィアも必死に抱き締め返した。 閉じられなくなった唇からは甘い声だけが漏れ、唾液が溢れる。 それを掬い取るようにエルが唇を合わせてくる。 ウィアは必死にその唇を追うように口を開き、噛み付くように唇を合わせなおす。 彼の唇が離れていこうとすると、縋りつく手を彼の首から頭に回して、頭を押さえて更にキスを強請った。 たくさん、たくさん、出来るだけ強く、今の感覚を感じたかった。そして、覚えていたかった。 エルの動きだけでなく、自らも腰を揺らし彼の動きを助ける。 奥深くまで、入ってきた肉塊のカタチに広げられて、抉られて。 漏れる水音は、唇からなのか、繋がった下肢からなのか、頭が朦朧としているウィアには分からない。 けれど、体の中に響く水音に更に煽られて、ウィアは益々彼を欲しがって強く抱きつく。 幸せな快感を体全体で感じる為に。 そうして更に奥へ届く勢いで、再びエルの熱が吐き出された。 「あー、あー、あー……」 大きく開いた唇をわななかせて、ウィアは叫ぶ。 ぎゅっと抱き締められたその暖かさを感じながら、ウィアの頭はエルの肩へと落ちた。 |