非日常に魅せられて
「ダム建設で失われた二万人の炭鉱町」(北海道夕張市)、「戦後開拓集落跡で続く通いの耕作」(新潟県魚沼市)、「遺跡の宝庫と呼ばれるサンゴ礁の島」(沖縄県伊是名村)−。端的なキャッチフレーズが興味をかき立てる。ページを繰るたびに目に飛び込んでくるのは、朽ちかけた建物や未舗装の生活道路、由来不明の倒れた石碑といった写真の数々だ。
著者は非日常空間としての「廃村」に魅せられ、17年ほど前から全国を訪ね歩いている。北海道から沖縄県まで37か所を選び、現地への旅の記録を地勢や歴史とともにまとめた。
大館市の合津集落の項では、「秋田・消えた村の記録」(佐藤晃之輔著、無明舎出版)を引用しながら、1971年に閉校となった成章小学校合津冬季分校の木造校舎を紹介、合津出身の老夫婦へのインタビューも掲載している。
著者が初めて合津を訪ねた99年は「(分校校舎の)中を覗くと、黒板がある教室、便所、宿直室らしきものの跡があった」。2011年、4度目の訪問時には「教室はずいぶん傷み、いろいろな物が乱雑に置かれていた」。そして昨年11月の訪問の場面では、分校の授業風景を伝えるモノクロ写真もあり、時の移ろいを感じさせる。
「無人でも神社や地蔵を見つけたら手を合わせる」「地元の人にあったら積極的にあいさつをする」など注意点を「廃村探索のマナー」として巻末に加えた。廃村への熱い思いが伝わってくる。
著者は1962年、堺市生まれ。団体職員。著書に私家版の「廃村と過疎の風景」(第1〜8集)。さいたま市住。
<イカロス出版・1706円>