電車で行ける廃村

電車で行ける廃村 東京都奥多摩町峰

峰の「タイムマシンの廃屋」です。二階には,戦前の教科書や炭の通帳が残されていました。



2000/1/15 奥多摩町峰

# 3-1
「東京都下にも廃村がある」ことを知ったのは,2000年になってからのことです。きっかけは,インターネットの検索で見つけた「TOKYO旅倶楽部」というホームページ(管理者 Satoshi Yamauchiさん)の「奥多摩廃村紀行」という記事からでした。
このページで見た分では,奥多摩町でも相当山の深いところだと思ったのですが,Yamauchiさんにメールするなどして調べたところ, JR青梅線の鳩ノ巣駅から歩いていける場所ということがわかりました。
「廃村は簡単には行けない」と思っていた私は大いに驚き,知ってから6日後,その廃村 峰(Mine)に出かけることになりました。

# 3-2
同じく検索で見つけたH.ITOHさんのホームページに載っている峰の記事によると,峰集落は,棚沢(鳩ノ巣駅あたりの集落)から徒歩1時間,標高600mの高地にあり,昭和初期には14戸を数えたそうですが,日常生活の不便さから住民の下山が断続的に行われ,1972年(昭和47年)に廃村となったそうです。また,学校はなく,子供たちは棚沢まで毎日山道を歩いて通ったそうです。
1899年には,民俗学で有名な柳田国男さん(当時東京帝大の学生)が峰を訪れ,峰在住の福島文長さん(旧古里(Kori)村村長)宅に2泊し,このときの村長と過ごしたひとときが,柳田民俗学の源流になっているともいわれる,伝説のある廃村です。


# 3-3
当日の土曜日は,妻が新宿の病院に入院中ということで,着替えなど持ちながらJR南浦和から西国分寺,立川経由で青梅線に入り,南浦和から2時間ぐらいで鳩ノ巣駅に着きました(着替えなどの荷物は,青梅駅のコインロッカーに置いて行きましたが・・・)。
鳩ノ巣駅の近くの川はとても短く,「果たしてこれをたどって行って着くものだろうか」と思いましたが,登り詰めたところにあった家のおばさんに,「川苔山への登山道を登って行けばよい」と教えていただき,問題は解決しました。
クルマはここまでしか入ることができず,時折すれ違うハイカーさんと,「ちわっ」と声を掛け合いながらのにわか登山となりました。

# 3-4
登山道の尾根越えの高台には祠(大根ノ山ノ神)があって,とりあえず一服。さらに少し進むと「旧峰部落ニ至ル」の看板がある川苔山と峰との分岐点があり,分岐点から5分強,駅から50分ほどで,最初の家の敷地跡に到着しました。向かいには,電柱の跡がありました。
敷地跡からほんの少し下ると,植えられてそれほど経たないスギ林の中,2軒の廃屋と「日天神社」という社が目に飛び込みました。
第一印象は,「なぜこんなところに・・・」でした。北向きの斜面で日当たりは悪く,川からは遠く,林道も通らないような高台になぜ集落が形成されていたのかと思うと,不思議な気分になりました。

.. ..


# 3-5
廃屋の一軒は二階建,一軒は平屋です。平屋のほうには離れがあって,樽のような風呂と便所がそのまま残っていました。
水道はどうしていたんでしょうか。コンクリート製の水溜めがいくつかありましたが,飲み水にできた感じはしませんし,水関係らしいゴムホースや鋳物の管もあったのですが,どうもはっきりわかりません。
H.ITOHさんのページの記事では,「風呂の水をくむために川へ何度も往復し」とあり,水を手に入れるのはたいへんな作業だったようです。現代人にはちょっと想像のできない暮らしぶりがあったようです。

# 3-6
さらに,裏手の丘と崖の境目を下って行くと,視界に屋根らしきものが見えてきて,近づくとすいぶんしっかりした作りの,もう一軒の廃屋がありました。これを含めて,私が見つけた分では,現在峰に残っている廃屋は3軒でした。
この廃屋の二階には,農具と思われる木棚があり,教科書やノート,新聞やハガキなどが散乱しました。中には戦前,それも大正ぐらいのものも含まれています。屋根があるとはいえ,吹きさらしの中で,よく保存されているものだと思います。
この廃屋の風情は,過去にさかのぼるタイムマシンであり,民俗博物館です。後に「タイムマシンの廃屋」という愛称を思い付きました。


# 3-7
福島文長さんの家は往時の多摩地区屈指の大富豪で,集落跡のいちばん上手に広い敷地跡があるとのことですが,気が付かなかったためここには行かずでした(ここには,11月に足を運ぶことになりました)。
宅地や畑の跡に植えられたスギはかなり大きくなっていて,何年か後には日天神社を残してすべてただの林になってしまうのでしょう。
2時間弱ほど集落跡を散策した後,帰りは鳩ノ巣駅には戻らず,古里駅方向の山道をたどりました。
10分弱で急な下り坂になり,下りきると川(入川)と小さなダムがあり,ダムの手前には入川林道というクルマの入れる道がありました。

# 3-8
峰は,水系でいうと入川の系列にあり,入川と多摩川の合流点あたりの大字は小丹波なのですが,峰が含まれる大字は棚沢(鳩ノ巣駅あたりの大字)になります。祠のあたりからダムの少し下流の採石場あたりまで,途中誰にも会いませんでした。
古里駅には峰からちょうど1時間ほどで到着しました。駅近くにコロッケを50円で売っているお店があり,遅れた昼飯となりました。
古里駅からは青梅と立川で乗り継いで,1時間半ほどで新宿駅に着きました。
新宿はいつも通りの雑踏です。この890円の行程は,近くて遠い旅の真骨頂といえるでしょう。



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