SFファン交流を考える会
2005年:月例会のレポート
■1月例会レポート by鈴木力
■日時:1月23日(日)
●企画:国立科学博物館見学・及び新年会
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新年会の前に、前回見学しきれなかった科学博物館に再チャレンジすることになった。
参加者は5名。今回見学したのはB2F「地球環境の変動と生物の進化」と2F「科学と技術のあゆみ」。
B2Fは地球の誕生から生命の発生を経て人類が文明を持つに至る40数億年をワンフロアに凝縮した壮大なパノラマ。前回同様、「イチゴの実は植物学上の“果実”ではない」など、ここでも野田令子氏の薀蓄が炸裂していた。しかしそんな有難いお話を脇にして、三葉虫の化石を前にその調理法を議論する一同でありましたとさ。
2Fではアーク放電の実演などで遊んだあと、SFU(無人宇宙実験・観測フリーフライヤー)や零式艦上戦闘機など科学技術立国ニッポンの成果をたっぷりと拝む。残念だったのは時間違いで高柳式テレビジョンの実演操作が見られなかったことか。
こうして正月を挟んで計2回・6時間も見学してきた訳だが、恐ろしいことにこれでもまだ足を踏み入れてすらいないフロアがある。また機会があれば、見学会を催したい。
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■2月例会レポート by鈴木力
■日時:2月19日(土)
■企画:現役大学生に聞く・SFサークルと文芸サークルの違い
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昨年の東洋大SF研に引き続き、現役大学生に聞くシリーズの第2弾。
今回は、その東洋大の回に参加していただいた縁で、東大SF研と新月お茶の会の皆さんにお願いする次第となった。
まずSF研に「会員数は何名くらい?」と話を振ると「どこまで会員なのか定義の問題が……」。なんと東大SF研は創設メンバーから「会員名簿」に載っていて、当然そこには今では錚々たるプロになった方々の名前も。さらに同会には決まった会費もなし。会誌の発行などで物入りの時は、定期的に催される飲み会の割り勘に、幹事が必要なだけ上乗せして徴収するのだとか。この融通無碍な運営システムが創設30年を超えて活動できる秘訣か。
一方、お茶の会は創作中心の文芸サークル。会誌が出来ると会員同志がお互いの創作を批評しあう合評会があるのだとか。現代表の中村氏は外部との交流に積極的で、氏のリーダーシップが(少なくとも対外的には)会を動かしている印象。ときどき先輩からのツッコミを受けながら話を進めるのだが、お互い言いたいことは口にしながらも信頼関係はあり、合評会もこんな感じなのかな、と想像された。近く某女子大ミステリ研との交流会も予定されているそうで「それって合コンと言わないか」とのツッコミに「だから、最初から合コンではないと断ってるでしょう」と切り返す中村氏が可笑しかった。
なお、これは後日談になるが、セミナーの合宿でも、この流れで1企画を持つことが決定。現在各方面の現役大学生と交渉中です。興味のある向きは、ぜひセミナーの合宿へお出で下さい。
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■3月例会レポート by鈴木力
■日時:3月20日(日)
●企画:オタクの誕生
●ゲスト:池田憲章氏
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第一人者はやはり違う。
というのが池田氏の話を聞いての率直な感想だった。
氏がこの道を志したのは15歳のとき。当時世にあった「SFの歴史」に自分の好きな映像関係の記述が欠けていることに不満を抱いたことがきっかけだった。
凄いのはこの先で、氏はここで30年に亘る人生計画を立ててしまう。すなわち、
15歳から25歳までは資料を集める
25歳から35歳までは原稿を書く
35歳から45歳まではそれらをまとめて本にする
そしてビデオデッキもない時代、自分の観たテレビ番組をノートにとりはじめた。
氏が自分に課したのは、難解な評論は書かない、とにかく資料を残すことに徹する。口で言うのは簡単だが、これを実行し、継続することは容易ではない。しかし、氏は本当にやったのだ。そこから大学の卒論と平行して作ったという『ウルトラセブン』のムックなど膨大な仕事が産まれたのだった。
当日は氏のこれまでの仕事、メモなどをお持ちいただいたのだが、シンプルな方針も徹底すればかくも大変な業績になるのかと思えば、俺などこれまで何をしてきたのかと呆然たらざるをえない。
近年では日本における海外テレビドラマの放送の歴史を発掘しているという氏の、いくつになっても衰えない情熱に、とにかく打たれた。これからも変わらぬ活躍をお祈りしたい。
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■4月例会レポート by鈴木力
■日時:4月16日(土)
●テーマ:ライトノベルの現在——『ライトノベルデータブック』を中心に
●ゲスト:榎本秋氏(ライター)
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ライトノベル、ライトノベルと喧しい昨今だが、『ライトノベルデータブック』の編著者・榎本さんはブームの中にあってクールだった。
子供の頃から両親の本棚にあった時代小説を読み漁るなど、本に対しては非常に早熟だった榎本さん。長じてbk1に就職、ネット書店員としてSFを担当することになるが、このときの経験が『ライトノベルデータブック』にも生きているという。
実は同書に取り上げた作家は恣意的に選ばれたものではなく、売れているもの、読まれているものを、ということで、売上げなどのデータを細かく数値化し、決定されたのだとか。図書館を定点観測し回転率まで計測したという。ライトノベルに限らず世にブックガイドは多いが、ここまで調べたケースは稀なのではないか。
ネット書店の裏話も交え話が進む中、「ライトノベルは売れているというが、10数年前と比べれば部数は落ちている。ただ他のジャンルの本がもっと売れなくなっているので、相対的に目立っているだけなんです」と榎本さんは説く。
ブームに浮かれるのは結構、それに反発するのも結構。しかしかりそめの祭りが終わったあと何が残るのか。そんなことを考えさせられた。
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■5月例会レポート by鈴木力
■日時:5月3日(祭)
●企画:SFファン交流を考える会出張版〜現役大学生に聞く・イマドキのSF研事情〜
●ゲスト:東洋大SF研、京大SF研、新月お茶の会、東大SF研 ほか
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昨年末から今年始めにかけて、東洋大SF研、東大新月お茶の会、東大SF研に出演を依頼したのを受け、セミナーでは遠くの大学生も来るのだからと決まったこの企画。当日お越し頂いたのは前記3サークルの他、名古屋大SF研、京都大SF研、ワセダミステリクラブの現役生とOPの方々、そしてOPのみの参加がお茶の水大SF研、日本大理工学部SF研、明治大SF研。またSF研はないものの、東京情報大の現役生の姿もあった。まずはご協力いただいた皆さんに厚くお礼申し上げる次第である。
さてまずは各サークルの新歓状況から尋ねていくと、ワセミスが新入生25人という文字通り桁の違う数字で一同の度肝を抜く。さすが老舗。他の大学では、まったく入らないかと思えばいきなりまとめて入会したりと波のある所も。SFアニメなどの流行に左右されているのではないか、という分析の声もあった。
活動方針についてはむろん各サークルでまちまちなのだが、面白かったのは読まれている作家の名前を挙げてもらったところ、森博嗣がかなりの確率で出ていたこと。他には乙一、西尾維新から、ティプトリーやベスターといったオーソドックスな名前も。
大学SF研で過ごす時間は、人生でいちばん自由のきく大学生という身分とも相俟って、自分自身の経験を思い返してみても、実に濃いものだ。今も全国のあちこちの大学で、そのような時間を送っている人たちがいる事実の一端を垣間見せられたような気がして、大学卒業から10年が経ってしまった身としては、何だか嬉しくなると同時に、少し羨ましい気持ちにもさせられた。
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■6月例会レポート by鈴木力
■日時:6月5日(日)
●企画:吾妻ひでおFCの歩み
●ゲスト:飯田橋修一氏(すーぱーがーるかんぱにー代表)、T機関長氏(SFアラモード代表)
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今年3月に上梓した『失踪日記』が日本漫画家協会賞を受賞、20万部近いベストセラーとなり、ジャーナリズムからも一躍注目を集めた吾妻ひでお。しかし吾妻ファンはこんな時代となる遥か以前から活動していたのだった。
「SFファン交流を考える会」としては最後となった6月例会は、井手聡司氏のコーディネートで、すーぱーがーるカンパニー代表の飯田橋修一氏とSFアラモード代表のT機関長氏に吾妻FCの歩みを伺った。
元来すーぱーがーるカンパニーは、その名が示す通り、吾妻FCとしてではなく彼の作品『ななこSOS』のFCとして出発した。しかしその活動のパワフルさは、はっきり言って聞き手の想像を超えていた。
谷山浩子のオールナイトニッポンにアニメ『ななこSOS』の主題歌のリクエスト葉書を組織的に投稿して放送させる、などというのは序の口で、神戸と東京でファン主導のイベントを成功させ、プロ主催のイベントでは谷山浩子本人を司会として招致することに成功、果ては北海道支部が札幌雪まつりでななこの雪像を作ったり、右翼の街宣車を借りてアニソンを流しながらSF大会に乗り込んだりするのだった。
今でも活動は健在で、吾妻ひでおの原稿をまとめた同人誌を刊行し続けているという。「同人誌の入った封筒を開けると煙草の匂いがしてね、ああ、これは吾妻先生が煙草を吸いながら封詰めしていたんだなあ、と思っちゃう」という、ファンと漫画家の距離の近さを感じさせる逸話も紹介されていた。
今回マスコミから吾妻ひでおに当てられたスポットは、俄かで、気まぐれななものかも知れない。しかし、それとは無縁の地点で、20年にわたって吾妻ひでおを支えてきたファンのいることは銘記しておくべきであろう。
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