ファン交 2005年:月例会のレポート
■9月例会レポート by fuchi-koma
■日時:9月24日(土)
●テーマ:「ぼくらのリアル、あなたのリアル」
●ゲスト:東浩紀氏(批評家)、V林田氏(青年実業家)、ゼラ泉氏(ブロガー)
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今回のテーマは「リアル・フィクション」です。
最初の挨拶で東氏から「リアル・フィクションには実体など存在しない」と一つの結論を言われてしまいますが、現象自体について考えてみようというのが企画の趣旨なので、負けじと(笑)各作品論に踏み込んでいきます。
「S-Fマガジン」の「ぼくたちのリアル・フィクション」として特集された冲方丁氏、桜坂洋氏、新城カズマ氏、元長柾木氏、海猫沢めろん(ナカガワヒロユキに改名)氏他の諸作についてそれぞれの捉え方感じ方をお話し頂きました。その中でも、会場に来ていた大森望氏までをも巻き込み最も濃密な議論を呼んだのは、新城カズマ氏の『サマー/タイム/トラベラー』でした。
同作について「少女が“跳ぶ”のを、何故タイムトラベルだと思うのか。普通はまずテレポートだと思うんじゃないの」という大森氏の指摘には膝を打ちました。そう言えばテレポーテーションって言葉、作中に出てきませんでしたね。
「リアル・フィクション」についての認識の差異から、それぞれの「ぼくらのリアル」に話は広がり、V林田さんの「『喰いしん坊!』(土山しげるのマンガ)こそリアル・フィクションだ!」発言や、ゼラ泉氏の「僕は滝本竜彦を日本で20番以内に理解している!」など、話の裾野が広がり過ぎまとまりがなくなった感もありました(笑)。しかしゲスト間及び会場とのやり取りには、各々が認識の違いを真摯に見つめ、その接点を探ろうとする姿勢がありました。
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■10月例会レポート by fuchi-koma
■日時:10月29日(土)
●テーマ:「ラファティを語る〜『宇宙舟歌』の訳者を迎えて〜」
●ゲスト:柳下毅一郎氏(特殊翻訳家)、林哲矢氏(SFレビュアー)
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ラファティという人物について、資料が手元にないので意訳ですが、ジュディス・メリルは次のように言っています。
「どんなに知的な会話ができるかと思ったら、ラファティというじいさんは酒を呑んでふらふらしているだけで、知性の欠片も感じられなかった」
この文章を引いて柳下さんはラファティの奇矯な人柄を紹介します。すると、みいめさんも夫妻でアメリカのSF大会に参加したときのラファティの印象を「お話しした感じでは普通のおじさん。あとで会場で見かけたときには、ただの酔っ払いおやじ(笑)」と話します。
その著作は高い知性を感じさせるのに、会った人の印象は「ただの酔っ払い」。韜晦? 天然? やはりラファティ、只者じゃありません(笑)
ラファティについて、よく「長編は難解だ」と言われます。fuchi-komaも『イースターワインに到着』(サンリオSF文庫)を読んでその通りだと思いました。ところが柳下さんや林さんによると『イースターワインに到着』は邦訳長編中で最もわかり難い翻訳と話になっており、他の長編『トマス・モアの大冒険』(サンリオSF文庫)や『地球礁』(河出書房新社)などはそれほど難解でもないとの事でした。そして何より『宇宙舟歌』は——fuchi-komaは例会が終わってから読んだのですが——とても読み易いものでした(しかも面白かった!)。正しく「ラファティ長編入門」にうってつけの本で、「これを最初に出すべきだった」という声は尤もだと思いました。
例会の後半は短編の話で、ゲストお二方に「やさしいラファティ〜上級ラファティ」の話を伺いました。二人の選ぶ「むつかしい」短編は被らないのに、「万人向け」は『九百人のお祖母さん』(ハヤカワ文庫SF)の短編ばかりでした。初心者には先ず『九百人のお祖母さん』と言えそうです。
林さんは「本当のところ、やさしいラファティだの上級ラファティだのというものはないと思う」と但し書きを入れつつ、「オチがオチとして存在しないと納得がいかない人には辛いと思うけど、ラファティ短編の魅力というのはオチがなかったり、必ずしも構造が始め、中、終わりの順になっていないようなところじゃないか」と話します。
なるほど。酒を飲む代わりにSFを書き始めたというラファティですから、こちらもその作品を飲んで大いに酩酊して、前後不覚になれば良いということでしょう。え、違う?
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■11月例会レポート by fuchi-koma
■日時:11月19日(土)
●テーマ:「ジュブナイルSFにおけるジュール・ヴェルヌ」
●ゲスト:大橋博之氏(ジュブナイルSF・ジュニア小説研究家)
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ジュール・ヴェルヌというとSFファンは「SFの父」として誰でも知っているでしょう。中にはそれ私のお父さんだよ、という人もいるかもしれません。彼については自明だから語ることなんて、あんまりないんじゃない? とさえ思うかもしれません。実際fuchi-komaはちょっと、そう思っていました。ところが大橋さんの口から飛び出したのは、初めて耳にすることばかりで驚きました。
特に面白かったのは「真のジュール・ヴェルヌ」を巡る騒動の話です。
一般にジュール・ヴェルヌの著作として知られている作品の幾らかは、編集者エッツェルの手が入っているとか。エッツェルはヴェルヌが父のように慕っていたというくらい信頼していた人物で、当時の原稿をみるとエッツェルの修正や細かい書き込みが沢山入っていて、ものによっては殆どエッツェルが書いていたのではないかと思うほどの書き込みのある原稿も残されているそうです。
さて、ここにおいて「“真のヴェルヌ”とは、エッツェルの色が全くないものを言うのか」という問題があります。
例えば、1991年に出版された「20世紀のパリ」という作品は、ヴェルヌ没後ずいぶん経って発掘された作品のため本人の作品か危ぶまれていたのですが、エッツェルがヴェルヌと交わした書簡中に「20世紀のパリ」に関する言及があったため、なんとか本物と認められました。この件に関して、ヴェルヌ協会(各国に支部があり会員は500名を超える)が大活躍だったようです。
さて、ヴェルヌの本国フランスでは没後百年の今年、かなり大きなイベントが催されていたようです。それに対して日本はどうでしょうか? H・G・ウェルズの『宇宙戦争』は書店に平積みなのに、ヴェルヌ没後100年の扱いは実にささやかなもので、書籍関連の記念出版などは何もなかったそうです。これは、日本にとってヴェルヌは完全にジュヴナイル作家として紹介されたことなど、現在の不遇な状況を作り出す要因があったからだといいます。
詳しくお話を伺うと『ダヴィンチ・コード』もかくやというような(実は読んでないんですが……)ヴェルヌにまつわる面白い謎がどんどん出てきます。研究者やヴェルニアン(ヴェルヌの熱狂的なファンを謂うらしい)たちはそれほど楽しそうなのだから、もっと一般の認識も変えられないかな、などといった話で盛り上がりながら楽しい例会は終了するのでした。
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■12月例会レポート by fuchi-koma
■日時:12月10日(土)
●テーマ:「SFアニメ2005総括」〈理論編〉
●ゲスト:日下三蔵氏(アニメソング研究家)
ほか、さいとうよしこ氏(カラオケ番長)、大野修一氏(アニメージュ編集長)を予定
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12月例会は「SFアニメ2005総括」でした。
fuchi-koma、準備段階で日下三蔵さんより送られてきたリストを見て先ず驚きました。
そこには2005年に放送開始したアニメがまとめられており、数えてみると全部で86タイトルありました。86タイトル! しかも「SF的要素のまったくないものは省いていますが、全体から見れば、ごくわずかです」と但し書きがついております。SF要素のない「ギャラリーフェイク」「エマ」「ハチミツとクローバー」「涼風」etc...を除いても86タイトルとは……。果たしてそんなにたくさんのアニメを総括できるのか? と心配になりました。
そして、当日。
世の中、凄い人というものはいるものですね。みいめさんの同僚の秋山さんが86作品のOP映像を収めたDVD(正確には80作品、一部ED映像あり)を携えてやって来ました。
ディスクをセットして映像が流れ始めると会場が静まり返ります。
そして怒涛の一時間半が始まり、OP映像を流しまくります! その映像に合わせてゲスト三方の解説が、そして会場のツッコミも入ります。
会場で人気があったアニメは『かみちゅ』『極上生徒会』『創聖のアクエリオン』あたりですか、『おねがいマイメロディ』を強烈に一押しする声もあがりました。しかし、これだけの本数があれば当然ながら全ての作品が名作というわけにはいきません。参加者を含め皆、期待が大きかったりして“がっかりアニメ”もあったようです。
最後に、そんな作品も全て含めてアニメを楽しむコツとして「過大な期待をせずアニメを観ることで、“それなり”の楽しみ方をしながらアニメを観ることができる」というような言葉をいただき、2005年SFアニメ総括はめでたく終了となりました。
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