ファン交 2008年:月例会のレポート
■1月例会レポート by fuchi-koma
■日時:1月19日(土)
●テーマ:
「二〇〇七年SF回顧」
●ゲスト:
森下一仁さん(SF作家、SF評論家)
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1月例会は、昨年に続き今年も森下一仁さんにガイドを務めていただきながら、2007年に発表されたSF小説作品について参加者と共に振り返りました。
今回も星雲賞(日本SF大会参加者の投票により選ばれる賞)に倣って【日本長編】【日本短編】【海外長編】【海外短編】を取りあげました。各部門とも、まず参加者に2007年発表の面白かったSF作品を列挙してもらい、それを会場のホワイトボードにどんどん書き込んだのち、ゲストの森下さんを中心に作品について紹介者にお話いただきました。なお海外部門では、ファン交・海外SF企画で毎度お世話になっていますSFレビュアーの林哲矢さんが、取りあげられた作品について楽しくご紹介くださり、読み残していた作品のあれもこれも読みたくなりました。
今年も、日本長編短編・海外長編短編のSF作品リストを準備しましたが、特に日本長編&海外長編用リストは、星敬さんより膨大な「昨年発売されたSF関連小説」資料をご提供いただき、それを元にリスト配布させていただきました(あまりの作品量の凄まじさに参加者から驚きの声が……)。
相変わらずまったりとした進行で、「ノンフィクション」は案の定二次会での話題のみと相成りました。心の準備をしてくださっていた参加者の方々には申し訳ないです。
最後に、長編用参考リストを提供してくださった星敬さん、ゲストの森下さんとともに作品についていろいろ紹介をしてくださった風野春樹さん、林哲矢さんにも、改めてお礼申し上げます。
参加者皆さんの積極的な意見交換のお陰で、新年早々より楽しい例会となりました。
以下に、例会で話題となった作品を紹介させていただき、お礼にかえさせていただきます。
【日本長編】
・Self-Reference ENGINE/円城塔
・進化の設計者/林譲治
・プリズムの瞳/菅浩江
・時砂の王/小川一水
・人類は衰退しました/田中ロミオ
・シオンシステム/三島浩司
・MM9/山本 弘
・残殺器官/伊藤計劃
・ジャン=ジャックの自意識の場合/樺山三英
・有頂天家族/森見登美彦
・零式/海猫沢 めろん
・超妹大戦シスマゲドン/古橋秀之
・鯨の王/藤崎慎吾
・図書館戦争/有川 浩
・サマーバケーションEP/古川日出男
・敵は海賊・正義の眼/神林長平
・星新一さん関連本いろいろ……
【海外長編】
・輝くもの天より墜ち/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
・老人と宇宙/ジョン・スコルジー
・大失敗/スタニスワフ・レム
・ゴーレム100/アルフレッド・ベスター
・オリュンポス/ダン・シモンズ
・双生児/クリストファー・プリースト
・イルミナティ三部作/ロバート・シェイ、ロバート・A・ウィルスン
・擬態—カムフラージュ/ジョー・ホールドマン
・ゴールデン・エイジ三部作/ジョン・C・ライト
・キルン・ピープル/デイヴィッド・ブリン
・ザ・テラー/ダン・シモンズ
・残虐行為記録保管所/チャールズ・ストロス
・Y氏の終わり/スカーレット・トマス
・反逆者の月/デイヴィッド・ウェーバー
・掠奪都市の黄金/フィリップ・リーヴ
【日本短編】
・Boy's Surface/円城 塔『Boy's Surface』
・つぎの著者につづく/円城 塔「文學界11月号」
・羊山羊/田中哲弥「SFM2月号」
・陽根流離譚/森奈津子「SFM2月号」
・口紅桜/藤田雅矢「SFM2月号」
・蝉とタイムカプセル/飯野文彦「SFM10月号」
・The Indifference Engine/伊藤計劃「SFM11月号」
・Your Heads Only/円城 塔「SFM11月号」
・球形世界/橋元淳一郎「SFJapan2007SUMMER」
・渦の底で/眉村卓「SFJapan2007SUMMER」
・静寂に満ちていく潮/小川一水 「SFJapan2007SUMMER」
・馬と車/木立嶺「SFJapan2007WINTER」
・超鋼戦士カメダキクオ最後の戦い/坂本康宏「SFJapan 2007 WINTER」
・金のなる木/井上剛「SFJapan2007WINTER」
・沈黙のフライバイ/野尻抱介『沈黙のフライバイ』
・クラーケン/津原泰水「小説すばる2月号」
・延長コード/津原泰水「小説すばる6月号」
・洗濯日和/牧野修「小説すばる7月号」
・いばら姫/吉川良太郎「小説宝石9月号」
・暴落/曽根圭介『鼻』
・〈異形コレクション〉『ひとにぎりの異形』
【海外短編】
・カロリーマン/パオロ・バチカルピ「SFM3月号」
・I:ロボット/コリイ・ドクトロウ「SFM3月号」
・パリに行きたい/ミハイル・ヴェレル「SFM6月号」
・沈黙のすみれ/ヴァジム・シェフネル「SFM6月号」
・見果てぬ夢/ティム・プラット「SFM7月号」
・イエロー・カードマン/パオロ・バチガルピ「SFM8月号」
・スカイ・ホライズン/デイヴィッド・ブリン「SFM10月号」
・スカット・ファーカスと魔性のマライア/ジーン・シェパード『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』
・トロイの馬/レイモン・クノー『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』
・ウェザー/アレステア・レナルズ『火星の長城』
・ダイヤモンドの犬/アレステア・レナルズ『火星の長城』
・マジック・フォー・ビギナーズ/ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』
・スノーフロッグ/アーサー・ブラッドフォード『世界の涯まで犬たちと』
・お人好し/ジョン・ウィンダム『千の脚を持つ男』
・キャロル・エムシュウィラー/『すべての終わりの始まり』
・張系国/『星雲組曲』
■2月例会レポート by 平林孝之
■日時:2月16日(土)
●テーマ:
「二○○七年SF回顧 コミック・メディア編」
●ゲスト:
添野知生さん(SF映画評論家)
福井健太さん(書評系ライター)
林哲矢さん(SFレビュアー)
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今月の例会では、2007年に発表された(完結した)SFコミック、アニメ、映像作品をそれぞれ福井健太さん、林哲矢さん、添野知生さんにガイドを務めていただきながら振り返りました。
まずは福井さんを中心にコミック編から。
予め用意していただいたリストは、星雲賞の対象内で選んでいただいたのですが、期間内に完結した作品という縛りに苦戦されたとのこと。そんなリストをもとに、会場からの声も交えつつ、作品の紹介と魅力を語っていただきました。
個人的には、個人の強さが工事力で測られる大工事時代を描いた『重機人間ユンボル』の設定の馬鹿馬鹿しさに惹かれました。
アニメ編は林さんと福井さんの掛け合いに会場からの声も交えての進行。
「SFっぽものも含めると放映された内の半分以上のアニメが挙げられてしまう」ので、ガジェットがはっきりしているものを中心に取り上げていただきました。昨年の目玉はやはり「ロボットアニメの集合記憶」、『天元突破グレンラガン』。あと、『アイドルマスター XENOGLOSSIA』や『Kawaii! JeNny』はタイトルからは想像もつかないないようだったようですね。
添野さんの案内による映像作品編は、作品数も多いこともあり添野さんと参加者の方とのやりとりで映画、DVD、テレビシリーズの順に振り返りました。
大々的に宣伝されいたような劇場作品以外にも面白いものは沢山あるようで、本当に沢山の作品を挙げていただきました。DVDでは「"宇宙人の解剖ビデオを売った人たちにインタビューした"ことにした偽ドキュメンタリー」、『宇宙人の解剖』の印象が強烈。テレビシリーズでは、「今面白いものは終わらない」とコミック編に続き完結作品での選定の難しさが飛び出て、完結作品を振り返るとともに現在進行中のおすすめとして『ドクター・フー』、『ヒーローズ』、『ギャラクティカ』の三作品を挙げていただきました。
先月・今月と2007年SFをゲストの方々、参加者の方々と楽しく振り返ってきました。
2008年もまた、すばらしい作品に出会いたいものですね。
■3月例会レポート by 平林孝之
■日時:3月22日(土)
●テーマ:
『司政官』読書会
※テキスト/『司政官 全短編』(眉村卓/創元SF文庫)
●ゲスト:
中村融さん(翻訳家)
山中信彦さん(東大SF研究会・新月お茶の会)
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今月の例会では、東京創元社から復刊された『司政官全短編』(眉村卓)をテキストに、久しぶりの読書会を行いました。ゲストは解説も手がけていらっしゃる中村融さん、学生ながら眉村卓ファンの山中信彦さん。
まずは眉村卓の中でも特に〈司政官〉シリーズが好きだという中村融さんから、海外SFの影響を強く受けてデビューした眉村卓が〈司政官〉にたどり着くまでの紆余曲折を語っていただきました。海外SFの形式が好きで色々試していたのが、自分なりの形式をものにした頃に〈司政官〉シリーズが始まったのだとか。
眉村卓の提唱する「インサイダー文学論」についても解説していただきました。企業の中で働いている人たち(インサイダー)に読ませるためには、インサイダーを中心にしたSFを書くことが重要だ、ということだったのが、当時アウトサイダーを自認していた多くのSF作家の間に大きな議論を巻き起こしたというお話しでした。単語でしか知らず、何となく内省的な小説のことだろうと思っていたので、この機に誤解が解けてすっきりしました。
後半は山中さんを中心に、参加者の皆さんにそれぞれの眉村卓の魅力を語っていただく読書会に。「目の前にある世界をそのまま信じない」(司政官たちはロボット官僚を通してしか惑星全体のことを把握できないということ?)という一貫した哲学が、眉村卓と出会った頃の心境に響いたという山中さんを始めとして、社会人になって働き出すと面白みが分かるという意見が多く、そう言う意味では眉村卓の目指したインサイダー文学は成功しているのでは、という気がしました。
一方で、ゲーム理論的にみると、司政官たちの決断はプロセスも含めて実はすごく理にかなっているのではないか、といった別の視点からの読み方を挙げられる方もいて、なかなか盛り上がった読書会となりました。
この復刊を機に初めて〈司政官〉に触れた身としては、最初の「長い暁」でいきなり司政官システムに限界があるような描かれ方がされていたのが気になっていました。これも、初出順に読んでいけば著者自身の〈司政官〉に対する考え方の変遷が追えるので、問題ないのだそうです。これから『司政官全短編』を読むという方がいたら参考にしてみてはどうでしょう。
何より、その後mixiやブログを中心に自分なりの司政官・眉村論を展開される方々がいらっしゃって、その日限りではない広がりが出てきたことが企画側としては嬉しい驚きでした。
■4月例会レポート by 平林孝之
■日時:4月19日(土)
●テーマ:
二十一世紀に語る6、70年代海外SFの魅力
●ゲスト:
大森望さん(書評家・翻訳家)
柳下毅一郎さん(翻訳家)
樽本周馬さん(国書刊行会)
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4月例会は、国書刊行会のSF叢書〈未来の文学〉シリーズ第10回配本を記念して、6、70年代海外SFの魅力を語らう企画……のはずでしたが、樽本さんが新刊「限りなき夏」(クリストファー・プリースト)を手に取りページをめくるば……真っ白、中身がない、いわゆる束見本。そんなわけで、急遽「第10回配本予定を記念して」と趣旨をわずかに変えて例会は始まりました。
まずは樽本さんから、〈未来の文学〉創刊にいたった経緯をお話していただきました。なぜ6、70年代中心の叢書なのかという疑問には、新しいSFは他に出しているところがあるし、50年代以前の名作は文庫で読めるべきだ、というお答え。ニッチと信念がちょうどマッチしたのが6、70年代という時期だったようです。
また、柳下さんからは、1962年に次々とデビューしたル=グィンやゼラズニーといった大物作家たちが活躍したのがこの年代だということ、こうした作家たち(や日本の翻訳家たち)に強い影響を与えたジュディス・メリルの存在が指摘されました。
「わからなくても面白い」という価値観を提唱したジュディス・メリルの影響はとくに大きく、今で言う世界文学を評価できるコミュニティが当時はSFにしかなかったことも相まって、SFの枠が大きく広がった年代でもあったそうです。
会場からは、スタニスフワフ・レムの翻訳もされている柴田文乃さんから、レムにインタビューをした時のこぼれ話などをお聞かせいただきました。皆さんのレムの評価はやはり高く、『ソラリス』から『天の声』までの1961-1968でSFの文体は完成されてしまった、なんていう発言まで会場から飛び出しました。
SFが拡大し、完成された時代、そんなところに6、70年代海外SFの魅力はあるのかもしれません。昨今の復刊・新訳ブームを機にこの年代の名作たちをもっと読んでみたくなりました。
■5月例会レポート by 冬蜂
■日時:5月3日(土)〜4日(日)
●テーマ:
このSFマンガが熱い!
●ゲスト:
福井健太さん(書評系ライター)
林哲矢さん(SFレビュアー)
yama-gatさん(SF/マンガファン)
V林田さん(戦慄のマッド軍団)
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通常例会をお休みし、SFセミナーにて出張版「SFファン交流会」をお送りいたしました。
テーマは「このSFマンガが熱い!」。各ゲストがお薦めするマンガをプロジェクターで投影し、ご本人の解説により紹介していくという、『マンガ夜話』における「夏目の目」のような(?)もの。
まず、yama-gatさん。
曰く「マンガファンがオススメするSFマンガ」ということで、久正人『ジャバウォッキー』、本秀康『ワイルドマウンテン』、三宅乱丈『イムリ』の三作を紹介。
いや『ジャバウォッキー』のまとめ、「恐竜と歴史改変を組み合わせたまったく新しいSFマンガである!」は秀逸すぎます。
次に、「S-Fマガジン」マンガレビュー担当でもある福井健太さん。
小山宙哉『宇宙兄弟』、小林尽『夏のあらし!』、なかざき冬・和智正喜『雷星伝ジュピターO.A.』の三作を紹介。
三人目は林哲矢さん。
榎本俊二『ムーたち』、ゆうきまさみ『鉄腕バーディー』の二作を紹介。
福井さん、林さんは、面白さを伝えるためのページ抜き出しと説明が絶妙でした。
最後はV林田さん。
山口正人『任侠沈没』、kashmir『百合星人ナオコサン』、ゾルゲ市蔵『ゾルゲ大全集』の三作を紹介。飛び道具担当を自称するとおり、他の方々とはひと味もふた味も違うラインナップ。
わたくし冬蜂もこの三作は大好きなのですが、林田さんのプレゼンは作品の面白さを120%引き出していました。最後に相応しい、見事なまでの破壊力と安定感。
その後も「この作品は入ってないのか」、「これはどういう作品なの?」と最後まで盛り上がり、笑い声の絶えない企画となりました。
■6月例会レポート by
■日時:6月21日(土)
●テーマ:
ほんとひみつ「初めてでも大丈夫」編>
●ゲスト:
牧眞司さん(SF研究家)
三村美衣さん(書評家)
北原尚彦さん(作家・翻訳家)
日下三蔵さん(アンソロジスト)
溝口哲郎さん(古本者)
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【第一部 fuchi-komaレポート】
先の5月に行われたSFセミナー合宿で、「今年は「ほんとひみつ」の部屋がなくて残念……」という声が、聞こえてきました。6月例会は、そんな「ほんとひみつ」に出張版として来ていただきました。
まず、三村美衣さんより「ほんとひみつ」企画が始まった経緯をお話いただきました。
発端は、なんと二十数年前の三村さんのハネムーン旅行だったそうな。
旅行先のバリ島の本屋で三村さん夫妻は、思わぬ本(洋書)との出会いを果たします(「まさか、ここでお前と出会おうとは!」)。
この体験をきっかけに、三村さんは「本には、ものすごい歴史、運命、偶然があるのだ」と実感し、「じつはほかの人も、こういう体験があるのでは?」と思い、企画にしたのが始まりなのだそうです。
ちなみに企画名の由来は、星新一の幻の本『花とひみつ』(私家版/限定400部)から。「誰か私に『花とひみつ』を見せてくれ、というメッセージだったのに、10年たっても誰も見せてくれない(笑)」(三村)
こうして始まった「ほんとひみつ」企画でしたが、SFセミナーで毎年続けていくうちに、だんだんマニア化しているそうです。
たとえばこんな風に↓。
・ダイジマンの創元文庫目録事件
(「僕は東京創元社という会社に興味がありまして」と言いながら、
BOXから大量の創元文庫目録と、付録冊子を嬉しそうに取り出す代島さん……)
・日下三蔵のバーコード事件
(「バーコードがつけば、それはもう違う本だ!」……)
その後、いよいよ個別の本自慢です。
今回は、ゲストの方々のはからいで、持参した多くの貴重な本を参加者にも回してくださり、我々は現物を(恐る恐る)手にとりながらお話を聴くことができました。
また今回はファン交向けに、出演者の皆さんより紹介本リストをいただくことができましたにで(ありがとうございます)、本レポートでは、fuchi-komaが個人的に気になったことを中心にまとめてみました。
■一人目:牧眞司さん。
先ごろ亡くなられた野田昌宏さんの影響でパルプマガジンを読むようになって、こんなところまで来てしまった! という話を枕に(ちなみにもう一人強い影響を受けたのが、ヨコジュンこと横田順彌さんだそうです)、持参していただいたコレクションについてお話いただきました。
特に、香山滋のサイン本を高校時代に手に入れ、それが本物かどうかを確かめるため、最終的にはン万円の別のサイン本を買った……という話には、なにか執念のようなものすら感じました。
ほかには、「アメリカにはサイン本市場がある」というお話や、「書影を見てイメージトレーニングすることの大切さ」というブックハンターの心得についても話されました。後者については著書『ブックハンターの冒険』の中にも書かれていましたね。
■二人目:北原尚彦さん。
北原さんは、NINA RICCI版カバーのヴェルヌ『八十日間世界一周』、フィリップ・ホセ・ファーマーのポルノ小説などなど、珍しい文庫本をたくさん紹介してくださいました。
文庫とはナニをもって文庫とするか、という定義の話も興味深く、北原さん曰わく「叢書名は大事だと思う」。
また、北原さんがご紹介しているような珍本稀本を見つけるコツについては「ヘンな本はとりあえず手に取る。100冊に1冊くらい、自分にひっかかるものがある」とのこと。「100冊に1冊くらい」ですか。……やっぱり凄い人です。
■三人目:三村美衣さん。
飛び出す絵本(ポップアップ・ブック)について、現物を開いて飛び出させながら、お話いただきました。
ポイントはこんな感じ。
・絵が飛び出すのはアタリマエ。動く仕掛けが感動的なものが良い
・買うならコロンビア製より、糊付けがしっかりしている中国製を
・開き方、閉じ方にはちょっとしたコツがある
・基本、壊れるもの。直しながら楽しもう
飛び出す絵本のなかには、もはや本ではないのでは?
というものもあるそうで、思った以上に奥が深い世界だったのでした。スゴイ……。
■四人目:溝口哲郎さん。
まず、「若い人は、じつは買えない本がけっこうある」という話から始まり、古本で見つけたら是非買って読んで欲しい面白い本、というのを紹介してくださいました。
どの本も面白そうでしたが、とくに気になったのは、一時期SFファンの間で郵便で送りつけ合い感想文を要求する行為が流行ったという『猫の尻尾も借りてきて』、円城塔と比較して論じるべきであろうという『グリフォンズ・ガーデン』、『グリフォンズ〜』と合わせて90年代の隠れた名作という脳SF『メタリック』でした。
また「定点観測のススメ」「ブックオフの功罪」などブックハンターとしての心得についても言及されました。
■五人目:日下三蔵さん。
日下さんは、前日、当日の天候が雨らしいと察すると、「貴重な本が濡れるのは嫌だ!」ということで(笑)、急遽雨でも大丈夫な紹介方法、「未文庫化作品リスト」配布となりました。
リストのみというわけではなく、数冊本を持参してくれたのですが、そのすべてが「だぶり本」という徹底ぶりは大受けでした。
星新一、福島正実から中井紀夫、朝松健まで、日本SF作家三十余名の作品の“文庫になっていない本”について、日下さんらしい、痒いところに手が届く紹介に、いろいろ読みたくなりました。
配布リストは、基本的に『日本SF全集総解説』の目次に合わせた順番になっていて、合わせてチェックすると、さらに楽しめるという趣向になっていました。
以前『日本SF全集総解説』企画をさせていただいたこともあり、企画が連動しているような感じがして嬉しかったです。
本を愛する人たちの、本との出会い、別れ、奇妙なエピソードの数々。参加者の方々のエピソードも聞いてみたいな、と思いました。
【第二部 出演者本人による紹介本リスト ※一部コメント付き】
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◆牧眞司紹介本リスト
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■「ほんとひみつ」の起源を探る編
●Mike Ashley(ed.) THE HISTORY OF THE SCIENCE FICTION MAGAZINE VOL.3 1946-1955 (CONTEMPORARY BOOKS, 1977) [バリ島で三村美衣が発掘してきた本。この本が『SF雑誌の歴史 パルプマガジンの饗宴』出版企画で重要な役割を果たすことになる。]
■いかにしてぼくは本を集めるようになったか編
●西澤勇志智『理科讀本 炭素太功記』(慶文堂書店/プレゼント叢書、大正15年)[ぼくがSFMを読みはじめたのは1973年1月号。ちょうどこの号から横田順彌さんの『日本SFこてん古典』の連載がはじまっている。これを読んだのが、道を踏みはずすきっかけに。横田さんが記念すべき第一回に取りあげたのがこの本。]
●香山滋『魔婦の足跡』(講談社/書下ろし長篇探偵小説全集、昭和30年)[高校時代に購入。SFの例会で先輩ファンが放出したなかにあった一冊。見返しに手書き文字で「香山滋」とあり、「サイン本だ、すごいすごい」と騒いだら、まわりの連中からは「そんなの印刷に決まってるよ、バカだなあ、マキくんのバカ」と笑われた。それからだいぶ経って、おなじ本の二冊目を入手したところ……]
●香山滋『魔境原人』(同光社出版、昭和34年)[『魔婦の足跡』のサインが真筆かどうか確かめるために、献呈本を購入。献呈ならば贋筆ということはないだろうという発想だけど……]
●『SF作家オモロ大放談』(いんなあとりっぷ社、昭和51年)[「ほんとひみつ」周辺は“本本位制”(本でないものは無価値だ)が支配的なので、サイン本だからといって珍重はされない。しかし、これは自分ががんばってサインを頂戴したという愛着があるので特別。座談会参加者全員(出版時に故人だった大伴昌司をのぞく)のサイン入り。]
●中山忠直『地球を弔ふ』(書物展望社、昭和13年)[前のネタからつづいて献呈本の話。これは、著者の中山が「詩人中佐 柴野為亥知」に贈った本で献呈入り。この詩人中佐とは、柴野拓美さんの尊父である。なんでこんな日本SF史上の貴重な資料が、ぼくの手元にあるのかというと……]
●モォリス・ルヴェル『夜鳥』(春陽堂、昭和3年)[清水の舞台から飛びおりる思いで購入した高価な古書。しかし、最近のWeb目録に、その半額くらいで載っているのを発見して臍を噛む。値段が下がった理由のひとつは、文庫で再刊されてしまったからで、その責任(?)をたどっていくと……]
■予告したのはこれです編
●半村良『岬一郎の抵抗(上・下)』(毎日新聞社、昭和63年)[SFセミナーの「ほんとひみつ」では、何度か言及したことのある本。ただ、分厚い上下巻なので持ってくるのが面倒くさくて、現物をお目にかけるのはこれが最初。奥付が「一九八八年二月三〇日発行」となっているエラー本(というのか)で、書店にはほとんど出まわらなかったはず。ぼくがどうしてこの本を手に入れたかというと……]
■洋書コレクターの罪と栄光編
●Frank M. Halpern INTERNATIONAL CLASSIFIED DIRECTORY OF DEALERS IN SCIENCE FICTION AND FANTASY BOOKS AND RELATED MATERIALS
(HADDONFIELD HOUSE, 1975)[SFディーラー一覧。メールオーダーの手引きとなるはずだったが、当時のぼくにはだいぶ敷居が高く、ほとんど眺めるばかりだった。ティム・カークの表紙絵・口絵がステキ。]
●Bradford M. Day THE COMPLETE CHECKLIST OF SCIENCE-FICTION MAGAZINES (SCIENCE-FICTION & FANTASY PUBLICATION, 1961)[野田昌宏さんのエッセイでも紹介されているコレクター必携のチェックリスト。海外へのメールオーダーをするうえでの基本資料だった。]
●CATALOGUE OF THE FANTASY AND SCIENCE FICTION LIBRARY OF THE LATE P. SCHUYLER MILLER (DRAGON PRESS, 1977)[SF作家・書評家ミラーの蔵書売り立てのカタログ。こんな立派な古書カタログがあるという見本として。〈星雲〉が10ドル!]
●THE SAM MOSKOWITZ COLLECTION OF SCIENCE FICTION (SOTHEBY'S, 1999)[サザビーズのオークション・カタログ。図版がたくさん入って眺めているだけで楽しい。いや、眺めているだけが楽しい、セリに参加したら地獄ですよ。このカタログは100部限定の特装版。こんなものまでコレクターズ・アイテムにしてしまう古書業界とは……]
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◆北原尚彦紹介本リスト〔古本文庫コレクションより〕
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■「ほんとひみつ」を回顧して
●ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』(ニナ・リッチ/1985年)
[かつての「ほんとひみつ」で、牧眞司氏とバッティングした本。ニナ・リッチのコロンの付録。カバーこそ見慣れないが、中身は創元推理文庫版。]
■文庫版対訳本の歴史
●アラン・ポウ/幡谷正雄訳註『アッシャ家の没落』(健文社・英文学名著選/大正15年)
[英語学習用の対訳本。本の右から訳文、左から原文なので、奥付が真ん中に。広告にドイル『緑玉冠事件』があるので、探求書が増えてしまいました。]
●スティヴンスン『ヂェキル博士』(研究社英文訳註叢書/昭和4年)
[見開き右頁が訳文、左頁が原文となっている対訳本。『ジキル博士とハイド氏』の対訳本をいちいち買っていたらキリがないが、文庫サイズで、かつ挿画が初山滋だったので。]
●小倉多加志編訳『ポケット英語で怪奇小説を読もう』(南雲堂・英語文庫/1982年)
[原文と訳文が細切れでサンドイッチになっている対訳本。W・H・ホジスン、ロイ・ヴィカーズ、J・マーシュと、滅茶苦茶ディープなセレクション。]
●『ポー短編集』(UNICOM/1989年)
[ラジオドラマ版「アッシャー家の崩壊」「おしゃべりな心臓」の対訳シナリオ。カセットと一体になって販売されていたもの。]
■レトロ文庫
●ゴーチエ『金羊毛』(新潮社・ヱルテル叢書/大正9年)
[恋愛小説の叢書の一冊だが、幻想小説作家ゴーチェなので。]
●『寸鐵』(博文館/大正8年4月号)
[大正期に出た文庫版の雑誌。内容的価値・書誌的価値があいまって、古書価は高め。この号には加藤朝鳥のSF「爆弾の花嫁」掲載。]
●『寸鐵』(博文館/大正8年9月号)
[その別な号。連載中の「火星人地球襲来」は、どこにもウェルズと書いていないが『宇宙戦争』の翻訳。]
■リアルタイムで買いました文庫
●『サンリオSF文庫 目録』(サンリオ/1980年)
[割と初期に、刊行60点を記念したフェアにあわせて発行された目録。目録なので、買ったのではなくもらったのですが。]
●武内つなよし『異次元の光体』(秋元文庫/1981年)
[古い特撮ヒーローTVドラマ『少年ジェット』の小説版。ストーリーはかなりトンデモ。今となっては秋元文庫で一番古書価がついている。]
●P・J・ファーマー『淫獣の幻影』(光文社CR文庫/1986年)
[ポルノ文庫から刊行。翻訳は朝松健。続編もあり、そちらにはアッカーマンも実名で登場。でも彼の濡れ場はありません。]
■珍・文庫
●野のひろ『僕らは超能力探偵団』(桜桃書房・怪奇オカルト文庫/1996年)
[これ一冊きりで消えた文庫。作者はSF関係者らしいのに、正体不明。版元はもう潰れました。]
●夢野獏『魔色燃ゆる街』(駿河台文庫/1985年)
[知らないSM文庫、佐伯俊男の装丁、夢枕獏もどきの作者と、三拍子揃ったので購入しました。]
●『スポンテニアス 気』(資生堂ビューティーサイエンス研究所/1990年)
[企業発行のハードカバー文庫。ウィリアム・ギブスンのエッセイ(しかも大森望訳)が収録されている。]
●赤瀬川隼『けんせつshort short ミューズの女神』(大成建設/1995年)
[大手建設会社の社内報の連載をまとめたもの。たぶん非売品。SFネタもアリ。]
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◆三村美衣紹介本リスト
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■第一回の企画の元になったエピソードを紹介させていただきました。
(エピソードのもとになった本は、牧眞司さんのリスト参照)
■ポップアップブックのひみつ
大人の蒐集に耐えるというよりも、むしろ子供になんかわたせない「飛びだす絵本」をご紹介。
今回持ってきた本は全部まだ買えます!
●『オズの魔法使い』大日本絵画(The Wonderful Wizard of Oz,2000)
ペーパーエンジニア:ローバート・サブダ
[フランク・バウムの『オズの魔法使い』の仕掛け絵本。竜巻が回転し、エメラルドの城のシーンではちゃんと眼鏡もついているという凝った作品。仕掛けの種類も豊富で、バランスもいいサブダの最高傑作。]
●『ナイト・ビフォー・クリスマス』大日本絵画(The Night Before Christmas,2002)
ペーパーエンジニア:ロバート・サブダ
[C・C・ムーアの詩をもとにしたポップアップ絵本。ページを開くという動作連動した動きが楽しい。ページを開くとサンクロースが煙突に入って見えなくなってしまうなど、イマジネーション豊かな一冊。]
●Mommy? SCHOLASTIC(2007)
ペーパーエンジニア:マシュー・ラインハート
[サブダのゲイのパートナーであるラインハートのポップアップ絵本。子供がお母さんを捜して歩きまわるというだけのストーリー。ただしmammyじゃなくてmommyだけど。絵がモーリス・センダックの書き下ろしというのが凄い。
●The Girl Who Loved Tom Gordon LITTLE SIMON(2004)
ペーパーエンジニア:キース・モアビーク
[スティーブン・キングの『トム・ゴードンに恋した少女』のポップアップ絵本。そんなに凝った仕掛けはないけど、絵がB級で怖いというよりも嫌かな。]
●Journey to the Moon LITTLE SIMON(2007)
ペーパーエンジニア:Lucio & Meera Santoro
[汽車から月着陸船まで、乗り物を集めた仕掛け絵本。本を開けると、モビールみたいに乗り物がぶらぶら揺れるのが楽しい。]
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◆溝口哲郎紹介本リスト
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■ある日突然…
●久米康之『猫の尻尾も借りてきて』(ソノラマ文庫/1983年)
[今は亡き原宿のブックオフで100円で購入。運命的な出会いであった。広瀬正の『マイナス・ゼロ』(集英社文庫)と現代のタイムマシンものをつなぐ、リリカル時間SF。
一時期、ある日突然SF・ミステリ系読書人ののもとに届けられ、なぜか様々な人々に読まれた本でもある。ネット上で「猫の尻尾も借りてきて」が合言葉と化しており、ブームになったものの再刊には至らず。ソノラマ文庫でも入手が困難な一冊になっており、捜索難易度は高めであるので注意。]
■SF奇譚を読むと同時に、ビジネス発想もできる実用書?
●かんべむさし『ひらめきの技術』(光文社カッパブックス/1984年)
[最近はすっかりラジオで稼いでいるかんべ氏だが、文系的ロジカル小説を書く人としてもう少し若い人たちに知られてほしい作家でもある。
この本はかんべむさし式発想法といっても過言ではない発想法が奇妙な味の短篇という形で読めるようになっている本である。ブックオフ等にある可能性はあるものの、なにせ24年前のカッパブックスのため見つかりにくいかもしれない。]
■早すぎた国産ロボット製造物語?
●石川英輔『人造人間株式会社』(講談社)
[あまりにも売れなかったため、文庫化すらしなかった小説。この本を読んだきっかけは小隅黎先生の一言にあった。傑作なんだけれども、地味である。今現在ロボット製作者が読めば何かしら感慨深いものがある本でもある。リアリティという意味でも、実に地に足のついた佳作SFである。]
■価値観の転換を楽しもう
●村田基『不潔革命』(シンコーミュージック)
[すっかり作品が出なくなってしまったが、価値観の転換ということをうまく表現できる作家のひとりであると認識している。彼の場合ある種の代表作である『不潔革命』が読めないのは大変不幸なことで、その後SFというよりも幻想・ホラーの方面に向かっていったのはややもったいない気がする。]
■円城塔もいいけど、こちらも忘れずに。
●早瀬耕『グリフォンズ・ガーデン』(早川書房)
[VR空間上での恋ものがたりを描いた作品。当時一橋大学の学生だった作者の卒論が本になったという。この本の他に、現代版ドゥエル教授の首作品、別唐晶司『メタリック』(新潮社)とともに読んでもらいたい一冊。円城塔さんより感覚的な感じだが、甘ったるい感じのVRものといえる。]
■SFは絵だねぇ。
●ホリー『光る目の宇宙人』(偕成社)
●スタージョン『人間以上』の洋書版(たぶんリプリント?)
[前者は武部本一郎さんのイラストがとても怖い。特に目玉だけの怪物のイラストは子ども時代に読んでいたら絶対トラウマになる。後者もそんなテイスト。インパクト、というのはSFでは重要だと僕は感じているため。]
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◆日下三蔵紹介本リスト
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※当日、以下のリスト配布。そのうち数冊は単行本持参。
【文庫未収録リスト】
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●星 新一 「気まぐれ読書メモ」有楽出版社/81年6月 ※書評集
●小松左京 「狐と宇宙人」徳間書店/90年1月 ※戯曲集
●光瀬 龍 「見えない壁」立風書房/79年2月 ※ショート・ショート集
●眉村 卓 「引き潮のとき」早川書房 ※全5巻
●筒井康隆 「発作的作品群」徳間書店/71年7月
●平井和正 「虎はねむらない」ウルフ会/86年5月 ※習作集
●福島正実 「百鬼夜行」早川書房/74年10月
●矢野 徹 「甘美な謎」あまとりあ社/58年12月
●今日泊亜蘭「怪獣大陸」鶴書房/78年3月 ※原型版
●石原藤夫 「横須賀カタパルト」徳間書店/82年7月
●半村 良 「寒河江伝説」実業之日本社/92年1月
●山野浩一 「花と機械とゲシタルト」NW-SF社/81年1月
「レヴォリューション」NW-SF社/83年6月
■
●山田正紀 「化石の城」二見書房/76年1月
「魔術師」徳間書店/86年8月
●横田順彌 「夢の陽炎館」双葉社/91年9月
「風の月光館」双葉社/93年12月
●川又千秋 「夢魔城」中央公論社/89年2月
●かんべむさし「言語破壊官」朝日新聞社/80年6月
「集中講義」徳間書店/80年10月
●荒巻義雄 「聖シュテファン寺院の鐘の音は」徳間書店/88年5月
●山尾悠子 「仮面物語〈或は鏡の王国の記〉」徳間書店/80年2月
●鏡明 「不死を狩る者」徳間ノベルズ/81年1月
●梶尾真治 「ギャル・ファイターの冒険」小峰書店/89年6月
※小型絵本
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●新井素子 「ネバーランド・パーティ」新書館/85年9月 ※対談集
●夢枕獏 「カエルの死」光風社出版/85年1月
※タイポグラフィ大型本
「ガキのころから漫画まんがマンガ」講談社/87年3月
※漫画論
●谷甲州 「36000キロの墜死」講談社/88年1月
●式貴士 「天虫花」CBSソニー出版/83年4月
●森下一仁 「ラグ 宇宙からやってきたともだち」ペップ出版/90年1月
■野阿 梓 「月光のイドラ」中央公論社/93年2月
「緑色研究 上・下」中央公論社/93年11月
「黄昏郷(おうごんきよう)」早川書房/94年4月
●菊地秀行 「魔獣境図書館」朝日ソノラマ/93年6月 ※あとがき集
●大原まり子「機械神アスラ」早川書房/83年3月
■
●草上 仁 「星売り」早川書房/90年10月
「くたばれ!ビジネスボーグ」青樹社/93年3月
●中井紀夫 「闇の迷路」徳間ノベルズ/89年11月
●朝松 健 「黒衣伝説」大陸ノベルズ/89年4月
■7月例会レポート by 平林孝之
■日時:7月12日(土)
●テーマ:
TVマンガがTVアニメになったとき 〜アニメ専門雑誌の30年
●ゲスト:
徳木吉春さん(編集者)
藤田 尚さん(マンガ関係者)
原口正宏さん(アニメーション研究家)
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7月例会は今も続いているアニメ専門雑誌としては最長老のアニメージュ30周年を期に、アニメ専門雑誌が歩んできた30年の道のりを振り返る例会でした。
——のはずが、事前にホワイトボードに書かれているのは1978年のアニメージュ創刊から1985年の月刊ニュータイプ創刊まで。果ては司会を務めるみいめさんが開口一番「今日はアニメ専門雑誌の始まりからニュータイプ創刊くらいまでのお話しをしたいと思います」。あれ、30年歩みは? 1985年ってスタッフの中には生まれてすらいない人もいるんですけど……。
ともあれ、まずは原口さんからアニメ専門雑誌の先駆けとも言える「film 1/24」のお話しをしていただきました。手塚治虫さんの影響からかストーリーばかりが先行し、技術がその表現についていっていなかった当時の日本アニメに、アニメーション・ファンダムの人たちは疑問を感じていたそうです。そこで海外の技術的に優れたアニメーションを勉強しあうための場として「film1/24」が創られたとか。全国には大きなアニメーション・ファンダムが4つあって、毎年持ち回りで「アニメーション全国総会」なるコンベンションをやっているという、どこかで聞いたような世界のお話しもしていただきました。
こうしてセミプロ同人から始まったアニメ専門雑誌が全国流通に乗ったのは、2号で宇宙戦艦ヤマト特集をやってからアニメ雑誌化した「月刊OUT」と、一年ほど遅れて創刊された月刊「アニメージュ」辺りから。
テレビ放映当時は余り注目されていなかった『宇宙戦艦ヤマト』が口コミで広がり、1977年に劇場版が公開されたときには、映画館に『ヤマト』を観に行くことがアニメファンの証のようなものだったそうです。そこで映画だけでは分からない背景などを文字情報に求める人が増えたことが、「ロマンアルバム」などのMOOKが発売されるきっかけとなり、アニメの専門誌となる「アニメージュ」創刊のきっかけになったみたいです。
「アニメージュ」の後を追うように次々にアニメ専門雑誌が創刊されましたが、当時創刊された雑誌で残っているのは「アニメージュ」の他には「アニメディア」と「月刊ニュータイプ」だけです。「月刊ニュータイプ」の創刊に関わった徳木さんによれば、もともとはアニメージュの副読本として読んでもらえればと思ってスタートしてのですが、いつの間にかライバル誌となっていったのだとか。
アニメ専門誌が創刊された当時と、今の違いを訊くと、皆さん口をそろえてデジタル化と権利関係を挙げられました。
創刊当時はアニメに詳しい人が、その人が良いと思うカットのセルを借りてきては接写するなり切り抜く(!)なりして、作品やキャラクターを好きに紹介することもできたので、編集部の好みが、そのまま雑誌の特色に出るほどだったそうです。
ただ最近は、デジタル化や版権管理などの問題で、場面カットなどはそのほとんどが、制作会社側が提供するものを使用することになっているそうで、昔のようにイラスト部分で各雑誌の特徴をみせるには、描き下ろしイラスト(編集部がラフを描き、制作現場に新規に依頼して描いてもらうころ)で頑張るしかなくなってしまったとのこと。自分の目と記憶で「いいシーン」を選んできた人たちには、なんともじれったいことでしょうね。
どういうカットを取ってきて、どう写すか語られる様子は本当に楽しそうで、皆さん本当にアニメを愛しているんだ、ということが伝わってきました。
こんな「アニメファンのアニメファンによるアニメファンのための」というのがふさわしいお話しを聴くと、アニメやアニメ専門雑誌に対する見方も変わるかもしれませんね。
■8月例会レポート by 平林孝之
■日時:8月2日(土)
●テーマ:
−永遠に宇宙を駆けめぐれ− 美女とベムと野田大元帥!
●ゲスト:
加藤直之さん(イラストレーター)
堺三保さん(SF研究家)
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8月後半にSF大会を控え、普段より2週間ほど早い日程での例会開催となりましたが、加藤直之さんと堺三保さんをお迎えし、多くの参加者とともに、野田大元帥の愛したスペース・オペラとSFイラストの魅力を楽しみました。
前半は堺さんを中心に、スペース・オペラについて。
西部劇(ホース・オペラ)のような冒険活劇を、そのまま舞台を宇宙に移しただけという構成がスペース・オペラの語源だというのは有名な話です。ところが堺さんによれば、1920〜30年代に大量に書かれた原点的スペオペは、アメリカではパルプ雑誌の衰退と共に忘れられてしまったとか。スペオペといえばスミス、ハミルトン……というイメージが定着しているのは、野田さんが『SF英雄群像』などで精力的に紹介をした日本ならではらしいです。
ところで、スペオペってどんなSFのことを言うのでしょうか?
人によって様々な主張があるみたいですが、堺さんの中では「SF的アイディアがメインの小説」がSF、「アクションを描く設定としてSFが使われている小説」がスペオペだというお話でした。
野田さんは数多くのスペオペを訳されていますが、『英雄群像』で紹介だけして訳してない作品があったり、ハミルトンでもパルプ雑誌が一段落したあとの〈キャプテン・フューチャー〉や〈スター・ウルフ〉シリーズを訳していたりと、翻訳する作品はかなり選別していたようです。日本でスペオペが定着したのも、野田さんが良いものを選んで紹介してくれたおかげなのかもしれません。
堺さんにとってスペオペの魅力は、個人が何でも出来る究極の願望充足小説なところだそうです。組織や世界のしがらみにとらわれない独立独歩なヒーローの活躍は、確かに爽快ですよね。
後半は加藤さんや、加藤さんが所属されているスタジオぬえのお仕事を中心に、SFイラストについて。
意外だったのは、SFや小説に対するこだわりの強さでした。加藤さんの場合、ただSFと言ったときには小説のことを指していて、映画やコミックなどはSF映画、SFコミックというように分けて考えているそうです。また、SFというより本が好きということで、絵では味わえない楽しみが文芸にあると仰っられたときにはびっくりしました。
加藤さんといえば自転車愛好家としても有名ですが、メカを改造する感覚でいじっているのだそうです。ギアの歯車の形状には深い意味があるなど、実際に体験したことが絵に活かされているとのことでした。
実際にアメリカのパルプ雑誌や、日本の文庫の表紙なども見比べてみました。
どうも違和感があると思ったら、日米で登場人物の構図が違うんだそうです。パルプ雑誌では正面を向いた怪物に対して光線銃を構える主人公が配置されるので、主人公の姿は斜め後ろからのものばかり。
一方で日本の表紙は配置がアレンジされていて、主人公が正面を向いていることが多いようです。内容に忠実にすると絵に無理が出ることも少なくないそうでで、僕たちが普段見慣れているSFイラストの数々は、加藤さんを始めとするイラストレーターの方々の苦労のたまものなのだと感じました。
■9月例会レポート by 平林孝之
■日時:9月20日(土) 午後2時〜5時
■会場:千駄ヶ谷区民会館
●テーマ:SFと芸術のやさしい出会い
●ゲスト:菅浩江さん(作家)
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9月例会は作家の菅浩江さんに京都からお越しいただいてのインタビュー企画でした。
『永遠の森 博物館惑星』(ハヤカワ文庫JA)を始めとして芸術をテーマにした作品を数多く書いている菅さんは、ご自身も日本舞踊の名取で、電子オルガンの教師をしていたこともあります。
日本舞踊はほとんど台詞がなく、身体の動きだけで全てを表現するのだそうです。言葉と身体表現が互いを補間しあう、という発想が好きで、作品でも「身体表現としての間」を大切にしているとのこと。
ストーリーに必要な舞台演出として芸術を持ってくることも多いですが、科学技術が昔の芸術の謎を解き明かすというような、科学と芸術の絡みにも興味を持っていらっしゃるとか。特殊な光で失われた壁画を復元したりと、現実でも最新の技術が最古の芸術の解明に使われていますね。
『ゆらぎの森のシエラ』(ソノラマ文庫、創元SF文庫)でソノラマ文庫から単行本デビューした初期は、ジュブナイル・ファンタジーやSFが中心でしたが、最近ではミステリーや中間小説誌など活躍の舞台を広げています。
プロになる以前、「星群の会」で活動していた頃に、「一定の間隔で《どうなるのかな?》と先が気になるような展開を持ってくる」というストーリーテリングの技術を教わったことがあり、その論理的な物語展開がミステリー向いていると思われたのがきっかけだそうです。SF第一世代の方々が一般文芸の枠内でSFを書いて活躍をしていたように、「中間小説でSFを書いていきたい」と熱く語って下さいました。
中間小説誌でSFを書くときに気をつけていることは? という質問には、どこまで説明的な文章を入れるかのさじ加減が違うというお答え。
50才文系でも読めるSFを目指しているとのことで、SF用語をどれだけ説明するかが「SFマガジン」向けの作品との大きな違いだということでした。
独自の様式・用語で深い世界が展開していく例として、引き合いに出されたのが日本舞踊。服装なら色や素材に仕立て、動作なら足の向きなど一つ一つに意味があって、始めのうちは解説なしでは全然理解できないけれど、わかってくるとそういう細かさが楽しくなってくるのだそうです
最後に、今年からSFマガジンで不定期連載が始まった新シリーズについても少しお話ししていただきました。お題はお化粧ものSF。
コスメの世界は日々進化していて、コスメとメディカルの境界が日に日に曖昧になっているのだそうです。「コスメディック」の世界がどこに向かって行ってしまうのか、そんな疑問がテーマになっています。そういえば、何年もの間歯列矯正をしていたことがあるんですが、これも治療目的でなくコスメ感覚でやっている人がいますね。コスメディックは思ったよりも身近にあった!
最新の科学的知見を反映した(かのような)新商品の数々に、ネットを駆使した口コミ情報網——初めて聞くコスメの世界はまさに未知の世界。日本舞踊にコスメにSFに、どんな分野も独自の世界を持っていて、踏み入れることで初めてその広さを体験できるんだと感じた一日でした。
■10月例会レポート by 冬蜂
■日時:10月11日(土)夜
■会場:京都SFフェスティバル2008内
合宿所・旅館さわや本店 http://www.jade.dti.ne.jp/~sawayain/
●テーマ:ぶっとび海外奇想短編に酔う
●ゲスト:牧眞司さん(SF研究家)、大森望さん(書評家・翻訳家)
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10月例会は、京都SFフェスティバルの合宿企画として、牧眞司さんと大森望さんに海外奇想短編の魅力について、印象に残っている作品を紹介していただきました。
牧さんはプロパーSF限定、大森さんはジャンル問わず、僭越ながらわたくしも新しめ中心(と言いつつ、ヴァーリイやラッカーが)に10編を選びました。
こことは全く違う世界、現実から少しだけ「ズレ」ている世界、一見普通小説だが状況が普通ではない。奇想短編と言っても、様々 なものがあるということを改めて認識しました。
わたしの10編を紹介していると、どうも人妻に呑み込まれたり、胎内に戻っていったり、キミはそういう話が好きだね! 冬蜂くんの隠された性的ファンタジーが明らかに! などとイジられてしまいました。いろいろ言いたいことはありますが、そぐわないので割愛 させていただきます(笑)。
お二方のお話を拝聴させていただき、未読の作品は勿論、読了済の作品も違う読み方で再読したくなりました。途中、柳下毅一郎さんがやってきてジーン・シェパード「スカット・ファーカスと魔性 のマライア」について熱く語られていたので、特に気になりました。
しかし、どの作品も「うへえなんじゃそりゃ」と思わず笑ってし まうようなものばかりでした。皆様も秋の読書にはぜひ奇想短編に 触れ、頭を抱え、腹を抱えてみてはいかがでしょう。
■11月例会レポート by fuchi-koma
■日時:11月21日(土)
■会場:神宮前区民会館
●テーマ:ハードSFなんて恐くない
●ゲスト:林哲矢さん(SFレビュア)、鳴庭真人さん(在野の海外SFファン)
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11月例会はハードSFの魅力に迫る企画でした。
まず、ゲストお二人のハードSF暦をお聞きしました。
林さんは、「中学・高校生の頃はSFは読んでいたがハードSFと呼ばれるようなものはほとんど読んでいなかった。今はハードSF好きで、世の中を見て“ハードSFが認められてるなあ”と感じる」とのこと。
鳴庭さんは、「イーガンからSFに入ったら、イーガンはハードSFの大御所のように扱われていた。ハードSFというのはよくわからないが、自分の好きな方向を歩くといつもハードSF(と呼ばれているもの)がある」だそうです。他にはスティーヴン・バクスター、グレッグ・ベアなどが好きとのこと
次にハードSFの歴史を林さんからお話いただきました。ここで突然ですが、(例会に参加してくださっていた)中村融さんにもゲストになっていただき、いろいろお話ししていただきました。(ありがとうございます!
ハードSFという言葉が最初に使われたのは1957年と、意外と最近。その頃SFの裾野が広がりソフトサイエンス(社会学や心理学)系のSFが現れてきて、ハードサイエンス(天文学や物理学)を扱うSFを区別する意味で使われるようになった。という 話に始まり、各時代のハードSFの歴史が話されます。
反科学の時代であった60年代。その反動でハードSFがどっと増え る70年代。あまりハードSFではないサイバーパンクの 流行った80年代。アレン・スティールが「ハードSFル ネッサンス」でハードSF復興運動を起こした90年代。
日本では70〜90年代に石原藤夫の存在がいかに大きかったかという話や、90年代から2000年代にかけて日本ハードSFの復権があり、これは野尻抱介そして小林泰三の存在が大きいという話。ほかには、谷甲州、林譲治、蔭山琢磨、小川一水、瀬名秀明、橋元淳一郎(内藤淳一郎)などについて触れられました。
ハードSFの最前線として、鳴庭さんから未訳のハードSF作品を紹介していただきました。
紹介されたのは以下の四長編。
STAR DRAGON by Mike Brotherton(2003)
PICOVERSE by Robert A. Metzger(2002)
PERMANENCE by Karl Schroeder(2002)
BLINDSIGHT by Peter Watts(2006)
いずれの作品紹介でも会場からは「面白そう〜!」の声が聞こえていました。
後半はファン交が独自に調査した、「ハードSF作家度アンケート」の結果を見ながらお話いただきました。結果を個別に見ると「ハードSF観って人によって全然違う」ということが分かるのですが、合計するとこの通り参加者の多くが納得する結果となり、統計の魔術って凄い! と感心しました(笑)
その後もアンケート結果を見ながら、「ハインライン『時の門』はハードSFか」「マイケル・クライトンはどうか」「ヒューゴー・ガーンズバックは」……とハードSF談義に華を咲かせる中、例会終了のお時間となりました。
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■ハードSF作家度 ベスト5
【海外】
1位 グレッグ・イーガン
2位 アーサー・C・クラーク
3位 ロバート・L・フォワード
4位 スティーヴン・バクスター
5位 J・P・ホーガン
(次点 ラリイ・ニーヴン)
【国内】
1位 野尻抱介
2位 堀晃
3位 石原藤夫
4位 小林泰三
5位 林譲治
(次点 小川一水)
※この「ハードSF作家度 ベスト5」は、SFファン交流会で「海外作家56名と国内作家23名のリストに [◎○△×?]の印を付けていただく方式」アンケートを用意し、mixi内「SFファン交流会」コミュニティに所属している方を中心に、合計36名の方にご協力いただいたものを、集計させてさせていただいたものです。
ご協力ありがとうございました。
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■12月例会レポート by 平林孝之
■日時:12月13日(土)午後2時〜5時
■会場:恵比寿区民会館(JR・東京メトロ日比谷線 恵比寿駅 徒歩5分)
●テーマ:ベイリー追悼「私の愛したベイリーとワイドスクリーン・バロック」
●ゲスト:大森望さん(翻訳家)、小浜徹也さん(編集者)、向井淳さん(SFスキャナー見習い)
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SFファン交流会2008年の締めくくりは、10月に亡くなられたバリントン・ベイリーを偲んでのベイリー&ワイドスクリーン・バロック企画でした。
まずは「日本でベイリーを一番訳している」大森望さんからベイリーの紹介をしていただきました。12才からSFを読み、14才でSF作家を目指すという一見筋金入りのSF作家のようですが、作家を目指すきっかけになったのが就職活動での失敗というのも凄い話ですね。とにかく貧乏な生活を送っていたということで、作品にもその影響が散見されるとか。会場の中村融さんが、「広い宇宙に出ても、暗くて狭いところに入っていく話ばかり」と端的に表現してくれました。
小浜さんは大学生の頃、「日本で一番面白いベイリー本」(自称)である京都大学SF研究会会誌「中間子 復刊第3号」編集補佐を務めていました。会場で回覧された「中間子」は短編翻訳のほか、インタビューやエッセイの翻訳、全未訳長篇レビュウというもの凄いものでしたが、80年代前半は「中間子」の他に多くの大学・高校SF研がベイリーの翻訳をしていたそうです。
ムックに載っていたベイリーの紹介に惹かれて手に取った、「New Worlds傑作選」(マイクル・ムアコック編)のベイリーが傑作揃いで翻訳してみたら、どこの大学も同じ底本を使っていて作品が被りまくったという程、当時の学生はベイリーにはまっていたんだとか。「昔ベイリー、今イーガン」という発言も飛び出しました。
向井さんからは、2002年に刊行された未訳長篇「The Sinner Of Erspia」の紹介をしていただきました。
善意を出す存在と悪意を出す存在が争っていて、翻弄される主人公たちがやっとの思いで悪意存在を壊しました……。めでたしめでたしになるのかと思いきや、ここで向井さんからの一言に会場愕然、「と、ここまでが第一部でして……」。荒唐無稽さは健在のようでした。
スタッフの石井が口にした「ワイバロ」という略に、大森さんが大変なショックを受け、会場騒然となるという事故を挟みつつ、後半はワイドスクリーン・バロックを大いに語る会。
ブライアン・オールディスが『十億年の宴』で示したWSBの定義、
・少なくとも全太陽系くらいの広がり
・アクセサリに時間旅行があるとよい
・装飾はやり過ぎくらいでいい
・主人公は運命に翻弄されるべし
・主人公の寿命は短いのが望ましい
という条件を厳密に適用すると、なんとベイリーを始め一般にワイドスクリーン・バロックと言われてる作品の多くは枠から外れてしまうのだとか。
WSBは狙って書けるものじゃなくて、素で無茶苦茶なことが書けないと駄目なんだ、という難しい条件もいつの間にか混じっていました。
ゲストの方々からも、会場の皆さんからも、ベイリーやワイドスクリーン・バロックに対する深い愛が伝わってくる例会でした。かくいう平林は未読が多いので、これを機にいろいろ読んでみたいところです。