ファン交 2011年:月例会のレポート
■1月例会レポート by 根本伸子
■日時:1月22日(土)
■会場:大向区民会館
●テーマ:2010年SF回顧(国内編)
●ゲスト:
森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、
大森望さん(翻訳家、書評家)
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1月の例会は、2010年SF回顧(国内編)ということで、2010年の国内SFについて振り返りをしました。
ゲストに、翻訳家の大森望さん、SF作家、SF評論家の森下一仁さん、飛び入りゲストとして、アンソロジストの日下三蔵さんをお迎えして、それぞれお奨めの作品を紹介していただきました。たくさんの作品が挙がり賑やかな例会となりました。
長編部門では、お三方ともに、上田早夕里『華竜の宮』が高評価でした。
作品の基となった短篇「魚舟・獣舟」の遺伝子工学的な話も非常に面白かったそうですが、この作品は壮大なビジョンで描かれる地球の姿が印象的な作品で、短篇とは違う魅力のある作品だったそうです。
次に、小川一水『天冥の標』が話題にあがりました。
森下さんは、特に『天冥の標 2 救世群』 で、病気による進化の視点がリアルに書かれていて面白かったそうです。大森さんは、『天冥の標 3 アウレーリア一統』がシリーズのバリエーションのひとつとして、世界で勝負できる水準のミリタリーSFで書かれているところに驚いたそうです。
また、森田季節『不動カリンは一切動ぜず』、籐真千歳『スワロウテイル人工少女販売処』も、注目作として話題にのぼりました。
両方ともセックスを必要としない世界が描かれていて、最近の草食化とかと何か関係があるのかとか深読みして面白かったそうです。他にも、近藤史恵『あなたに贈るキス』、ファンタジーノベル大賞の優秀作に残った『月のさなぎ』も、設定で性の未分化を扱った作品だったそうで、2010年は特殊なセクシュァリティ世界を描いた作品が注目を集めたようです。
ほかにも、最後のSF新人賞で超スーパーコンピューター大戦を描いた山口優『シンギュラリティ・コンクェスト 女神の誓約』、小松左京賞の最終候補の松本晶『あるいは脳の内に棲む僕の彼女 』、『スワロウテイル人工少女販売処』、片理誠『エンドレス・ガーデン ロジカル・ミステリー・ツアーへ君と』など、注目作では、ツンデレ美少女AIが活躍する傾向があったようです。
森下さんのお奨めの森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』は、小学生版ソラリスといった内容で、『四畳半神話体系』以上にSF度が高い物語だったそうです。また、作者の歯科衛生師の女性に対する何か特別な思い入れを感じとることができるといったお話もでました。
そのほかでの大森さんのお奨めは、北野勇作『どろんころんど』。『かめくん』と共通する未来で、大きな亀と美少女アンドロイドが旅をする遠未来ロードノベルといったお話だそうです。また、山本弘『去年はいい年になるだろう』は、構造はハミルトン流SFで、細部私小説といったかんじの作品で(特に安田均が出てきたシーンがおもしろかったそう)、だんだん一年ずつ未来から過去を改定していく過程が上手いとのお話でした。
日下さんは、月村了衛『機龍警察』が非常におもしろかったそうです。続きに期待! したいとのことでした。牧野修、田中啓文の合作による『郭公の盤』は、使えば、世界を支配する力も手に入れられるという「郭公の盤」という謎の石のレコード盤を巡る壮大な伝記小説で、とても個性的ですごい作品とのことです。
短編部門では、創元SF短編賞の最終候補作を集めてアンソロジーになった『原色の想像力』が話題を集めました。当初の企画ではアンソロジー出版の案はなかったそうですが、そのまま埋もれさせるには惜しいおもしろい作品が集まったからこそ出来た稀有な本だそうです。
『原色の想像力』のほかにも、再録・オリジナルを問わず多くのアンソロジーが出版された年でした。
数ある採録アンソロジーの中でも『逆想コンチェルト』が特殊な企画だったそうです。イラストレーター・森山由海さんのオリジナル・イラスト2点を渡された小説家が、そのイラストが扉絵・挿絵になるような短篇小説を執筆し、書かれた小説を読んだ森山さんが、それぞれの作品にあらためて3点目のイラストを描き下ろすという前代未聞の競作企画で、実にバラエティに富んだ作品が集まっていたとのお話がありました。
書き下ろし短編では、「SFマガジン2月号」だけで19作あったり、『NOVA2、 3 書き下ろし日本SFコレクション』など、短編だけでもまれにみる豊作の年だったそうです。
ほかにも、『日本SF全集』、『ゼロ年代日本SFベスト集成』、『年刊日本SF傑作選』の、出版裏話でも大変盛り上がりました。
豊作続きで、レポートにまとめきることができないほど、とても話題の尽きない楽しい例会でした。2011年もまた、すばらしい作品に出会えることを願っています。
最後に、SFファン交流会1月例会の配布資料として、書籍リストを提供してくださった星敬さまとゲストの皆さまに、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
■2月例会レポート by 根本伸子
■日時:2月19日(土)
■会場:大向区民会館(JR 渋谷駅 徒歩10分)
●テーマ:2009年SF回顧「海外」「コミック」「メディア」編
●ゲスト: 添野知生さん(SF映画評論家)、yama-gatさん(SF/マンガファン)、酒井貞道さん(書評家) ほか
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2月の例会は、1月に引き続き2010年SF回顧ということで、2010年の海外SF、コミック、メディアについて振り返りをしました。
ゲストに、SF映画評論家添野知生さん、SF/マンガファンyama-gatさん、書評家酒井貞道さん、飛び入りゲストとしてSFレビュアーの林哲矢をお迎えして、それぞれお奨めの作品を紹介していただきました。1月例会と同様にたくさんの作品が挙がり賑やかな例会となりました。
前半は、海外SFについて酒井さんと林さんにご紹介していただきました。
[海外SF長編]
酒井さんの長編お奨め1位は、『ファージング』三部作(ジョー・ウォルトン/創元推理文庫)この作品は、イギリスとナチス・ドイツが講和した世界を舞台とした、歴史改変小説で1巻が本格ミステリー、2巻サスペンス、3巻改変歴史として三部作セットで読み応えのある作品とのことでした。
次に二人がベストにあげている作品でSFが読みたい1位の『異星人の郷(上・下)』 (マイクル・フリン/創元SF文庫)が話題に上がりました。中世ドイツ人と異星人とのファーストコンタクトを描いた作品で、読者から見ると科学知識を持った異星人より、科学をすべて神学的に解釈する中世ドイツ人の方が異星人っぽく見えてしまうといった、両者のコミュニケーションギャップが面白い作品だそうです。他にもシミュレーション歴史学や三位一体をモチーフにした宇宙航法など設定でも見どころが沢山あるとのことでした。
『WORLD WAR Z』( マックス・ブルックス/文藝春秋)は、ベストの中では一番SF色の強い作品。中国奥地で発生した未知の感染症によりゾンビが大量発生した世界を描いた話。日本人をオタクに描くなど、世界各国の登場人物をステレオタイプなキャラに描くことで国別の対ゾンビ戦略が面白くなっているそうです。
『時の地図(上・下)』 (フェリクス・J・パルマ/ハヤカワ文庫NV)は、時間旅行もモチーフに19世紀末から20世紀初頭のイギリス小説要素を全力で詰め込んだ非常にもてなしのいいエンターテイメントなのに作者はスペイン人というギャップも面白いとのことでした。
シリーズ作品では、『老人と宇宙』シリーズから『ゾーイの物語』 (ジョン・スコルジー/ハヤカワ文庫SF) 、『500年のトンネル』の続編『500年の恋人』(スーザン・プライス/創元推理文庫)、『ミスト・ボーン』3部作などに注目が集まったようです。
そのほかに話題にあがった作品は……、
・ロシアのハリボテ宇宙開発を幻想文学っぽく描いた『宇宙飛行士オモン・ラー』(ヴィクトル・ペレーヴィン/群像社ライブラリー)
・どんどん話が脱線していくとことが面白い少女の冒険小説『アンランダン』(チャイナ・ミエヴィル / 河出書房新社)
・人類がほぼ滅亡した近未来小説、人類の生き残りスノーマンの話『オリクスとクレイク』(マーガレット・アトウッド早川書房)
・人類が入植した新世界の動植物の1000年間営みを描いた『グリーン・ワールド』(ドゥーガル・ディクソン/ダイヤモンド社)
・北上次郎氏絶賛の冒険SF『ハンターズラン』(ジョージ・R.R.マーティン ガードナー・ドゾア ダニエル・ エイブラハム/早川書房)
……などなど。たくさんの作品が話題に上がりました。
[海外SF短編]
短編では、SFマガジン創刊50周年記念アンソロジーは、コンセプトの絞りこまれたアンソロジーで、特に、中村融氏編の『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』は、いうなれば失われた宇宙開発アンソロジーといった作品で、ソ連、アメリカ、イギリスのありえたかもしれない宇宙開発をもとに書かれた話で同じテーマを扱った作品なのにそれぞれどれもとても面白いとのことです。外見がグレイそっくりの少年成長を描いた表題作がストレートに面白いそうです。
大森望氏編の『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』は、テッド・チャン「商人と錬金術師の門」相対論をベースにした決定論をアラビアンナイトでするといった話で、アラビアンナイトのパスティーシュとしても、SFとしても優れている良作でお奨め、また、ワトソン&クアリアの「彼らの生涯の最愛の時」もマクドナルドを使ったタイムとラベルによって最愛の人に会う感動の物語で非常にお奨めとのお話でした。
山岸真氏編の『スティーヴ・フィーヴァー』は、近代技術と人間がテーマのアンソロジー。デイヴィッド・マルセク「ウェディング・アルバム」は、シンプルな自意識を持った写真が主人公なとても丹精に作りこまれた作品。グレッグ・イーガン「スティーヴ・フィーヴァー」は、スティーブ熱に取り付かれた少年の物語もイーガンにしては地味な印象は受けるけど面白いお話とのことでした。
ほかには、『機械探偵クリク・ロボット』(早川書房)、故浅倉久志氏翻訳のSF短編傑作選集『きょうも上天気』(角川文庫)、『変愛小説集II』(講談社)が注目作として名前があがりました。
書き下ろし短編では、「SFマガジン1月号」から、テッド・チャンの『息吹』、パオロ・バチガルピ『第六ポンプ』、グレッグ・イーガン『クリスタルの夜』、「SFマガジン3月号」からは、ジェイムズ・アラン・ガードナー『光線銃』がお奨め作品だそうです。
SFマガジンの特集では、5月号のクトゥルー特集が最近の海外のクトゥルー神話界隈がどうなっているのかがわかってよかったとのこと。また、6月号のスチームパンク特集が、スチームパンクの現状がビジュアル主導の文化になりつつあり、「それってスチームパンクじゃねぇ。」というモノになっている感じが面白いと盛り上がりました。その他紹介されたミステリ・マガジンの8月号の特集のビザーロ特集も変なお話ばかりで面白そうでした。
[メディア]
後半のメディア部門では、添野知生さんとyama-gatさんにSF・ファンタジー映画について紹介していただきました。
『コララインとボタンの魔女』『月に囚われた男』『第9地区』『ぼくのエリ200歳の少女』『インセプション』がベスト5としてあがりました。
その他に、添野さんには注目作として、巨大猪の怪獣映画の『人間狩り』や映画製作の基盤の無いスイス初めての宇宙SF映画である『CARGO カーゴ 』、人間が吸血鬼化しすぎた結果、ただの夜型社会になるなど逆転した世界で、代替血液の製造を命じられた研究者が主人公の『デイブレイカー』を紹介していただきました。
yama-gatさんからは、天使が人間を襲ってくるという所が一風変わった作品の『レギオン』、新型ウイルスの爆発感染で人類の大半が人喰いゾンビとなってしまった世界で、生き残るために、ゾンビは足が遅いから走り込めなどの独自のサバイバルルールを持つ青年の話の『ゾンビランド』などを紹介していただきました。
また、『涼宮ハルヒの消失』や『マルドゥックスクランブル』などの、シリーズありきの作品が目立ったといった話や、『キックアス』の話題から『バッドマン』『アイアンマンII』など、どこからSFなのか! といった話、ダメだった映画などの話題でも大変盛り上がりました。
[コミック]
最後に、コミック部門は、yama-gatさん、林哲矢さんにご紹介していただきました。
例年、国内マンガを中心に紹介していただいていますが、今年は海外コミックを中心にご紹介していただきました。
まず、yama-gatさんお気に入りのアメコミ『アンブレラ・アカデミ ー〜組曲[黙示録]〜』(ハロルド・ジェイ原作、ガブリエル・バー作画/小学館集英社プロダクション)は、大富豪によって育てられた特殊能力を持った赤子40数人がチームを組んで戦っていたところ、養父である大富豪が死んだことによってメンバーが終結し、それが引き金になって世界の崩壊が始まってどうしようという話。バトルの様子が変なのが特徴的なコミックで、殺人オーケストラという殺戮集団と戦う為に、ストランビンスキー氏、マンチェスター児童オーケストラ、アフリカの呪術音楽を使うウデ族の人をつれてきて対抗するといういろいろすごいストーリーなので是非興味のある方は読んで欲しいとのことでした。
次に、刊行が最近続いているベルギー、フランスを中心としたヨーロッパのコミック「バンド・デシネ(bande dessine'e)」について紹介がありました。
お奨めの一冊として、大都会にピュアなアザラシが来て教育しようという一派と堕落させようとする一派が争う話の『天空のビバンドム』(ニコラ・ド・クレシー/飛鳥新社)は、チャイナ・ミエヴィルのペルディード・ストリート・ステーションを思わせる世界観で一見の価値ありとのことでした。
林さんより、国内マンガからは、無事完結になった『惑星のさみだれ 全10巻』(水上悟志/ヤングキングアワーズ)、『SARU』(五十嵐大介)がお奨めとのことでした。
1月例会と同様に、レポートにまとめきることができないほど、とても話題の尽きない楽しい例会でした。2011年もまた、すばらしい作品に出会えることを願っています。
最後に、SFファン交流会2月例会の配布資料として、書籍リストを提供してくださった星敬さまとゲストの皆さまに、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
■3月例会レポート by 鈴木力
■日時:3月19日(土)
■会場:千駄ヶ谷区民会館 (JR「 原宿駅」 徒歩10分)
●テーマ:SFファンのための世界文学アンソロジー
●ゲスト:牧眞司さん(書評家)
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岸本佐知子編『恋愛小説集』が読書家の評判を呼び、また昨年は池澤夏樹の世界文学全集からアンソロジーが2冊刊行されるなど、このところ世界文学では短篇に対する注目度が高まっているようです。そこで今回のファン交は、昨年にも世界文学のお話をしていただいた牧眞司さんに再びお願いして、牧さんの考える夢の短篇アンソロジーというテーマで開催しました。
牧さんはラインナップ選びに当たり、次のような作家・作品はあえて除外したといいます。(1)ボルヘス、カルヴィーノなどアンソロジーで読むより個人短篇集で読んだほうがよいと思われる作家、(2)ブラッドベリなどSFやミステリのジャンル作家、(3)若島正編の異色作家短篇集アンソロジー、および岸本アンソロジーと重複する作品。
こうして選ばれた21篇を、掲載順に牧さんが紹介していきます。大まかにテーマをくくると、奇想、ダメ男の話、不思議な街など、どれも面白そうだったのですが、全部をここにレポートすることは残念ながら紙幅の関係でできません。そこで報告者の独断で3つばかりお目にかけましょう。
エンリケ・アンデルソン=インベル「魔法の書」。ここに1冊の小説がある。何語で書かれているのかわからないのに、冒頭から読むとスラスラ理解できる。しかも凄く面白い。ところが中途で読むのをやめて、またそこから読もうとすると言葉がわからなくなってしまう。仕方ないので主人公は消耗しながらも読み続けるハメに……。
レオノーラ・キャリントン「デビュタント」。親から舞踏会へ行って社交界デビューをしろとせかされている女性が主人公。しかし彼女は乗り気ではない。動物園で知り合ったハイエナに相談すると、じゃあ自分が身代わりに舞踏会へ行ってやろう、バレる? 大丈夫、女中を喰い殺してその顔の皮を被りゃ誰も気づかないってとメチャクチャなことを言われるが、いざ実行してみると本当に誰にも気づかれない。
残雪「カッコウが鳴くあの一瞬」。語り手の「私」が「彼」に会おうと街を彷徨する話。「私」はカッコウが鳴けば「彼」に出会えるのだと信じている。牧さんによればカッコウの鳴き声とは単なる吉兆などではなく、過去から未来に至る世界のすべての獲得と同義なのだとのこと。
なおここでは詳しく紹介できませんでしたが、ラインナップには海外作品だけでなく、黒井千次「冷たい仕事」、町田康「工夫の減さん」、太宰治「虚構の春」など国内作品も入っていたことも付け加えておきましょう。「日本における小説の評価はリアリズム系か幻想系かで二分されていて、どっちともつかない作品はなかなか取り上げられない」とは牧さんの弁。
哲学や心理学で世界の真理に到達するためには理屈を積み重ねなければいけないが、文学では一足飛びにそこまで行くことができる、それが文学の魅力だと語る牧さん。また現代文学では、長篇と短篇には単なる分量以上の違いがあると言います。
それは、時間の扱い。20世紀以降の文学はジョイスの『ユリシーズ』やプリーストの『失われた時を求めて』のような大長篇を次々と生み出しましたが、作品の中に立ち入ってみると、そこにはストーリー以上の長さを持っている時間が詰め込まれているそうです。それに対して短篇の場合、ボルヘスを例にとると逆に時間が停まってしまい、宇宙の全構造が見渡せる一点に収束します。このような両極化こそ現代文学の特徴であり、また小説そのものがはらむ欲望なのではないかというのが牧さんの指摘でした。
こうして3月例会は終了しましたが、今回参加者の皆さんから頂いた参加費、牧さんが固辞されたゲストへの謝礼金、および1・2月例会の黒字分、計2万3千円については、東北関東大震災義援金として日本赤十字社へ寄付いたしましたことを、ここにご報告すると共に、あらためて参加者の皆さんと牧さんにお礼申し上げます。有難うございました。
------- ★☆★ 世界文学短篇傑作集/牧眞司編 ★☆★ ---------------
● エンリケ・アンデルソン=インベル「魔法の書」(同題短篇集、国書刊行会)
● 黒井千次「冷たい仕事」(短篇集『夜のぬいぐるみ』冬樹社)
● フォルメラー「正体」(森鴎外編『諸国物語 上』ちくま文庫)
● ジュリアン・バーンズ「グノーシス仲間」(短篇集『海峡を越えて』白水社)
● 町田康「工夫の減さん」(短篇集『権現の踊り子』講談社文庫)
● アーサー・ブラッドフォード「軟体動物」(短篇集『世界の涯まで犬たちと』角川書店)
● レイモンド・カーヴァー「風呂」(短篇集『愛について語るときに我々の語ること』中央公論新社)
● ローラン・トポール「救助隊」(短篇集『リュシエンヌに薔薇を』早川書房)
● アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ「赤いパン」(短篇集『狼の太陽』白水社)
● 太宰治「虚構の春」(短篇集『二十世紀旗手』新潮文庫)
● ジャン・マーク「バスにのらないひとたち」(同題短篇集、パロル舎)
● フリードリヒ・デュレンマット「犬」( 種村季弘編『ドイツ幻想小説傑作集』白水uブックス)
● ジョヴァンニ・パピーニ「泉水のなかの二つの顔」(短篇集『逃げてゆく鏡』国書刊行会)
● 夏目漱石「倫敦塔」(短篇集『倫敦塔・幻影の盾』新潮文庫)
● レオノーラ・キャリントン「デビュタント」(短篇集『恐怖の館』工作舎)
● ドナルド・バーセルミ「バルーン」(短篇集『口に出せない習慣、不自然な行為』彩流社)
● コンプトン・マッケンジー「へんてこ通りのメーベル」(神宮輝夫編『銀色の時』講談社文庫)
● ブルーノ・シュルツ「肉桂色の店」(短篇集『シュルツ全小説』平凡社ライブラリー)
● 残雪「カッコウが鳴くあの一瞬」(同題短篇集、河出書房新社)
● ジュール・シュペルヴィエル「海に住む少女」(同題短篇集、光文社古典新訳文庫)
● トルーマン・カポーティ「ミリアム」(短篇集『夜の樹』新潮文庫)
-------------- 《 牧眞司さんからのオマケ情報 》----------------------
「世界文学短篇傑作集」企画で、
アンソロジー収録から除外したものは下記の通りです。
※あえて外した作家(個人短篇集を読んだほうが良いので)
ホルヘ・ルイス・ボルヘス(『伝奇集』岩波文庫)
イタロ・カルヴィーノ(『レ・コスミコミケ』ハヤカワepi文庫))
ディーノ・ブッツァーティ(『七人の使者』河出書房新社)
フリオ・コルタサル(『悪魔の涎・追い求める男』岩波文庫)
スティーヴン・ミルハウザー(『バーナム博物館』白水uブックス)
バリー・ユアグロー(『たちの悪い話』新潮社)
内田百*けん(『冥途』ちくま文庫) [*けん—門構えに月]
フランツ・カフカ(『断食芸人』『掟の問題』白水uブックス)
※あえて外した作家(ジャンル小説と見なされているので)
レイ・ブラッドベリ(『10月はたそがれの国』創元SF文庫)
R・A・ラファティ(『九百人のお祖母さん』ハヤカワ文庫SF)
パトリシア・ハイスミス(『世界の終わりの物語』扶桑社)
ボワロー&ナルスジャック(『青列車は13回停る』ハヤカワ・ミステリ)
トーマス・オーウェン(『黒い玉』創元推理文庫)
※以下のアンソロジー収録作も外した。強力にお薦めしたいアンソロジーです。
若島正編『狼の一族』(早川書房)
若島正編『棄ててきた女』(早川書房)
若島正編『エソルド座の怪人』(早川書房)
岸本佐知子編訳『変愛小説集』(講談社)
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■4月例会レポート by 鈴木力
■日時:4月16日(土)
■会場:笹塚区民会館(京王線「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ:「イスカーチェリ、愛國戦隊、連合会議」
●ゲスト:波津博明さん(「イスカーチェリ」元編集長)、小浜徹也さん(編集者・ファンダム史研究者)
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今回のゲストは波津博明さん。非英語圏SFの翻訳紹介で知られる老舗ファンジン「イスカーチェリ」(通称イスカ、以下同じ)の中心メンバーです。このたびのファン交ではファンダム史に詳しい小浜徹也さんを聞き手として、そのファン活動歴と、波津さん自身も深く関わった『愛國戦隊大日本』論争についてうかがいました。
1952年に北海道で生まれた波津さんがファン活動を始めたのは中学3年生のとき。同学年のSFファン3人と語らって「札幌SF創作研究会」を旗揚げしました。ところが創立直後に同人の一人が名称を「日本SF研究会」(ポンケン)にしようと提案します。波津さんは難色を示したものの、多数決でこの名称に正式決定。2年後、このポンケンを改組するかたちでイスカが発足します。
イスカが非英語圏SFの翻訳紹介を始めるのは70年代後半のこと。「判官びいきで主流派が嫌いだった」という波津さんの気質に加え、同人の兄弟にロシア語に堪能な人物がいたことから、当時ソ連国内では公刊できなかったストルガツキー兄弟の作品などを翻訳するようになります。そのためストルガツキーには「ソ連で持ち歩けない唯一のファンジン」と評されたとか。そしてイスカのもうひとつの売りだったのが、ゴシップ欄に代表されるおふざけ企画でした。真面目な編集長だとそうした原稿を載せたがらないので苦労したそうです。
そして1982年、SF大会TOKON8の大ホール企画として、ゼネラルプロダクツ(ゼネプロ)がソ連を揶揄した自主製作映画『愛國戦隊大日本』を上映、波津さんをはじめとするイスカ同人有志がこれを批判したことで論争が起こりました。皮肉にもTOKON8にはイスカ同人がスタッフとして多数参加しており、波津さんも大ホールの司会でした。
実はTOKON8の数ヵ月後、波津さんたちはゼネプロの上映会に足を運び、『帰ってきたウルトラマン』『快傑のーてんき』などを絶賛したといいます。また、もともとおふざけはイスカも得意とするところ。「だから『大日本』だって、僕らも大喜びしておかしくなかった」と波津さんは言います。それがどうして批判となってしまったのか。
波津さんのお話を整理すると、その理由は以下の3点になります。
まず第1に、ゼネプロがスタッフにも内容を明かさず抜き打ちで上映したという手続き上の問題(ただし事前チェックをしなかったスタッフ側にも落ち度はある、と波津さん)。
第2は、当時与党だった自民党の一部議員が教科書の「左傾化」を非難し政治問題化していたことです。笑いとは権力を引きずり下ろすものだと考えていた波津さんは、ナショナリズムと排外主義を背景とした『大日本』のギャグは、この社会的文脈では弱い者いじめにつながると危惧したのです。
そして第3は、TOKON8がイスカ同人の尽力により30カ国ものSF関係者から祝辞を送られるという国際色豊かな大会であり、ストルガツキー兄弟を招待するプランもあったことです。実現はしなかったものの、当のソ連から反ソ宣伝ととられかねない映画の上映にもし彼らが居合わせたらどうなっていたか。
「反ソ集会に参加した危険人物として国家当局の監視を受ける可能性もあったが、ゼネプロにはそうした危険に対する想像力もなかった」と波津さんは指摘します。イデオロギー的にソ連を擁護したわけではなく、『大日本』が国際親善という大会のコンセプトに合致しないばかりか、かえってソ連内部の政治的抑圧を誘発する恐れすらあったがために『大日本』への批判となったわけです。
しかしこのような論点はまったく理解されなかったといいます。「僕は親ソでもなければ反ソでもない」と語る波津さんですが、世間では、イスカはソ連のSFを翻訳しているから親ソ派なのだという短絡的な見方がまかり通ることになりました。
ゼネプロの中心メンバーはのちにガイナックスを設立、日本のおたく文化を語る上で欠かせない企業に育てました。そのせいもあってか『大日本』論争に関するゼネプロの人たちの回顧は商業出版物にも掲載され、引用されることも多いのですが、イスカからの証言はあまり知られていないのではないでしょうか。その意味でも今回の企画は貴重なものでした。
■5月例会レポート by 平林孝之
■日時:5月3日(火)
■会場:ふたき旅館(東京メトロ丸の内線「本郷三丁目」駅 徒歩7分)
●テーマ:「三十年目のラファティ」
●ゲスト:柳下毅一郎さん(特殊翻訳家)、牧眞司さん(SF研究家)
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今年もSFセミナーの合宿企画に出張して参りました。
『九百人のお祖母さん』の邦訳が刊行されてから三十年、短編集『翼の贈りもの』と初期長編『第四の館』刊行を記念して、『第四の館』を翻訳作業中(当時)の柳下毅一郎さん、自称ラファティ番長の牧眞司さんをお招きしての、R・A・ラファティ企画でした。普段の例会より狭い一室にいつも以上の参加者が集まったのは、ラファティの人気を示すものでしょうか。今回初の試みだったネット配信用のわずかなスペースの他は、立錐の余地もないほどの盛況となりました。
まずは、ゲラが上がったばかりの『第四の館』について、柳下さんから簡単な紹介がありました。英語自体は平易ですが、独特な論理があってそれをきちんと理解しないといけないのが、翻訳を非常に難しくしているとのこと。登場人物たち立ち位置次第で、台詞の意味するところがガラッと意味が変わってくるとか。
『第四の館』というタイトルは、カソリックにおいて神との合一体験をした聖者の書『霊魂の城』に出てくる七段階のうちで、一番重要な「第四の住まい」のことだそうです。カソリックの影響は他のラファティ作品にも色濃く表れていて、登場人物たちが理不尽な目にあってもどこかしら希望があるように見えるのは、神の存在が大きいのではないかと分析されていました。
ほら吹き小説だと思ってたらそんな深い意味があるのなら、特にキリスト教の基礎がない我々日本人にはラファティは楽しめないんじゃないか、と不安になるような柳下さんの分析でしたが、意味が少しくらいわからなくっても、面白いと思えればいいじゃない、というのは牧眞司さん。
牧さんからは、本国におけるラファティの出版事情について紹介がありました。デーモン・ナイトが編集をしていた初期には強力なチェックが入った出来のいい作品が多かったけれど、なにも注文をつけないロジャー・エルウッド編集作品の方がラファティ本人の味が出ているのかもしれないとか。ラファティはアメリカより日本の方が読者がついているのだけど、本国でもスモールプレスの出版に見られるように、熱狂的なファンもそれなりにいるのだそうです。
この企画は、当日お越しいただいたゲストの方以外にも、準備段階で大勢の方にお世話になりました。
日本におけるラファティの第一人者、らっぱ亭さんは残念ながらセミナーには不参加でしたが、配付資料『長い火曜の夜だった』に未刊行作品紹介を寄せていただいた他に、「アメリカ屈指のラファティ研究者」Andrew Fergusonさんからの未刊行長短編紹介の翻訳もしていただきました。ラファティファンには有名という、イルカ小説"Fair Hills of Ocean, Oh!"が大変気になるところです。
未刊行作品を含むラファティ全著作の出版権が現在一括で売りに出されていて、どうもローカス・プレスが買い取ったということらしいので、これからまた新しい動きがでてきそうです。「ラファティは何度でも蘇る」、新たなラファティ・ブームが期待できそうです。
なお、今回は試験的にustreamによるライブ配信を行ってみました。直前に決めたことで、十分な告知もできませんでしたが、資料作成その他大いに協力していただいたらっぱ亭さんやAndrewさん(海外視聴者!)を始め、常時50人を越える方に観ていただいたようです。告知に協力していただいた方々、聞き取りづらい配信をtwitterなどでフォローしてくださった方々、ありがとうございました。
今後も頻繁にできるとはお約束できませんが、出張版など普段の参加者が参加しづらいような企画の際には、なるべく配信できるようにしたいと考えております。
○らっぱ亭さんによるtwitterまとめ↓(昨年の京都SFフェスティバルからの長大なまとめです)
:http://togetter.com/li/56701
■6月例会レポート by 鈴木力
■日時:6月18日(土)
■会場:神宮前区民会館
●テーマ:ディックと短篇と映画化と
●ゲスト:大森望さん(書評家、翻訳家)、添野知生さん(映画評論家)、柳下毅一郎さん(特殊翻訳家)
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フィリップ・K・ディックが死去して来年で30年になります。しかしその人気は衰えるどころか、ハリウッドでもっとも作品が映画化されたSF作家として隆盛の一途をたどっています。その凄さたるやディックの受け取った原稿料195ドルの短篇の映画化権が、200万ドルで売られるほど。今回のファン交は『アジャストメント』公開を記念して、ディックと映画に詳しい大森望さん、添野知生さん、柳下毅一郎さんにお話をうかがいました。
まず前半はディックの短篇について。ディックが生涯に書いた短篇は約120篇あまりですが、そのうち半数ほどがデビュー直後の1953〜54年に集中して発表されています。生活に追われて原稿料を稼ぐ必要があったとはいえ、大変なハイペースです。これらの短篇は、英米では全5巻(日本の文庫本なら約10巻分)の短篇全集に収められていますが、おもしろいのは、このコレクションも映画化などに合わせてその時々のキャッチーな題名で再刊されるとのことで、現在は来年公開予定のディズニー映画原作「妖精の王」が表題作になっているそうです。
一方、日本では早川書房が全短篇の翻訳権を取得。英米のような全集の企画は、残念ながら現在のところありませんが、未訳作品は2篇しかないとのことなので、頑張ればほぼ全短篇を読むことは可能です。
後半は、添野さん秘蔵の映像をまじえつつ、ディック原作の映画の話へ。映画版はどうしても原作と比較をされてしまう運命にありますが、そこには冴えない男がうじうじ悩むというディック特有の物語作法と、アクションやハッピーエンドが要求されるハリウッドの価値観に落差があるとの指摘がありました。
数ある映画の中でも原作にもっとも忠実だったのが『スキャナー・ダークリー』。主演のキアヌ・リーブスはディックファンで、来日時には配給会社が乗り気でなかったにもかかわらず、インタビュー記事を書いてくれないかと、わざわざマスコミに売り込んできたとか。どちらかといえば色々な人の意見が入ってくる大作より、低予算でもディックの好きなスタッフが作る映画のほうが、原作に近い作品になるようです。
日本では未公開の『レイディオ・フリー・アルベマス』、『スクリーマーズ』の続編などのほか、現在でもハリウッドでは『トータル・リコール』のリメイクが撮影中。ほかにも水面下で動いているものも含めると、どのくらいの映画化企画があるのかわからないといいます。もうディックの新作を読むことはかなわないものの、ファンにとって楽しみな状況はまだまだ続きそうです。
■7月例会レポート by 根本伸子
■日時:7月16日(土)
■会場:本郷・ふたき旅館(東京メトロ丸の内線「本郷三丁目」駅 徒歩7分)
●テーマ:ほんとひみつ ふたき旅館・最後の決戦
●ゲスト:
水鏡子さん(SF評論家)、彩古さん(古本愛好家)、牧眞司さん(SF研究家)、
三村美衣さん(書評家)、北原尚彦さん(作家・翻訳家)、
日下三蔵さん(アンソロジスト)、代島正樹さん(SFコレクター)
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2001年11月よりスタートしたSFファン交流会もお陰さまで10周年を迎えることができました。
7月の例会は、記念企画として奇しくも7月24日に閉館となりましたSFファン思い出の地であるふたき旅館での夕食会・宿泊付き例会とさせていただきました。
当日は、大変な猛暑の中、7名のゲストの皆さまと最大値で60名弱という大変多くの方々にご参加いただき、SFファン交流会史上最大の例会となりました。
今回3年ぶりとなった『ほんとひみつ』、新参スタッフであるわたしは初めて知ったのですが、なんと当日までゲストのトーク内容は〈いっさいひみつ〉で、登壇の順番も当日その場に集まるまで決められないとか、まさにライブ企画! なのでした。
(当然、ゲスト同士、当日逢うまでお互いの手の内は見せないという徹底ぶり。なのに、まるで打ち合わせしたかのような、話の流れになっていたりするのもビックリです。)
トップバッターの牧眞司さんには、書誌の魅力についてお話していただきました。
禁断の『早川書房出版図書目録』入手から始まり、徐々に海外に手が伸び、果てはスウェーデンやオランダ、ハンガリーといった非英語圏の読めない書誌まで取り寄せてしまっているというお話にはマニア心の奥の深さを覗いた気がしました。
また、アメリカからリストを入手する際、支払いをクレジット決済ではなく、今や懐かしい INTERNATIONAL POSTAL MONEY ORDER で送金してとの要請に応じたところ、なんと「え! 手数料が2000円かかるの!」と驚いていたら、相手も「え! 日本への船便もうないの!」と驚いていたというような、海外交流エピソードも面白かったです。
「世界中の本を読むことはできないけど、書誌を集めることで、宇宙の地図を握っている感覚を味わうことができるのが最大の魅力です。」と、達観した眼差しで愛しげに書誌を片手に抱えて語られる姿がとても印象的でした。
次の水鏡子さんは、ご自分のここ一年の本の購入リストをご持参してくださいました。
このリストを眺めながら、独自の古本購入の約束ごとや、本の置き引き等過去7回も遭った犯罪被害のエピソードをユーモアたっぷりに語ってくださいました。
注目のレア本としてパチンコ屋さんの無料配布の、SF・アニメ系パチンコ・パチスロパンフレットを挙げ、「でも一冊手に入れるのに元手が1,000円くらいかかるんだよね。」とのお話も面白かったです。
ほかにも、山田風太郎は、「かぜたろう」「ふうたろう」どちらでもよかったといった話や、巻末の既刊目録に『万華鏡 レイ・ブラッドベリ作 川本三郎誤訳』という、ものすごい誤植があった話なども、とても興味深かったです。
そのほか、年長のSFファンには思い出の一冊のいうべき「京フェス・プローズボール本」や『100万本の徹夜ソフト』などのなつかしエピソードを語られ、ほかのゲストや会場の参加者から「それは、むしろ俺たちのひみつだ!」との声が上がるなど、水鏡子さんのお人柄がよくでた和気藹々としたひとときでした。
3番手は、『SF奇書天外』の北原尚彦さん。
北原さんが、「いつもと違って、本日は少々格調高い本を持ってきましたよ」と、ちょっとおどけた口調で取り出したのは、米川良夫編・訳『マリネッティをお少し』、レイモン クノオ『ひとつの詩法のために』といった珍しい本の数々。会場からはため息が漏れていました。
また、背表紙のない本が気になって偶然手に取ったら、佐藤暁名義の『だれも知らない小さな国』(一般には、佐藤さとる著)だったり、持っていた本が初版と違う内容だったため復刊をする際、貸し出したところ、お礼に頂いたという杉村顕道『彩雨亭鬼談』(荒蝦夷版)の特装本(夫人愛用の着物で装丁)など、プロならではの経験談と蔵書をご紹介くださいました。
ほかにも、中学生時代に友人からもらった『幕末未来人』の台本や、『花とひみつ』の日本標準バージョンなどなど、たくさんの貴重なコレクションを見せていただきました。
お次は、水鏡子さんの〈俺たちのひみつコーナー〉の最中に、測ったように登場して会場を沸かせてくれた三村美衣さんです。
たくさんのとってもかわいいポップアップブックを持参してくださいました。
最近のお気に入りは音の出る仕掛け絵本とのことで、『BIRDS CAPES』というたくさんの鳥の鳴き声のする本を紹介してくれました。ページを開くと、そのページにいる鳥たちの鳴き声が順に聞こえるという、なんとも愛らしく癒される一冊でした。ちなみに『蚊』の音のする仕掛け絵本もあるそうで、開くとイラッとするそうです(笑)。
出版数が増えているポップアップブックですが、やっぱり一番のお勧めは、ロバート・サブダの『オズの魔法使い』だそうで、ページを開くと同時にグルーンと回る立体的な竜巻に、会場からも感嘆の声が上がっていました。
最後に、ポップアップブックを子供にプレゼントするときは、壊れにくくするために、必ず一度全部の仕掛けを動かしてから渡すこととのアドバイスを頂きました。
彩古さんは、独創的で貴重な本のをたくさん紹介してくださいました。
まず、ちょっとだけからくりが動く『からくりクラブ』の紹介から始まり、スッピッツの純情ツアーのパンフレットには、数名のマンガ家から曲のモチーフに合わせてSFマンガが寄稿されていて、意外と侮れないといった話や、アラーキーの『未来の性』には、モデルとして伝説の鈴木いづみが参加しているなど、やさしい語り口で次々と流れ出てくる豊富な薀蓄に、思わずうっとりしました。
個人的に興味深かったのは、昭和8年出版の怪獣マンガ『ネズラ』です。鼠ライクの怪獣非常に気になります。
ほかにも、大正6年『冒険世界 怪談号』、『妖怪画談全集(ドイツ・ロシア編)』や昭和31年の楠田匡介の作品が掲載されている『小学四年生』、海野十三特集の『くろがね叢書 第二十七輯』、R・カミングスの翻訳が載っている大正15年『科学小説:四百年後』など、貴重な本をたくさん見せていただきました。
「この本の帯大嘘なんですよー。」という、まるでミステリーの謎解きのようなフレーズではじまった日下三蔵さんのお話は、聞いている側みんなが思わず「くぉう! 読んでみたい!」と思ったんじゃないかなぁという、とても読書心をくすぐる魅力に溢れたお話でした。
中でも野村胡堂の探偵花房一郎のノートシリーズのお話は、日下さん自身が超面白いと感じているのがよくわかりました。同シリーズの『焔の中に歌う』は、探偵小説でありながらもうろこ人間が出てくる、SFものとのことで非常に気になります。『音派の殺人』ともにとっても面白そうでした。
ほかに、同じく胡堂の作品である『傀儡城』は、ロボットものとのことで、野村胡堂=銭形平次のイメージが一新されとても新鮮でした。
またそのほかにも 『日本少年少女名作全集』の『西条八十集』、下村悦夫『白狼賊』、木々高太郎『少年珊瑚島』、蜂型の宇宙人が登場する黒沼健の「遊星人現わる」など、思わず読みたいなぁと思うSFをたくさん紹介してくださいました。
昼の企画のとりを勤めてくれた代島正樹さんは、まるで長期の海外旅行に出かけるような巨大なトランクを引っさげての登場でした。
まず、買って初めて気付いたシリーズ! 第一弾ということで、重版されたことで話題になった「SFマガジン」2011年8月号。初版と重版分では、若干表紙の色味が違うという代島さんの報告に、会場に衝撃が走りました。(その場で早川書房の社員の方からも、重版分の色味がすこし濃かったとの言質もとれました。)
さらに、『宇宙と哲学』の同じ号も2冊テーブルに並べ、片方が1ページ多いというミステリーを紹介し、荒俣さんが発行していた同人誌『リトルウィアード』には、不自然な切り取りがある号があるけど、切り取られた部分は、次の号に貼ってあった。といった、マニアックな紹介が続きました。
そして、会場の度胆を抜いたのが、さらりとトランクから次々と出された「星雲」4冊でした。一同騒然となる中、代島さんからの詳しい説明が特にないままトランクのなかに……。さらにトランクから出てきたのは、装丁色違いの『新装版 武部本一郎画集』3冊!
代島さんのマニア魂の恐ろしさと、巨大なトランクが必要だったわけを、一同が深く納得したところで、昼の部お開きとなりました。
一旦、休憩を挟んで、19時から夕食会の開始となりました。
最多出演ゲストのおひとりである牧眞司さんの音頭での乾杯のあと、ふたき旅館の方にお越しいただきお礼の挨拶をさせていただきました。そして、同じく最多出演ゲストである大森望さんによる、ファン交流会10周年を祝し、「鏡開き」ならぬ「スイカ開き」を行いました。スイカは見事にまっぷたつに! このようなかんじで、60人弱と大人数でしたが非常に和やかな雰囲気で夕食会もたいへん盛況でした。
夕食会後は、「ボクらのジュブナイルSF」企画を、21時過ぎから23時近くまで開催。その後も、日下さんが昼間の続きで「ほんとひみつ 番外編」をしてくださったり、参加者の方々からの差し入れをいただきつつ(ありがとうございました)、多くの方がほぼ明け方まで大いに語り明かしたのでした。
そして翌朝は、最初で最後のふたき旅館の朝食を頂きまして、10時に7月例会「ほんとひみつ ふたき旅館・最後の決戦」全企画修了、解散となりました。
ご出演いただいたゲストの皆さま、参加者の皆さま、そして、ふたき旅館の方々のおかげさまで、本当に楽しい例会となりました、ありがとうございました。
振りかえって考えても密度の濃いあっという間の一日で、あの時間のみっしり感は、改めてレポートにまとめ尽くすことができないとかんじています。本当に儚いひとときでしたが、こんなに本好きなSFファンの人たちがいるんだなぁと、しみじみとても嬉しく感じた気持ちは、きっと一生忘れないと思いました。
※ 水鏡子さん、彩古さん、牧眞司さん、北原尚彦さんのご協力で、
当日の紹介リストを最後に紹介しています。そちらも合わせてお楽しみください。
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◆水鏡子 紹介本リスト
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前座です。全冊合わせても購入価格1万円以下です。
●エヴァンゲリオン他SF・アニメ系パチンコ・パチスロパンフレット多数
[パチンコ屋で手に入る活字系販促アイテム。只だけど、必要経費は1冊あたり1000円くらい。]
●2011年1月ー7月購入本リスト
[今年手に入れた本の一覧表です。1087冊買っていますが、総額20万円を切っています。100冊近くがダブリ本です。このリストのあと(ファン交例会2日前)山田風太郎原作コミックなど16冊を入手しましたが置き引きに遭いました。]
●河盛好蔵編『フランス小咄大全』(筑摩書房世界「ユーモア文学全集・別巻」、1961)
[ダブった本のなかにたまたま異装本があったのでご紹介。箱や背表紙の「別巻」の文字が8カ月後の四刷では「別巻1」に変わっていました。]
●山田風太郎『甲賀忍法帖』(光文社、1959)
[奥付の著者名ふりがなが「やまだかぜたろう」になっています。日下三蔵氏によると、当時は著者としてはどちらでもよかったとのこと。ちなみに僕の持っているいちばん古い風太郎本『妖異金瓶梅』(講談社1954)は「やまだふうたろう」他の出版社の本はふりがながありません。]
●西村寿行『安楽死』 (角川文庫、 1975)
[奥付の著者名ふりがなが「にしむらとしゆき」になっています。デビュー当初はこの読み方が正しかったようです。1982年27刷の角川文庫は「にしむらじゅこう」になっていました。こういうのも、異装本にあたるのでしょうか。]
●ロザリンド・アッシュ『蛾』 (サンリオ文庫、 1979)
[有名な誤植本。巻末の既刊目録のブラッドベリ『万華鏡』の訳者のところで、「川本三郎=誤訳」と誤植。当時サンリオ文庫悪訳キャペーンが展開されていた渦中に起きたため、この誤植のためだけに本書を買った人もたくさんいました。]
●エレン・カシュナー『剣の輪舞』 (ハヤカワFT、 1993)
[おもしろい誤植本。帯の誤植なので、ちょっと入手が難しい。「世界幻想文学大賞」が「世界幼想文学大賞」と誤植。]
●『SFマガジン74年1月号』
[これも誤植本。ウルフガイ愛蔵版の広告で、「満月に吠える人娘」のフレーズが。]
●イーハブ・ハッサン『現代アメリカ文学序説(1945年ー1972年)』 (北星堂書店、1976)
[誤植の次は悪訳本。訳のあまりのひどさに馬鹿にしながら読めるので、かえって本全体を楽しんで読めます。文学史本でSFというジャンルに言及している貴重な本。]
●R・M・アルベレス『現代小説の歴史』 (新潮社、1965)
[文学史本でSFというジャンルに言及している日本で初めて翻訳された本。フランス人です。]
●学研世界文学全集第47巻『世界SF傑作集』 (学習研究社、1978)
[SFの巻を持つ珍しい世界文学全集。収録作品は『タイムマシン』『トリフィド時代』『ダウエル教授の首』で、アメリカSFが入っていない。イラスト、解説だけで100ページ近くを占めています。]
●J. Grant Thiessen(ed.)『The Science-Fiction Collector』
[合本版をまきしんじ氏が紹介したのでパス。第4号にSFポルノのリストがあります。]
●リチャード・E・ゲイズ『セックス・マシーン』 (KKロングセラーズ、1980)
[そんな流れで有名SFポルノを。有名なのは作品でなく作者。ポルノで稼いだ金でファンジンを発行しているBNFです。]
●チャールズ・プラット『挑発』 (富士見ロマン文庫、1979)
[ムアコックの後を継いだニューワールズ誌編集長。日本で出た最初の小説はポルノでした。]
●フィリップ・ホセ・ファーマー『淫獣の幻影』 (光文社CR文庫、1986)
[(たぶん)いちばん有名なSFポルノ。ぼくは面白くなかった。同文庫で続篇(『淫獣の妖宴』)も出ています。 ]
●バリー・マルツバーグ『スター狩り』 (三笠書房, 1971)
[こちらも有名。70年7月刊行時『スクリーン』のタイトル。71年1月刊行時『スター狩り』、71年6月刊行時『ブラック・エクシタシー』と半年ごとに違う版で出版。]
●バリー・マルツバーグ&ビル・プロンジーニ「プローズ・ボール」(講談社文庫『1ダースの未来』収録、 1983)
[そのマルツバーグの評判作。小説速書き選手権。]
●バリー・マルツバーグ&ビル・プロンジーニ『決戦!プローズ・ボール』 (新潮文庫、1989)
[その長編版。]
●京都大学SF研究会『第2回京フェス・プローズボール公式レポート』 (1991)
[上記作品に触発され、京フェス、SFセミナーの合宿企画としてプローズボールを行ったなかで唯一レポートが発行されたもの。小説ではなく存在しない本の書評勝負で、メンバーが豪華。シェクリイ『アルジャーノンに花束を』(まきしんじ)。クレメント『重力が衰えるとき』(大森望)、ディクスン・カー『スイートホーム殺人事件』(法月倫太郎)、といった調子。ほか、菅浩江、山岸真、中村融、大野万紀、など総勢15名。けっこう必死で頭をひねっているので、コレクター・アイテムとして貴重品。]
●すたんだっぷ編『100万本の徹夜ソフト』 (白夜書房、1993)
[こちらもコレクター・アイテム系。20年前におけるファミコン・ゲームにからむ、コミック本だがうしろ3分の1を占める90年ー92年ゲームソフト・ベストアンケートの「肉筆・自画像付」回答書が貴重圧巻。我孫子武丸、綾辻行人、大森望、小野不由美、三村美衣、横山えいじなど、ここでしかみられない貴重な「資料」です。(なんの?)]
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◆彩古 紹介本リスト
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●『カラクリ倶楽部』ムギケンジロウ(私家本)刊行年不明
[真鍋博テイストのイラスト集。あっと驚く(笑)仕掛けあり。]
●『SPITZ:HAYABUSA JAMBOREE TOUR JYUN JYOU BOOK 2001』2001
[マンガ家が多数執筆。笠間しろう、本秀康、等のSFマンガが書き下ろしで収録。]
●『未来の性』山崎正夫編 S.45 清風書房
[アラーキーによる鈴木いづみ撮り下ろし写真や、鈴木いづみの対談収録。]
●『ネズラ』九里一平 刊行年不明 曙出版
[宇宙怪獣ネズラとキングコングのような巨猿の戦いを描く貸本漫画。]
●『秋の女性』アー・シロカウアー S.8 平原社
[カール・ドライヤーの『吸血鬼』のシナリオを併録。]
●『冒険世界 怪談号』10巻-10号 T.6/10 博文館
[『冒険世界』の怪談特集号。]
●『妖怪画談全集』日本編 上 藤沢衛彦編 S.4 中央美術社
●『妖怪画談全集』ロシア、ドイツ編 ワノフスキー編 S.4 中央美術社
[この全集は、日本編 上下、支那編、ロシア、ドイツ編の4冊が刊行。
日本編は水木しげるに影響を与えたことで有名。ロシア、ドイツ編でクービンが日本に初紹介? ]
●『SFの手帖』恐怖文学セミナー編 1965 恐怖文学セミナー
[紀田順一郎主催の恐怖文学セミナーによるSF特集同人誌。]
●『科学ペン』3巻-1号 S.13/1 科学ペンクラブ
[南澤十七の短編「超γ線とQ家」を収録。]
●『不適応者の群れ』珠州九 S.45 スタア社/耽奇会
[上下巻2冊で刊行された千草忠夫のSM・SF小説。]
●『小学四年生』Feb-56 S.31 小学館
[楠田匡介の「海底旅行」が連載。どうもオリジナルっぽい。]
●『科学小説:四百年後 地球滅亡の巻』古荘國雄 T.15 光林堂書店
[レイ・カミングス原作の地球滅亡小説。]
●『くろがね叢書』第二十七輯 S.20 くろがね會
[海野十三の短編小説を6篇収録。海軍の慰問本なので、現存部数は少ないと思われる。]
●『殺人予報』田川雅一朗 S.46(私家本)
[「SFマガジン」にも短篇が掲載されている田川雅一朗の短編小説集。こんなでかい本だったとは。]
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◆牧眞司 紹介本リスト
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こんかいはSF関連書誌を紹介しました。
●『早川書房出版図書目録1975』
[《ハヤカワSFシリーズ》のリストがほしくて、書店の備品を勝手に持ちだしてしまいました。高校一年のときのあやまちです。]
●岡田正也『空中驚異物語繪入索引』(私家版、1973年)
[石原藤夫さんの『SF図書解説総目録』と並び、ぼくに書誌の楽しさを教えてくれた一冊です。岡田正哉さんは名古屋ファンダムの重鎮(惜しくも今年亡くなられました)ですが、この本ではなぜか“正也”名義になっています。]
●九州SFクラブ編『SFマガジン インデックス(作家篇)創刊号〜66年7月号』(九州SFクラブ、1966年)
[日本におけるSF書誌の初期の試み。おそらく野田昌宏さんの「日本でもSF書誌をつくろうよ」という呼びかけに応じてつくられたもの。編集メンバーには若き日の梶尾真治さんも。]
●野村真人『SF書誌の書誌』(S-F資料研究会、1997)
[その題名どおりの労作。この本をみると、水鏡子さん、三村美衣さんなど、こんかいの「ほんとひみつ」出演者も多くのSF書誌をつくっていることがわかります(名前こそ出ていませんが、出版芸術社勤務のころの日下三蔵さんも)。]
●Anthony R. Lewis『An Annotated Bibliography of Recursive Science Fiction』 (NESFA Press, 1990)
[SF書誌の本場アメリカではさまざまな種類のリストがつくられています。これは「SFをネタにしたSF」の書誌。]
●Robert Silverberg『Drug Themes in Science Fiction』 (National Institute on Drug Abuse, 1975)
[これは「ドラッグを扱ったSF」の書誌。網羅的ではありませんが、シルヴァーバークの作というのがポイント。]
●Kurt Baty『The Whole Science Fiction Database Quarterly #1: Author or Editor Whose Last Name Starts with the Letter "A"』 (privately printing, 1988)
[包括的なSF書誌の試みはいろいろありますが、これはリレーショナル・データベースを構築しようという壮大な目論み。残念ながら完成しませんでした。]
●Bradford M. Day『The Checklist of Science Fiction and Fantasy Magazines 1892-1992』 (privately printing, 1993)
[リスト作成にはやはり継続が重要。これは、60年代から息の長いファン活動をしているデイ氏による、「SF&ファンタジイ雑誌」100年分のチェックリスト。日本のSF雑誌(もしくは特集号)も扱われています。]
●Fred Lerner『An Annotated Checklist of Science Fiction Bibliographical Works』 (privately printing, 1969)
[「SF書誌の書誌」の先駆的リスト。ごく薄いものです。]
●Robert E. Briney & Edward Wood『SF Bibliographies: An Annotated Bibliography of Bibliographical Works on Science Fiction and Fantasy Fiction』 (Advent, 1973)
[「SF書誌の書誌」の(当時としては)決定版。眺めているだけでわくわくします。]
●Michael Burgess & Lisa R. Bartle『Reference Guide to Science Fiction, Fantasy and Horror』 (Libraries Unlimited, 2003)
[書誌だけではなくSF資料本のリスト。かなりのボリュームです。前掲書から30年のあいだに、SF資料研究の領域がどれだけ拡大したかがうかがえます。]
●J. Grant Thiessen(ed.)『The Science-Fiction Collector Vol.1』 (Pandora's Books, 1980)
[SF書誌は単行本のかたちで発表されるものばかりではありません。その代表例がこのファンジン(持参したのは合本版の第1集)。毎号さまざまなリストが掲載されていました。なかには「SFポルノ」の目録なんてのも。]
●Pat Hawk『Hawk's Authors' Pseudonyms III: Comprehensive Reference of Modern Author's Pseudonym』 (privately printed, 1999)
[これはペンネーム辞典。資料本はファン出版が多いため、つくった本人に連絡をとって購入することがままあります。これもそんな一冊。こちらは送金であたふた、あちらは送品であたふた。]
●Pat Hawk『Hawk's Science Fiction, Fantasy & Horror Series & Sequels』 (privately printed, 2001)
[同時に手に入れた一冊。シリーズもののリスト。]
●Graham Stone『Australian Science Fiction Books 2000』 (Australian Science Fiction Association, 2000)
[SF書誌は英米のものだけではありません。これはオーストラリアSFの書誌。制作したご本人(ベテランのSFディーラー)から送ってもらいました。]
●Sam J. Lundwall『Bibliografi Over Science Fiction Och Fantasy』 (privately printing, 1964)
[スウェーデンSFの書誌。サム・J・ルンドヴァルは小説家でもあり、サンリオSF文庫に邦訳があります。]
●Alain M. Villemur『63 Auteurs Bibliographie de Science Fiction』 (privately printing, 1975)
[フランスのSF書誌。人気作家(英米作家がメイン)63人の作家の作品リスト。仏語なので読めません。]
●D. Scheepstra『100 Jaar S.F. in Nederland』 (privately printing, 1968?)
[オランダのSF書誌。読めません。]
●Peter Kuczka『Tudomayos-Fantasztikus, Utopisztikus, Fantasztikus Muvek Bibliografiaja』 (Miskolc, 1979)
[ハンガリーのSF書誌。読めません。]
●Henr Delmas & Alain Julian『Le Rayon SF: Catalogue Bibliographique de Science-Fiction, Utopies, Voyages Extraordinaires』 (Editions Milan, 1985)
[フランス語ですが、図版がふんだんに入っており、眺めているだけでも楽しい。]
●Douglas G. Greene & Peter E. Hanff『Bibliographia Oziana: A Concise Bibliographical Checklist of the Oz Books By L. Frank Baum and His Successors』 (The International Wizard of Oz Club, 1988)
[《オズ》シリーズの書誌。SFだけでなく周辺領域も気になって、ついついこんなものまで手を出してしまいます。]
●C. J. Hinke『Oz in Canada a Bibliography』 (William Hoffer, 1982)
[こちらはカナダで出版された《オズ》シリーズの書誌。資料本の世界は、深入りするとキリがありません。]
●Bob Chatham & Paul Hugli『Destiny Reference Guide Volume 1: The Magazine 12/53 thru 6/92』 (privately printing, 1992)
[SFや怪奇小説の専門誌のインデックスはたくさんつくられているけれど、SFは一般誌にも掲載されているよねと思ったのが運の尽き。こんなものまで欲しくなってしまいました。〈プレイボーイ〉のインデックスです。]
●John Berlyne『Powers: Secret Histories a Bibliography』 (PS Publishing, 2009)
[インターネットの普及によって、SF書誌の土俵はウェブへと移行しています。そんな時代にあって、本の体裁をとったSF書誌はいかに有効か? この問いに対する素晴らしい答がこの一冊。ティム・パワーズの書誌ですが、まるでひとつの博物館のような楽しさがあります。]
●George Beahm『Stephen King Collectibles: An Illustrated Price Guide A Quarter Century of Collectibles from Carrie to On Writing』 (GB BOOKS, 2000)
[こちらも楽しい資料本。スティーヴン・キングのコレクターズ・アイテムのリストです。前掲のパワーズ書誌に比べるとちょっと品がありませんが、それもご愛敬。]
●[anon.(ed.)]『Lists of Ace Books: List of Ace Single Volumes, List of Ace Titles in Numeric Series, List of Ace Double Novels』 (Books LLC, 2010)
[こちらはネット時代の駄目な書誌の一例。Wikipediaの項目をまるまる印刷しています。むきーっ。]
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◆北原尚彦 紹介本リスト
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■【奇書の北原尚彦だって、少しは格調の高い古本を持ってます】の部
●米川良夫編・訳『マリネッティをお少し』(私家版/2002年)
[イタリア劇作家の実験的な「自由語作品」の翻訳。300部限定。
カルヴィーノなどの訳者である教授が、大学退職の記念に作ったもの。]
●レイモン クノオ『ひとつの詩法のために』(編集工房 遊/2005年)
[『地下鉄のザジ』のレーモン・クノーの対訳詩集。鳥取の詩人が翻訳し
鳥取で刊行された地方出版物のため、全くと言っていいほど存在が知られていない。
国会図書館にも未収蔵。]
●巌谷国士編訳『ドロテアの美しい物語』(アート・スペース美蕾樹/1984年)
[シュルレアリストと交流のあった画家ドロテア・タニングに関する本。
ド・マンディアルグやエルンストの文章も収録。渋谷の伝説の画廊が発行した限定本。]
●中井英夫『虚無への供物』(講談社文庫/1978年11刷)
[イラストレーター・畑農照雄による革装ハードカバー改装本。
中井英夫の献呈署名&識語入り。]
●佐藤暁『だれも知らない小さな国』(コロボックル通信社/1959年)
[佐藤さとるの代表作たる児童ファンタジイだが、有名になる前に本名で出した私家版。
佐藤さとるファンが「幻の本」と呼ぶような本なのに、2日め午後の即売会で発見。]
●杉村顕道『怪談十五夜』(友文堂書房/1946年)
[探求書だった怪談集。3刷だが、初版とは収録作も版型も違うことが判明。
顕道怪談復刻の際に、テキスト提供した本。]
●『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談【特装版】』(戸田ヒロコ工房制作/2010年)
[荒蝦夷から刊行された怪談集をハードカバーに特装した帙入り豪華本。28部限定。
上記『怪談十五夜』を提供したおかげで頂いた。情けは人のためならず。]
■【文庫が好きなんです】の部
●ラドヤード・キップリング/平田禿木訳『彼等』(研究社/大正5年)
[文庫サイズの古い対訳本。怪奇小説の古典。中村融氏に指摘されて、初めて貴重な本だと気づいた。]
●ゴーチエ『金羊毛』(新潮社/大正9年)
[文庫サイズの「ヱルテル叢書」。フランス幻想作家の古い翻訳。]
●ステイヴンソン/押川春浪訳『宝島』(新潮文庫/昭和10年)
[ただの新潮文庫版『宝島』と思うなかれ。訳者が『海底軍艦』の押川春浪。]
●スティーヴン・キング『コロラド・キッド』(新潮文庫・非売品/2006年)
[読者プレゼントとしてだけ邦訳された特別版のため、発売はされなかった作品。]
●スティーヴン・キング『グリーン・マイル1』(新潮文庫・非売品/1997年)
[刊行前に見本として出たプルーフ・コピー。1巻だけだったのが残念。]
■【この辺からいつもの奇書です】の部
●ライダー・ハガード『丁抹の田園生活』(博文館/大正2年)
[内務省地方局が訳した、デンマーク農政視察記録。特筆すべきは、その作者。
古典的冒険小説『ソロモン王の洞窟』のH・R・ハガードなのだ。]
●セルゲイ・ベリヤーエフ『動員された医者の手記』(春秋社/昭和13年)
[『第十番惑星』の著者による医学小説。アレクサンドル・ベリヤーエフとは別人。]
●眉村卓原作『少年ドラマ 幕末未来人(1)』(NHK/1977年)
[台本。中学生当時、親がNHK勤務の同級生にもらった。後に眉村氏に署名を頂戴する。]
●星新一『花とひみつ』(日本標準テスト研究会図書出版部/1968年)
[最初の商業出版バージョン。『日本標準の小学生文庫 第1集 3年』として、読書テキスト5冊の共函入り。共函入りの状態のものは、結構珍しいらしい。]
●富塚清『三代の科学』(弘学社/昭和20年)
[『醗酵人間』に『改造人間』を足したのと、同等の価値がある本。
以前、横田順彌氏に「(上記2冊と)物々交換してほしい」と言われ、お譲りしたのです。
終戦直前に発表された「日本が核兵器で太平洋戦争に勝利する」という、知られざる古典SF。
その後、ようやくのことで再入手。横田氏に「君の本の方が綺麗だなあ」と言われました。]
※追伸 過去のリストを見たら、『金羊毛』は紹介してましたねー。
■8月例会レポート by 鈴木力
■日時:8月20日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線・京王新線「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ:そしてSFはつづく——<未来の文学>過去・現在・未来
●ゲスト:
樽本周馬さん(国書刊行会編集部)、高橋良平さん(評論家)、
catalyさん(SFレビュアー)、林哲矢さん(SFレビュアー・予定)ほか
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今年6月、ディレイニーの伝説的大作『ダールグレン』をトップバッターとして、ファン待望の〈未来の文学〉第3期がついにスタートしました。今回のファン交では国書刊行会で同叢書の編集を務める樽本周馬さんのほか、高橋良平さん、牧眞司さん、林哲矢さん、catalyさんをゲストに、〈未来の文学〉と『ダールグレン』についてお話をうかがいました。
樽本さんが〈未来の文学〉を企画するきっかけとなったのは、国書刊行会の営業部に配属されていたとき、柳下毅一郎さんがラファティの『地球礁』を訳していると聞いたことでした。結局『地球礁』は他の出版社から刊行されるのですが、これが縁で2004年にスタートした〈未来の文学〉第1期のラインナップは、柳下さんと若島正さんに相談して決められたといいます。
折しも当時は河出書房新社でも〈奇想コレクション〉が刊行されはじめた時期。「作品がかぶるかと思って焦ったが、リストを見て安心した」と樽本さんは笑います。それどころか両シリーズは〈晶文社ミステリ〉と並んで、ゼロ年代における海外短篇ブーム、スタージョン再評価といった重要なムーブメントの一翼を担うことになったのです。
ファン交では今回の企画に先立ち、ネットでアンケートを実施しました。21名の回答者から〈未来の文学〉で印象に残った作品を複数回答可で選んでもらったところ、以下のような結果になりました。(カッコ内は得票数)
1 ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』(12)
2 ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』(11)
3 アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』(10)
4 トマス・M・ディッシュ『アジアの岸辺』(9)
5 浅倉久志編訳『グラックの卵』(7)
若島正編『ベータ2のバラッド』(7)
7 R・A・ラファティ『宇宙舟歌』(5)
クリストファー・プリースト『限りなき夏』(5)
トマス・M・ディッシュ『歌の翼に』(5)
サミュエル・R・ディレイニー『ダールグレン』(5)
8 イワン・ワトスン『エンベディング』(3)
9 シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』(2)
ウルフが全得票数のうち3割近くを占めるという圧倒的な強さを発揮しましたが、樽本さんによれば、この結果は売り上げとほぼ一致するそうです。
休憩をはさんで企画の後半は『ダールグレン』の話題に。牧さんは、本書はよく言われるように難解ではなく、普通にリテラシーがあれば面白く読めると述べ、都市小説として、都市の本質を追求したカルヴィーノ『見えない都市』の対極に、都市の猥雑さを描き出した『ダールグレン』があると言います。
高橋さんはディレイニー作品の鍵となるマルチプレックスという概念を取り上げ、『ダールグレン』に含まれるさまざまな層のいちばん下にディレイニー自身がいると指摘します。現にディレイニーの自伝と読み合わせてみると、符合する点が多く見いだせるそうです。
気になる〈未来の文学〉の今後ですが、9月にはジャック・ヴァンスの短編集、その後にはラファティの長篇が控えているといいます。まだまだファンにとっては楽しみは尽きないようです。
■9月例会レポート by 鈴木力
■日時:9月17日(土)
■会場:文京区勤労福祉会館
(JR「駒込駅」東口徒歩9分、東京メトロ南北線「駒込駅」徒歩11分)
●テーマ:追悼・小松左京
●ゲスト:とり・みきさん(マンガ家)、鹿野司さん(サイエンスライター)
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各メディアでも既報のとおり、去る7月26日に小松左京さんが80歳で逝去されました。今回のファン交では、「小松左京マガジン」同人で、小松さんのファンクラブ・小松左京研究会(コマケン)初期からのメンバーでもあるとり・みきさん、小松さん、高千穂遙さんと科学ノンフィクション『教養』を上梓した鹿野司さんをお招きし、小松さんの人と作品についてうかがいました。
上映は諸事情により最後になってしまったのですが、今回は特別に、とりさんに映像をお持ちいただきました。小松さんの還暦を祝うパーティで上映するため、テレビなどに出演した小松さんの映像をとりさん自ら編集したもの。映画『日本沈没』でチョイ役を演じた場面からドキュメンタリー、さらには『タモリ倶楽部』に出演したときや関西ローカルの番組でキャスターを務めている姿まで、実に貴重な映像でした。
さて、とりさんと小松さんとの出会いは、子供のころ読んだ『鉄腕アトム』のコラムだったといいます。そして1970年代後半、大学に入り上京したあと雑誌でコマケンの発足を知り、足を運びました。一方、大学のSF研究会を経てファン活動に足を踏み入れた鹿野さんは、その人脈を通じて『さよならジュピター』の撮影に関わることになります。担当したのは、宇宙船のコントロールパネルなどにハメ込むCG。ただし結局は使われなかったとか。
印象的だったのは、お二人が「小松さんは寂しがり屋だった」と口を揃えたこと。いつも周囲に人を集めてワイワイやるのが何より好きだったそうです。そして話していると、連想が連想を呼んで、話が思いもかけないほうへ飛んでいくのが常でした。しかし、こういった点が小松さんの強みでもあったようです。鹿野さんは小松さんが多くの学者と親しかった点を挙げ、「自分が興味を持った人と付き合っていると、論文として書かれたもの以上の、その人のものの見方を吸収できたのではないか」と言います。また、知識から連想を働かせて仮説を構築することにも長けていました。まさしく直感とイマジネーションを働かせ、『日本沈没』の田所博士を地で行ったのが小松左京という作家だったのです。
小松さんは、数式によって物理現象を、ひいては宇宙そのものを記述できるように、文学によって宇宙を記述したいという野心を持っていました。その究極の構想が具体化したのが『虚無回廊』だったのです。残念ながら同作品は未完に終わってしまいましたが、とりさんも鹿野さんも「小松さんは死んだ気がしない」といいます。とりさんはその理由を、こう語ります。「小松作品を読むと、それをとっかかりにして様々な世界への興味が広がっていく。その世界もまた自分の中では小松左京なんだというイメージだから、個人としての小松さんは亡くなっても遍在している感じなんです」。
■10月例会レポート by 平林孝之
■日時:10月8日(土)夜(京都SFフェスティバル合宿企画内)
■会場:旅館「さわや」本店
●テーマ:ねじまき少女はユーテック・ライスの夢を見るか? 『ねじまき少女』の魅力に迫る!
●ゲスト:石亀渉さん(SFレビュワー・翻訳家)、大野万紀さん(SF翻訳家・評論家)
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今年も京都SFフェスティバルの合宿企画に出張させていただきました。
今回は、「ねじまき少女はユーテック・ライスの夢を見るか? 『ねじまき少女』の魅力に迫る!」と題して、京フェス本会企画でバチガルピ企画のパネルも勤められましたSFレビュワー・翻訳家の石亀渉さん、SF翻訳家・評論家の大野万紀さんをお招きして、意外と分かりづらい『ねじまき少女』の世界を楽しみました。
早くからバチガルピの短編を読まれていた石亀さんですが、面白い作家だと注目しだしたのは、現時点でも最高傑作だという「第六ポンプ」から。喜劇を喜劇として描かない、悲劇を悲劇として描かないところが特徴で、『ねじまき少女』にも出てくるメゴドントのように目をひくものを描くことが多いけれど、視点を定めた手触りのある世界と、息遣いを感じる人物たちが魅力の本質だとか。似た魅力を持つものとして2006年公開の映画「トゥモロー・ワールド」をあげられていました。世界の全体像を完全には明かさないまま、あくまで視点人物の見える範囲に限定して描くリアリティが似ているとのこと。
分かりづらいと評判の上巻ですが、世界観をある程度押さえておけば楽しみやすいのではないでしょうか?
温暖化が進んで炭素排出が厳しく規制されているいうことと、次々に変異していく病虫害と遺伝子組み換え作物のいたちごっこが続いている世界ということがポイントとして挙げられていました。随所に出てくる「イヌホウズキ」という謎の植物ですが、「ナス科の植物」くらいに捉えておいた方が分かりやすいかもしれません。他の国では病虫害にやられて絶滅したはずのナス科の植物を捜し求めて、レイクはタイにやってきたのです。なんでタイだけ? ということは同じ世界観を描いた短編「カロリーマン」で語られているそうです。
一方大野万紀さんによれば、バチガルピの作品はエントロピーの増大に対する絶望感を人間的な視点で描いているといいます。夢も希望もない世界でも日常を続けるためには、エントロピーの増大に対して適応するしかないとか。「第六ポンプ」で人類が馬鹿ばっかりになっているのも、適応の一つだそうです。
『ねじまき少女』における適応を体現しているのが、タイトルにもなったねじまきのエミコだとか。ラスト・シーンはエミコにとっては希望のように描かれているけど、旧来の人間としては滅びるということも示唆している、でも新人類が残ればSF的にはOKでしょうと、SF読みなら誰でもひそかに思っている(?)過激な妄想にまで発展させていました。
バチガルピと魅力が似ている作家として、北野勇作を挙げられていました。どちらもどろどろした壊れていく世界の中の日常を描いているけれど、北野さんの場合はエントロピーの増大が頭打ちになっていて、今の日常が続いていくところが少し違うとのこと。工事現場、工場といった描かれている場所の感覚も似ているとのことで、石亀さんも強くうなづかれていました。
エントロピーの増大とSF、果ては無限に増殖していく本の山については、大野万紀さんご本人がTHATTA ONLINEに書かれている京フェスレポートでも熱く語られています。
http://www.asahi-net.or.jp/~li7m-oon/thatta01/that282/kyofesu.htm
今から『ねじまき少女』を読む方への楽しみ方、注意点も伺ってみました。
視点人物が次から次へと切り替わって、なかなか全貌が分からないようになっているので、最初からストーリーラインを追おうとするとつらい構造だ、というのには会場が納得。では、世界観を楽しむものなのかというとそうでもなくて、あくまで漠然と不安に満ちた世界の中にいる「人間」を重視したほうが良いそうです。
石亀さんの熱い語りと、大野さんの冷静な語りが対照的でしたが、お二人とも見ているところがよく似ているのが印象に残りました。『ねじまき少女』をすでに読まれていた参加者も、これから読むという参加者も、この企画を機にもっとこの作品を楽しんでいただければと思います。
■11月例会レポート by 鈴木力
■日時:11月19日(土)
■会場:神宮前区民会館館
(JR「原宿駅」徒歩8分、千代田線「明治神宮前駅」徒歩2分)
●テーマ:ヴァンス、ヴァンス、ヴァンス!
●ゲスト:酒井昭伸さん(翻訳家)、中村融さん(翻訳家、アンソロジスト)
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浅倉久志さんの編集した『奇跡なす者たち』が9月に刊行され、いままた注目を集めるジャック・ヴァンス。今回のファン交では『奇跡なす者たち』の表題作の翻訳と解説を担当された酒井昭伸さん、ヴァンス作品に詳しい中村融さんにお話をうかがいました。
ヴァンスは1916年、成功した弁護士の孫としてサンフランシスコの名家に生まれ、12歳のとき無免許で自動車を運転していたというやんちゃ坊主でした。ところが大恐慌で一家は没落、農場・鉱山・缶詰工場など職場を転々としました。その後カリフォルニア大学バークリー校に進学するものの、経歴をいつわってクレーン工になったり、目が悪いのをごまかして貨物船の船員になったりと、破天荒な青春時代を過ごします。この船員時代の異国体験がのちの作風に影響を与えたとの指摘の一方で、いきあたりばったりな生き方が作品の登場人物そっくりだとの声も。
1950年に最初の単行本を上梓し、その後『竜を狩る種族』「最後の城」などの作品で巨匠としての地位を築いていきますが、なんとヴァンスの原稿はすべて手書きだそうです。しかも色とりどりのボールペンですごい書き込みが入ったもので、それを清書するのが奥さんの役割だったとか。
さて、その作風について酒井さんと中村さんが強調されていたのは、ヴァンス作品は笑える、ということ。住民が楽器でコミュニケーションをとる惑星にやって来た部外者がとんでもない目に遭う「月の蛾」や、復讐物語のはずなのに悪役がヘンなキャラクターばかりの『魔王子』シリーズなど、冗談なのか本気なのか判別しがたいのがヴァンスの特徴のひとつだそうです。
中村さんによれば、アメリカSFにはハインラインやアシモフなどの流れのほかに、エドガー・ライス・バロウズを祖とするもうひとつの系譜があって、ヴァンスはそちらに属するといいます。またヴァンスが影響を受けた作家にはクラーク・アシュトン・スミスがいるとのこと。一方でヴァンスに影響された後進作家となると、ダン・シモンズ、ジーン・ウルフ、ジョージ・R・R・マーティンと錚々たる名前が。アメリカでは『竜を狩る種族』がヒューゴー賞を受賞したことからもわかるとおり一定の人気を保ていますが、それ以上に一部の愛読者には熱狂的に支持されているそうです。
アメリカにおける評価がなかなか伝わらない日本ですが、国書刊行会からはヴァンス・コレクション全3巻が予定されています。ヴァンスは言葉に凝る作家で、どんなに見慣れない単語を使っていてもそれは造語ではなく、辞書を典拠にしているのだといいます。また固有名詞の発音に関しても、特異なつづりが多いので校正の段階になっても迷うときがあるのだとか。翻訳者の方々の苦労がしのばれますが、読者としては、さらなる紹介を楽しみに待ちたいところです。
■12月例会レポート by
■日時:12月10日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線(京王新線)「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ:新人SF作家に訊く
●ゲスト:勝山海百合さん、松崎有理さん、高山羽根子さん、宮内悠介さん(作家)
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先月に続き今回も、ゲストの方々のご了承を得て、最初の1時間ほどを「Ustream」にてナマ中継をさせていただきました。
まず最初の登場は、『さざなみの国』で本年度の日本ファンタジーノベル大賞を受賞した勝山海百合さん。
2007年に『幽』怪談文学賞に入選して以来、すでに数冊の著書もある勝山さん。『さざなみの国』は、ある出版社で本にならなかったプロットをもとに書いた作品だそうです。
不思議な話を書こうとは思うが、特にファンタジーや怪談といったジャンルは意識しないという勝山さん。
「今回も、受賞したらファンタジーということになるんだろうなと思っていた(笑)」とか。高校生でファンジン『ボレアス』に参加した頃は掲載料の関係もあって短いものばかり書いていたが、前作『玉工乙女』で長篇の書き方を何となくつかんだ気がして、それを確かめるつもりで『さざなみの国』を書いたそうです。
中国指向は、中島敦や青木正児に影響されたという勝山さん。今後は、もっと一般の人も手に取りやすい、現代日本を舞台にした作品にも挑戦してみたいとのことでした。
続いて、第一回創元SF短編賞から作家デビューされた松崎有理さん、高山羽根子さん、宮内悠介さんをゲストにお迎えして、過去の創作歴を中心に作品の発想の原点についてお話をお聞きしました。
三人とも共通している点は、それぞれ様々なジャンルの創作活動をしている最中に偶然創元SF短編賞に出会って、初めてSF作品にチャレンジしたそうです。
松崎さんは、もともとは長編の超バリバリの理系なファンタジーを書かれていたとのことです。(数学者が主人公のファンタジーとても気になりました。)
松崎さんは、お父様がSF好きだった為、SF蔵書がたくさん自宅にあり、幼少期はバロウズの『金星シリーズ』やアサー・K・バーンズの『惑星間の狩人』など読まれていたそうです。ほかにも、高校生のころに読んだアシモフの空想自然科学入門に影響さて理系に進まれるなど、たくさんSF愛にあふれるお話をしてくださいました。
高山さんは、もともとの創作活動は絵画中心だったそうで、最初は、絵に文章を添えた作品から徐々に文章の創作活動に移って行ったとのことでした。特にジャンルを意識したことはなく伝えたいことがまず先にあってそこからお話を作っていくそうです。
ウイリアムブレイクなど、文章と絵と分けることのない表現を追求していきたいとのお話くださいました。印象に残っている子供のころのSF体験は、楳図かずお好きの友人と観に行った『漂流教室』の映画だそうです。
宮内さんは、ずっとミステリーを中心に創作活動をしていて、創元SF短編賞と出会いSFに初めて挑戦したそうです。
もともと11、12歳のころ部屋にこもって、「MSX」というPCで、人類を超えるAIをプログラムしようとしていたところ、心配した父親から「人類は君が考えていることをすでに考えているんだよ。」と、ディックの本を渡されたのが、SFとの出会いだそうです。そこからSFにハマったとのことでした。
その後、中学生のころに金田一少年の事件簿でミステリーに開眼して、ミステリー好きの友達から新本格を薦められ、ミステリーにはまり、自分でもミステリーを書き始めたそうです。
第二部では、ゲストの皆さん全員に、ご自身の作品を中心に、創作活動についてお話をお聞きしました。
各作品と実体験についてのお話から、松崎さんからは、論文的な文章を書くのが好きなところから、知り合いの研究者が論文書きたくないというたびに代わりに書いてあげたいと思ったというご自身の経験から代書屋が生まれたなど設定秘話をお聞きできました。
高山さんは、近所の野良犬が自宅のモチを盗み食いのどに詰まらせたことをきっかけに飼った犬をモチーフにうどんのきつねつきを書いたとのお話が面白かったです。
勝山さんのペンネームは、大きなうみゆりの化石を見て「素敵!私今日から海百合になる。」と決めたことが由来だそうです。(おっきな海百合の化石私も見てみたいです。)
最後は、会場からの質問でなぜかみんなで自分が内閣総理大臣になったら何内閣と名付けるかという難問に多いに沸いて終了となりました。
今回も多くの参加者を迎え大盛況の今年最後の例会となりました。
ご出演いただきましたゲストの皆様、ご参加いただいた皆様のご協力に感謝いたします。