ファン交 2017年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by

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■日時:1月28日(土)14:00-17:00
■会場:氷川区民会館
(渋谷駅・恵比寿駅徒歩14分)

●テーマ:2015年SF回顧(国内・コミック編)
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、縣丈弘さん(レビュワー)、林哲矢さん(SFレビュアー)

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1月のSFファン交流会は恒例の国内回顧としまして、ゲストにSF作家、SF評論家の森下一仁さん、アンソロジスト日下三蔵さん、作家の高山羽根子さんをお招きして2016年作品を振り返りました。

まずは、急遽ゲストとして壇上に上がってくださった高山羽根子さんに、昨年受賞された「第2回林芙美子文学賞」の授賞式についてお話をお聞きしました。
授賞式では普段知らない北九州の文学をめぐるコミュニティーの熱い文学熱を感じることができ、執筆の刺激になったそうです。受賞作「太陽の側の島」は、北九州文学館のHPより無料で読めるとのことです。その他の作品もweb上の「旅書簡集 ゆきあってしあさって」からご覧になれるそうです。

前半は森下さん日下さんの注目リストを元に、国内編の小説を振り返りました。
ゲスト全員共通の注目作として上がったのが、川上弘美『大きな鳥にさらわれないように』。川上さんの柔らかい文で、ちょっと怖いSF世界が描かれた2016年読むべきSFとのこと。
2015年が円城塔の一年としたら、2016年は「宮内悠介の年」ということで一同納得。3冊のなかで一番SF色が強いのは『スペース金融道』。

森下さんの今年のイチオシは、北野勇作さんの『カメリ』。人がいなくなった世界で健気に生きるカメリが愛らしいとのことです。ほかには、森岡浩之『突変世界 異郷の水都』、上田早夕里『夢みる葦笛』、松崎有理『代書屋ミクラ すごろく巡礼』なども、話題にあがりました。

今回の例会で、一番盛り上がったのがウルトラマン2作でした。
日下さんが上げたのは小林泰三『ウルトラマンF』。で、森下さんが三島浩司『ウルトラマンデュアル』を。参加者からの意見も出たりと、ウルトラマンの話はなかなか尽きず、みなさんウルトラマン、本当にお好きなんですね。コミック編でも、風上旬『ウルトラ怪獣擬人化計画』で、大盛り上がりましたし。

おふたり共通してリストにあがったのは、SF大賞候補の樺山三英『ドン・キホーテの消失』。メタフィクションになっているとても面白い小説とのこと。ほかにも、ショートショート(特に4冊上梓された田丸雅智さんのこと)のブームのことなど、お勧めリストを見ながら、いろいろ紹介していただきました。

後半は、ライトノベルとコミックを取り上げました。
日下さんに加えて林哲矢さんと懸丈弘さんにも急遽ゲストとして参加いただきました。
日下さんおすすめライトノベルは、『筺底のエルピス』『ストライクフォール』『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』。レーベルで注目なのが講談社タイガ。オキシタケヒコ、野崎まどなど注目のSF作家によるミステリーテイストの小説の刊行が続いているそう。

コミックは、リストを見ながら、お勧め作品を紹介していただきました。
とり・みき『メカ豆腐の復讐』、施川ユウキ『ヨルとネル』、諸星大二郎『BOX』、飯田ぽち『姉なるもの』などなど。
さらに、リスト提供で協力していただいた福井健太さん注目作品について、ゲストの皆さんに紹介していただきました。
蛇蔵『決してマネしないでください。』、山田胡瓜『AIの遺伝子』、米代恭『あげくの果てのカノン』、篠原健太『彼方のアストラ』、吾嬬竜孝『鉄腕アダム』など。五十嵐大介『ディザインズ』は本格的現代SF。とにかく絵がいい。五十嵐大介が本気でSF漫画を書こうとしている是非注目したい作品とのこと。

日下さんがほかにオススメされていたのは、あさりよしとお『青の六郷』、岡崎二郎『岡崎二郎SF短編集』。
縣さんのイチオシは、『ラブラブエイリアン』で、3巻までで第一部完結だそう。
このあとも、時間いっぱい興味深い作品を紹介していただき、時間いっぱいとなりました。

ということで、今年も大いに盛り上がった1月例会でした。
ゲストのみなさま、来場いただいたみなさまありがとうございました。
また、毎年書籍リストを提供してくださる星敬さまご協力感謝いたします。

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■2月例会レポート by  

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■日時:2月18日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:2016年SF回顧(海外・メディア編)
●ゲスト:大森望さん(翻訳家、書評家)、中村融さん(翻訳家)、
添野知生さん(映画評論家)、縣丈弘さん(B級映画レビュワー)、
高山羽根子さん(作家)

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SFファン交流会2月例会は、1月に引き続き恒例の回顧企画として、ゲストに大森望さん、中村融さん、添野知生さん、懸丈弘さん、高山羽根子さんを、お招きして2016年の海外SF小説と映画をふり返りました。

まずは、高山さんの2016年ベスト映画を、直筆のイラストを元に紹介いただきました。
高山さんのベスト4は、『EX_MACHINA』『光の墓』『ゴーストバスターズ』『レミにセンティア』。 一番興味深かったのは、『ミレ二センティア』井上雅貴監督の作品。オールロシアロケで、監督を含め3人のスタッフで制作されたという話。ロケ先のロシアの都市カロスヤブリの風景がとにかく素敵とのことで一度行きたくなりました。

ちょっと変わった作品を集めたという懸さんの、おすすめ作品一つ目は『イットフォローズ』。正体不明のものに追いかけられる話で、それらは人間に溶け込んでいるので見極める必要があるのだそう。おしゃれ映画以外に青春映画としてもいいとのこと。『ロブスター』は謎のディストピア映画。遺伝子操作された人とたちが荒廃した地上でくらす吸血鬼が支配している未来社会を描いた『太陽』は、舞台劇なので低予算ながらもSF度が高い作品でキャストの熱演が魅力とのことでした。
その他、『ソング・オブ・シー』『ミッドナイト・スペシャル』など多くの作品を紹介していただきました。

今年はレベルが高かったと総括してくれた添野さんからは、『オデッセイ』ほか、注目作を中心にお話をしていただきました。『シン・ゴジラ』は、ひと言で言えば、一個体で高速進化するゴジラと人類の文明の進化の戦い。『君の名は』は、新海誠監督の映画なかで一番良い作品。『あやつり糸の世界』は、長い間死ぬまでに観たいなかなか見られない映画10本のうちの一つだったのだそう。内容は一言で言うと、早すぎたマトリックス。SFファンがみる一作とのことでした。
これから絶対みるべき映画としては、『メッセージ』(5月19日公開)。大傑作とのことでした。ぜひ観に行きたいと思います。

後半は、大森望さん、中村融さんとともに、2016年の海外SFをふり返りました。
2016年はSF復活の年ということで、新訳や、古い年代の作品が見直された年だったとの総活がありました。

新訳が特に良かった作品ということで『デューン』があがりました。「旧訳が好きでも新訳も読むべき一冊」と、おふたりとも力説されてました。

おふたりのオススメは『宇宙探偵マグナスリドルフ』。
アコギに金を稼ぐ一方であっさり騙されたりと、キャラクターが面白い。探偵として謎を解いても決して誰も幸せにならない理不尽感がいいとのこと。
『死の鳥』は「僕らが高校生だったときの世界で一番かっこいいSF!」「フォントが6種類かっこいい!!」と熱く語って下さった大森さん。今読んでもまぁかっこいいし、ミステリー好きの人もおすすめとのことでした。
2016年は伊藤典夫YEARということで、ハーラン・エリスンのほかに、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.、コードウェイナー・スミス、傑作選と、4冊出しているとのことでどれも読むべきとのこと。

注目の新人作家作品としては、ピーター トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』や、クレア・ノース,『ハリー・オーガスト、15回目の人生』が話題にあがりました。また昨年は、ハインライン『宇宙の戦士』、ベイリー『カエアンの聖衣』など、新訳がたくさん出版されました。最近の翻訳事情など、貴重なお話をしていただきました。

さて、おかげさまで例年通り盛り上がり、とても3時間では語り尽くせない例会となりました。
ゲストの皆様、そして参加者の皆様ありがとうございました。
2017年もSFとの良い出会いがありますように。

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 ■3月例会レポート by 

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■日時:3月25日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:もっとわかる〈直交〉宇宙! イーガン三部作大解説
●出演:板倉充洋さん(研究者)、東方綾さん(編集者) ほか交渉中

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3月例会は、「もっと知りたいイーガン世界」と題しまして、翻訳者の中村融さん、研究者の板倉充洋さん、イラストレーターのRey.Hori(れい・ほり)さん、担当編集者の東方綾さんをお招きしてイーガン直交三部作についてお話をお聞きしました。

前半は、直交三部作の世界の理について板倉さんに解説していただきました。
まず、イーガンの直交三部作の着想とその魅力についてお話していただきました。
イーガンは物理法則(数式)少しだけ変えた結果、時空の性質にどのような変化が現れるか? という着想から、計算上の世界観考え、そこにストーリーを落とし込んでいくところにイーガン作品ならではの面白さがあるのだそう。

その結果、ある程度物理がわかると予想しながら読んでいけるので、途中で答え合わせのような瞬間があるのだそう。一番この世界の物理法則をわかりやすく解いているのは一巻の『クロックワーク・ロケット』のヤルダさんの問答のところなどで計算で導かれる現象が丁寧にかかれているのだそう。
「この世界の世界観を理解するのに一番いい方法は、やっぱり自分で計算するのが一番ですね。」と板倉さん。

イーガンがこの作品で一番書きたかったのは、きっと二巻の『エターナル・フレイム』の33章で、これは、我々の世界で言うところのディラック方程式の発見を直交世界でやりたかったに違いないとのことで。
私的には、全く意味のわからなかったベクトルの乗算、除算の図はイーガン渾身のぐっとくる話だったことが、今回板倉さんの解説のお陰で知ることができました。特に板倉さん的には、ここで活躍するパトリジアちゃん萌え! の瞬間なんだそう。

また、翻訳者の中村さんより、あとがきで山岸さんがさらりと書いてらっしゃいますが、32章と34章を中村さんが翻訳され、あいだの33章を、山岸さんが訳されている分担の意味は、33章を読めばわかりますよね(笑)とのことでした。
ディラックの他にも、直交三部作にはノーベル賞級の発見と同等のエピソードがオマージュ的に盛り込まれており、「パウリきた!」的発見が、物理好きには魅力のひとつなのだとか。

そのほか、板倉さんには3巻目の時間の矢など、直交世界の物理法則について、たくさん図と数式を交えて、丁寧にお話頂いたのですが、難しすぎてうまくレポートに書き表せませんでした。

後半は、イラストレータのRey.Horiさんより、表紙の作成過程について実際の画像を観ながら解説いただきました。
Rey.Horiさんは、科学イラストをメインのお仕事とされているそうで、普段は粒子加速器などの絵を描かれているそうです。なので、普段からデーターを元に絵を描かれるとのことで、今回も作品を丁寧に読まれて絵を描かれたのだそう。
特に今回苦労されたのは、イーガンによるブユの描写の少なさなのだとか。

参考までに見せて頂いたアメリカ版の『クロックワーク・ロケット』の表紙には、三角形のいかにも宇宙船的が数隻飛んでいる絵が……。(非常にかっこいいのですが、原作とは全く関係のない絵に)イギリス・オーストラリア版では、歯車と光の線で星を表す表紙になっていますが、若干地味。

最初の案としては、山飛ばす! とか生き物を出すとか、いろいろあったのだそうですが、編集の東方さんから「ネタバレしちゃうから山は禁止、イーガンファンがきっと求めてないから。」(笑)。「生き物もなしで」という発注があったそうで、なかなか苦労されたとのお話でした。同様に、『エターナル・フレイム』『アロウズ・オブ・タイム』についてもお話いただきました。

そのほか、作中で帯状の光となって見える星の輝きの描き方について、実際の制作過程を見せていただくことができました。
普段も図面をひかれたりして絵を描かれたりするそうで、3Dのソフトを使うことが多いのだそうですが、今回は更に動画ソフトを使って星空を描かれたのだそう。普段みることのできない光景を拝見させていただき、非常に面白かったです。

今年の3月例会も、最後まで直交宇宙の空気についてや、液体のない世界の眼についてなど、会場からもいろいろな質問が飛び交い、密度の濃い3時間となりました。

協力頂いたゲストのみなさま、ご参加いただいたすべての方に感謝いたします。

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 ■4月例会レポート by  

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■日時:4月22日(土)14:00-16:00
■会場:「はるこん2017」会場・横浜市開港記念会館
(みなとみらい線「日本大通り駅」より徒歩1分、市営地下鉄線、JR京浜東北線・根岸線「関内駅」より徒歩10分)

●テーマ:もっと知りたい! ジャック・ヴァンス
●ゲスト:マグナス・リドルフさん(宇宙探偵)、中村融さん(翻訳家、アンソロジスト)

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ファン交4月例会は、横浜市開港記念会館で開催されたはるこん2017に出張させていただき、翻訳家の中村融さん、トラブルシューターのマグナス・リドルフさんのお二人から現在刊行中の〈ジャック・ヴァンス・トレジャリー〉を中心にジャック・ヴァンスの魅力についてお話いただきました。
ファン交の歴史の中でも異色のゲストとなったマグナス・リドルフさんは、特徴的なハットと印象的な白髭で登場し、アフリカ暮らしで少しなまっていながらも流暢な日本語で会場を大いに沸かしてくださいました。

まずはヴァンスとの出会いについて、ですが、中村さんは中学の頃にSFマガジンのバックナンバーで出会って以来ということで、SFを読み始めた初期のころからファンだったそうです。
アシモフ、ハインラインよりはムアコック、フリッツ・ライバーなどファンタジーよりの作品が好きだった中村さんとしてはど真ん中でしたが、SFとファンタジーの両方の要素が混ざった作風に、どう評価していいかわからない人も多かったようです。

ヴァンス作品の中で、最初のキャラクター小説が〈マグナス・リドルフ〉シリーズ。こちらはミステリーのやり方をSFに持ち込んでいます。初期はヴァンスも書き方がまだ定まっていなくて、とくに最初の2作の頃は筆の速さを優先して直しも入れてなかったとか。
ただ、雑にみえる初期2作もマグナス・リドルフ氏はヴァンスらしい作品で好きだそうです。ストーリーはあまり考えられていなくても、シーンの絵がよくできているところがいかにもヴァンス!

日本では、ヴァンスはどちらかというと〈魔王子〉シリーズのイメージで格調高いと思われることが多いですが、ヴァンスの訳者では笑える作品のほうが好きな人が多いんだそうです。『奇跡なす者たち』が売れてトレジャリー企画が始まったとき、酒井昭伸さん、中村融さん、白石朗さんの3人でユーモアを強調しようということになり、それぞれが好きなシリーズ、作品を手がけることになりました。

ヴァンスは造語、古語を多用しますが、キューゲルについては浅倉久志、日夏響の先訳があった上、ダン・シモンズの書いたキューゲル・トリビュートを酒井さんが訳すことになったので、中村さんと2人で相談しながら訳語の統一が図られました。
訳すのに功労したものの例として中村さんが挙げたのが、森の子鬼erb。これ、じつはエドガー・ライズ・バロウズの略で、英語圏で通じる人には通じる言葉遊びらしいですが、日本語でエラバとしても通じない上に語呂も悪いし……と悩んだ末に読みを優先してアーブにしたそうです。中村さんは造語の読みで悩んだら格好いい方を選ぶことが多いんだとか。

ヴァンスの特徴のひとつとして挙げられたのが、登場人物の扱いの非道さです。よく女性の扱いが非道いと言われますが、別に女性に限った話ではなく全方位に平等に非道いんだ、と中村さん強調されていました。中でも一番ひどいのが〈キューゲル〉シリーズ。ちょっといたずらしただけでキューゲルに殺される貝人間に、無理やり道案内をさせられた末に殺される化物、表紙にでてくるヒロインの扱いも唖然とする非道さです。

ただ、それは悪意があっての行為ではなく、本人にモラルがないからなので、ひどくてもどこか笑える、さっぱりしているのがヴァンス作品の面白さです。G・R・R・マーティンが(マグナス・リドルフ〉のオマージュで書いた〈タフの方舟〉ではタフがモラリストなので、構成はよく似ていても読後感は違ったものになる、というのは言われてみれば納得でした。

リドルフ氏によれば、ヴァンス作品は大体が本人が実際に体験したことがモデルになってるそうです。裕福な家庭に生まれたヴァンスですが、人生は波乱万丈、女性関係でも何度もひどい目にあったとか。〈魔王子〉シリーズの末尾を飾る『夢幻の書』では、子供の頃のいじめっ子に復讐する様を魔王子自身がファンタジー・テイストの小説仕立てにした「夢幻の書」が登場しますが、ヴァンスの作品群自体ももしかすると……?

ヴァンスのもうひとつの特徴は、文章の凝り方です。よくよく読むと馬鹿馬鹿しい作品が多いのに、格調高いもののように捉えられがちなのも、この文章のおかげでしょう。色の表現で言えば、赤色一つとってもレッド、カーマイン、スカーレット、……と4、5種類も使い分けてくるけれど、日本語には対応するものがなくて訳しきれないこともあるそうです。

リドルフ氏が持ってきてくださった原書の書影を見ながら、〈トレジャリー〉以外のヴァンス作品についても一部紹介いただきました。
リドルフ氏はご本人のシリーズ以外では〈冒険の星〉シリーズが好きだそうです。ヴァンスの中では一番バランスがいいとのことですが、ここでもヒロイン役はひどい目に遭うようで……。

〈トレジャリー〉シリーズの素敵な表紙は、マンガ『それでも町は廻っている』の中に出てくるお爺さんが、いかにもマグナス・リドルフっぽいということで、編集の樽本周馬さんが選んだというエピソードも披露いただきました。『マグナス・リドルフ』の白髭の老紳士を囲む異星人たちに、『切れ者キューゲルの冒険』の美女や小さな怪物と、作品の特徴や魅力がよく描けている表紙も、作品の雰囲気づくりにひと役買っていますね。

〈トレジャリー〉第三弾『スペース・オペラ』は、表題作の他に浅倉久志訳の短篇がいくつか入り、『奇跡なす者たち』とあわせて、めぼしい短篇は概ね訳されることになるそうです。魅力的な原作に、ヴァンス愛あふれる翻訳、こだわりの装丁と、まさに魅力と愛が詰まった宝庫ですね。

二年ぶりのはるこんへの出張版となりました。多くの例会参加者の方は二日間どっぷりSFを楽しめたのではないでしょうか。おかげさまで、ファン交は今月も楽しいひとときを過ごすことができました! 会場をお貸しいただきました「はるこん」の方、そして楽しいお話をしてくださったゲストのお二人、そして、ご参加いただいたすべての方に感謝いたします。

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 ■5月例会レポート by

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■日時: 5月4日(木)夜 (SFセミナー合宿企画内)
■会場:鳳明館森川別館(東京メトロ南北線 「東大前駅」徒歩3分)

●テーマ:『正解するカド』、そしてファーストコンタクトSFの魅力
●ゲスト:大森望さん(アンソロジスト、翻訳家)、林哲矢さん(SFレビュアー)、日下三蔵さん(アンソロジスト)

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5月のSFファン交流会は、毎年恒例のSFセミナー出張版としてSFセミナー合宿企画にて、ゲストに翻訳家の大森望さん、SFレビュアーの林哲矢さん、アンソロジストの日下三蔵さんお招きして現在放映中のアニメ『正解するカド KADO: The Right Answer』(東映アニメーション/脚本・野崎まど)と、ファーストコンタクトSFについて話をお聞きしました。

冒頭から大森さんに「シナリオを最後まで読んでいるので結末まで知っている。だから最後まで話すこともできるよ(笑)」と告白され、会場のテンションもいきなりマックスに。
まず、第12話までシナリオを読んだ大森さんと林さんに解説をしていただきながら、第1話から第4話の話を振り返りました。

『シン・ゴジラ』を思わせる特徴的なシーンの多い作品ですが、企画は『シン・ゴジラ』とほぼ同時期に始まり、会議がやたらと多いのは偶然の一致なのだとか。逆に、大森さん曰く、野崎さんとしては先行した『シンゴジラ』の上映によりむしろアニメを説明しやすくなったのだそう。

 第2話での「ヤハクィザシュニナ」の登場と主人公の交渉官真道とのやり取りがファーストコンタクトものとして一番の盛り上がりで、第3話以降は「ヤハクィザシュニナ」の提示するオーバーテクノロジーに対して、人類がどういう選択するのが正しいのかという問答がしばらく続き、その後ラストまでにはどんでん返しが2、3回あるとのことで、非常に楽しみになりました。

 大森さんの編集されたファーストコンタクトアンソロジー『誤解するカド』出版のこぼれ話としては、発売日に『正解するカド』が第2話までしか放映されていなかったので、解説で図らずもネタばれしてしまったところがあったそう。
もともとアンソロジー企画は、アニメ放映に合わせて野崎まどさんの作品を一話入れた本という企画だったため、野崎さんの過去の作品の中から一番ファーストコンタクトものとして挿入可能な「第五の地平」ありきで考えたので、その他の作品は既に翻訳があるものという縛りの中からバランスを見て入れたとのことでした。
短編集の中では本国出版時も日本で翻訳が出た際も、物議をかもしたコニー・ウィリスの作品をSFとしてどう読むかという話に参加者からも質問が飛び交いました。

 また、会場にいらした會川昇さんより、アニメーション制作側の貴重なご意見をお聞きすることもできました。今回の『正解するカド』は、東映アニメーションとして岩淵玄さんと共に『楽園追放』をヒットさせた野口プロデュサーが、効果的に東映のCGアニメーションを使う作品をつくるための企画として、野崎まどさんの脚本を選んだとのこと。
今後SFファンは、「野口さんと組む、SF作家はだれか」ということに着目して、SFを読んだりアニメを観たりしたほうがいい、とのアドバイスをいただきました。ちなみに会場からは、アニメ化候補作家として酉島伝法さんや宮内悠介さんがあがりました。

 そのほかにも、アニメ『正解するカド』で、「小渕さん似の総理大臣ほか、日本の官僚が『シン・ゴジラ』以上に優秀で、話がサクサク進む」といった話。
 最初にカドに取り込まれた旅客機の乗客が、誰もパニックにならず極めて倫理的な対応をしているところから、「理想化された(過ぎた)日本を描いているから、きっとこれは夢落ちにちがいない」というような意見が会場からでるなど、今年も話題の尽きない、密度の濃いひとコマとなりました。

 ご協力いただいたゲストの皆様、ご参加いただいた皆様に心より感謝申し上げます。

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 ■6月例会レポート by

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■日時:6 月 17日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:
バラード短編世界の魅力
●ゲスト:
柳下毅一郎さん(翻訳家)、牧眞司さん(SF研究家)、渡邊利道さん(作家・評論家)

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6月のファン交流会は、バラード短編世界の魅力と題しまして、ゲストに牧眞司さん(SF研究家)、渡邊利通さん(作家、評論家)、柳下毅一郎さん(翻訳家)をお招きしてお話をお聞きしました。

まず、柳下さんより、3巻まで刊行されたバラード短編全集の出版のきっかけをお聞きしました。『バーミリオンサンズ』等からエージェントが変更された為、短編一本ずつでは版権がとりにくくなったためまるっと短編全集一冊での契約となったとの説明がありました。

作品の並べ方については、短編全集自体がもともと作品を発表順に並べており、偶然だけれど、バラードの代表作的な作品が上手くばらけて、偏りのないラインナップになっていて改めてすごいと感じたそうです。

バラードというと、ニューウェーブの旗頭といったイメージが強いですが、並べて読み直してみると普通に上手いSFのアイディアストーリーが多く、尖ったイメージは薄くなるそう。

そもそも、バラードが革命作家なのではなく、雑誌〈ニュー・ワールズ〉が実験的な作品を次々に発表しており、〈ニュー・ワールズ〉に作品が掲載されたことで、結果的にバラードもニューウェーブ作家になったとのお話でした。また、シルバーバーグなど、既存のSFから変革を求める時代でもあり、読者自体の期待感から出た新しさや印象の影響も強かったといった分析がとても面白かったです。

発表年順に並べると、バラードの代表短編「終着の浜辺」「時の声」など、後期の作品に思われるものが、思ったより初期の作品であることに気づいたり、読み返すほどに新しい発見がありそうです。

また、個人的に面白いと感じた話題は、バラードの女性像についてのお話です。
渡邊さんは、バラード作品に出てくる悪女から女性の生々しさを感じるとのお話で、牧さんは必ず倦怠期の夫婦やカップルが出てくるなど、むしろ象徴っぽい女性像を感じるとのお話でした。その違いは、お互いの読書の視点展開の振れ幅の違いで、たとえば女性視点か男性視点か、というような違いからくるのかもしれないというのが、牧さんのお話でした。

わたし自身、渡邊さんに近い印象を抱いていたのでその通りかもしれないなと思いました。また、以前からバラード作品の中で女性の描き方が面白いなぁと感じていたので、とても興味深いお話でした。そのほか、バラードの人生歴から見る女性像の変遷などを、柳下さんよりお聞きすることができました。(最初の奥さんと二番目の奥さんの違いなど)

後半は、ゲスト三人より、おすすめ作品についてお話をしていただきました。
(現在出版されている3巻までの間で)「終着の浜辺」「時の声」はもとより、音を清掃するというアイディアが絶妙な「音響清掃」、貝殻に時が閉じ込められている「深珊瑚層の囚人」など、改めて聞けば聞くほど、時間SFとしてのオリジナリティの高さや作品の普遍的価値を考えるとレム、クラークと並ぶノーベル賞に値するSF作家としてのバラードの偉大さを感じました。

バラードの結婚生活や、SF作家になるまでの人生など、今回もレポートにまとめきれないほどたくさんのお話をお聞きすることができました。
蒸し暑い午後でしたが、話に夢中になっている間にあっという間に3時間が過ぎていきました。ゲストの皆さま、参加者の皆さま本当にありがとうございました。

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 ■7月例会レポート by 

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■日時:7月15日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:リブート記念、ローダン入門
●ゲスト:嶋田洋一さん(翻訳家)、上池利文さん(編集者)、井口忠利さん(ローダン・ファン)、井手聡司さん(編集者)

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7月のSFファン交流会は、月末の〈ローダンNEO〉の発売を記念して、ゲストに翻訳家の嶋田洋一さん、ローダンファンの井口忠利さん、編集者の上池利文さん、井手聡司さんをお招きし、世界最長SFシリーズ宇宙英雄ペリー・ローダンの世界に迫りました。

前半は、14歳から〈宇宙英雄ローダン〉シリーズを愛読しているという井口忠利さんより、ローダンの基本知識についてお話していただきました。

まず、原書『PerryRhodan』のドイツ独特の出版形態であるHeftromanについて、お話をお聞きしました。
Heftromanは、ドイツの大衆週刊小説誌で駅の売店等で安価に売られており、一つの作品を複数の作家がリレー形式で執筆していること、読者お便りコーナー(LKS)があることが共通した特徴なのだそう。

日本でいうと〈週刊少年ジャンプ〉のような立ち位置で、〈宇宙英雄ローダン〉はさしずめ『ドラゴンボールZ』のような存在。1971年発刊当初には、10~20代の男性ファンを中心に絶大な人気を博したのだとか。現在は約10万人くらい(最盛期の3分の1くらい)、40~50代になったファンが支えているのだそう。

〈宇宙英雄ローダン〉は、現在までに95名の作家が、〈NEO〉は160冊を29名の作家がリレー執筆しているのだそうで、K・H・シェールなど、基本ラインを決めている作家がいて、その大枠に乗って各作家が執筆していくのだとか。

〈宇宙英雄ローダン〉シリーズは、世界20カ国で翻訳されているそうで、そのうち一巻よりずっと翻訳が続いている国は、フランス、オランダ、日本。
日本では、239巻までを松谷健二さんが、それ以降は、現在までに17人の翻訳者が(数え方を変えると19人)リレー形式で翻訳しているのだそうです。原作も翻訳も、リレー形式で書かれているというのは、面白い出版体制だと思いました。
日本で翻訳する際については、「文体や略語などはなるべく統一し、読みやすいものにして出版している」と、元担当編集の上池さん。井口さんによれば原書は、一人称の文章があったり、文体等も各作家によって全然違って、超個性的なのだとか。

翻訳のみならず、挿絵を描く際にもご苦労が多いようです。
会場に足を運んでくださった画家の工藤稜さんによれば、登場当初頭からアンテナが生えていると思われたガルト・クォールファートのアンテナが、後の巻で実は帽子状の取り外しがきくものだとわかったりと、翻訳を熟読し作画されていても、予想外の展開があるそう。私も表紙(376、385巻)で確認させてもらいましたが、クォールファート氏が東京タワー風アンテナ立てて微笑んでいる、なんともチャーミング! な表紙で、人を幸せにしてくれます。

また、例会では、井口さんのご厚意で、日本で300巻が発行したときにNHKの「ニュース10」で特集された際のVTRと、400巻突破の際に日本テレビ「ZIP!」で特集された映像を見せていただくことができました。 78歳の依光隆氏が表紙を描いている映像や、早川書房の取材で「読者から届くお便りの多くに、『ローダンシリーズはいつ終了するんですか? 死ぬまでに全巻読みたい』などの質問や要望が届きます」といった情報、井口さんや若林さんをはじめとする〈ローダン〉ファンの会合など、貴重な映像を紹介していただきました。

後半は、主要登場人物やサイクルごとのあらすじ紹介。さらにディープなローダンの魅力と、7月20日に発行が迫った〈ローダンNEO〉の紹介をしていただきました。
サイクルごとの駆け足でのあらすじ紹介のあと、〈宇宙英雄ローダン〉シリーズの大きな魅力となっている、多様なキャラクターについても紹介いただきました。

〈宇宙英雄ローダン〉シリーズ最強の呼び声高く、ネズミビーバーとしてそのルックスから、女性ファンからも絶大な人気を博すグッキー。ジャケ買いならぬ、グッキーの表紙の本だけ読む女性読者もいるほどなのだとか。
仮面のふちから光が漏れる仮面の男(漏れて大丈夫なの?)などなど、とにかく〈宇宙英雄ローダン〉シリーズはキャラクターの宝庫。大きいのから小さいの、緑だったり、虹色の光を放ったりと多種多彩。例会で紹介されたキャラクターだけでもたくさんいすぎて、メモにも書き留められないレベルです。こんなところも『ドラゴンボール』っぽいですね。

最後に、刊行間近の〈ローダンNEO〉について、担当編集者の井手さんにお話を伺いました。〈ローダン〉50周年企画として、ドイツで2011年にスタートしたリブートシリーズ。日本では、第1サイクルを、全8巻で毎月刊行を予定したています。

〈宇宙英雄ローダン〉の時代設定が1964年からなのに対し、〈ローダンNEO〉では、舞台を近未来の2036年に設定。主軸のストーリーは〈宇宙英雄ローダン〉をなぞりながらも、科学技術がより最新技術に近づいたり、現代の世界情勢が反映されたり。いろいろなエピソードがギュッと詰まった、お得なシリーズになっているそうです。

〈ローダン〉未読の人はもちろん、既存の〈ローダン〉ファンもみんな読んで欲しいとのことでした。ちなみに早川書房では、元来の〈宇宙英雄ローダン〉シリーズを[正篇]、〈ローダンNEO〉を[NEO]と、略称を統一したそうです。

7月例会はまだまだ書ききれないほど、たくさんの情報が詰まった会となりました。素敵なオールカラーの資料を作成してくださった井口さんをはじめ、会場に駆けつけてくださった画家の工藤稜さん、翻訳家の増田久美子さん、星谷馨さんなどなど、たくさんの方のお話も伺うことができ、本当に豪華な会となりました。

ゲストの皆様、会場に足を運んでくださった参加者の皆様のご協力のおかげで、今回もとても楽しい会となりました。ありがとうございました。〈ローダンNEO〉を読むのが、今から楽しみです。

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 ■8月例会レポート by  

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■日時: 8月19日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:UFO目撃70周年 SFとUFOの世界!!
●ゲスト:礒部剛喜さん(UFO現象学者/SF評論家)、秋月郎芳さん(『UFO手帖』編集長)、中根ユウサクさん(SFファン)

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8月のSFファン交流会は、ゲストにUFO現象学者でSF評論家の礒部剛喜さん、「UFO手帖」編集長の秋月郎芳さん、そして、ファン交常連の中根ユウサクさんにお越しいただき、「SFとUFOの世界」についてお話をうかがいました。

まずは自己紹介がわりに、それぞれの「UFOとの出会い」についてお話をお聞きするところから、例会は始まりました。
62年生まれの礒部さんは、小学2年生で読んだ『怪獣惑星SOS』(M・ラインスター著/南山宏訳/集英社)の中の、南山宏のUFOに対する記事に衝撃を受けたとのこと。UFOとの出会いがSF(小説)との出会いにつながったそう。
70年代生まれの秋月さんは、子どもの頃はUFO特番に夢中になったけれどすっかり熱は冷めていたのが、大人になって偶然思い立ち、宇宙人からの手紙について調べ始めたところ、面白くなったのがきっかけとのこと。
今回、門外漢のファン交スタッフに代わり、進行も務めてくださった中根さんは、77年生まれ。中根さんも、木曜スペシャルの「矢追純一UFOスペシャル」を観て、「これは世界がやばいぞ」(笑)と、夢中になったそう。

前半は礒部さんより、SFとUFOがどう関わってきたか、年代を追ってお話をうかがいました。
礒部さんによれば、「日本空飛ぶ円盤研究会」には星新一や北村小松が在籍し、柴野拓美による国内初のSFファングループ「科学創作クラブ」創設につながったことなどを取り上げられ、SF黎明期には、UFOはとSFは切り離されていなかったことがわかります。
その後、疑似科学論争などを経て、2001年に発売された『新SFハンドブック』(早川書房)では、ついに、巻末の用語一覧に「UFO」の項目がなくなっているとのことでした。礒部さんは、かつて密接な関係にあったSFとUFOが、また昔のような関係に戻って欲しい、と熱心にお話してくださいました。

次にUFOの宇宙外起源説について、年表をもとに年代を追ってご紹介していただきました。特に、ソ連との冷戦時代のアメリカ国内では、UFOの目撃情報は、軍の情報部でも調査対象となっていたそうです。UFOが地球外の飛行物体なのか、どこかの国の秘密兵器なのかという論争は、長い間さまざまな機関を巻き込んで調査研究がなされたそうです。

1970年代には、大UFOブームがやってきたのだそうで、その頃には、映画『未知との遭遇』のような、友好的な宇宙人像も数多くのSF作品で描かれたりしてきました。そして、1990年代のアブダクション体験(強引に宇宙人にさらわれた人の体験)を経て、徐々にUFOを、疑似科学の一部として扱う媒体が増加するに従い、UFOブームも終焉を迎えていったようです。

後半は、秋月さんによる、宇宙人とコンタクトした人たち(以下コンタクティ)のお話を、ご紹介いただきました。冒頭に映画『美しい星』の橋本愛の名演技を紹介して、場を大いに和ませてくださった秋月さんのお話は、大変ユニークなお話でした。

惑星クラリオンから来た美人宇宙人とコンタクトしたトルーマン・ベラサムさん(男性)や、プロキシマケンタウリ星系メトン星人(紳士)と結婚し子どもを設けた、エリザベス・クラーラさんの話(息子は別の星にいる)など、宇宙結婚をはたしたコンタクティもいらっしゃるようです。
また、コンタクティの共通点として、何かを変革せよ! などの特別なメッセージは受け取らず、一貫して地球以外の場所(全般に平和な地)があることを伝えているところに、特徴があるそうです。

8月例会は初参加の方も多く、活気ある3時間となりました。UFOに対するスタンスはさまざまですが、参加してくださったみなさんの中に、SFの1ピースとしてUFOブームがあったんだなぁということを感じ、UFO下火世代としては、改めて「年上の人、ちょっとずるいなぁ」と感じたのでした。

「広大な宇宙にそれが存在するか否かを研究することは、最早荒唐無稽なる非科学なる短見であるとは云えないと思う。〈一部省略〉その真偽を検討することは、われわれがたとえアマチュアたちの研究機関であるとしても宇宙旅行発展史の一ページとして意義のあるものではあるまいか。」(『空飛ぶ円盤研究会機関紙』創刊号荒井欣一氏の寄稿文より抜粋)黎明期のSFファン同様、宇宙への熱い情景を感じることのできた例会でした。

ゲストの皆さま、来場していただいた参加者の皆さまのお陰で、今月も大いに楽しい例会になりました。ありがとうございました。

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 ■9月例会レポート by  

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■日時:9月16日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
●テーマ:祝レムコレ完結! スタニスワフ・レム祭り!
●ゲスト:芝田文乃さん(翻訳者)、牧眞司さん(SF研究家、書評家)、橋本輝幸さん(SFレビュアー)、清水範之さん(編集者)

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9月のSFファン交流会は、「祝レムコレ完結!スタニスワフ・レム祭り!」と題しましてゲストに芝田文乃さん、牧眞司さん、橋本輝幸さん、清水範之さんをお迎えし、国書刊行会から出版されたレムコレクション全六巻の完成をお祝いしました。

はじめに芝田さんと清水さんより、〈スタニスワフ・レム コレクション〉(以降〈レムコレ〉)企画の始まりから完結までの道のりについて、お話していただきました。

2001年くらいに沼野充義さんから、会食の席でこの企画のお話しをうかがった芝田さん。「そのときすでに『高い城』を訳し始めていて……」と、企画より先に個人的に翻訳をスタートさせていたことを打ち明けてくださいました。芝田さんがポーランド語を始めたきっかけは「未訳のレム作品を読むため」と、冒頭から次々とレム愛のあふれ出すエピソードが……。
「2004年に出版された1巻『ソラリス』から、『高い城・文学エッセイ』『天の声・枯草熱』『フィアスコ(大失敗)』までは順調に来たんですが、その後『短編ベスト』まで8年かかりました。その間、国書刊行会の〈レムコレ〉担当者が移り変わり、私で5人目です。」と、現担当編集の清水さん。
国書刊行会では、万感の思いのこもった〈レムコレ〉の完結ということで、特製「クリアファイル」プレゼントや、若手営業さんが企画した、フェア限定特別冊子『レムとの遭遇 ガイドブック』(フェア参加店にて無料配布)など、気合を入れた営業となっていったそうで、ファンとしては、なんとも嬉しいお話でした。 改めてフェア限定特別冊子を眺めると、寄稿者は、円城塔、奥泉光、豊崎由美、黒沢清、八代嘉美、速水螺旋人。そうそうたる顔ぶれですね!
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『スタニスワフ・レム コレクション』完結記念特集&フェアのご案内
http://www.kokusho.co.jp/special/2017/07/post-6.html
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芝田さんには、『高い城』出版後、レムに会うため、ポーランドにあるレムのご自宅まで行ってきたときのお話も伺いました。
ご自宅の2階にある書斎に通されて、レムてずからソファを用意してくれたそうで、まるで夢のようなひとときだったそう。レムは当時84歳だったそうですが、翻訳した『高い城』を見せたところ、どう読むの? と日本語の読み方に興味を持たれたり、日本の地震のこともご存じだったりととても好奇心にあふれた方だったそうです。作品から伝わるイメージ通り、権威的なところが一切ない、気さくなお人柄を感じたそうですが、お話からはペン一本で身を立てたという自負が伝わってきたのだとか。

後半は、「マイベスト・レム」ということで、ゲストの方々に作品への愛を語っていただきました。
トップバッターは牧眞司さん。
長編ベストは、『天の声』。
本書では、すごい延々議論をした後に、語り手であるホーガスが悟るシーンがレムならではというか、言葉の思考の外に真実を見つけて悟るというところがすごいとのお話でした。
短編ベストは、『短篇ベスト10』に収録されている「仮面(マスク)」。イーガンが題材にしているテーマを、すでにレムは1980年代に書いている。先駆的なところはもちろん、文学的技巧の詰まった構成も見事な作品。

牧さんの『天の声』に対する思いや、お話のなかに感じたレム愛につきましては、読書コラムサイト「シミルボン」でも詳しく論じていらっしゃいます。
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【レム『天の声』論】言葉の埒外に生まれる思考↓
https://shimirubon.jp/columns/1677346
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続いては、国書刊行会の清水さん。
長編は『完全な真空』と『砂漠の惑星』。短編では「仮面」「探検旅行第一のA…」「21世紀叢書(『主の変容病棟・挑発』)」が挙がりました。

そもそも『短篇ベスト10』のもととなった、『ベスト15』は、ポーランドの読者投票によって選ばれた短篇をもとに、レム研究家イェジイ・ヤジェンプスキとレム自身がさらに選りすぐり、「ベスト15」が編まれたともの。さらに「仮面」は、レム自身の意思によって加えられた作品ということや、短篇集の編集の際に、最後に入稿された原稿という部分でも思い入れがあるとのこと。レムの偶然性の必然感がすごく好きとのお話でした。

芝田さんは、何と言っても高校生の頃に出会った初レム作品『砂漠の惑星』。小さいころ昆虫採集とかしたことはないけど虫が好き、ルーツは「仮面ライダー」かしら……? なんてお話も飛び出しました。

短篇では、「洗濯機の悲劇」「A・ドンダ教授 泰平ヨンの回想記より」(共に『短篇ベスト10』所収)、「盗賊『馬面』氏の高望み―第六の旅―」(『宇宙創世紀ロボットの旅』所収)。故郷から何も持たずに去らねばならなかったレムの「この世に確かなものは何もない」という真諦的な意識が表現されている部分に強く惹かれるそう。

今回進行役も務めてくださった橋本さんは、長編はいろいろ考えて『ソラリス』とのこと。
最初に読んだ頃はピンとこない部分もあったそうですが、いろんなものを読んだ後に再読すると『ソラリス』つながっているなぁと感じるとのこと。未知の星のことが、語り手の生活上のことから自然とわかるように描かれていたり、表現の部分でもレムのすごさが詰まっているといったお話でした。

短篇では、連作短篇集『泰平ヨンの航星日記』がバリエーション豊かで誰でも楽しめるとのこと。『短編ベスト10』からは、やはり「仮面」が印象的とのお話でした。橋本さんには、本のお話の他にもドイツのテレビ番組、ホーランドのSFやファンタジーの出版事情などもご紹介いただきました。

個人的には、やはり話題にたびたび取り上げられた「仮面」のお話が大変興味深かったです。
たとえば、「仮面」では、冒頭の意識が誕生し、自我が芽生えていく際にポーランド語では中性形から女性形に動詞の人称変化があるそうなんですが、翻訳版ではいろいろ試した結果、文字をゴシック体から明朝体として、その部分を表現しているのだそうです。

そのほかにも、この作品はあくまで文学的文脈の中でお話が語られているので、今回みなさんからお話を伺えて、なんとなくしかわかりえなかった部分にピントが合った気がして俄然再読の面白さが増した気がしています。

牧さんや芝田さんによれば、レムは、ディックやル=グインは評価しているけど、「世界のSFの九十九パーセントは、わたしの好みに合わないよ」と。特にアメリカSFを酷評しているそうですが、自分の価値観に真っすぐなところが、時代を経ても褪せないレムの思考の魅力なのかもしれないなと、強く感じました。
なお、レムの名言については、牧さんがシミルボンコラムでまとめてらっしゃいます。
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【スタニスワフ・レム語録】
賢人、宇宙と人間と小説について語る↓
https://shimirubon.jp/columns/1676620
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今回も情報量ぎっしり(何せレムですから)の3時間となり、レポートには全然まとめきれませんでしたことご容赦ください。
また、近づく台風にも負けず多くの参加者の方にお集まりいただき、楽しいひとときとなりました。ご協力いただいたゲストのみなさまにも、深く感謝申し上げます。

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 ■10月例会レポート by  

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■日程:10月7日(土)夜
■時間:夜(京都SFフェスティバル合宿企画内)
■会場::旅館「さわや」本店
●テーマ:野崎まどの正解
●出演:らっぱ亭さん

※参加には京都SFフェスティバル合宿への参加申し込みが必要です。

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10月例会は恒例の出張版! ということで、京都SFフェスティバル合宿企画の一コマで、ゲストにらっぱ亭さんをお迎えして、アニメ化で今年話題となった、野崎まどの作品について語り会いました。
会場にいらした三十名弱の方の中で、野崎まどの小説を読んだことがある方は8割程度。そして、メディアワークスから出版された作品まですべてチェックしている方を、ゲストのラッパ亭さんとファン交スタッフの平林さん以外にもうひとり発見!

まずはアニメ「正解するカド」について。「カド」は、野崎まど作品の特徴がしっかりとでたアニメ作品だったということで、会場のおおむね了承を得たところで、「では、どの辺がまどなのか?」という流れに。アニメの中での、「まど」の魅力と、その特徴について話し合いました。

前半、第3話くらいまでは、ポリティカルフィクションの新機軸を打ち出してくれるんじゃないかという期待感が高かったということで、アニメファンもおおむね好評の滑りだしでよかったという意見でした。ただ、物語のおさめ方には賛否両論が入り乱れました。ひとりで書き上げる小説と、大勢の人で制作するアニメとの違いから、結果として、できあがった作品に違和感を残したのではないかとの言及がありました。話題は、徭沙羅花が着ていた「くり」のTシャツにもおよび、変わったデザインTシャツ着用女の子繋がりで、「けいおん!」に話題が脱線しそうになったり・・・。

後半はゲストのラッパ亭さんに、小説の魅力についてお話していただきました。
最初にアスキー・メディアワークス から出版された6冊についてラッパ亭さんは、各作品、独立した作品として読んでいたところ、5冊目の『パーフェクトフレンズ』で、先の作品と世界観を共有していることに気づき、6冊目の『2』でいままで人間関係や設定がすべて繋がり、さらに、アニメ「正解するカド」のエンディングにも繋がりを感じる、驚きの結末を迎えるとのことです。ということで、この野崎まどワールドを体験するためには、6冊すべて読むことが必須とのこと。

6冊のなかで、ラッパ亭さんの一番のお気に入りは、『パーフェクトフレンド』とのこと。女の子4人の友情物語で、ほっこりするお話だとか。『小説家の使い方』は、AIの登場するSF小説! とのことで、ぜひSFンファンに読んで欲しい一冊だそう。この小説が出た年の『SFが読みたい』に、作品名が掲載されなかったことで、ラッパ亭さんは落ち込んだのだとか。

 最後に、最近のライトノベルが大変なことになっていると一部で話題となった、電撃文庫から出版されている『野崎まど劇場』についてお話していただきました。
 相撲の力士画像が自主規制で移せないから音声と雑なフィギアで相撲解説が繰り広げられる設定のお話や、ハムスターを連れての対局に挑み、初手王手、角!? という謎の一手が繰り出されるお話だったりと、何から突っ込んでいいのやらと迷うほど、突っ込みどころが満載の小ネタの続くシリーズなのだとか。  抜群の文章の書き分けの上手さを武器に創造の斜め上を目指し続ける、作家野崎まどの世界観にどっぷり浸った濃密な一時間となりました。
 ゲストのラッパ亭さま、ご参加いただいた皆様ありがとうございました。

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 ■11月例会レポート by  

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■日時:11月18日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館
●テーマ:
祝「ブレードランナー」続編! 『2049』とディック新訳の魅力
●出演:
添野知生さん(映画評論家)、縣丈弘さん(B級映画レビュワー)、大森望さん(翻訳家、書評家)、山形浩生さん(翻訳家)

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SFファン交流会11月例会は「祝 ブレードランナー続編!『2049』とディック新訳の魅力」と題して、ゲストに添野知生さん、縣丈弘さん、山形浩生さんをお迎えし、最近続いているフィリップ・K・ディックの新訳作品や、35年ぶりの続編として上映中の映画『ブレードランナー2049』の魅力を語っていただきました。

前半は、ディック小説と新訳について山形浩生さんにお話を伺いました。
まずは最近の新訳ブームについて、そもそも訳し直す必要があったのかという直球の問。古い翻訳のなかには、新しく訳し直しても良いものもあれば、いちから訳し直さなくてもいいと感じる作品もあったと。

たとえば最近山形さんの新訳が刊行された『去年を待ちながら』は、旧訳に問題があったわけではなく、翻訳が複数あってもかまわないだろうと思い、引き受けたそうです。新訳にあたっては、基本的には旧訳を参照せずにいちから訳し直しつつ、ウォッシュ35(ワシントン1935のこと)といった独特の造語を、どこまでわかりやすく訳すかといったところで悩んだときに、旧訳を見直して参考にしたそうです。

 大森さんが新訳された『銀河の壺なおし』についても、旧訳のサンリオ版もそんなに気になる翻訳ではなかったとのこと。いざ読み比べると、表現を工夫していた旧訳に対して、大森さんの訳はフラットな文体。しかも、オチが旧訳と全然違っています。山形さんも驚いたラストシーン、ぜひ読み比べてみてください。
フラットな訳といえば、2016年5月のSFセミナー出張版で、『カエアンの聖衣』新訳について大森さんに伺った際に、旧訳の演出過多な部分を、読みやすいシンプルな訳に直すよう苦心腐心されていたのを思い出しました。ディックの作品には、現実と非現実の違いや、人間と非人間の違いが共通のモチーフとしてよく登場します。山形さんは、ディックは非人間はどれほど人間に似ていても「別物」と、考えていたのではないかと感じているそうです。これはディックに限らず、アメリカ小説が昔から持っている強迫観念のようなものだとか。
添野さんから、映画『ブレードランナー』では、アンドロイドが良いもののような扱いだったし、小説からもディック自身が、必ずしも非人間が悪いものというふうには思っていなかったように感じられるとの指摘がありました。
山形さんは、ディック自身が半神半人に見下されているという妄想を持っていて、非人間への畏れがある一方で、人間自身も単純には信じきれていないので、ひとつの作品の中でも悩み続けているのではないかという考えでした。虫など明示的な非人間が出てくるときは大体悪いもの扱いですが、アンドロイドのように人に近くなると良いものとも悪いものともつかぬように書かれることが多いようです。

後半、映画『ブレードランナー2049』の話題で、例会参加者も交えて盛り上がりました。
今でこそ伝説的映画のように思われている『ブレードランナー』ですが、上映当時はSFファン以外にはそこまで話題になったわけではなく、ビデオテープが家庭に普及して、何度も観返せるようになってから評価されだした、遅咲きの作品だったそうです。
今の映画は高画質で何度も繰り返し観られることが前提になるので、細かいところまでチェックされてしまい大変だよねえ、なんて話もありました。

新作『2049』について添野さんは、世界中のファンに配慮された作品だと感じられたそうです。SF映画の面白いところは、SF的イメージをどう映像に落とし込んでいくかで、監督の違いがよく分かるところ。『ブレードランナー』のいいところは、リドリー・スコットの「俺イメージ」。新作『2049』で印象的なところは、ヴィルヌーヴのイメージが強く出ているとか。新しいことをやりつつ、旧作への配慮もありました。

一方で、旧作の熱烈ファンのなかには、続編が作られること自体が許せない人がいたり、レイチェルの扱いで引っかかった人も多かったようです。
山形さんは、新作は旧作への対照チェックリストを順番にこなしている、ファンメイド映画のようで嫌だったそうです。新しい世界を見せるのが『ブレードランナー』の使命だったので、こんなに旧作に配慮することはなかったと。物語の進行から不要なシーンを次々挙げられていましたが、たしかにそうなるとかなり絞り込まれて新作のオリジナリティがでそうでした。

縣さんは、旧作への配慮もありつつも、思った以上にヴィルヌーヴ監督の色が出ていたというように観られたそうです。監督の過去作でも、主人公が自分のオリジンに迫るテーマのものがあり、真相がわかる瞬間にヒヤッとなる感覚が一緒だったとか。山形さんのように理詰めで考えれば不要なシーンもあるけれど、ヴィルヌーヴらしい撮り方の結果じゃないかというお話もありました。

 会場からは高橋良平さんから、旧作ではもともとデッカードがレプリカントかも知れないという示唆がまったくなかったところから、ディレクターズ・カット以降で示唆が増えていっている。といった、リドリー・スコットによる後付編集が、旧作と新作のすり合わせの悪さにつながっているのではないかという話がありました。その後も会場から音楽の良さや、キリスト教的影響、繰り返し観るときの注目ポイントなどの話題も出てきて、参加者全員で『2049』をたっぷり楽しむことができました。
ゲストの皆さん、そして一緒に会場を盛り上げてくださった参加者の皆様、誠にありがとうございました。

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 ■12月例会レポート by  

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■日時:12月9日(土) 14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
●テーマ:SF古本話&ファン交忘年会(仮)
●ゲスト:北原尚彦さん(作家、翻訳家)、彩古さん(「古書いろどり」主人)



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「一年、みなさまありがとうございました。」ということで、2017年のトリは、「SF本」の話題で締めくくりたい! ということで12月例会は、前半は作家で古書収集家の北原尚彦さん、古書いろどりご主人の彩古さんにお越しいただき、SFの古本話。そして、後半はファン交の「納会」ということで、参加者全員参加の古本交換会を行いました。
「そもそも、古本道に入るきっかけって何ですか」というところから、例会は始まりました。おふたりとも中学生あたりから蒐集が始まったようで、北原さんは、ハヤカワSFシリーズを探すのがきっかけ。彩古さんは、近場にない本を探すために、文庫目録をチェックしだしたのがきっかけとのこと。
今の目録は在庫のあるものだけなのですが、昔の目録は在庫切れしている本とかも載っていて、しかも通し番号順に並んでいたので、これがないというのがわかりやすかったのだとか。「番号がついていると順番にそろえたくなるよね。」と北原さん。揃え終わると、すり箱が欲しいとか帯が欲しいとか、ジャケット違いを……と、沼にはまっていくのだとか。
かつて、SFセミナーの合宿企画「ほんとひみつ」で日下三蔵さんが、見た目にはいっけん同じものにしか見えない本を数冊取り上げて「この本とこの本は違う本だ。」と解説したことがあったそうで、そのとき会場は笑いに包まれたのに、翌年にはすっかり毒され、みんなそんなことを言い始めたんだよね。でも確かに、古本というのはダブらせて初めてわかることもあるんですよ。(笑)と北原さん。
会場の若い参加者向けのお話としては、古典SFが読みたい人は、やっぱり『日本SFこてん古典』がおすすめとのこと。〈SFマガジン〉に掲載記事ということで、冒頭に今月はこんなひどいめにあったといった横田順彌さんの近況の話のまくらも面白かったのだとか。また、最も面白いところを抽出して紹介してくれているので、現物を読むと、あれ? と思うこともこともしばしばあったのだそう。
続いて、古書即売会について彩古さんに伺いました。
古書即売会には、「N氏の会」「筒井倶楽部」に所属していたところ、会合のある金曜日に、神田で即売会があるから一緒に行こうと誘われたのが最初だそうで、そのころからコレクターはいたそう。また変わったところでは、いろんなファンクラブを渡り歩いて珍本や絶版本を行商している、一種のセドリ屋さんみたいな人もいたのだとか。当時の「N氏の会」には大コレクターがいたそうで、そういった人たちからも影響を受けたのだそう。
そのほかにも、SF本だと、『SF図書解説総目録』などおおむねリストが存在している一方、SF漫画の書誌的なものがないのが残念といった話。あと雑誌の付録も多少過去にリストはあったけど、付録は国会図書館は捨ててしまうので全体像がつかめないままなのだとか。
また、古本コレクターと切っても切れない『管理』問題ということで、お金よりも熾烈なスペース問題などにも話は及びました。
「昔は、このままSFの古本全部あつまちゃったらどうしよう(笑)という気持ちがあったけど細かいことにこだわるとどこまでも・・・つづくね。」と北原さんの笑顔に古本道の奥深さを見ました。

後半冒頭は、前半にも話に時折登場した、スタッフ放出のサンリオ文庫の、冒頭1行からタイトルを当てるクイズを行いました。当日参加の方へのプレゼント本ということで、中身が見えないようしっかりラッピングされていますので、作品リストと冒頭の文句、本の厚さだけが頼りということで、思わぬカルトクイズとなってしまった本企画。参加者のみんなで、頭を抱えながら本の話をするという、これぞ交流会的な雰囲気で、盛り上がりました。
最後はクイズの出題に使ったサンリオ文庫と、彩古さんが提供してくださったSFシリーズを中心としたSF本、そして、各自参加者の皆さんが持参した本を手に取り輪になって、プレゼント交換ならぬ古本大交換会を行いました。
ゲスト皆さま、ご参加いただいた参加者の皆さま! おかげで例年以上に楽しい12月例会となりました。本当にありがとうございました。

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