ファン交 2019年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by

過去の案内文へ戻る ■日時:2019年1月19日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:2018年SF回顧(国内編)
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、牧眞司さん(SF研究家)、鈴木力さん(レビュアー)

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1月例会は、2018年SF回顧と題しまして、ゲストにSF作家、SF評論家の森下一仁さん、SF研究家の牧眞司さん、レビュアーの鈴木力さんをゲストにお招きし2018年の国内作品を振り返りました。会の冒頭では、森下さんの呼びかけで、亡くなられた横田順彌さんへの黙祷を行いました。
まずは、年はじめの例会ということでお三方より今年の抱負を伺いました。牧さんは、今年はSFの企画を一つやりたいとのお話でした。森下さんは、もっとSFを読みたい、そのために健康でいたいとのこと。最後に鈴木力さんは、SFセミナーで竹書房企画をやります!と宣言されました。今からSFセミナーが楽しみです。

2018年の長篇おすすめ作品として全員が被っていた作品は、飛浩隆『 零號琴』。牧さんの感想は、大した悪ふざけの小説。絢爛たる構造物を、良くつくっているという印象もあったり。また、インタビューで飛さんご本人がいろいろお話していて、数ある書評がどれも読み切れていないと感じたそうです。
森下さんの感想は、5, 60年代のSFをいろいろ集めてきて、新しい時代のスペース・オペラ、ワイドスクリーン・バロックが出てきたという感じ。アトム、ヴァンス、コードウェイナー・スミス、バラード……、SF黄金時代のレジェンドがよくかみ合わされている。南アメリカ文学が、自分たちの風土をよくかみ砕いて文学の世界を作ったように、SFの土台がうまく使われている、とのでした。力さんは、超力作のファン活動みたいな印象を受けたそうです。これまでの飛作品にあまりなかったユーモアが、前面に押し出されているのが好みとのこと。

次に話題に上がった作品は、門田充宏『風牙』。森下さんは、どんでん返しのある小説の構成が面白いとのこと。牧さんは、共感能力ものだけど、人の精神に入るためには一人ひとりに合わせた翻訳が必要になるので、言葉の問題を扱っているところが面白いとの見方をされていました。また、創元短編SF賞からの連作短編化ということで、芥川賞候補を2人も輩出し、これほど「歩留まりのいい」SF賞もないね、とも。力さんは、柾木吾郎『もう猫のためになんか泣かない』を連想されたそうです。

同じく、創元SF短編賞がらみで話題に上がったのが宮内悠介『超動く家にて』(宮内さんは、創元SF短編賞山田正紀賞受賞)。
「宮内さんは、頭の中にジャンル切り替え装置があるみたいに、ジャンルを超越するのではなく、それぞれのジャンルに対してしっかりと合わせて書くことのできる器用な作家。同時期に文春からでた『ディレイ・エフェクト』は、純文学っぽさが伝わってくる」と、森下さん。牧さんは、「宮内さんの長編はどのジャンルでも読めるし、どれも宮内悠介の作品。でも宮内さんご自身は、ジャンルへのロイヤリティは高く、SFのコードで書くべき作品はSFのコードで、ミステリのコードはミステリのコードで書こうとしている」とのお話でした。

続いて、高山羽根子さん『オブジェクタム』(高山さんは創元SF短編賞佳作受賞)。「すごいよね、懐かしいのか妖しいのかわからない世界。北野勇作とは似て非なり、違う世界にいつの間にか行っちゃう」と牧さん。そして、森下さんも「文章がめちゃくちゃうまい。文章力と扱っている題材の懐かしいような不思議なような取り合わせで、高山さんはどんどんと書く世界が変わっていっている」と。皆さん、「この先が楽しみ。」と絶賛でした。

続いて話題に上がったのは、石川宗生『半分世界』(石川さんは第7回 創元SF短編賞受賞)。「発想の起点は藤子不二雄っぽいけれど、そこからの引っ張り方が独特で、不穏なんだけど、不穏さそのものを書くのが目的じゃない。変なシチュエーションがどんどんエスカレートしていくのはかんべむさし的だけど、そこからどこに向かっていくのかがこの人はわからないところが魅力」と牧さん。
 
今年は、ゲスト3人がそろって押した作品の数が5作品と、例年以上に国内作品豊作! という印象でした。また、今年、話題を総なめした「創元SF短編賞」には、今後も目が離せませんね。
その他話題に上がった作品としては、『人類滅亡小説』、『飛ぶ孔雀』『ハロー・ワールド』『この先には何が!? じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』『プラネタリウムの外側』『工作官間宮の戦争』『ランドスケープと夏の定理』『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』『文字過』『未来職安』『星系出雲の兵站』『厨師、怪しい鍋と旅をする』『うなぎばか』『機巧のイヴ 新世界覚醒篇』『百万光年のちょっと先』『バッドランド』などなど。

会場からも、たくさんのご意見もいただき、今年もレポートに書ききれない、数多くのの作品が話題に挙がった、アッという間の3時間となりました。ご出演いただいたゲストの皆さま、ご参加くださった参加者の皆さまありがとうございました。

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■2月例会レポート by  

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■日時:2019年2月16日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:2018年SF回顧(海外・メディア・コミックス編)
●ゲスト:中村融さん(翻訳家)、添野知生さん(映画評論家)、
林哲矢さん(レビュアー)、懸丈弘さん(B級映画レビュアー)、冬木糸一さん(レビュアー)

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2例会は、1月に引き続き、恒例の2018年回顧 海外、コミック、メディア篇です。ゲストに翻訳家の中村融さん、レビュアーの冬木糸一さん、映画評論家の添野知生さん、レビュアーの林哲矢さんをお招きして2018年を振り返りました。

前半は、海外翻訳作品について中村さん、冬木さんのおふたりからおすすめ作品について伺いました。
まずは、映画公開50周年を記念したノンフィクション『2001年、キューブリック、クラーク』。何とか今年中に出したいという関係者の執念が実り無事12月21日に出版できたとのこと。クラークの私生活が赤裸々に描かれていて、この本を読むとクラークがホントにいい人だとわかると中村さん。次に、3月例会で取り上げる予定のコニー・ウィリスの新作、『クロストーク』。コニー・ウィリスが70歳を超えて書き始めた作品で、古典少女漫画的ネタだけど、やっぱりうまい、という話など。詳しくは3月例会でしていただきます。

ちょっと変わったおすすめ作品として挙がったのがナオミ・オルダーマン『パワー』、デイヴィッド・レヴィサン『エブリディ』。どちらもジェンダーSF的におもしろい作品との紹介でした。 『パワー』は特に、電撃を放つ能力が女性に宿るなど男女の力関係が逆転する世界設定が面白い作品。サウジアラビアとかの女性が軍隊に対して反撃するとか、女性主体のテロ組織が出現する。女性だから平和になるわけではないストーリーというところも、ジェンダーフリー的な思想を意識できる作品なのだとか。
今年はアンソロジーが良かったということで『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』、『チェコSF短編小説集』、『言葉人形』などが話題に挙がりました。 ジェフリーフォードについては、会場にいらした担当編集者の古市さんより、 編集こぼれ話など、内輪のお話も伺えて面白かったです。短編の中では、特に「創造」が面白いとのこと。

そのほかに、2016年に出版された『ハリーウォーガスと12回目の人生』で注目されたクレア・ノースの作品『接触』やキム・ニューマン『ドラキュラ紀元シリーズ』、『モリアーティ秘録』などの紹介も非常に面白かったです。その他、『折りたたみ北京』、『七人のイブ』『竜のグリオールに絵を描いた男』など『SFが読みたい!』のランキング上位作品をはじめここでは、紹介しきれないほどたくさんの本を紹介していただきました。

後半、まず「メディア編」を、添野知生さんにご紹介いただきました。今年は、SFファンタジーは、少なめで落ち着いた年だったそうです。とはいえ、『ウェストワールド』、『ハンドメイズ・テイル』など、ネット配信作品もどんどん増えているので、観る時間が本当に足りないとのことです。
今年度の劇場公開作品は、ざっくりカウントして年間1200本前後。もはやすべてを見るのは物理的に不可能な状況のなか、添野さんが250本程度に絞ったなかでの「おすすめベスト10」を、ランキング形式でご紹介いただきました。
10位『ペンギン・ハイウェイ』
9位『アンダー・ザ・シルバーレイク』
8位『アナイアレイション -全滅領域-』
7位『ブラックパンサー』
6位『シェイプ・オブ・ウォーター』

5位は『犬ヶ島』。犬好きにお勧めの作品。犬を隔離して埋め立て地に閉じ込めてしまう世界で、男の子が自分の飼い犬に会いに行くストーリー。4位『ランペイジ 巨獣大乱闘』は、傑作怪獣映画。巨大なワニ、オオカミ(巨大化して空が飛べるようになった)サンディエゴの動物園の白い毛のゴリラが戦う、アメリカ怪獣映画の伝統10メートル以下の中型怪獣の面白さが詰まってます。3位『死の谷間』。変わったSF翻訳小説が原作。ポストフォロコーストもの。人類が滅びたアメリカの田舎町で、ナウシカの風の谷みたいな汚染されなかった地域にひとりで暮らしている少女が主人公の話。2位『A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー』。テキサスの田舎町が舞台のホラー映画。後半がSFになっており、びっくりするSF的仕掛けがあるよとのこと。

そして1位は『ダウンサイズ』。
人間が縮んで、ミニチュアドーム都市に行く世界。そんな世界にも難民が発生したり、理想のドーム都市にもスラムができたりと設定も面白い。SF的にはさらに面白い次の世界が設定されている。そこがさらに面白いとのことでした。また、選外で紹介された、『500頁の夢の束』スタートレックの大ファンの少女の物語もとても面白そうでした。添野さんの2019年の期待作カレンダーの紹介もあり、今年も夢のような一年間になるはず! とのこと。期待大です。

最後は、毎年駆け足の紹介になってしまう「コミック篇」を、林哲矢さんよりご紹介していただきました。水上悟志短編集『放浪世界』 (BLADE COMICS)は、宇宙移住先を探すための巨大ロボ型の団地が舞台のお話とのこと。伊藤正臣『マグネット島通信』(BUNCH COMICS)は、田舎の島の日常風景が描かれた作品で、そこでいつまでもいつまでもくるくる回るちょっと不思議な金属片を発見し、集めていくと・・・という話、スローなストーリーテンポが島の雰囲気にあっているのだそう。
八木ナガハル『無限大の日々』(駒草出版)は、遠未来世界の話で、とにかく壮大。話が銀河規模で行われ物理法則も変わるのだとか。YASHIMA 『アンドロイドタイプワン』(アクションコミックス) は、家電としてのアンドロイドを緻密に描写した作品。レンタルとか記憶の消去法とか、人工知能を暴走させてしまう話などが収録されているそう。「甘えたいときはそばにいて」とか、アンドロイドものの中で、もっともリアル側に寄せた作品。

瀬野反人『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~ 』(角川コミックス・エース) は林さんの、2018年一押しとのこと。人狼、スライムのいる世界の言語学者が主人公。師匠の代わりにフィールドワークを行い特殊な言語について知見を得るストーリー。ファンタジー世界の言語の作りが絶妙で、研究をしてモノをしる何かがわかっていくところが面白いとのことです。そのほか、駆け足で時間が許す限りたくさんの作品を紹介していただきました。

まだまだ書き足りないのですが、今年も盛りだくさんで非常に盛り上がった2月例会になりました。ゲストの皆さま、参加者の皆さまありがとうございました。

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 ■3月例会レポート by 

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■日時:2019年3月16日(土)14:00-17:00
■会場:氷川区民会館
 (JR渋谷駅徒歩12分)

●テーマ: トークトークトーク! 女王コニー・ウィリス
●ゲスト: 大森望さん(翻訳家・アンソロジスト)、池澤春菜さん(声優・エッセイスト)、冬木糸一さん(レビュアー)


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3月のSFファン交流会は、『トークトークトーク!女王コニー・ウィリス』と題して、ゲストに大森望さん、池澤春菜さん、冬木糸一さんにお越しいただき、70歳を超えてなお活躍し続けるコニー・ウィリスの魅力についてお話をいただきました。

まずは、新作『クロストーク』について、お話をしていただきました。『航路』以来の現代長編小説で、ラブコメデイ。ほぼ現代を舞台に現実にはない新技術をひとつだけ挿入するというSF設定は、『航路』との共通するウィリスの特徴なのだとか。今回はEEDという、なんの略か最後まで正式名称がわからない新技術が登場します。ドイツ系の携帯電話会社に勤めるキャリアガールが主人公。付き合いたてのイケメン若手エリート社員の恋人とより仲を深めるためにセレブにはやりの手術EEDを受け感情の絆るはずが、さえない変人オタク社員CBと……。

社内描写で、アナログに伝言を普通に使ったりその結果すれ違いが起こったり、スマホの使い道がショートメールだけだったりと、コニー・ウィリス自身がスマホを使い始めたばかりということで、IT技術に精通していない感は出ているけど、そこを気にしなければ逆に面白く感じるかもとのこと。たとえば、主人公の下の妹が架空のマッチングサイトを使っている設定とかも、逆に面白どころに。
あと、主人公を取り巻くアイルランド系の一族の団結力も、魅力のひとつとなっています。大都会に住んでいるにも関わらず、濃密な家族感があったり、なにかとアイルランドルーツを大切にするけど、誰もアイルランドで暮らしたことはない。完全に一族の想像の中の、イマジナリーアイルランド文化や一族の長ウーナおばさんや9歳の天才少女メイヴちゃんなどキャラの濃さなど、主人公以外のキャラクター濃さも魅力のひとつになっています。

さらに話の構成の上手さも、ストーリーテラー、コニー・ウィリスの上手さが際立つところ。北上次郎さんが予備知識なにもなく読んで、3段くらいギアが挙がる感じと絶賛されたそう。「とにかく長い長編を翻訳する苦労は?」と大森さんに伺ったところ、「長距離マラソンみたいなところがあるけど、会話を訳すのが好きだから、現代物はやりやすい」とのこと。〈オックスフォード〉シリーズの決まり文句に、「ほうぼう探しまわったのよ。」とあるように、コニー・ウィリスというと、すれ違いによるすれ違いで、キャラクターがうろうろする描写が多いけど、新作は、右往左往が少ないのが好きと池澤さん。ごちゃごちゃしているところがするすると解かれるところと読者の感情を掴むのが上手い。最後まで読むとあー面白かったとなると冬木さん。

後半は、ゲストの皆さまからそれぞれのベスト作品を紹介していただきました。
シンシア・フェリスとの共作である『アリアドニの遁走曲』をご紹介してくださった池澤さん。ハワイの古本屋さんで1.88ドルで買ったという本との出会いはなんとも珍妙でした。日本へ帰るはずの便の機体に紙おむつが詰まるというハプニングで、予定通り帰国できなくなった池澤さんに訪れたピンチ! それは、読み切った本ばかりで読む本がないという恐怖。そんなとき、ホノルルの本屋さんで見つけた奇跡の本が『アリアドニの遁走曲』だったのです。内容は、メイヴちゃんのスピンオフ作品っぽい話で、戦時下を生き抜く少女科学者の冒険譚。女の子が頭が良くてポジティブな主人公が好きと池澤さん。

冬木さんのベストは、『航路』。一番有名で僕が一番最初に読んだからとのこと。臨死体験をモチーフにした話で死に向かってダイブを繰り返すところが面白いし、いろんな名言っぽいやつがいいとのこと。
大森さんには、コニー・ウィリス翻訳のきっかけについてお話しいただきました。最初に「わが愛しき娘たち」を、女子寮ものと聞いて訳したけれど、男子寮で起きていることの方が問題だった(笑)とのこと。短篇集の表題作だったことからほかの短編もということで、そこから翻訳することとなり、偶然から、大森さんにずっとコニー・ウィリス翻訳の話が来ているそうだ。

そのほか、「犬は勘定にいれません」のヴィクトリア朝花瓶の翻訳秘話など、興味深い話が続き3月例会もあっという間の3時間でした。個性あふれる愛すべき作家コニー・ウィリスの新作に期待したいと思います。まだまだ長生きしてたくさん長いお話を書いて欲しいです。

追伸
 3月例会の会場は、久しぶりの氷川区民会館でした。
 渋谷駅から、工事中で通行止めの階段をなんとかかんとか抜け、普段以上に時間をかけエッチラオッチラ。ようやく会場にたどり着いたのですが、ゲストの大森さんからひと言、「氷川区民会館の最寄り駅は、恵比寿ですよ。」と。
みなさま、次回氷川区民会館が会場になったとき、山手線で移動の方は是非、恵比寿駅からお越しになってみてください。

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 ■4月例会レポート by  

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■日時:2019年4月13日(土)14:00-17:00
■会場:「はるこん2019」会場・川崎市国際交流センター
 (東急東横線・東急目黒線「元住吉駅」より徒歩12分)

●テーマ: やっぱり、短篇SF!
●ゲスト: 高山羽根子さん(作家)、倉田タカシさん(作家)、八島游舷さん(作家)、大森望さん(アンソロジスト、翻訳家)

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SFファン交流会4月例会は、恒例の「はるこん」に出張して参りました。「やっぱり短編SF!」と題しまして、作家の高山羽根子さん、倉田タカシさん、八島遊舷さん、アンソロジストの大森望さんをお招きしてお話をお聞きしました。

まず大森さんから、〈NOVA書き下ろし日本SFコレクション〉出版のきっかけを伺いました。〈NOVA〉出版を計画した2007年くらいは、日本のアンソロジーの出版数は英語圏の100分の1くらいの状況で、もっと媒体があった方がいいと感じたことがきっかけのひとつだったとのことです。
次に、《年刊日本SF傑作選》『プロジェクト:シャーロック』「天駆せよ法勝寺」(第9回創元SF短編賞受賞作、2018年)でデビューの八島さん、『NOVA 2 書き下ろし日本SFコレクション』 「夕陽にゆうくりなき声満ちて風」(2010年)デビューの倉田さん、〈創元SF短編賞アンソロジー〉『原色の想像力』 「うどん キツネつきの」(第1回創元SF短編賞佳作、2010年)でデビューの高山さんと、ゲスト作家三人とも短編からのデビューということで、短編を書くきっかけや、作家となるまでの経緯についてうかがいました。

背景として、最近までSF系のコンテストや新人賞がなかったので、SFを書きたいと思ったら、ホラー大賞やファンタジーノベル大賞などの長編の賞を狙うしかなかったと、当時の出版体制がきっかけとしてあったのでは、という話がでました。創元SF短編賞(2010年より)とSFの公募が始まり、早川書房が主宰するSF小説の公募新人賞「ハヤカワSFコンテスト」(2012年より)の復活。競合する心配も応募枚数で、うまく共存し杞憂に終わったとのことでした。
作家になるまでの経歴も、お三方ともさまざま。倉田さんは、デビュー当時は「そもそも小説書けるのかわからない」という不安があったそうですが、その「デビュー」をきっかけに、創作意欲がわいてきたとのお話でした。
異文化に関する好奇心から、高校2年間イギリス留学し、筑波大からシカゴ大学で学び、「美学」の修士論文を書かれたという八島さんは、「ゲンロン 大森望 SF創作講座」(第2期受講生)を受け、「Final Anchors」で第5回日経「星新一賞」一般部門グランプリを受賞し、「天駆せよ法勝寺」が創元SF短編賞を受賞し、作家デビューとなりました。「星新一賞」は日本経済新聞社主催の短編文学賞ということで、なかなか出版と結びつかないのですが、受賞パーティーの際に、出版社と出会う場が設けられるとのことでした。
高山さんから、デビューまでは短編で攻めた方が効率がよさそうだけど、SF短編のコンテスト受賞だけだと、一冊になるまでが長いので、作家としては効率が悪いのではないか? という話題が出たり、さらには、クリスタルの盾がもらえる北九州文学賞や北海道の海の幸がもらえる鮭児文学賞のこと、倉田さんからは書評家の方が独自で開かれている細谷正充賞など、各賞についても、ご紹介いただきました。
大森さんからは、最近最も面白かった賞ということで、本屋大賞の前に発表される、書店員が「売りたい」と思った本、常日頃から思っている本を推薦する「発掘部門」についてご紹介いただきました。また、最近の傾向として、読者は情報源に信頼に足る読者を求めているので、たとえば、書評家の冬木糸一さんが、個人で賞を作ったら面白いのではないか、といったお話も話題に挙がりました。そのほかにも、作品を書く際のプロットや構成をどう立てていくかということや、新作の作品についてもお話をうかがいました。

楽しいお話の数々であっという間に一時間半がたってしまいました。ご出演いただきましたゲストの皆さま、例会にご参加くださった皆さま、どうもありがとうございました。

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 ■5月例会レポート by

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■日時:2019年5月4日(祝・金)
■時間:夜(SFセミナー合宿企画内)
■会場:鳳明館 森川別館
 (東京メトロ南北線「東大前駅」徒歩3分)
●テーマ: マーベル映画の魅力を語ろう!
●ゲスト: 縣丈弘さん(B級映画レビュワー) ほか交渉中


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SFファン交流会5月例会は、SFセミナー合宿企画出張し、「マーベル映画の魅力を語ろう」と題し、添野知生さん、縣丈弘さん、えんじさんをゲストにお招きし、楽しくマーベル映画について語っていただきました。
まずゲストの皆さんに、好きなマーベル作品についてお聞きしました。添野さんは『キャプテン・アメリカ/ザ・ファーストアベンジャー』、縣さんとえんじさんは『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』とのこと。えんじさんの、「吹き替え版のキャプテンアメリカの声も、ダントツにカッコいいのでお勧め」とのお話も、興味深かったです。(吹き替え版の声とか、盲点かも)
また、作品をクロスオーバーさせた大作映画『マーベル・シネマティック・ユニバース』をつくる上での、監督や脚本家、制作スタッフの苦労話。さらに、マーベル映画初期作品がキャラクターを担保にお金を借りて映画製作していたといった苦難を通り、ディズニーに買収された後のサクセスストーリーなど、映画製作のお話なども興味深かったです。やはり成功のカギは、一億円以上かけて連続活劇映画を作ったことだろう、とのお話でした。
さらに、えんじさんが年表を作成してくださり、後半は、DC映画と、MCUとスパイダーマンなどの、マーベル映画の製作を比べる年表から見える、映画界の流れや作品世界の時間軸のことなどへと話が盛り上がっていきました。「時間が足りない」「もっと詳しく聞きたい」と思いました。

2008年公開の第1作『アイアンマン』から、10年以上にわたって展開してきたMCUシリーズ。
さまざまな「フィナーレ」になる『アベンジャーズ/エンドゲーム』公開から日が浅かったこともあり、会場はゲストを含め興奮が冷めやらぬといった雰囲気なのがとても印象的でした。また、この企画参加者の女性ファンに、ハルクの描かれ方に疑問を持っている人が多かったのも興味深かったです。理想のヒロー像に、もしかすると男女の好みの違いがあるのかなと思いました。

参加者の皆さんを含めての作品の感想や後日談の予想合戦など、今後のマーベル映画の行く末を予測するなど、(公開中のため、ネタばれを気にして、各自言葉を選んでのやり取りではありましたが)熱気と話題が尽きない例会となりました。
ご出演いただきましたゲストの皆さまをはじめとして、参加者の方々とともに、とっても楽しく熱いひとときを共有できて本当に嬉しかったです。どうもありがとうございました。

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 ■6月例会レポート by

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■日時:2019年6月22日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ: ジーン・ウルフ追悼
●ゲスト:柳下毅一郎さん(特殊翻訳家)、西崎憲さん(小説家、翻訳家) ほか交渉中


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6月例会は、「ジーン・ウルフ追悼」と題しまして、ゲストに特殊翻訳家の柳下毅一郎さん、小説家・翻訳家の西崎憲さん、翻訳家の酒井昭伸さんをお招きして、2019年4月に新しい世界へと旅だった作家ジーン・ウルフに思いを馳せました。また、会場には、国書刊行会の編集者、樽本周馬さんが駆けつけてくださいました。

まずは、ジーン・ウルフの訃報についてお三方より感想をお聞きしました。そもそも生きている作家を翻訳をすることが少ないという西崎さん。翻訳した作家が亡くなったのは、ジーン・ウルフが初めてとのこと。肉親が亡くなるとは違うけれど、繋がりのある作家が亡くなったということでなんとも言えない喪失感があるそう。
「やはり接点がある作家が亡くなるとやはりくるものがある。特にジーン・ウルフは、最後の大物的人物で、一時代終わった感があってジーンとくるものがあります。」と酒井さん。柳下さんも「ジーン・ウルフは、デビューが結構遅かった。50歳を過ぎ新しい太陽の書が売れて専業作家になったから、著者近影もおじいちゃんという雰囲気でいつ亡くなっても仕方がないという気持ちはあったけど、やっぱり不意を突かれた感じではあった。」とのこと。
また柳下さんからは、国書刊行会未来の文学シリーズ第1作目となった『ケロべロス第五の首』出版の切掛けのお話を伺うことができまた。河出書房の雑誌「文芸」の連載で未訳の洋書の紹介コーナ―の第1回に『ケルベロス第五の首』を紹介し、本当に翻訳した体でカバー写真までつくって記事を書いたそうです。その記事をきっかけに、樽本さんから未来の文学の翻訳の話が挙がったのだとか。樽本さんにとってジーンウルフは、国書刊行会が〈SFが読みたい!〉の第一位を『デス博士の島その他の物語』がとった思い出深い作家とのこと。「国書刊行会が一位を取るのは、きっと最初で最後かもしれないけど、でも河出はまだとっていないから」なんて言葉もあったりして、〈奇想コレクション〉に対し、〈未来の文学〉が、ライバル意識ありありな感じが伝わってきました。

続いては、ゲストのみなさんから、ジーン・ウルフのお人柄についてお話をお聞きしました。まず柳下さんが、改めてジーン・ウルフの概歴をお話してくださいました。工業系大学を卒業し、エンジニアになってから物書きになったとのことで、若い頃に朝鮮戦争出兵したことも作品の中に影響がみえるとのことです。また後に戦場から母に書き送った書簡の本なども出版されているそう。

特徴的なのは、ジーン・ウルフは、SFファンダム出身の作家ではなく、いわゆるSF作家風ではない書き方ができることが、デーモン・ナイトに評価され「オービット」に原稿が掲載される機会ができました。ほかにも、ウルフは一度最後まで全て書き上げてから書き直すスタイルで執筆していたため、伏線を加えるとか自由自在だったのでは、といった話などが、特に興味深かったです。更に柳下さんによれば、ジーン・ウルフの未訳の小説では、『The Soldier』シリーズが面白いとのこと。戦場の傷で短期記憶しかなくなってしまったガタロという古代ギリシャのスパルタの兵士の日記のパピルスが出てきて……という話で、記憶喪失の人が書いた日記だから、最初何が何だかわからないところから始まって、徐々に状況が読み解かれていくところが面白いとのこと。

ほかにも未訳本では、『新しい太陽の書』のキャラクターが出てくる、世代宇宙船モノの『LongSun』シリーズをご紹介いただきました。もちろん『新しい太陽の書』ファンにもおすすめとのこと。世代宇宙船であることが忘れられている設定で徐々にわかっていくという、ジーン・ウルフならではの小説で、移住した先を描いた続編の『ShortSun』シリーズともに面白いとのこと。  また、樽本さんからは、殊能将之さんが『ケルベロス第5の首』についてご自身のHPで謎解きをしてくれたり宣伝をしてくれたことで反響が大きかった、といった思い出話をお聞きすることができました。
後半は、ゲストのお三方の翻訳した作品について、それぞれ話をお聞きしました。学生時代に『ケロべロス第五の首』を初読したという柳下さん。当時を振り返り「大変でした」と。翻訳当時、インターネットの普及でわからないところをググれば良くなったところが、翻訳として画期的だったとのこと。マニアの人が読み解いていたのを、ネットとかで読めるようになっていたのが良かったそう。文章テクニックの部分では、冒頭がプルースト風になっているから、そういう風に訳さないとと思って、かなり何度も書き直したそうで、自分史上一番悩んだ作品でもあるとのことでした。

なんと、「当ファン交の帰り道に、樽本さんから頼まれたのが『ピース』翻訳の始まりです」と、打ち明けて下さった西崎さん。四冊の候補の中から一冊選んだとのこと。どこに気持ちを寄せたらいいのかわからないところに興味を持ち、難しいところにやりがいを感じたとのこと。基本的に、時間があればえり好みせずに受ける方針で翻訳しているというのが『書架の探偵』を翻訳した酒井さん。『書架の探偵』は、スケジュール的に難しくて、残念だけど一度断った作品だったそうですが、どうなりましたって聞いてみたら「まだなんです」、というので、担当することになったとのこと。

翻訳で大変だったところは、「絶対開かないはずの扉があく」など、密室トリック的におかしく感じる箇所が亜、直接ジーン・ウルフに質問したけど、「そこはドアを開けただけだよ」という返事が返ってきたとか、ミステリーとして成立させるためにどうするのかについての葛藤があったとのお話でした。 なるべく八方丸く納まる方法を考えたけど、結局どう解釈していいのか、何を意図しているのかわからない。何か悪いことをした気もするし、これでよかった気もするとのことでした。翻訳家の方ってそこまでしてくれているのかと、とても興味深くお話を伺いました。

梅雨真っ最中の例会でたしたが、翻訳者のみなさまよりジーン・ウルフにまつわる、知られざるお話をたくさんうかがうことができ、今回も充実した例会になりました。ご出演いただいたゲストの皆さま、ご参加頂いた皆様ありがとうございました。
ちなみに二次会でも、アメリカで出版された『新しい太陽の書』限定本を持っているという若手ウルフファンも現れ、大いに盛り上がりました。

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 ■7月例会レポート by 

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7月は例会をお休みさせていただき、2019年7月27日(土)〜28日(日)開催の第58回日本SF大会彩こん Sci-conに参加します。
皆さま、SF大会会場でお会いしましょう♪



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なし

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 ■8月例会レポート by  

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夏だ、SFだ、合宿だ! 2019年8月例会は、 通常例会と合宿の二本立てで開催します!

■開催日程:
2019年8月17日(土)〜18日(日)朝
[昼 例会]午後2時〜4時30分(予定)
[合宿例会]午後6時受付・午後7時(夕食付き)〜翌午前9時(予定)

■会場:
[昼 会場]笹塚区民会館 (京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
[合宿会場]鳳明館本館
(東京メトロ南北線「東大前駅」徒歩3分)

■昼例会内容:
[昼 例会]
●テーマ: 小川一水〈天冥の標〉読書会
●ゲスト:冬木糸一さん(レビュア)、鈴木力さん(ライター)

[合宿例会]
●テーマ:SF稀少本から黎明期の日本SFを楽しむ
●ゲスト:代島正樹さん(SFコレクター)、牧眞司さん(SF研究家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、北原尚彦さん(奇書コレクター、作家)

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昼間開催の8月例会は、ゲストに冬木糸一さんと鈴木力さんをお招きして、10年越しについに完結した〈天冥の標〉シリーズを、参加者全員で振り返りました。
まず始めに、参加者みなさんから、簡単な自己紹介と好きな巻やテーマ性などお話いただきました。なかでも人気があったのは、物語にグイッと引き込まれるエンターテイメント性の高さを評価した人が多かった、『天冥の標 I メニー・メニーシープ 上下』。ほかには、アクリラの萌え感が気になるから人に勧めるなら『天冥の標 II 救世群』が、完成度が高いといった意見、やっぱりメニー・メニー・シープ建国の秘密など、それまでの物語がひとつにつながる『天冥の標 VII 新世界ハーブC』といった意見など、会場から意見があがります。

SF大会の〈天冥の標〉企画で、作者の小川一水さんの聞き手をつとめた鈴木さん。「長い物語なのでキャラクターより、世界観の方が注目されることが多い」とのことでしたが、ファン交では、好きなキャラクターについても語りあいました。
会場からは、リリーの成り上がり感が好き、との意見も出されました。そのほか好きなキャラクターとして、アクリラやメーヌ、アイネイア・セアキなどの名前もあがりました。ちなみに、鈴木さんからは、ラゴスは、SF大会用のファン投票で一票も入らなかったとの情報も。冬木さんは、「オンネキッツネ最高!」ということで、超越的な存在を描き方が上手く表現されており、最後の『ドラゴンボール』みたいな展開で大好きだそう。度重なるピンチを描くストーリーとキャラクターの豊富さから〈天冥の標〉シリーズは、「週刊少年ジャンプ」感がすごい、と冬木さん。

さらに会場にいらしていた、牧眞司さんからは、『天冥の標 X 青葉よ、豊かなれ 。PART1、PART2、PART3』の、メニー・メニー・シープの生き残りが、人類の運命を背負いながら自分の人生を生きていく感じが好き。特に「進化が宇宙共通の原理なのです(省略)それをする形を生物というのです。」この進化論が好きとのことでした。鈴木さんも「この部分を読んで、『虚無回廊』で小松左京がやりたかったことってこういうことなのかな?」とのやり取りもあがりました。

また、〈天冥の標〉の魅力のひとつとして、「週刊少年ジャンプ」との違いは、敵役はいても悪役はいないのが小川一水のキャラクターの描き方で、互いに別のロジックで動いている結果対立するというストーリーになる展開がいいとの話がありました。例えば、特徴的なのは、『天冥の標 VII 新世界ハーブC』で、互いに対立しても絶対的な悪役はいない。1巻で悪っぽいキャラのプラクティスたちも悪じゃなくなるといことで、会場からは、「ハープC」を描く『天冥の標 VII 新世界ハーブC』を傑作と挙げる意見も多かったです。逆に、悪役が出ないから物足りないという人もいるかもという意見もありました。

『天冥の標 V 羊と猿と百掬の銀河』あたりまで、巻ごとに独立した描かれ方をしている〈天冥の標〉。どこから読むのがいいのかといった話題も盛り上がりました。スぺオペ好きな人には『天冥の標 III アウレーリア一統』。宇宙戦艦同士なのに突っ込んで接近戦しなきゃいけないのか説明しているところとか面白いとのこと。いろんな種族が混合しているのは『天冥の標 I メニー・メニーシープ』。エッチなのが好きな人には、『天冥の標 IV 機械じかけの子息たち』か『天冥の標 II 救世群』。性愛を追求して描かれる4巻と、シャワーシーンがエッチな2巻のどっちがエロいかといった会場を2分する意見も出て面白かったです。

後半は、〈天冥の標〉シリーズの、物理的な世界観を考察しました。大きい話では、人工重力の問題とドルテアワットの物理基盤、何を噴射して動いているのかといったことが疑問として上がりました。細かいところでは、一度隔絶した世界の先で、漁師がとっている魚はどこから出てきたのか? 空から降ってきた? といった仮説もあがりました。
『天冥の標 VIII ジャイアント・アーク PART1、PART2』以降の、科学手法が失われた後の世界観の描かれ方はいろいろ疑問が沸く部分でもあるけれど、生命の進化の話でもあり、クライマックスの盛り上がりの下敷きとなる小川一水作品の、独特の進化論感の魅力を評価する声が高かったです。ちなみに、鈴木さんから、小川一水が目指した作品として少女マンガ『海の闇月の影』(篠原千絵)が挙げられました。なんでも小川さんが親戚の家で小さい頃に読んでハマったとのこと。もとは仲良しの双子が敵対するエピソードに涙なしでは読めないエンディングを思い出しました。〈天冥の標〉副読本としておすすめです。是非、機会があったら読んでみてください。

ほかにも、小川一水作品独特のユーモアのあるネーミングセンスなどなど。何しろ全10巻、計17冊の壮大なストーリーということで、話題の尽きない例会となりました。ご協力いただいたゲストの皆さま、来場してくださった参加者の皆さまありがとうございました。


8月例会は、通常例会と合宿の二本立て!
夜の部は、「SF稀少本から黎明期の日本SFを楽しむ」と題して、ゲストに代島正樹さん(SFコレクター)と牧眞司さん(SF研究家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、北原尚彦さん(奇書コレクター、作家)をお招きしました。
SFセミナーでもおなじみの、本郷にある鳳明館(でも会場は、森川別館でなく本館!)で行った合宿。明治時代にもとは下宿屋として建設され、国の登録有形文化財である本館には、各室毎に異なったつくりで、風情あるたたずまいが今回の企画にピッタリ。ちなみにお風呂には、エイやヒラメ、亀が泳ぎ竜宮城風で面白かったです。

今回はSFコレクターの代島さんが貴重な品々をお蔵出し!! 一挙公開となりました。第二次世界大戦終結の1945年から〈SFマガジン〉創刊の1960年代前半ごろまでを「SF黎明期」として、まずは戦後すぐの雑誌である〈宇宙と哲学〉を紹介してくださいました。哲学的な記事のほかにウェルズなどの科学小説の翻訳が掲載されていたり、科学小説を募集していたとのことです。

続いて、1950年4月から7月にかけて誠文堂新光社から刊行された『アメージング・ストーリーズ日本語版』。7冊目で出版中止となったとのお話でした。現在「星雲賞」として名を残している1954年末の〈星雲〉(森の道社)が出た頃は、矢野徹さんがミステリ方面でSFを根付かせようと孤軍奮闘していて、〈密室〉という探偵小説の同人誌にスタージョン『人間以上』の原型作品などを紹介していたり、〈探偵趣味〉誌にブラッドベリなどを紹介していたとのこと。また同時期の作品として、なかなか探せない貴重本として紹介されたのは、『新科学小説 秀吉になった男』(森の道社)。また当時、雑誌〈宝石〉に矢野さんが科学小説の紹介をしている記事が載っているのを見て柴野さんが、矢野さんを第一人者だと知ったといったエピソードがあると、日下さん。
ほかにも、当時のエロ+娯楽小説雑誌〈笑の泉〉の中にもSFが入っていると紹介してくださった代島さん。「そんな雑誌いったいどうやって探すんですか?」との会場からの問いに、「だいたい雰囲気で探します」と、笑顔でお答えくださいました。

SF作品が入った児童向け叢書の先駆けとして石泉社の叢書と、その後発として講談社の叢書を紹介してくださいました。『宇宙戦争』『火星にさく花』『金星の謎』などなどこれまた貴重な本の数々が……。元々社の〈最新科学小説全集〉シリーズは、セレクトが素晴らしいというのは一致した意見。牧さんも、翻訳にうまい下手はあるけれども、「下手だ」という評価だけが先行しているのは残念とのこと。それに付随して、紹介くださったのが、荒正人『宇宙文明論』。この本の中で丸々一章分使って、元々社のシリーズについて述べていると紹介してくださいました。小説だけでなく、評論系の本も逃さずリサーチされている代島さん。そのほか、時代を感じさせたのは、原田三夫さんが主宰されていた日本宇宙旅行協会のパンフレットなども、宇宙旅行を夢見る当時のロマンが詰まっており素敵でした。

さらには、次々と当時の同人誌が紹介されました。
日本空飛ぶ円盤研究会の機関誌〈宇宙機〉、SF同人グループ「おめがクラブ」の「生原稿の展示誌」を謳った同人誌〈科学小説〉。この雑誌や会報(全3号)のほかに、おめがクラブの忘年会の寄せ書きまで、と思っていたら、おもむろに袋から代島さんが出されたのは、原稿用紙の束。なんと、お蔵入りした〈科学小説〉の原稿とのこと。この未公開原稿、代島さんが別で集めた複数の書簡の内容から導き出した結果は、第3号目の原稿ではなく、なんと創刊号と第2号との間の時期のものだったそうで、この発見に会場からも、驚きの声があがったのでした。
他に生原稿類で紹介されたのは、福島正実編『SF入門』の影に隠れ実現しなかった『SFへの招待』(南北社)の資料一式や、東都書房のものなどもありました。

そのほかにも、小松左京が京都大学にいたときの同人誌〈現代文学〉(1952年)や、卒業後の〈対話〉(1956年~1957年)、平井和正の中央大学時代の同人誌〈白門文学〉、柴野拓美のデビュー作「火星留学生」が掲載されている、学研(学習研究社)の〈小学6年生〉増刊号〈新中学生〉(1951年)などなど、次々と出てくる貴重な雑誌の宝の数々。
ちなみに、「当時の学習雑誌には、なにかしらSF作品が載っているので、探すといろいろ見つかりますよ」と、北原さんからもご紹介いただきました。皆さんも是非探してみては?

特に同人誌の中で代島さんが力を入れてお薦めされたのが〈宇宙塵〉。「毎月刊行されていたから流れが見えてメチャクチャ面白いので、皆さんもぜひ揃えてください」とのことです。(1957〜2013年、204号まで刊行) 1956年、「日本空飛ぶ円盤研究会」の例会で会誌を出そうと提唱し、翌57年初頭にはおおよその原稿が集まった〈宇宙塵〉。「宇宙塵」というネーミングは、柴野さんが印刷所に入れるときにひらめいたそうで、もともとは「宇宙人」だったそうな。
関連した面白エピソードとして紹介されたのは、日下さんが宇宙塵40年史『塵も積もれば』(出版芸術社)の編集中に、〈宇宙塵〉の森東作さんから電話がかかってきたときのこと。ご家族から「森さんという人から電話があったよ」と聞いた日下さんが、「ああ、ウチュウジンの森さんね」と答えたのを聞いて「ええっ、宇宙人!?」とビックリされたそうで、いまだに日下家では、森さんのことは「ウチュウジンの森さん(笑)」として認識されているそうです。

変わり種としては、1957年から始まる膨大な量のスクラップ帳をご披露してくださいました。このスクラップ帳、どうやら個人作成で、「宇宙記事」というタイトルで23冊きれいにスクラップされていました。当時のあらゆる宇宙関連の新聞等の切り抜きが時系列に並んでおりとても面白く貴重な資料と言えそう。

まだまだ語りつくせませんが、とにかく非常に濃い例会となりました。今回例会に集まった全員のサインを芳名帳に集めるという代島さんのコレクター魂に一同脱帽! の楽しい夕べとなりました。

貴重な資料を惜しげなくご持参くださった代島さんをはじめ、ご協力いただいたゲストの皆さま。そして、久しぶりの合宿例会にご参加くださった皆さま。本当に素敵な夏の思い出をありがとうございました!

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 ■9月例会レポート by  

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■日程:2019年9月28日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:祝! 神林長平デビュー40周年
●ゲスト:大倉貴之さん(書評家)、嶋田洋一さん(翻訳家)、大森望さん(翻訳家) ほか


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「狐と踊れ」でデビューしてから40年。この間、常に日本SFの最先端を走り続けてきた神林企画さんについての企画を行いました。まず前半は、ガタコン(新潟SFコンベンション GATACON)のスタッフとして、神林さんと親交のある大倉さん、嶋田さんから素顔の神林さんについてのお話がありました。

新潟県新潟市で育ち、長岡高専を卒業後デビューした神林さん。ガタコンでは地元の作家ということで、その頃からコンタクトをとっていました。もともとファンダムとは無縁の人で、最初は恥ずかしがり屋だったそうですが、85年の大会では名誉実行委員長を務めることに。大倉さんには当時の貴重な画像を見せて頂いたのですが、神林さんも赤字対策委員長の夢枕獏さんも30代前半。いやー若い若い。
工学系の学校を卒業しただけあってメカには強い興味を示す神林さん。愛車はマツダのロードスター、しかもかなりの飛ばし屋とのこと。現在はインスタグラムに愛猫の画像を毎日上げているそうです。
嶋田さんは2001年から03年にかけて、作家クラブの事務局長として会長の神林さんと共に運営にあたりました。方針が一致していたので仕事しやすかったそうです。作家仲間と飲んでいたところ、酔っ払った神林さんが窓から外に出てしまい、しかも本人はそのことを覚えていないという逸話も紹介されました。

後半は、星野さんと大森さんによる神林作品の魅力についての話でした。
〈SFマガジン〉50周年を記念して刊行されたアートブック『Sync Future』で雪風の絵を描いた星野さんですが、こちらに掲載されているイラストは、編集部からの依頼ではなく、一般公募に応じたものだとのこと。最終的に候補作の中からこの掲載作を選んだのは、神林さん本人だそうです。
〈雪風〉シリーズが大好きという星野さんですが、〈雪風〉では、人間の外見に関する描写はほとんどないがメカの描写は細かい、また本文をいくら読んでも機体のディテールは出てこないなど、イラストレータならではの指摘が次々出て興味深いものがありました。
そして『Sync Future』から8年後、『オーバーロードの街』(朝日新聞出版/2017年)で、星野さんはついに神林作品の装画を担当することになります。11月7日発売予定の続編『レームダックの村』(朝日新聞出版)でも、引き続き装画を描いたとのこと。大森さんからは、機械と人間の関係、言語、世界認識といったテーマはデビュー以来一貫しているとの指摘がありました。ただ〈雪風〉や〈敵は海賊〉といったシリーズものでも、普通の作家なら書き継いでいくうち定型に落ち着くのに対し、そうした型を壊して読者の予想を超えていくのが神林流。NOVAでも小説を依頼すると、送られてくる完成稿は打ち合わせ時にイメージしていたものと違っているそうです。

〈雪風〉と〈敵は海賊〉のアニメ化が、あのような結果だっただけに、エンターテインメントと結びつけられるプロデューサーがいればいい、と大倉さん。そうすれば神林作品が英訳されたあかつきには、Netflixあたりで連続ドラマ化も、と夢が膨らんだところで時間となりました。

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 ■10月例会レポート by  

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■日時:2019年10月6日(土)
■時間:21:50~22:50(京都SFフェスティバル合宿企画内)
■会場:旅館「さわや」本店
※参加には京都SFフェスティバル合宿への参加申し込みが必要です。
●テーマ:ヴォネガット短編の魅力
●出演:大森望さん(翻訳家、アンソロジスト)、水鏡子さん(書評家)、ほか交渉中
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なし。

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 ■11月例会レポート by  

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■日時:2019年11月16日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館
●テーマ:竹書房SFの快進撃!
●ゲスト:大島豊さん(翻訳家)、中村融さん(翻訳家、アンソロジスト)、水上志郎さん(竹書房編集者)

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海外SFの分野で、次々と話題作を刊行する竹書房。今回はその秘密を伺いました。
まず前半は11月に刊行されるアリエット・ド・ボダール『茶匠と探偵』について。本書は、彼女の中短編の中でも約3分の1を占める〈シュヤ宇宙〉シリーズから、大島さんが独自に作品をセレクトして翻訳したものです。
その世界観は、改変歴史と銀河帝国を合わせた独特のものです。コロンブスより前にアメリカ大陸を発見した中国人が西海岸に植民地を建設(この名称がシュヤです)。後の宇宙開発もアジア人主導で進みヴェトナム人が大越帝国と呼ばれる星間国家を建国します。このため未来の習俗もアジア風の女系社会となり、皇帝も重臣もみんな女性。大島さんは世界観に合わせ、あえて女性言葉を使わないで翻訳したそうです。
ストーリーは登場人物の文化不適応を扱ったものが多く、それはヴェトナム系フランス人という作者の出自も関係しているのではないかとのこと。またLGBTのような現代的なテーマについてもかなり踏み込んでいるそうです。派手な展開はないものの、とにかく小説が上手いと水上さん。また中村さんからは佐藤史生など少女漫画のテイストに近いとの指摘がありました。
ほかにも宇宙船をいちど女性に人工授精して産ませるとか、人間がディープスペースに行くと精神に異常を来すのでお茶を飲んで防止するとか、不思議なアイデアがいろいろあるそうです。なお当日はゲストのご好意で、収録作のうち3編のゲラ刷りが参加者に先行公開されました。筆者も「哀しみの杯三つ、星明かりのもとで」という作品を読んでみましたが、しみじみするいい話でした。

後半は竹書房がSF出版に参入した経緯について。きっかけは、SFをやりたいと思いながらロマンスを担当していた水上さんが、共通の知り合いを介して中村さんと会ったことでした。
「水上さんに好きな作家は?と聞いたら、ジョージ・アレック・エフィンジャーと答えたので、この人とは話が合うと思った」と中村さん。わずか数日後には中村さんから水上さんのもとに企画案が送られてきました。中村さんがまず考えたのは、早川書房、東京創元社との差別化。そして文芸路線寄りだった河出書房新社の奇想コレクションに対し、もっとSFSFしたラインナップを、というものでした。第一弾にオールディスが選ばれたのは、2001年に映画『A.I.』の原作を竹書房が刊行していて社内的に知名度があったからだそうです。

一方で水上さんが考えたのは、従来の竹書房文庫の装丁フォーマットがダサいのでそれをぶっ壊すこと。これまでとは違うデザイナーを起用し、『パラドックス・メン』でもカバー担当に「訳のわからない話だから、訳のわからないものにしてください」と依頼したそうです。「アンソロジーの収録作案を提示すると、水上さんは未訳作品も含め全部読んで意見を言ってくれるんです。こんな編集者はいませんよ」という中村さんの言葉からは、二人の信頼関係が伺えました。
このあと会場におられた内田昌之さんもまじえ、『竜のグリオールに絵を描いた男』や『パラドックス・メン』の翻訳裏話が語られました。嬉しいことに両書とも増刷が決まり、またグリオールの続編『タボリンの鱗』も12月に発売されます。

最後は今後竹書房から刊行される翻訳ラインナップが一部公開されました。特に現代イスラエルSFを集めたアンソロジーZion's Fictionは、リーディングを担当した中村さんが、読後興奮のあまり水上さんに電話をかけてしまったくらいの傑作だとのことで、来年の刊行がいまから楽しみです。

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 ■12月例会レポート by  

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■日時:2019年12月22日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館
 (京王線「笹塚駅」徒歩8分)
●テーマ:『エンタングル:ガール』が高島雄哉をSF考証する
●ゲスト:高島雄哉さん(SF作家、SF考証)、小浜徹也さん(東京創元社)、渋谷誠さん(サンライズ)


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今回のファン交は、劇場用アニメ『ゼーガペインADP』のSF考証を務め、先日同作品のスピンオフノベル『エンタングル:ガール』(以下グルガル)を上梓された高島雄哉さん、東京創元社で高島さん担当の小浜徹也さん、サンライズで自称「高島さんの見守り役」の渋谷誠さんにお話を伺いました。

企画は3部構成で、第1部は「高島雄哉編」。

高島さんは1977年生まれ、東京大学理学部物理学科を卒業後、東京藝術大学美術学部芸術学科に入学しました。なぜ物理から芸術へ? という問いには「どちらも理論に興味があり、哲学的な部分でスライドしやすかった」とのこと。
高校時代は『寄生獣』『風の谷のナウシカ』、小説では池澤夏樹や瀬名秀明を愛読。SFを読み始めたのは大学時代でした。そして2014年、投稿経験なしで書いた「ランドスケープと夏の定理」で創元SF短編賞を受賞、「わたしを数える」で星新一賞に入選。デビュー後、ある忘年会の席上で「ゼーガペイン」原作の伊東岳彦さんと知り合い、ADPのSF考証をやらないかと声をかけられたそうです。これがきっかけで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』『ブルバスター』などでもSF考証を務めることになりました。

ではSF考証とはどんな仕事なのだろう、というところから第2部「SF考証編」に。
SF考証の第1号は「宇宙エース」の小隅黎さん(柴野拓美さん)で、そもそもSF考証という名称自体、「科学忍者隊ガッチャマン」のテロップのため小隅さんが考案したものでした。
高島さんによれば、ハリウッドではサイエンス・コンサルタント、テクニカル・ディレクターなどの役職はあってもSF考証という役職はないとのこと。SF考証とは日本独特の仕事で、しかも5〜6人くらいしか存在しないのです。しかも最近はアニメの製作本数がウナギ上りなので人手不足だそう。
さて、SF考証の具体的な仕事なのですが、これが作品ごとにバラバラなのではっきり説明するのが難しい。高島さんの場合、単発の質問に答えることもあれば、企画の立ち上げから参加することも。またアフレコの現場で、科学用語のアクセントなどを声優に指導したこともあったといいます。渋谷さんによれば「アニメでは大勢の人間が製作に携わるので、考え方を統一する必要がある」とのこと。

そして第3部は「『エンタングル:ガール』編」です。高島さんには、小説を書くときこの順番で考えるというメソッドがあるそうで「ランドスケープと夏の定理」を例にとると、

(1)ジャンル→数学SF
(2)追加要素→知性
(3)プレミス(内容を1行でまとめたもの)→弟と姉が互いを救う
(4)タイトル→応募直前に決めた

グルガルは、渋谷さんから高島さんに声をかけて、サンライズ公式サイト内で連載したものを単行本化したものです。初稿にあったヒロインの恋愛要素を削り、世界の秘密を理解させるため彼女の頭の良さも調整したといいます。小浜さんによれば、東京創元社では奥付の発行日は金曜日とする決まりになっているのですが、本書ではわざとズラして8月31日にしたそうです(何の話かわからない方は、グルガルを買って読んでください)。
オリジナルアンソロジー『白昼夢通信』に掲載された最新作は、主人公の仕事がSF考証という前代未聞の「SF考証SF」でシリーズ化の構想もあるそうです。新作『不可視都市』は2020年2月に星海社から刊行予定。宇宙戦艦ヤマトの公式ファンクラブ会報ではヤマトの新作オリジナル小説が連載開始。このほかにもいくつか新作のお話がありましたが、まだ公にはできないというので、出たときのお楽しみとしておきましょう。

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