初心者騎士シーグルが初めて大人数パーティに参加する話。 【2】 初めての大人数パーティという事で、シーグルはちょっと緊張していた。 とはいえ性格的にそれを慣れない人間相手に素直に出せるシーグルではないから、ハタからみれば年齢の割に落ち着き払ったように見えた……というのはあとからクルスに聞いた事だ。 ともかく、初対面であるからこそ皆最初は自己紹介をするわけだが、やってくる人間が全員シーグルを見た途端に貴族だと分かってしまうのは何故なのか。さすがに3人目あたりからは驚く気持ちもなくなったが、なんというかいろいろ事前に考えておいた事が大半無意味になったので微妙に空しい気持ちになっていた。 更に言うと、自己紹介が終わった後は自然と知り合い同士で話す事になる訳で、皆グリューかクルスの知り合いであるから二人には当然話しかけてくるのだが、シーグルに話しかけてくる者はいなかった。 かといってシーグルから話しかけられるものでもない。 さすがに仕事として聞く必要がある事なら聞けるのだが、意味もなく話す場合――いわゆる雑談というのに関しては、相手が知らない人間だとどういう話題を振っていいのかシーグルには分からなかった。 ただ勿論、グリューやクルスはそんなシーグルに気を使ってくれていた。 「そういやルー、最近は全然仕事で見かけなかったじゃねぇか、怪我でもしてたのか?」 今グリューと話しているのはシンジラという戦士で、やはりグリューの知人である。 「あー……いや実はよ、ちぃっとばっかムカつく奴の仕事受けてさ……仕事終わらせてきたのにネチネチ文句言ったり馬鹿にしてきたから勢いで殴っちまってなぁ」 「成程、それで信用ポイント落されたって訳かい」 「そうそう、でもさ、そんな時にシーグルと知り合ってな、おかげでマトモな仕事にありつけるようになったんだよ」 そう言ってグリューはわざわざこちらに話を振ってくれた。 「そらぁラッキーだったな」 「そうよ、大助かりでさ、おかげで最近は仕事に困らない状態よ」 言いながら(控えめに)ばんばんとグリューが背を叩いてくる。ここは何か言うべきなのだろうと思ったシーグルは口を開いた。 「こちらも助かったから、お互い様だ」 そう、グリューだけが助かった訳ではない。シーグルはその身分のせいで信用ポイントが最初から高かったが、仕事の実績がないから能力面が疑問視されてロクな仕事が取れなかった。互いに利害が一致したから組んだだけで自分のおかげと言われる事ではない。 「ンとにお前は貴族様だってのに、謙虚だからなぁ」 「事実だ、俺は冒険者としての実績がないからなかなか仕事を貰えなかった。いい仕事を受けられるようになったのはグリューと組んだからだ」 ちなみに一人でも受けられる仕事自体がなかった訳ではない。実力は疑問視されても信用はあったので、伝言や書類を届ける仕事ならいくらでもあった。特に貴族相手への手紙を届けて欲しいという仕事は事務局にもかなり勧められた。雇う側からすれば、どれだけ受け取ってもらい難い内容の手紙でもシーグルが持っていけば断られないから――らしい。それらの信用特化の仕事は難易度の割には報酬もポイントも高いので、本当の初心者冒険者からすれば結局貴族というだけでかなり優遇されていたと言える。 ――貴族の特権を使わない、といっても結局その特権を享受しているのは分かってるんだ。 等と、当時を思い出してしまったらなんだかまた落ち込んでしまったのもあって、返した声は確かにちょっと硬かった。 「いやー本当に、謙虚でとんでもなく真面目なんだこいつはさ」 ははは、と肩を叩かれるに至ってシーグルはまたハっと気付く、どうやら自分の口調のせいで場の空気が重くなったらしい、と。それでグリューがフォローを入れてくれたというのは分かったのだが、問題はそれならどうすればいいのかだった。 ただどうにかしないとと考えれば焦ってしまって頭がうまく回らない。結局、言うべき言葉が思いつかなくて黙っていれば、仕方なくまたグリューがフォローしてくれる。 「ま、こうしてなんでも真面目に考える奴だから、ちょっとお堅いのは仕方ないって思ってやってくれ」 「そ、そうか……ところでルー、お前も肩を何度も叩くのは……良くない、と思うぞ」 「え? あ、そうだな」 シーグルは分かっている。グリューは互いの親しさを伝えようとして気さくに肩を叩いて見せていたのだが、その後の微妙な雰囲気のフォローのせいで何度も叩く事になってしまっただけだと。 そしてシンジラは、貴族のシーグルを叩いてる事にあとあと面倒な事にならないか心配しているのだと。 そうこうしている内に、気まずくなったのかシンジラは別の人間と話すために離れて行く。グリューは笑いながら軽くまた肩を叩いて、硬い硬い、と小声で言ってきたが、初対面の人間相手に気さくに話しかけるなんてどう考えても無理だ。 ――やはり、俺は人と話すのが苦手なんだ。 なにせシーグルは友達いない歴10年の上、使用人との会話もほとんどなく育ってきている。教育としてはいろいろ詰め込まれているものの、『必要である』事だけをして『必要でない』事は極力しないで来ているため、当たり障りのない会話だとか遊び的な行動というのが出来ないのだ。 そうしてまた落ち込んでいれば、それを察したのかクルスが知り合いのリパ神官に話題を振ってくれたらしい。 「そういえば、シーグル様はリパ信徒、でよろしいんですよね?」 そこでクルスと話していたマツィネというリパ神官から声を掛けられて、シーグルは急いでそちらを向いた。 「あぁ、そうだ」 傍には当然クルスもいるのだがやはり緊張する。マツィネはクルスの友達というだけあって、男性でも柔らかなな雰囲気の人物だった。 「失礼、恐らくそうだと思ったので確認させて頂きました。リパ信徒の方には術が通り易いので事前に把握しておきたかったのです。よろしければなんの術が使えるか教えて頂いていいですか?」 思いきり他人行儀な上に様付けをしてくる彼には寂しさを感じるものの、口調が丁寧過ぎるのはクルスと同じく地のようなのでへたに何か言うべきではないだろう。ただ話しかけて貰った事は嬉しかったので、それにはすぐ返事をする。 「あぁ構わない、『盾』と『光』が使える」 「二つ使えるのなら、シーグル様は魔法の素養もおありなのですね」 「あぁ、そう、らしい」 これは前にシーグルの主治医である魔法使いウォルキア・ウッドに言われた事があった。『シーグル様が望むなら、魔法使いを目指す事も可能です』と。 だが、そう話したところで周囲からの視線を感じてシーグルはまた焦った。 ――もしかして、自慢と思われただろうか。 魔法使いになるには保持魔力が一定以上必要であるから、魔法使いになりたくてなれなかった者は多いらしい。そういう事なら、魔法使いになれる可能性はあったが目指さなかった、という事は自慢か嫌味に聞こえるのかもしれない。 皆の視線が冷たい気がして、シーグルは内心かなり困っていた。 「いざとなれば自分で掛けられるから、『盾』の術を掛ける優先順位は俺は低くて構わない」 なんとかフォローしようとしてそう言えば、マツィネはそこで困ったように眉を寄せた。 「それは困ります。シーグル様は騎士としてまず敵の前に出る役目ではないですか、優先順位は高くなります」 「いや……それは……まず俺以外の前衛を優先して欲しいという事で」 「だめです、いくら自前で術が使えてもそれはあくまで緊急時用と思ってください。術を使おうとして敵から目を離したりした隙になにかあったらどうするんですか! 術が使えると言ってもまずは自分の役目に集中してください」 そう言われればそれは尤もな事であって反論のしようがない。なにせクルスにもよく言われている事でもある。しかも考えれば、専門家がいるのにわざわざ使わなくてもいい術を使おうとするなんてそれも自慢じゃないかと思われても仕方ない。 「……すまない、貴方のいう通りだ」 素直にそう謝れば、こちらの落ち込みぶりに気がついたのかグリューが割って入ってきた。 「ま、俺もシーグルが術使うんだなって時はちゃんと見てるからさ」 「そうそう、今回は前衛も人数いるから、術全員掛けるのも大変だしな」 グリューと話をしていたノノもそう言ってくれて、それに気付いた他も声を掛けてくれたのだが。 「でも防御の術掛けるならシーグルは最優先だろ、何かあったらどうすんだよ!」 冒険者の怪我や死亡は自己責任ではあるのだが、旧貴族の跡取りであるシーグルの場合、何かあったらパーティメンバーが罪に問われるかもしれない――というのを分かっているシーグルは、その言葉を曲解した。 ――俺はパーティにいるだけで迷惑なのかもしれない。 シーグルは、とにかくまた更に落ち込んだ。 *****仲間の内緒話****** グリュー「心配しなくてもあいつ腕いいからさ、そこまで過保護にしなくても……」 マツィネ「だめです、怪我をしたらどうするんですか!」 グリュー「そら怪我くらいは仕方ねぇだろ、シーグルもそれは覚悟してンだから」 マツィネ「嫌です、私が見たくありません!」 ノノ 「そら分かるなぁ、特にあの顔にキズがついたりなんかしたら一生後悔する」 クラット「だな。あれは一番最優先で守りたくなるよな」 ?? (コクっと頷く) ??x2「そーよ、そーよ!!」 グリュー「……えーとクルス、お前も多少助けて欲しいんだが……」 クルス 「でもシーグルが後衛に気を使い過ぎて、自分で術を使おうとするのは止めてもらいたいと私も思っていますので」 グリュー「シーグル、へんな勘違いしてねーといいんだけどな。なんか落ち込んでるみたいでさ……」 --------------------------------------------- ??になってる3人は次回登場予定。さすがに次回は仕事に入れるかな。 |