ある北の祭り見物譚
シーグルとセイネリアのアウグ旅話



  【13】



 シーグルの体から力が抜けたのは分かったが、それでも構わずセイネリアは彼の中を楽しんで自分の感覚を追わせてもらった。
 だから終わった後に彼をそっとベッドに寝かせて汚したところを拭ってやってから、謝る代わりに彼の顔と体のあちこちに何度もキスをした。すまない、という言葉は心の中だけで呟くにとどめて。

「――……意識、飛んでたのか」

 間もなくして、ピクリと彼の瞼が動いて深い青の瞳が現れると同時に彼がそう呟いた。

「あぁ、俺としてはもう少し寝ててもらっても良かったんだが」
「……何をされるか分からない」
「まぁ、それは確かにな」

 言えば彼が睨んできたが、こちらが笑って額にキスしても大人しく受けてくれたからそこまで怒っている訳でもない。
 ……彼が目を覚ましたのが丁度顔にキスをしていた時だったから良かったものの、体の隅々までみていた時だったらまた一喧嘩しなくてはならなかっただろうが。

「お前、今回は最初から俺の意識を飛ばすつもりだったろ」

 起き上がりながら彼が言ってくる。体が拭いてあるのをみてからだから、やはり声はあまり怒っていない。

「仕方ないだろう、久しぶりだったんだからな。俺も抑えが利かなかった」

 シーグルがそれに視線だけで抗議してくる。セイネリアは笑った。

「それにお前も久しぶりだから感じ過ぎたんじゃないか?」

 それにはカっと赤くなるからセイネリアは益々笑った。
 実際のところ、シーグルの気を失わせたのには理由がある。後からレザから聞いた話だが、セイネリアが出て行ったあとにレザがあの宿の男を追加尋問したところ、どうやらあの男やゴダン達は皆でシーグルの裸を見たらしい。着替えさせていた段階で予想できた事ではあったが、セイネリアとしては何か他にされていないか確認したかった……というのがあったのだ。

「……それは、その、それもあるかもしれないが……」

 暫く見ていれば、恥ずかしそうにシーグルが顔を赤くしたまま呟く。
 彼にその自覚がある、という事が嬉しくてセイネリアはまた彼にキスした。今度は唇に。

「ン……」

 シーグルの手がこちらの肩を押してくるが、そこまで力は入っていないから軽い抗議程度だろう。舌を合わせてこすり合わせればすぐに彼も応えてくれて、肩にあった手は下ろされる。唇を押し付けながら彼の体を倒していけば、すんなり彼はベッドにまた身を沈めてくれた。
 唇を合わせながら肌を合わせる。軽く揺らして体を擦り合わせる。下肢の性器同士を擦り合わせて熱を上げる。そうすれば合わせた口の中でシーグルの息が上がってきて、彼の手に力が入ってこちらに抱き着いてくる。引き寄せられるその感触が、彼が自分を求めてくれる証拠であるからセイネリアの口元には自然笑みが沸いた。
 セイネリアにとっては、彼が自分を求めてくれるとそう実感できる時がとても嬉しい。

「ふ、は」

 十分彼の熱が上がってきたところで唇を離し、耳元へキスして顎から胸へ舌を這わせる。彼の汗を味わって、彼独特の少し甘い匂いを鼻一杯に吸い込んで、ぴくぴくと緊張に動く筋肉をなぞってから小さな胸の尖りを口に含む。

「ふ……」

 気付いた彼の手が頭を掴んでくる。勿論、引き離そうとする程の力は入っていない。

「あ、ぁ……」

 乳首を唇だけで挟んで先端だけを舐めながら、手で彼の雄を撫でる。彼の片足、膝があがったからそのまま掴んで持ち上げる。彼の足と足の間に体を入れて、今度は本格的に股間同士を擦り合わせた。

「待て、まだ……やる気か」

 そこで焦った彼の声が聞こえてきたから、セイネリアは一度体を止める。どうやら正気に戻ったらしいと思えば、彼はこちらを赤い顔で睨んでいた。

「どれだけお預けを食らってたと思うんだ。俺がこれで終わりに出来る訳がない」

 シーグルがため息をつく。ただそれはあきらめのため息だというのをセイネリアは分かっている。

「……明日一日は出かけられないのは確定か」
「祭りは5日間ある、諦めろ」

 シーグルがじとりとこちらをみてから、また盛大にため息を吐いた。

「一応分かってるとは思うが、俺はお前みたいに無尽蔵の体力も精力もないからな。あと一度付き合ったら休ませてくれ」
「そうだな、これが終わったら一度休ませてはやる」

 それでまたシーグルが顔を顰めたが、まぁこういうのも初めてではないから分かってはいるだろう。セイネリアとしてもシーグルの負担は分かっているからやりたいだけやるつもりは最初からない。あくまで彼の体に負担になり過ぎない程度で、後はずっと裸の彼を抱いて一日中彼を独占して感じていられればそれでいい。

「大丈夫だ、お前に無茶までさせる気はない」

 喉で笑って言いながら彼の顔、頬と額にキスをする。
 シーグルはため息のように、頼む、と呟いて目を閉じた。
 そうしてまた、セイネリアは下肢同士を合わせるとそのまま動き出した。

「ン……」

 最初は乾いた柔らかい肉を擦り合わせる感触が、暫くすれば硬くなって湿り気が出てくる。そこでセイネリアは互いのものをまとめて手で掴む。こぼれた液体を手で掬って全体に塗り付けるように擦ってやれば、すぐに水音が鳴りだしてシーグルが赤い顔のまま目を思いきり瞑って顔を背けた。

「もう、いい……だろ」

 呟くような声にセイネリアは手を止める。ここでまた彼をイカせたら最後まで付き合ってはくれないだろうからここは止めなければ不味いところだろう。すっかり硬さを取り戻した互いの感触を確かめてから、セイネリアは手を離すとシーグルの尻にもっていって入口をまた濡らしてやる。
 それでシーグルの体に力が入る。
 彼の体を横に倒して片足を持ち上げると、シーグルは顔を枕に押し付けてシーツを握りしめていた。
 セイネリアはその彼に苦笑して、それから今度は横から彼の中へ入れていく。流石に二度目だと入れる事自体は容易(たやす)い。完全に入れてしまってから緩く感触を確かめるように動いて、それからセイネリアは今度は大きい動きで抜き差しを始めた。

「う、う、う……」

 体勢的な問題もあるが、この恰好でやる場合シーグルがあまりいい声を上げてはくれない。深くつながれるのと彼があまり苦しそうでないのはいいのだが、セイネリアとしては少し寂しいところもある。後ろからよりは顔が見えるからまだいいが、セイネリアは出来るだけ彼の顔がみたいし、肌を合わせたい。女とならば楽なのに、それを全部満たして彼に負担を掛けない手段がないのがもどかしい……だが、そんなもどかしく全部が思う通りにならないことも、彼のためであればセイネリアは楽しくもあった。

「う、ん、ん、ん」

 枕に顔を押し付けたまま、彼の手が強くシーツを握りしめる。シーグルの限界が近い事を知って、セイネリアは動きを速くする。この体勢だと動き易くはあるから、勢いをつけると肉と肉がぶつかる乾いた音が大きくなって、彼の小さい呻き程度の声がそれにかき消される。
 セイネリアはそこで無理やり少し体を倒して彼の顔を覗き込もうとする。
 体勢が苦しくなって薄く開いた青い瞳がこちらを睨む。

「さっさと……ん、終わら……せろっ」

 こちらを見た彼が必死でそう怒鳴ってきた(あまり声は大きく出なかったようだが)から、セイネリアは笑う。やはり彼は憎まれ口をたたいているくらいの方が彼らしくていい。
 それで更に自分が興奮したのが分かってセイネリアは動きを速く、その分小刻みにする。

「それは、嫌だな」

 息が荒くなる中、呟いて、唇を舐めて湿らせる。
 出来るだけ長く、出来るだけ強く、彼とこうして繋がっていたいというのはセイネリアの正直な気持ちだ。

「ふざける、なっ」

 返された叫び声は先ほどよりも更に小さい、これはもう叫びではなく呟きだ。そんなにきついクセに言い返してくる彼が愛しい。彼を感じたい、肌と肌を合わせたい、抱きしめたい、キスしたい。けれど今は自分の感覚を追う方が優先で、もどかくしさを感じながらも下肢の感覚に意識を向ける。彼の奥を叩くように何度も突いて暖かい熱に包まる感触を楽しむ。
 途中でまた彼の体から力が抜けて、それでもセイネリアは自分の感覚を追う。そうして最後に彼の体から出して吐き出してから、思う存分セイネリアは彼を抱きしめて顔と体中にキスをした。







 布を濡らして体をまた拭ってやる間、シーグルは意識はあるが相当に疲れたようでされるがままの状態だった。
 セイネリアも今日は多少無茶をした覚えがあるから余計な事はしない事にしていた。……勿論、彼にもう少し元気があったならそれこそ拭きながらいろいろ弄ってやりたいところではあったが。

「寝てていいぞ」
「……あぁ」

 腕一つ動かす気力もない、という顔をしていたシーグルにそう言えば、すぐ寝るだろうと思った彼はそれでも目を瞑らないでこちらを見ていた。その理由はセイネリアが体を拭いてベッドに入って分かる事になる。

「どうした?」

 まったく動く気力がなくてぐったりしていた彼が、セイネリアがベッドに乗って半分程上掛けの中に入ってランプを消そうとした途端、それを止めるように手を掴んできた。

「腕……どうなってる?」

 それが斬った腕の事だと分かると、セイネリアはそちらをシーグルに見せてやる。

「完全に元通りだ、傷も残らん。斬ったのはこの辺りだな」

 指さして見せれば、彼は顔を顰めてその辺りを撫でた。

「完全に……斬ったのか?」
「あぁ、斬り落とした」
「まさか落とした腕をどこかに落としたままにした……訳じゃないよな?」
「違う、斬ったモノが戻ったんだ」
「くっついたのか?」
「少し違う、斬った筈のものは消えてもとに戻った」
「どういう仕組みなんだ?」

 シーグルはまだ腕を触っている、それがこちらを心配しての事だと分かっているからセイネリアは嬉しくなる。なにせ彼が心配してくれると言う事は、こちらの事を大切に思ってくれていることなのだから。
 セイネリアはまだ腕を触るシーグルの手を取ると、それに口づけしてから彼の額にキスをして上掛けの中に完全に入った。

「魔法のしくみなんてのはよくわからないが、俺の治癒能力は基本は『元に戻る』ものらしい。だから失った腕がそのままで新しい腕が生えてきたりはしない」
「もし、失った腕が燃やされたりした場合は?」
「それでも戻ってくる、燃えカスは消えてな。どんな酷い状況になっても体は『戻る』んだ……呪いを受けた直後の状態にな」

 セイネリアは言いながらシーグルの顔のあちこちにキスをする。それから彼の体を抱き寄せて、いつも通り彼の頭の中に鼻をうずめる。彼の匂いが分かるこの体勢がセイネリアは好きだった。

「……まて、なら血は? 血は全部戻らないのか?」
「あぁ、前に言ったろ、重症程早く治る、軽傷の方が痛みは続くと。あれと理論は同じらしい、大量に出血があると命に係わる分まではすぐに『戻る』が問題がない分は簡単に戻らない。どうやらそのうちに体が新しい血液を作りだしていらなくなるから戻らなくなるらしい。だから血は完全に戻らずに服についたまま多少残る。面倒な話だ」
「でたらめな体だな」
「あぁ、ただの化け物だ」

 そこでシーグルは少し安堵したかのようにこちらに頭を押し付けてきた。

「だが、安心した。少なくともお前が頭を斬られても別の頭が生えてくる訳ではないと分かって」
「確かにそれは嫌だが……」

 でも戻った頭に記憶がどこまで残っているか……それは分からない。さすがに試していないから、戻った頭が呪いを受けた当初まで戻っている可能性を否定は出来ない。

「大丈夫だ、お前の記憶が呪いを受けた時まで戻っていたとしても傍にいてやるさ」

 セイネリアが黙ったことで察したらしいシーグルがそう言ってきて、セイネリアは更に彼を強く抱きよせるとその頭に笑って顔を擦り付けた。



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 当時の記憶までのセイネリアとシーグル……どうなるでしょうかね(==
 



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