ある北の祭り見物譚
シーグルとセイネリアのアウグ旅話
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。





  【12】



 何があったか説明する……というその内容は、セイネリアが説明する前に彼が上着を脱いだ時点で大体判明した。

「何だそれは」

 ベッドに下ろされた体勢のままシーグルが言えば、セイネリアはやはり至極冷静に、まったく抑揚のない声で返してきた。

「言っておくが、誰も殺していないぞ」

 血のついたシャツに左手の袖が途中からなくなっていて、切れた部分は血で縁取られている――その状態でそう返されたらもう答えは一つしかない。

「腕……斬られたのか?」
「まさか、自分で斬った」

 シーグルは驚いて目を見開いて……それからガクリと、頭を押さえて項垂れた。

「一体なんのために……」
「脅しだ」
「はぁ?」

 そういう人を馬鹿にしたような返し方は滅多にしないシーグルだが、さすがに呆れすぎてそう声を上げた。勿論それにこたえるセイネリアの声はどこまでも冷静だ。

「手っ取り早く脅して吐かせるためだ。本当なら向こうの腕を斬り落としてやりたかったが、やったらお前が後で怒るだろ」

 言いながら上の服を脱いだセイネリアがベッドに乗り上げてくる。

「だからって自分の腕を斬るか?」
「俺の腕は治るからな」
「それは分かってるっ……だが、他にいくらでも違う脅し方があっただろ、それこそお前ならじっと睨んでるだけでもその辺の連中なら脅しとしては十分だった筈だ」

 ベッドの上に座っているシーグルは、セイネリアが近づいてくれば体を引くしかなくなる。そうすればすぐにそれ以上下がれないところに来てしまって、後はセイネリアの顔が近づいてくるのを待つしかなくなった。

「急いでいた」
「馬鹿か、それでももっと他……」

 けれど、言った言葉は唇が塞がれてそこで終わりになった。壁に追い詰められたシーグルには逃げ場がなく、セイネリアに顔を押さえられたらキスを受けるしかない。……いや、別にキスされるのが嫌ではないが。
 ただやはりこういう怒っている時のセイネリアのキスは性急で、いつもの優しいふれあいからだんだんと深くなっていくものではなく最初から深く舌を絡ませて唇をぴっちりと隙間なく合わせてくる。

「ン……ぅ……」

 シーグルとしては苦しいのだが、慣れているこの男は呼吸が苦しくなった辺りで少し
だけ隙間を作って空気を吸わせ、またすぐに塞ぐ。そのタイミングが絶妙な辺りが小憎らしい。

「ば、か……」

 どうにか彼の顔をはがそうとするが、こういう怒っている時の彼がそれで大人しく離れてくれないというのをシーグルは分かっていた。だから抵抗は数度で、唇を塞がれたまま体を引かれてベッドに寝かせられた辺りで諦めた。

――今日は仕方ないか。

 馬鹿な事をしたセイネリアにシーグルは怒っていたが、彼の方がもっと怒っているのは分かっている。きっとシーグルがいなくなった部屋に帰って、何故置いて行ってしまったのだと彼は自分の失敗を責めた筈だ。怒りを外にぶつけられない分内にぶつけて――それが脅しも兼ねた自傷行為になったのではないかと思っている。

――結局、悪いのは俺だからな。

 シーグルには自覚がある。だから諦めてセイネリアの好きにさせるしかない。
 不用意にあの男を信用して部屋に入れてしまったのがそもそもの問題で、本当はセイネリアが帰ってきてから改めて聞きに行くと返せばよかったのだろう。帯剣している状態で一対一、それであの宿の男相手なら後れを取る筈がないという油断があったのは確かだ。

 シーグルはセイネリアに身を任せながら考える。セイネリアはなおもキスをやめてくれず、考えながらも意識がぼうっとしてくる。服を脱がされて、肌を撫でられれば反射的に鼻から高い音が抜ける。胸を弄られ、脇腹を撫でられれば腰が浮く。口腔内でぬるぬると舌をこすり合わせていれば気持ちよくなって、いつの間にか腕は彼を求めてその体に縋りついていた。

「ぅ……ん、ぁ……ふぁ」

 塞がれっぱなしだった唇が時折離されて、その度に服が取り去られていく。互いに全裸になるとセイネリアが体の上にその体を下ろしてくる。彼の体は重いけれど、ぴったり肌が密着して下肢の熱が合わされば思わず腰が揺れる。

「シーグル」

 耳もとを舐めてからセイネリアが囁く。それだけで体が熱くなるのが自分でもわかった。

「シーグル、愛してる」

 掠れた、彼らしくない不安げに揺れる声で言われればシーグルは逃げられない。股間同士を擦り合わせてくる彼の動きに合わせて彼にすがりつき、自分も緩く腰を揺らす。

「覚えていろ……お前を失くしたら俺は俺でいられない」

 囁いて、また唇が塞がれる。片足が持ち上げられて後孔にセイネリアの指が触れる。ひやりとした感触に腰が引けそうになるが、シーグルはそれを我慢する。

「ンッ……ゥ、ゥ……」

 自分からも彼を求めて唇を合わせても、指が入ってくると眉間に皺が浮く。最初の違和感は仕方ないからキスに集中して、そちらに意識がいかないようにする。そうすれば今更のようにセイネリアは少し優しく、丁寧なキスをしてきて時折強張る舌を優しく包み込んでくれた。
 くち、くち、と水音が下肢で鳴る。
 異物が体の中へ入ってきて、中を探り、擦り上げる。
 暫く周囲を押して広げていた指は、今度は急に激しく出し入れを繰り返す。
 奥を突かれ、内壁を擦り上げられて次第に周囲が熱を持っていく。異物感が『熱』になり、意識せずびくびくと内部の筋肉が動いている。指が入ってくるたびにそれを締め付けてしまう。

「あ……や……」

 いつの間にか開放されていた唇から声を上げて、シーグルは顔を彼の肩に押し付けて必死に彼の体に縋りついていた。

「噛んでいいぞ」

 言われたから、そこから口を開けて彼の肩を噛む。勿論セイネリアがそれに動じる事なんかなくて、指はシ―グルの中で益々激しく暴れている。

「ン、ン、ぁ、あ、あ、はぁ――」

 そこで一度目の波がくる。
 体を固くしてそれを感じ、一度強く彼に抱き着いてからシーグルは脱力した。そのままベッドに体重を預ければ、彼が額の汗をなめとってから目元や頬に触れるだけのキスを何度もしてくる。

「……ただでさえ……っなのに」

 文句を言おうとしても声が出なくて、セイネリアが伺うようにこちらの顔を覗き込んでくる。シーグルはその顔を恨めしそうに睨むと、どうにか息を整えて言いなおした。

「ただでさえお前の方が馬鹿みたいに体力があるのに、こっちを先にイカせるなっていっただろ」

 するとセイネリアは少し嬉しそうに笑いながら、こちらの目元と頬にキスをして言ってくる。

「慣らさないとお前が辛いだろ」
「だからっ……慣らすだけでやめろっ、イカせるまでやらなくていいだろっ」
「寸止めでいいのか? もっときついぞ?」
「いやっ、そのっ、加減が、な……」

 セイネリアが珍しくクスクスと楽しそうに笑う。なんだか恥ずかしくてシーグルは頬が熱くなる。

「一度イカせてからじゃないと、お前、俺がイクまで付き合えないだろ」
「う……」

 それを言われると言い返せない。
 この化け物男は余裕がありすぎて、一度イった後でも毎回彼より先にシーグルの方が限界になる。生い立ち的に経験値が違い過ぎるとはいえ男としてはちょっと悔しい。とはいえこちらの方で彼に対抗しようなんて気はシーグルもなかった。

「化け物め……」

 思わず言ってしまえば、セイネリアはまたこちらの顔にキスをして、それから足を持ってこちらの腰を持ち上げる。

「まぁ否定はしないが……これでもお前との時は俺は余裕がないんだ」

――化け物過ぎるだろ。

 これはおそらく黒の剣のせいではなく、彼本来の――……考えていたら、彼のものが尻に当たってシーグルは息を飲む。それをなだめるようにセイネリアの顔が下りてきてこちらの目元に数度キスをしてくる。それから、指がまた入ってきて広げられれば……。

「う、ぁ……」

 シーグルは目を閉じて歯を噛み締めた。この体勢でやるのはきついのだが彼が顔を見たがるから仕方ない。それでもまだ、セイネリアは上手いからどうにか……考えているうちに、ずるりと中に大きな質量が入ってくる。一瞬痛みとぞくりとした感覚が襲って、異物感に気持ち悪くなるけれど、セイネリアがこちらの腰を更に上げて後は一気に入ってくる。

「あぅっ」

 奥まで一気に彼が入って、シーグルはその衝撃に声を上げた。
 そこから暫く……こちらが慣れるのを待っているのかセイネリアは動かない。シーグルは歯を食いしばって耐えていたが、あまりにもそのまま彼が止まっているのでそっと目を開けて見て、そしてこちらをなんとも言えない……何処か悲しそうな目で見ている男に顔を顰めた。

「何……してるんだ」

 セイネリアは苦笑する。自嘲気味に。

「いや……お前は、最初はいつも辛そうだなと思っただけだ」

 今さら何を言ってるんだこの男はと思うところだが、どうやら彼はこちらが辛そうだったり苦しそうにする顔は本当は極力見たくないらしいとシーグルは分かっている。

「……でもやめないんだろ」
「あぁ」

 言って彼が少し腰を揺らしたからシーグルはまた顔を顰める。けれどそれでまた止められたらたまったものではないから、シーグルは苦しいながらも声を上げた。

「苦しいままで止められる方がきついに決まってる。俺が顔を顰めているのが嫌ならさっさと気持ち良くなれるようにしろっ」

 言ってから『何を言ってるんだ自分は』とやたら恥ずかしくなったが、まだ苦しいだけのこの状態を長引かせられても困る。そうすればセイネリアから笑った気配が返って、彼の顔がまた降りてくる。

「分かった、覚悟しろ」

 その言葉にとてつもなく嫌な予感がして、自分の言った言葉に激しく後悔したものの、もう逃れようもないからシーグルは諦めて『覚悟』した。
 セイネリアは楽しそうにこちらの瞼と額とキスすると、こちらの腰を引き寄せながら上半身を上げて抽挿を始めた。

「あ、っん……ぁ、ぁ、ぁ……」

 彼が動き出せば中を擦られる感触を追って意識をそこへ集中する。彼以外とだったら逆に意識しないようにするから、こういう時に自分は彼を相当に『許している』んだなとシーグルは思う。それはつまり、彼以外だったらこんな事で感じるのなんて嫌だが彼ならいいと思っているという事で、認めるのは悔しくもあるがそれでも……彼の事を『愛しい』と思う気持ちがあるからだと自分で自分に納得させる。

「うぁっ」

 考え事をしていたらそれを見透かされたようで、急にセイネリアの動きが速くなる。シーグルは彼の顔を睨んだが、彼はまたこちらの額にキスをしてきて、今度は体を少し倒して激しく中を突いてくる。

「う、ん、ん、ん、ん、ぁ、ぁ」

 熱がせりあがってくればもう意識はそこだけに向かって、シーグルはシーツを掴んで感覚に耐えた。最初は口を閉じて耐えようとしていたけれど、切ない疼きが下肢全体を覆ってくると自然と口が開いてしまう。
 自分の意思とは関係なく、彼を受け止める肉がひくついているのが分かる。
 腹の中を突かれる苦しい筈の瞬間に、甘い声を上がる。
 強くなってくる甘い疼きに耐えられなくて手を伸ばせば、誰よりも強い彼の体がそこにあってシーグルはそれに縋り付く。
 口を開け、腰を揺らし、彼の体を掴んで……そうして、セイネリアの手がこちらの前に触れてきたから、シーグルは悲鳴のように小さく呟いた。

「ば、か……ぁ、だめ、だ……」

 言って間もなくまた限界が来てしまったシーグルは、体に力を入れて必死にセイネリアに抱き着いた。けれど体の力を抜いて安堵する事はまだ叶わない。そこで更にセイネリアが深く、強く中を抉ってきて……いい加減にしろと思いながら彼に縋り付いていたシーグルは、そこから暫くしてから――寝ている自分の顔のあちこちにセイネリアがキスをしているのに気づくまで意識を飛ばす事になった。



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 次回はセイネリアサイドのエロ続きから……を予定。でも長くは書かないかも。
 



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