※この文中には一応性的表現が含まれています。いちゃつきメインでエロといえる程ではありませんが苦手な方はお気を付けください。 【5】 二人ともが裸になると、まず向き合って抱き合う。 いつからそれがお約束になったのかは覚えていない。寒い時はベッドの中で、もしくはベッドに座ってという事もある。いつのまにか、とにかく最初は抱き合って互いの肌と体温を感じてから始めるようになった。なんというかセイネリアの場合、長く付き合う程に手順が丁寧になっていく気がする。最初は無理やりだから比較できないが、彼の部下になってからで考えたって……前は本当にいきなり深いキスをしてきて意識が朦朧としている内に喘がされて入れられてたという感じだったから今はえらい丁寧になったと思う。というか、回数を重ねる程に……なんだろう、恋人同士のセックスらしくなっている、という感じだろうか。 なんて事を考えていたシーグルは、意識を戻して彼の体に頭を寄りかからせた。……なにせ最中に考え事をしているとセイネリアが拗ねて余分な事をし始める事がある。彼としては、こういう時くらいは自分の事だけを見て考えろという事だから、シーグルもそこは一応気をつけているのだ。 抱きしめ合う腕の力は強くなく、でも体はぴったりとくっつける。そうして背が高いセイネリアは、大抵こちらの髪の中に鼻を埋める。だからシーグルは彼の肩口に頭を預けて、彼の好きなようにさせて待つのだ。 暫くすれば、セイネリアがわずかに体を離してこちらの頬から顎に手をおいてくるから、シーグルは顔を上げて下りてくる彼のキスを受けてやる。キスの方も前より随分いい意味で丁寧になった。最初は互いに啄むように唇を合わせてはすぐに離して、それを何度か繰り返してから深く重ね合わせる。そこからは彼も抑えが利かなくなってくるらしく、舌をこすり合わせればその内絡めとられて、あとは少し……シーグルも記憶が飛んだりする。 ただ、前と違うのは、今の彼はその後、こちらが意識を取り戻すまで待っててくれる。前ならこちらの状態に構わず先に進めていた男は、今はこちらが意識がはっきり戻ってくるまで、顔のあちこちに触れるだけのキスをしている程度で待っている。 だから意識がはっきりすると、まず視界に入るのはやたら嬉しそうなセイネリアの顔で、あまりにも嬉しそうすぎてシーグルとしてはちょっとムカつく事も多い。 「本当にお前、嬉しそうだよな」 「お前は嫌そうだな。……だが、お前のそういう顔も俺は楽しい」 さらっとそう返されるから、シーグルは嫌味がこの男には効かない事を毎回実感する事になる。 「お前、俺ならどんな反応でもいいのか?」 「当然だ……と言いたいところだが、お前が悲しむ顔と、俺を拒絶する顔は見たくない」 まったく、こういう事を当たり前のように言えてしまえるからこの男はずるい。そしてこの言葉にちょっと嬉しくなるあたり、自分も随分と彼の事を好きになっているのだと実感もする。……勿論、そんな事を口に出して彼に言ってやったりなんてしないが。言えば調子に乗るから言葉にはしないようにしている。 でもその代わり、顔を彼の肩に埋めて体ごと彼に寄りかかる。口で言わなくても、彼はそれで察してくれる、ただし。 「う……」 ちょっとこちらから彼に甘えにいくと、すぐ歯止めが利かなくなるのは前とあまり変わらない……かもしれない。気づけばまたセイネリアに唇をふさがれている。当然ながら完全に本気モードのキスで、これはやばいと思えばそのままベッドの上に押し倒された。上から押し付けられる状況で唇を合わせていれば意識が怪しくなってくるのは仕方ない。一応抗議をかねて自分の体の横に置いている彼の腕をつかみはしたものの、それがこの状況ではなんの効果もない事をシーグルは知っていた。 ――まったく。 そうは思ってももう怒る気はなくただ彼の好きにさせる。そう割り切れるくらいには、シーグルは彼の事を好きだったし、信頼していた。 そうして、キスの最中に意識が薄くなっていって、気づいた時には……。 「あ……」 肌が震えて意識がはっきりしてきたシーグルの目の前に彼の顔はなかった。ただ彼の体の影は見える。でかい図体だから当然だが。 「ぅん……」 また声が出た。そして今度はその原因である箇所、右足の付け根辺りに視線を向ける。そこでセイネリアが顔を上げて、シーグルと目が合った。 「気づいたか?」 嬉しそうに笑ったと思えば、持ちあげていたこちらの足の腿にキスをしてそのまま肌を吸い上げた。 「っおい……跡がつくだろ」 「ついても問題ないだろ、お前のこんな場所を見るのは俺以外いない」 それはそうだが……そこに跡があるという事は、そういう事をしたという証拠である訳で、あとで見るたびにシーグルは恥ずかしくなるのだが。 とりあえず最近の、意識が飛んだあとに気がついた時は、大抵セイネリアはシーグルの体のあちこちにキスをしてる最中だったりする。気づいたらいきなり入れられてたというよりはいいが、それでこちらの見えにくい場所に跡をつけてくれているから厄介ではある。 「それは、そうだが……」 文句も言えずに呟きがそこで止まると、セイネリアが上体を起こして持っていたこちらの片足を肩に担ぎ上げた。 「ちょ……おい待てっ、セイネリアぁっ」 焦って言うが、既に足を広げられて彼のが尻にあたっている状態だ。 「お前の意識がはっきりするまで待っててやったんだ、これ以上は待てないな」 と言いつつ笑っている男は、じらすように入口周辺にあてるだけでまだ入れては来ない。それどころかこちらの腿の付け根を撫でだしたと思ったら、軽く股間を触ってきて、シーグルの顔は真っ赤になる。 「なら、さっさとやれ」 たまらずそういえば、セイネリアは満足そうに笑ってから自分のモノを押し込んでくる。 「う、ぅ、あ、ぁ、ぁ……」 入ってくる時の感触は正直苦手で、だからこちらの方へ上体をおろしてきた彼の肩を掴んで力を込める。ある程度まで過ぎれば最後は一気に入ってきて、それが悲鳴になる前にセイネリアにまた唇をふさがれた。 口腔内で唾液を交わして、舌の感触を求めて、擦り合わせて、求めあう。 そうしている間に我知らずシーグルの手は彼の肩から背に回り、彼に抱き着いていた。しっかりと抱き着いて彼のしっかりした体を感じて、そうして舌を合わせながら体の中で彼が動きだす。 「ん、ん、ん、ぅ、うん、ぁ、ぁ」 動きが早くなってくれば唇が外れて声となる。恥ずかしいとか、男として悔しいとか、ここまで来ると考える余裕もなくなって喘ぐだけだ。あとは溺れて、彼に必死に抱き着いていた事しか覚えていない……。 うぅ、と唸り声が聞こえてセイネリアはベッドの中をのぞきこんだ。 そうすれば不機嫌そうなシーグルと目があって、セイネリアは思わず笑みが漏れた。 「ほら、濡らしてきてやったぞ」 体を拭くために濡らしてきた布を渡せば、シーグルはふてくされたような顔のままそれを受け取ってだるそうに起き上がった。 「だるいなら俺が拭いてやるぞ」 「いい、自分で拭く」 前はシーグルが気を失っている間にセイネリアが拭いていたのだが、それは嫌だと騒がれたから最近はこうして濡らした布を持ってきてやるだけにしている。まぁこれはセイネリアが加減して彼の気を失わせるところまでやっていない事もあるのだが。 「喉が渇いたろ、拭いたら飲め」 ついでにサイドテーブルに水の入ったコップを置けば、シーグルは小さい声で、ありがとう、と返してきた。 「本当はフロにしたいところだが、さすがに人の家でそこまでは言えないからな」 「当たり前だ……」 尚もふてくされたような顔で体を拭いている彼を見ていれば、セイネリアの手は自然と伸びて彼の体を後ろから抱きしめる。 「おい、お前なぁっ」 そこでやっと大きな声を出して抗議してきた彼だったが、セイネリアが黙って彼の肩に顔を埋めるとその声が止まった。 「俺はずっとお前と一緒だ」 呟けば、彼が首を曲げてこちらを見てくる。だがセイネリアの顔はシーグルの肩に押し付けられているから見えない。 「セイネリア?」 こちらの様子が少し違っていたのが分かったのか、彼の声は困惑している。 「どれだけ時が経っても俺はお前と共にいる。だからお前も俺と共にいてくれ。お前は強いから、知り合いが皆いなくなっても、俺がいなくなってもそれを乗り越えて生きていけるが、俺はお前がいなくなったらいつまでも正気ではいられない」 シーグルは黙る。暫くただ静かな時間が過ぎる、それから彼は口を開く。 「ならお前は、俺が傍にいればいつまでも正気でいられるのか」 「そうだ」 即答で返せば、シーグルがぷっと噴き出した。 「本当にお前はずるい、それじゃお前の傍を離れられないじゃないか」 「そうだ、俺はお前が共にいてくれるためなら何でもやると言っただろ」 「……本当にはた迷惑で手間がかかる男だな」 「代わりに、お前が望むのなら何でもしてやる」 尚も彼の肩に顔を置いたままでいれば、シーグルの手がこちらの頭を撫でてきた。 「なら、狂わず俺と一緒にいてくれ。お前だけは変わらず俺の傍にいてくれ」 「当然だ」 --------------------------------------------- これにて終了……ですが、ラークを出す余裕がなかったので、次回はちょっとだけオマケ。 |