行く者と送る者の約束
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【10】



 ベッドの上に座って向かいあった互いの顔を見つめて、そうして最初はいつもキスから始まる。
 本当にこの男はどこまでキス魔なんだとあきれるくらい、いつもいつも彼は飽きる事なくキスしてくる。しかも今日は『これ以上なく優しく』と言ったからなのかやたらと浅いキスを繰り返して来て、いつものように一気にこちらの感覚を奪っていかないから頭が完全に正気のままキスを続けなくてはならなくなった。それが……なんというか、妙に気恥ずかしくて、そして感触がはっきりしていて生々しい。ゆっくりと、その柔らかさを実感しながら合わせられる唇、自然と開かれて浅く入ってくる彼の舌。最初は少し冷たく感じた彼の舌先は触れている内に熱になる。いつものように深くまで入ってこないから舌先だけで触れ合わせて、そうして一度合わせなおす為に唇を離す。離した時、すぐ傍で吐かれる彼の吐息の感触さえも分かってしまって、それもなんだかたまらなく恥ずかしかった。

「ン……」

 それでも確実に体の奥に熱は灯っていく。気付けば鼻から抜けるような声が出ていて、それを自覚してしまった途端また頬が熱くなった。そうすればセイネリアの手が頬から耳の下、それから首筋を撫でてきて髪に指を入れてくる。そこから軽く引き寄せられて、今度は彼の口がこちらの口を覆うくらいに開かれて少し深く合わせられる。舌同士が初めて根元まで絡まって、ぬるぬると擦り合わせた後、それでもやっぱりまた離れていく。

「や……」

 思わずそう呟いてしまってから、彼が笑ったのが気配と吐息で分かってしまったシーグルはまたさらに赤くなる。一方、セイネリアといえば嬉しそうな顔でまた顔を近づけてきて、今度は深く口づけてきた。
 舌を合わせて、互いの粘膜を感じて、濡れた感触同士を擦り合わせてとろとろと溢れてくる唾液を飲み込む。その際に零れた唾液が口の端から顎を伝って喉へと落ちていき、そこから寝間着の空いた胸元へ落ちていく。そんな水が体を伝っていく感触にびくりとすれば、セイネリアの大きな手が頬を覆い、少し顔を傾けさせられてやってきた彼の唇とぴったりと噛み合わされる。唇と唇が隙間なく合わせられれば彼と繋がる喜びが沸いて、シーグルは手を伸ばして自分もセイネリアの体を抱いた。胸と胸が密着すれば、服の上からでもその温かさが伝わって更に心の何かを満たす。彼を感じている事が嬉しくて、体と心が喜びに震える。そうすれば頭も思考を捨ててぼうっとその感触を感じるだけになって、そうしていつの間にか唇を離してこちらをじっと見つめている彼の顔を見る事になる。

「シーグル」

 名前を呼ばれたから、シーグルは反射的に答えた。

「……なんだ?」

 そうすれば最強の筈の男は少し寂しそうに笑う。

「俺の名前を呼んでくれ」

 まだ頭が少しぼうっとしていたから、いつもなら少し身構えてしまうその言葉にも、だからシーグルは条件反射的に返してしまった。

「セイネリア」

 セイネリアは笑う、嬉しそうに。

「セイネリア」

 だからシーグルはもう一度彼の名を呼ぶ。彼の笑みは深くなる。

「セイネリア……セイネリア……セイネリア」

 けれどその流れで自然に『愛している』と言いそうになったところでシーグルはハッと気付いて意識が急にクリアになる。それに彼が気づかない筈はなく、どうした、と聞いてきたからシーグルは腕に力を入れて彼に抱きついた。

「なんでもない。少しぼうっとしていただけだ」
「そのままぼうっとしていて良かったんだが」

 少し笑いながら彼が言ってきたからシーグルも笑った。顎を掴まれて顔を上げさせられればまた近づいてくる彼の顔を感じて目を閉じる。けれど唇に何かが触れるより先に、鼻をすりつけられてシーグルは目を開いた。柔らかく微笑む金茶色の瞳を間近で見て、なんだか気恥ずかしくてシーグルは苦笑するしかない。そうすれば彼はまた浅く口づけてきて……けれど、ちゅ、と明らかに音を立てた彼は顔を離すと今度は手をするりと胸元に入れてこちらの胸をまさぐるように撫でてきた。

「おい、セイネリア……」

 突然だったから抗議すれば、それより早く、しかも自然に、するすると服が脱がされていて胸を晒していた。しかも次に抗議しようとしたらいきなり指の腹で乳首を弾かれて、そのまま下りていった彼の口の中へ含まれてしまう。

「ぅ……」

 声はどうにか殺したものの、そこからわざと唾液をたっぷり含ませながらセイネリアは乳首を舐める。当然ぴちゃぴちゃと音を鳴らし、手で胸や脇を摩りながら時折吸って、甘噛みまでして、こちらの意識をそこだけに向けさせる。

「あ……」

 くすぐるような刺激の中、時折強い感覚が与えられて体がびくんと震える。そうすればセイネリアの手がこちらの胴を押さえつけ、今度は顔をべったりと胸につけて舐めてくる。先ほどよりもあからさまに水音を立てて、まるでしゃぶりつくようなその様は流石に感覚以上に恥ずかしくて、シーグルは彼の頭を掴んで抗議した。

「馬鹿……やめ……ろ、て……」

 だがそこで彼は急に頭を上げる。それで思わず彼を見下ろしたシーグルは、こちらの顔を見る彼と目が合った。

「本当に、やめていいのか?」

 にやり、と笑って彼が言ったのを見た途端、シーグルは自分の顔がとんでもなく熱くなったのを感じた。

「なんだそれはっ」

 声が怒ったものになるのは当然だ。

「感じてるんじゃないのか?」

 ここが、と指で唾液で濡れそぼった乳首をくるくると擦られる。

「あ……」

 声を出せば、今度はセイネリアの手が服の中に入り込み、そろりと股間を撫でていく。

「あっ……ぅ」
「……感じているんだろ?」

 なんだか今は顔が熱すぎて熱が出て来たみたいに思考がうまく回らない。シーグルはぎゅっと口を噤んでセイネリアを睨み付けたが……この男がそんな簡単に狼狽えてなんかくれる訳はなかった。

「お前は我慢しすぎだ、もう少し素直に感じてくれてもいいだろ」

 セイネリアの手がすうっとシーグルの性器を指でなぞる。ぞくぞくっと寒気にも似た快感が背筋を走ってシーグルは目を閉じた。けれどもこれは失敗で、目を閉じたせいで彼が触れてくる感覚をより強く感じてしまう事になった。ふくらみを揉まれてそこから立ち上がり掛けたソレを指で挟まれて扱かれて……それから先端を強く擦られて掌全体で掴まれる。

「ふ……ぅ」

 今度はあの大きな手で完全に掴んで扱かれて……聞こえてきた水音が自分のせいだとわかるからこそ、シーグルとしては恥ずかしくてどんどん居たたまれない気持ちに追い詰められてしまう。

「や、だ……やめ、や……」

 言えばセイネリアの手の動きは速くなる。急に素早く掴まれたソレ全体を扱いてきて、更にはまた彼の頭は胸に張り付いてきて乳首を吸う。

「や、だめ、や、あ、あ……ぅ」

 きゅ、と軽く胸の尖りを甘噛みされて、それと同時に雄として一番敏感なソレの先端を軽く爪を立ててまで強く擦られる。それに耐えろというのは無理で、シーグルはセイネリアの頭を掴んだまま背を丸め、びくびくと体を震わせて彼の手の中に吐き出した。

「感じたか?」

 彼の声が耳に直接吐きかけられる。そんなすぐ傍で囁かれた声を聞いたら呆ける間もなくまた顔が熱くなって、涙目にさえなりながらシーグルは彼を睨みつける事しかできなかった。

「……見てわからないのか?」

 イった人間にそれを聞く神経が分からないとシーグルは思ったが、聞いてきた彼の顔は思いの他寂しそうで、そんな顔を見てしまえばシーグルの頭の中を支配していた怒りも霧散していく。

「お前はいつも嫌がるからな」

 それを言われると確かにそうだとはシーグルも思う。とは言えシーグルにだってちゃんと理由がある。

「……悔しいだろ」
「何がだ」
「……俺は女じゃない」
「だが俺に抱かれるのは嫌じゃないんだろ?」
「そう……だが」

 それでも感じるままに喘いで快感に喜ぶなんて……想像しただけでシーグルは無理だとしか思えなかった。

「お前は正気だと全然素直になってくれないからな。だからつい、お前の意識が飛びそうなところまで追い詰めたくなる」
「つまりお前がいつもやりすぎるのは俺の所為だといいたい訳か」
「そうだと言ったら?」

 しれっとした顔でそう言われるとシーグルとしては返す言葉がない。

「セックスは互いに愉しむものだ。お前が意地を張って愉しんでくれないのは言わばルール違反のようなものだな」
「なんだその理論はっ、嫌だと言ってるのに無理やりこっちをイかせる方がルール違反じゃないのか!」
「……本当に、嫌なのか?」

 それにはまた言葉が詰まる。この男はこういう屁理屈理論でこちらの反論を封じ込めるのが本当に上手い。しかもそれをちょっと悲しそうに言うのだから、こちらに感じなくてもいい罪悪感まで感じさせてくれる。
 だが、シーグルが次の言葉が出なくて黙っていれば、途端にセイネリアはまた『らしく』にやりと唇を吊り上げる。それから唇を押し付けてきて、けれど口を開けることはせずに、ちゅ、と音だけはさせてから唇を離した。

「まぁ、そうやって意地を張って耐えるお前も楽しいからいいんだがな」

 それで思わず睨みつければセイネリアは喉を揺らして笑う。

「結局お前は何が言いたいんだっ」
「……そうだな、ベッドで見せるしーちゃんのいろいろな顔を見ておきたかっただけかな」

 この期に及んでそうからかってくるから、シーグルに怒るなというのはどう考えても無理な話だった。

「……分かった、つまりお前は今日はもうこれ以上やらなくていいという訳だな」
「それはだめだ」

 と、言ったと思えば肩を押され、気付けばシーグルはベッドの上に倒されていてこちらを見下ろしてくるセイネリアの顔を見上げていた。そうして彼はやっぱりあの人を威圧する琥珀の瞳を悲しそうに……寂しそうに細めているから、シーグルもそれ以上怒れなくなる。

 あいしてる。

 声には出さずに彼の唇が動く。それは見なかったことにして、シーグルは見下ろしてくる男の頬に手を伸ばした。

「余計な事を言わないならちゃんと最後まで付き合ってやる」
「分かった、さすがにここで終わりは俺も辛い」
「俺も……本気で怒ってここで終わりにしたら後悔するだろうしな」
「そうなのか?」

 その声は少し嬉しそうで、でもなんだかそこで恥ずかしくなったからシーグルは言葉を足した。

「あぁ、最後に我慢させたから次の時はお前の気が済むまでどれだけ付き合わされることになるのかと恐ろしくて堪らなくなるだろうからな」

 セイネリアはそれに破顔する。それからふん、と偉そうに鼻を鳴らして片眉を上げる。

「そうだぞ、ここで俺に我慢させると、耐えきれなくてお前を襲いにジクアット山まで行ってしまうかもしれない」
「さすがにそれは勘弁してくれ」
「なら……会えない間に未練が湧かないくらい……お前をちゃんと感じさせろ」

 シーグルは苦笑してため息をついた。

「加減はしろよ」
「分かってるさ」

 そうしてまた、今度は額にキスをしてくると彼はこちらの耳元に顔を埋めて、耳たぶを吸い、そこから唾液のあとをつけながら首を伝って喉、鎖骨、そうして胸にまた吸い付いてくる。



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 セイネリアがしつこすぎるのとシーグルが意地張りすぎるので長くなったんですよ……。
 ってことで次回後半戦。



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