【15】 ぼうっと天井を眺めて、どれくらいそうしていたのか。 気を失ってはいなかったと思うが、思考が途絶えていたせいで記憶がなく、気がついた時にはセイネリアがじっと見下ろしていた。というか、いつから彼が見ていたか覚えていない。最初は天井を眺めていた筈……なんて間抜けに考えて、シーグルはその彼の顔に手を伸ばし、その頬に触れた。 「大丈夫か?」 触れれば彼は静かにそう言い、それから顔を下して唇を塞いでくる。それを目を閉じて大人しく受け入れれば、彼は軽く舌を絡ませては離して、唇を合わせ直して……それを3度程繰り返してから顔を離した。 「正直、疲れて果てて動きたくない」 言えば彼は楽しそうに笑う。それからこちらの頬を撫ぜ、額から前髪を払うと今度はそこに唇を押し付けてすぐ離す。幸せそうに、柔らかく笑う彼は、けれどもそこで唇を開いて何かをいいそうになってからすぐ口を閉ざした。 彼が言いたい言葉は分かっている。 それが言えない理由も分かっている……自分の所為だ。 「シーグル?」 こちらの様子に違和感を感じたのか、セイネリアの眉が僅かに寄せられたからシーグルは誤魔化すように笑った。 「お前は……今は俺がいない時もちゃんと眠れるか?」 咄嗟に出た言葉には自分でもしまったと思ってしまったが、それでも彼はへたに詮索をせずに苦笑を返した。 「最近は、お前と寝ない事がまずないだろ」 「……そうだったな……だが」 「まぁ、前程お前が傍にいない事に不安を感じてないのは確かだ。……お前が寝込んで一人で城へ行く時に馬車の中で仮眠を取れる程度にはな」 「そうか……」 それにはほっとしてシーグルが笑えば、また彼は額にキスをしてくる。 だからシーグルはそのまま両腕を伸ばして彼の首の後ろに手をまわす。セイネリアは身を屈めてこちらを引き寄せてくれたから、シーグルは腕に力を入れて彼に抱きつく。そうすれば胸にはしっかりとした彼の筋肉に覆われた体の感触があって、鼻には彼の匂いが広がる。それを出来るだけ強く感じたくて目を閉じれば、彼の腕がこちらの背にまわされて抱き返される。更にはそれだけではなくそのまま持ち上げられてしまって、ベッドの上、座った状態で抱き合う体勢になってしまった。 「少し、汗を掻き過ぎたな。体を拭いてやる」 言ってセイネリアはこちらを完全に抱き上げるとベッドを降りて立ち上がる。 「言っておくが自分の体は自分で拭くぞ。お前にさせるとまた寝られなくなる」 シーグルは抱きしめた腕を離したが、彼の腕はがっちりとこちらを抱いているから体を離す事までは出来ない。それで顔を顰めたシーグルにセイネリアは笑って、宥めるようにまたキスをしてきた。 翌朝は、やはり怠くて。 しかも重いと思ったら彼の腕が胸の上に乗っていて……そこから彼の腕をどかそうとしては引き寄せられたり等の一悶着があったのだがどうにか起きて、それからカリンが見計らったようなタイミングで現れて食事の支度が出来た事を告げてきた。あとはいつも通り、もうすっかり慣れて揉める事もなくなった向かいの席に座って二人で朝食を取った。 食事を必ず一緒に食べるように、というのはドクターから言われた事らしい。 確かにそのおかげで毎日三食、普通に食べる事に『慣れて』きて、今では食べる事にへんに気構える事はなくなった。毎日セイネリアの顔を見て、彼の食べっぷりに感心しつつ他愛ない会話をしながら食べていたら、食べるという事にへんな気負いをせずに自然と食べ物を口に入れるクセがついていた。 多分、今の自分なら大丈夫。 多分、今の彼なら大丈夫。 その日の朝食を終えた後、だからシーグルは最近ずっと考えていた事を彼に打ち明けた。 「セイネリア、暫く、お前の傍を離れてもいいだろうか」 >>>>>END. --------------------------------------------- ってことでこのエピソードも終了です。 次回は勿論シーグルの最後のセリフが引き起こした将軍府のあれこれ……。 |