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＜警備隊西第２隊＞ ※あまり長くないですが、隊長×ザウンのHシーンがあります。 【前編】 北の大国クリュース、その首都セニエティと言えば、あちこちからやってきた様々な人種でごった返して……早い話とんでもなく人が多い。 しかもその人間の大半は冒険者と呼ばれる腕っぷしに自信がちょいあるごろつきさんな訳で、これでトラブルが起きない筈はないというものである。その上この国では冒険者――の中でも戦闘能力があるもの――はたとえ何かのトラブルに巻き込まれて殺されたとしても殺した者は罪にならないなんて恐ろしい法律がある訳で、とんでもない無法地帯になるだろそれ、としか思えない条件が揃っているのだ。 ただしだからこそ自浄作用が働いて、目立つ悪さをする者は他の冒険者に消されたりして――結果、意外にうまくいっているものだ、というのが世の中の認識であったのだが。 実際のところ、本当にそんなにうまく行くものか？ といわれたら――勿論そんなうまく行くわけがない。 悪さをしてるとんでもない奴が、とんでもなく強かったり用心深かったり厄介だったりする場合は、そうそう都合よく始末してくれる誰かは出てきてくれはしない。そうなるとそういう場合の『誰か』をやってくれる存在が必要という話になるのは当然の結論だ。 暗闇の中を走る男の影が４つ。 ここセニエティでは、表通りは魔法による街灯の明かりに照らされていて夜でも明るい。だからこんな暗い場所をわざわざ行くのは、表に出られないような後ろめたい何かがある人間だという事だ。 男達は走る。何かから逃げるように走って、そうしてもう殆ど人が住んでいない旧住宅が並ぶ地区にきたところで、他の小道との交差点に差し掛かり、足を止める。 「くそっ」 交差する道から現れたのは、たった一人の人影だった。 ただしそれが彼らを追っていたウチの一人である事は、月明かりに浮かぶその姿から分かる。 「さぁて、そろそろ追いかけっこは終わりにしとこうか」 そうして顔を上げた男の目を闇の中で確認した数秒後、逃げていた男達の先頭に立っていた男は悲鳴もなく絶命していた。 ただ仲間が倒れて行くのを何が起こったのか分らず見ていた二人目の男も、次の瞬間には二つめの死体になっていた。同じく、その隣にいた三人目も何も分らない内に命を無くした。 最後の四人目は運がいいのか悪いのか、他の者より足が遅かったせいで前の三人から少し距離がある位置にいた。その所為で彼は、仲間達が一瞬のうちにヒトから死体という『モノ』になってしまった瞬間を見る事が出来てしまった。 「後一人、かな」 状況に似合わない穏やかな声が呟いて、暗闇の中の男の目がこちらを見る。 表情が全く変わる事なく、気配も変わらず、音もたてず、構えた剣の刃が僅かな光を受けて煌いたのが男には見えた。 「う、うわぁあ、ああああ」 逃げようとして後ろを向いた男だったが、そこから一歩、足が前に届いたかどうかというところで剣が自分の腹を貫通しているのに気が付いた。 「えーと、やっぱ俺いらないんじゃないかなとか……」 ザウンが言えば、つい今さっきまで尋常じゃない動きであっさり４人の男を始末してしまった男はその場で大きく欠伸をした。 「いやぁ、ザウン君はいうなれば保険だよ〜。もし誰か逃げた時の足止め要員だからね」 緊張感の欠片もない声で言った男は剣から血を払い、暫く刀身をじっと見て確認すると首を左右にこきこきと動かしながら鞘に戻した。 「隊長、だから彼はまだ現場に連れてくるのは早いと……」 「かたいこというなよテデース君〜、いいんだよーこういうのはまず慣れから入らないとね」 「しかし、今のところ本当にただの見学ではないですか」 「んー、でも最初は仕方ないじゃない」 隊長、と呼ばれるこの一見くたびれた中年になりかかったくらいの歳に見える彼は、ザウンが所属する首都警備隊西第２隊の隊長で上司であるオールベイ・クッツ・ロウズモアという。そうして、テデースと呼ばれて機嫌悪そうに隊長を睨み付けているちょっと品があって気難しそうな長い髪の美形が、副隊長であるテデース・クライア・カーリスであった。 「あー……テデース君はザウン君を連れてこなくちゃならなくなった所為で、俺に追いつけなかったのが悔しかったのかな？ まぁ４人いれば前までは一人くらいは大抵テデース君がやってたからねぇ」 「……すみません」 思わず反射的にザウンが謝ってしまうと、やっぱり隊長が気楽そうに言ってくる。 「いーよいーよ、結局はお仕事が無事終わればいい訳だし」 「そりゃぁ貴方がいれば、余程の人数でもない限りは俺などいなくても問題ないでしょう」 「えー、いつも頼りにしてるよぉ。仕掛ける前に作戦考えるのはテデース君の役目じゃない」 そうしてぽんぽん、と隊長が副隊長の肩を叩くと、あれだけ機嫌が悪そうだったテデースがため息をついて表情を崩す。 けれどそれはほんの数秒の事で、次に隊長が言った言葉で、気難しい副隊長の顔はまた顰められる事になった。 「ねぇ、面倒だから今日はこのまま放置しちゃわない？ どうせ片付けるのはウチの隊なんだしさ、明日でよくない？」 ――そんな訳で。 つまるところどういう事なのかと言えば、ザウンが所属している警備隊西第２隊だが、隊の一部の者にとっては、そういう『勝手に始末されてくれない厄介な犯罪者』を始末するのも仕事だったりするのだ。 警備隊、というのは国に雇われた……のではなく地方領主に雇われた治安部隊の事で、首都などでは特に対外戦力としての騎士団もいる分、領内の犯罪者や冒険者同士の諍いを取り締まるのがお仕事となる。と、一般的な警備隊員はそれだけなのだが、一部の特に腕がいいとされている連中達にはもう一つの秘密のお仕事があって、それがこの『法律でどうこう出来ない厄介な犯罪者をこっそり始末する』事なのであった。勿論、公にはされていないがこれもちゃんと政府からのお仕事である。 まぁ、考えてみれば単純な話だ。 戦闘能力のある冒険者なら殺しても罪にならない――という前提は、冒険者でもある警備隊のメンバー自身にも当てはまるという事である。つまりこの法律によって、国から依頼を受けた冒険者が、悪さをしている冒険者を始末したところで罪にならないという事だ。 「いやー、つっかれたなぁ」 部屋に帰ってきた途端、そう言ってベッドに倒れ込んだ人物をじっと見て、ザウンは思う。 ――この人の疲れたってどんくらい本気で言ってるんだろう、ってか戦闘中が強すぎというか一瞬過ぎて全然疲れてそうには見えないんだけどなー。 いつでも怠そうにしているのもどこまで演技なんだろう、とザウンはベッドにぐったりしている上司をじっと見つめてみる。 そうすればその人物はつっぷしていたのをごろん、と転がって仰向けになると、ザウンを見てにっこりと笑った。 「ザウン君は疲れてないのかな？」 「いや、俺は見てただけですので」 「でも夜もおそいしね。眠くはないのかな？」 「えぇまぁ、眠いといえば眠い、ですが……」 そこで言葉を詰まらせたザウンを見て、その人物はちょいちょいと手招きをしてきた。 「眠いなら、寝ればいいじゃない」 その顔を見て、ザウンは観念した。 やけくそのように下着以外の服を脱いで、彼の待つベッドに向かう。 隊の中では入ったばかりの下っ端ザウンは、現在いろいろ紆余曲折あって隊長の部屋で寝泊まりをしていた。そうして……一緒のベッドに寝る事になって……そういう関係にもなっていたりした。現在では隊公認の隊長の愛人である。 どうしてこうなったんだろう……と思う事しきりだが、自分が納得して関係を持っている分人の所為には出来ない。抱かれている時に嫌だと思わない段階で自分も彼を好き……なのかな、とも思う時もある。 「やっぱザウン君は可愛いなぁ」 ベッドの上に転がればすぐに抱き寄せられて、顔のあちこちにキスをされる。 いくら愛人とは言っても、そう毎日とか頻繁に隊長はこちらに手を出してくる訳ではない。いや……それだと流石にザウンの体がもたない。普段はお休みのキスとか抱き人形（枕？）扱いとかで、いいとこ悪戯にザウンだけ手とか口でイカせてくれるくらいだ。 ただ隊長は『仕事』の後はほぼ必ずザウンに手を出してくる。場合によっては『慰めてよ』なんて言ってきたりするものだから、卑怯だなと思いつつも結局毎回付き合ってしまうことになる。 ――やっぱり、人を殺すって精神的にきついんだろうな。 どれだけ慣れたように平然と殺していても……いやだからこそ、殺す事が精神的な負担になっているんだろうかとザウンは思う。いつも飄々としてだらっとしているのも、何か精神的な負担を減らす為なのかなとも思う。 ザウンは隊長の手伝いとして裏の仕事の方に連れていかれていても、今はまだ人を殺した事はない。正直、隊長の仕事を手伝っていてその仕事が正しいと思っていても、自分も同じ仕事が出来るかと考えれば実力の分を置いておいても怖いと思う。少なくとも隊長のように平然と迷いなく人を殺すなんて無理だ。 「どーしたのかな？ 考えてないで今は俺を見ててほしいな」 ね、とちょっと寂しそうに額にキスなんかされれば、結局ザウンは大人しく彼を見てしまう。彼がいかにも『慣れてるな』と思うのはこういう時だ。 隊長の手が中着のシャツをまくり上げてくる。そうしてそうっと胸を撫でてくると、触れた指先で乳首を軽く弾いてくる。 「ん……」 それにびくりと反応してしまえば、隊長の顔が耳元にやってきて耳を軽く舐めてくる。耳元でぴちゃりと鳴るのと同時に胸の敏感な場所を弄られて、身体の熱が上がる。競りあがってくる熱に思わずもぞもぞと足が動いてしまう。下肢全体を覆う疼く感覚に、きゅっと足と足を摺り寄せて固く閉じようとしてしまう。 「欲しくなってきちゃった？」 そうはっきり聞かれれば、ザウンの顔は真っ赤に染まる。 隊長は返事を待たずに手をザウンの足の内側に入れてきて、そうっと撫でながらそれを股間まで移動させてきた。 「あ……」 声を出した時には下着を半分下されて、直に手が触れてくる。 最初は少し乱暴に。それで反応してくると、今度はゆっくりと焦らすように一番感じる部分を外して撫でてくる。 「う、ん……」 だからそれに耐えきれなくて、まるで彼の手を挟むように足をぎゅっと閉じてしまえば、途端にきつくこちらの先端を指で擦る。 「ひぁっ」 身体に力が入ったあまり、目の前に男にしがみついてしまう。 悔しい事に、ザウンは軽く達してしまったようだった。 「ザウン君、キスして」 少しだけ呆けていれば、目元にキスを落されながらそう言われて、ザウンは言われた通りにその彼の顔にのろのろと手を伸ばした。 普段隊長を見て美形だなんて思う事、ザウンにはまずない事だと言っていい。彼のイメージは冴えないくたびれたおじさんになりかけた青年で、なのにこうして目の前で見るといつも意外に整っているその顔にどきりとする。 両手で彼の顔を持って、そこへ自ら唇を近づけていけば、にっこり笑っている隊長を見つめながら唇同士が触れ合う。触れればすぐに口の中へ引き入れられて、舌同士、その先っぽがちょこんと触れる。最初はそのまま先端だけを触れあって擦らせあって、それから舌を絡めとられて深い口づけが始まる。 「ン、ンン……」 最近ではすっかりこういうキスに慣れてしまって、すんなり応えて深く舌を絡ませ合う。キスしているだけで頭がぼうっとなってきて、体の熱が更に上がって来て、感じる事しか考えられなくなる。 「……ンッ」 そうしていれば、隊長の手が抱き寄せるように背中から尻を伝って、そうして尻を何度か撫ぜてから指が中に入ってきてしまう。 「う……ンンッ……ゥ」 いつの間にか何かで濡らしていたらしい彼の指は少し冷たくて、そこを解しながら中の感じを確かめているようだった。 「あ……うん……」 唇が外れれば、唾液が口から零れてシーツに濡れた跡が出来た。 ザウンが耐えられずに目の前の男に抱きつくというよりしがみつけば、ぐちぐちと中を探っていた指は抜かれて行く。 「あ、隊長ぉっ」 もう耐えられそうになくて叫んでしまったザウンのその目元の両方に、隊長は交互に優しくキスしてくれる。 「こういう時くらいはオールベイって呼んでくれていいんだよ」 笑った気配と共にそうささやかれたと思えば、彼の体が離れて行く。 焦って目で彼を追えば、彼は一度起き上がってまだ体に残っていた装備を外して服を脱いでいるところだった。 何処かまだぼうっとしている頭でそれを眺めていたザウンの目の前に彼の素肌が現れる。そうして見てしまえば……彼のその身体に見入ってしまうのはいつものことだった。 身体は細身でもしっかりとついた筋肉は相当に鍛えている。けれども彼の裸を見るたび一番驚くのは、やはりその傷の多さだろうか。鍛え上げられた傷だらけの体は、彼がどれほどの修羅場をくぐってきたのかを言葉なんかよりも如実に伝えてきて、そうしてザウンは彼という人間が分らなくなる。 やっぱり、普段のあののんびりした顔は演技で、本当の姿が人を殺す時のあの彼の方なんだろうか。 迷って不安になるのはいつもの事だが、にこりと優しく微笑まれてキスされると頭が否定してしまう。こののんびりした姿の方が本物であってほしいと思ってしまう。 「ザウン君、大丈夫？」 「はいっ、だい、じょうぶ、です」 これからを考えて固い声を返せば、彼は苦笑して、優しく額から髪を払ってからそこに軽いキスをくれる。 それからゆっくりと身体を倒してこちらの中に入ってくる。 「う、あ、あぅ……ぐぅ、ん」 慣れてるな、と思うだけあって瞬間のその時にザウンが痛みを感じた事はない。 ただ最初はそれでもなんか気持ち悪さを纏った苦しさに辛かったけど、今はそこまで辛くもなかった。 「あぁ、ん」 ぐん、と奥を突かれて目の前に彼にしがみつく。 とにかく今は彼にしか頼れないのだから、ひたすら必死に抱きつく。 「大丈夫、ゆっくり感じよう……ね？」 こういう時に掛けてくれる声はいつも優しくて、下肢の方だってそこまで性急に動いてくることもない。こちらを気遣って、ゆっくり、優しく、じっくりと快感を体に生んでいくその動きにいつしか自分も同調していく。声を上げて、体温に縋って、競りあがってくる快感という熱に思い切り溺れる。 「あ、たい、ちょぉっ。あん、あ、うぁ――」 ……ただ問題があるとすれば、隊長がイクまでには自分はいつも２，３回はイカされる事だろうか。 まぁ、そんな感じでいろいろ将来に不安を感じつつも、警備隊に採用されたザウンは結構それなりに有意義（？）な日々を過ごしていた。 なにせまずはともかく、ザウンは今首都の警備隊員なのである。 この国の冒険者制度は、仕事をしていけば信用と実力で内部評価が蓄積されていき、それによってより上の仕事を紹介して貰えるようになるのだ。騎士のようにちゃんとした『格』がつく訳ではないが、警備隊員となって問題を起こしたりさえしなければ、ゆくゆくは役職持ちに出世できるかもしれないし、辞めたとしても信用も実力もがっつり上がって次の仕事に有利になる。 まさに、ただの冒険者からは一つ上にランクアップ出来たといっても過言ではない。……まぁ、問題さえ起こさなければ、だが。 「隊長、朝から４番通りの旧市街で死体があったって連絡ありました〜」 「ん、じゃニコ君、食事終わったら行ってきてくれる？」 「うぇ、朝っぱらからですかぁ」 食堂での朝食中、自分の頭上で交わされる会話をザウンは聞かないふりをする。心を無にして、関係ないです俺、を装う。 結局、昨日のあの後、本気で隊長は死体を放置した。 まぁどうせ正式な警備隊のお仕事としても『死体は冒険者で戦士登録、じゃ冒険者同士のトラブルね』で終わってただの片づけなので、特に問題があるという訳ではない。この国の法律的には犯罪にならないのだから、犯人探しもない。 「おうニコ、朝っぱらからお疲れさん」 「いってらっしゃ〜い」 他の隊員達が気楽に彼にそう声を掛ける中、ザウンはなんだか真相を知っている者としての罪悪感に苛まれていた。 警備隊所属だからといっても、隊長がやってるような公になっていないお仕事の方に関わっている人間はほんの一部だけだ。この隊では現在隊長と副隊長とザウンの他に後二人いるのだが、ニコはそれ以外の方になる。 「くっそ、カウルス、つきあえっ」 「……ったく」 ちなみにニコと同室のカウルスも部外者だ。文句を言いつつもげんなりした顔で美味しくなさそうに食事をかっこむ姿を見れば、やはりザウンの胸はちくちくと痛む。 だからザウンも思い切って一気に食事を食べきると、ニコが立ち上がるのに合わせて立ち上がった。 「ニコさんっ、俺も行きますっ」 悩んだり気になるんだったら行動したほうがいい、ザウンはそういう青年だった。 「ザウン君、やっぱ可愛いなぁ」 ニコを追いかけていく小柄な青年の姿を隊長であるオールベイが目を細めて見ていると、隣に座って黙々と食べていた副隊長のテデースがぼそりと呟く。 「貴方の尻ぬぐいじゃないですか」 「うん、彼は自分の罪悪感を誤魔化せないんだろうね」 「貴方も多少は罪悪感を感じて下さい」 「やだなぁ、それは無理だよ」 「まったく……」 ため息をついて、食事が終わったテデースは、眉間の皺そのままに口を拭くと立ち上がる。 オールベイはそんな彼に目を向ける事もなく、ただじっと正直者の現在自分の愛人でもある青年を見つめていた。 「だから、自分にないものを持っている子は大切にしてるんだけどね」 呟いて、彼はふにゃりと締まりなく笑った。 --------------------------------------------- この手の昼行灯タイプって結構好きなんですよ。 |