剣を持つ者は愛を知らず

※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【5】




 黒い騎士はシーグルの傍にくると、倒れるシーグルの傍に剣を突き立て、その剣から手を離した。
 シーグルは何も言わない。
 騎士は倒れるシーグルの上に馬乗りになると、まずはシーグルの兜を外した。

「……っくそ……」

 晒された顔を黒い騎士が覗き込めば、シーグルがその騎士を睨みながら悔しげに呟く。
 決して小柄ではないシーグルの体がその騎士に押さえつけられていると、鎧の上からでも体の細さが目立って、酷く頼りなく見えた。

「しーちゃんさ、まともにやって勝てないのはわかってるだろ。せめてもちょっとズルい手考えるとかさ。逃げもしないなんて、もしかしてしーちゃんもこの後楽しみにしてるのかな」

 いわれたシーグルは顔を赤くして叫んだ。

「ふざけるなっ」

 そうして逃れようと暴れだしたが、自分より明らかに大きな体に馬乗りになられては、流石のシーグルも殆ど身動きがとれないようだった。

「抵抗は大歓迎だけど、この後の体力なくなるよ。ただでさえ体力ないんだからさ」
「うるさいっ、俺はヘンタイ野郎に付き合う気はないっ」

 黒い騎士は、瞳を細めるとシーグルの顔に顔を近づける。

「そういいながら、毎回俺に抱かれてるな」

 言いながら、黒い騎士の手はシーグルの鎧を脱がせにかかる。同じ騎士同士、ウィアみたいに脱がせ方が分からない筈はなく、手馴れた様子であのガチガチに着込んだ装備を剥ぎ取っていく。
 シーグルはその間も何度も身を捩って抵抗をしているが、確実に身に着けている物が減って行くのは遠目でも分かってしまった。

「くそっ、離せっ」
「冗談、これからが本番だろ」

 金属製の鎧部分の大半を脱がせたところで、騎士の手がシーグルの下半身をなぞりだす。

「やめろっ、くそっ」

 ざっと、音がして。
 見ているウィアには何が起こったのか一瞬分からなかった。
 だが、騎士がシーグルから手を離して、髪から何かを払うような仕草を見せた事で、恐らく程度には理解出来た。

「いいなぁ、そういう悪あがきするとことか。ますます勃っちゃうなぁ」

 黒い騎士の顔はいわゆる男前と言えるくらいには整っていて、その騎士が髪の毛を掻き上げながら呟く様は、普通なら絵になるところだろう。だが今、その男が言ってることは変質者以外の何モノでもない。
 恐らく、シーグルに地面の土を投げつけられた黒い騎士は、その汚れを優雅に払うと、再びシーグルの体を押さえつけた。元々、手を一度離したとはいえ、完全に乗り上げられていたシーグルは、その間に逃げることも出来ず、騎士の手で地面に背を押し付けられる。

「この……ヘンタイめっ」
「お前があんまり俺を喜ばせるから悪い」

 馬乗りから、今度は体毎押し付けるようにシーグルの上に乗って、完全に抵抗を奪った押さえ方から、騎士はシーグルの下肢の衣服を一気に下ろす。
 それから。

「あっ……」

 初めて上がる高い声。
 騎士の手はシーグルの下肢、足の付け根の辺りで揺れている。

「やめっ……ろっ、あ……くっ」

 懸命にこらえようとしているのに上がる声と、騎士の手の動きを見れば、シーグルがどこを触られてるのかは容易に想像がつく。
 先程までは強気な態度で睨み返していたシーグルが、苦しげに目をつぶっている。時折端正なつくりの眉が切なげに寄せられて、元々が綺麗な顔なだけにその表情はなんというか……そのとても色気がある。この状況で不謹慎なのは承知だが、襲ってる黒い騎士の気分が分かるとウィアは思ってしまった。

「……っ……くっ」
「いい反応じゃないか、しーちゃん」

 騎士の手の動きが早くなる。

「はな……せっ……やめ……」

 ウィアはごくりと喉を鳴らす。
 耐えてる声というのは下半身への破壊力がマズイ、等と考えて、ウィアは即座に自己嫌悪に陥った。かといってこの状況で助けを呼ぶべきかも迷う。
 シーグル本人は、何も手を出すなとしか言わなかった。
 だが状況上、このままシーグルがあの黒い騎士に襲われるのを見ている訳にもいかない、とウィアは思う。だが今、ヘタに助けを呼んで彼のあの姿を他の人間に見せるのもどうなのか。プライドの高そうな彼にとってはそっちのほうが嫌なのでは、とも考える。……しかも、襲ってる黒い騎士の方の口ぶりでも、シーグルの様子でも、これが初めてのことではないのは確かそうだった。
 だから、実は二人は一種の恋人同士みたいなものなのか、とも思ったが、黒い騎士の方はともかく、シーグルは本気で嫌がっているように見えて、それはないように思えた。
 ウィアは頭を掻いた。
 その間にも、向こうの二人の行為は進んでいる訳で、ウィアの焦りは増すばかりだった。

「つっ……ぁ」

 耐えられずに声を漏らして、そうしてシーグルの頭ががくりと下を向く。力の失くなった体を改めて抱きかかえると、黒い騎士がその項垂れたままの顔を上げさせる。

「ん……」

 ちゅく、と水音がここまでたまに聞こえてくるくらい、ねっとりとシーグルの首筋やら耳元に舌を這わせる騎士。シーグルの方も一応逃げようとしているようではあるものの、その動きに力は入っていなそうで、たまに漏れる声以外はされるがままになっている。

「しーちゃんは本当に可愛いなぁ……」

 合間に騎士が自分の手からグローブを外していて(って事はつけたままアレを触られてたのか)、素手になったところでそれをシーグルの下肢の辺りに持っていく。

「やだ……うぁっ……」

 やたらごつい篭手をつけてる左手でシーグルの片足を持ち上げ、素手の方の手を尻の辺りにもっていけば、もう何をしてるかなんて言う必要もない。

「く……うっ」

 噛み締めるような苦し気な声からして、シーグルはどうやらあの騎士の方が言うようにそこまで頻繁にこのような事をされている訳ではないとウィアは思う。
 ……いや、そんなことを考えるあたり自分もどうよと、ウィアは思わず顔を顰める。

「中きつきつだ。……どうやら浮気はしてないようだね、良かった良かった」

 口調は軽口ではあるものの、黒い騎士の声にはなにやら不穏な響きがある。

「誰がっ……好きでこんな事する……かっ……っく……」

 喉を逸らして喘ぐその喉元に、騎士が噛み付くようなキスを落とす。

「それがいい、俺以外に抱かれたら破滅するぞ、お前」

 続けるように小さく呟かれた声は、ぞっとする程冷たい。
 あれを近くで聞いているシーグルを思うと、ウィアの方が足が震える。
 それから、今度は黒い騎士の方が体を浮かせて、ベルトを外すような音が聞こえる。つまり騎士が自分の方の服を緩めたと考えられて……。
 ちらり、と一瞬だけ騎士のモノが見えて、ウィアはちょっと見た事を後悔した。
 戦士らしいがっしりと大柄なその体格に相応しく、見えたものはウィアの方が小さく悲鳴をあげたくらいの大きさだった。

 ――アレ、突っ込む気かよ。

 どうみても無理矢理だろう状態で、あんなものをあの細いシーグルの体に入れるなんて、ウィアは想像しただけで血の気が引いた。あの騎士相手が初めてではないとしても、慣れてない体にあれはあまりにも酷すぎる。それ以前に、これはどうみても強姦だ、犯罪ならすぐにでも助けを呼ぶべきではないか――パニックを起こしかけながらウィアは考える。
 ……だが、何もするなといわれた手前、助けを呼びにいくのも躊躇する。それ以前に、ここから戻って助けを呼んできたとしても間に合う気はしなかった。ならばと、ウィアが助けに入ったとしても、あの黒い騎士相手にどうにか出来る気は全くしない。

「挿れるぞ」

 黒い騎士が体毎押さえるように、シーグルの上に覆い被さる。

「やめろっ……うぁぁあっ」

 その大きな体で、細身のシーグルを抱き締めるようにしながら体を揺らす。ウィアの位置からだと、胸まで持ち上げられたシーグルの片足と二人の下肢が重なっているのしか見えないが、多分恐らくアレが今シーグルの中に入っていってるのだとウィアは思って、我知らずに顔を顰めた。

「がっ、つっ……うぅ」

 相当苦しいのか、シーグルの体は思い切りのけぞったまま震えている。それでも騎士はお構いなしに、下肢を揺らしながらシーグルを押さえつける。

「シーグル、きつすぎる。辛いのはお前、だ」

 黒い騎士の声にも少し苦しそうな響きがあるあたり、相当きついのだろう。

 ――やっぱり、シーグルはそんなに経験が無さそうだ。

 ウィアの見たところ、どうみても彼は下やるようなタイプじゃない……と、そんな風に冷静に考えてでもいないと、ウィアの方も自分の下半身の反応が抑えられない状態であるのだが。
 見ないようには努めていても、それでも音は聞こえてくる。
 気になってちらりと見てしまえば、第一印象がきつ目のハンサムと思ったあの顔が、泣きそうな程に苦し気に歪んでいて、急いで目を逸らしてしまう。
 兄であるフェゼントと違って、シーグルは美形ではあるが女顔というタイプではなく、どうみても男より女性にモテるタイプだ。それでもやはり兄弟というやつで、あぁして頼りなさ気な表情とかしていると、頭の中でフェゼントと顔が重なる。
 ただでさえシーグルの顔と声で反応するのを我慢しているのに、フェゼントとの行為まで思い出してしまってはウィアに逃げ場がない。

 ――落ち着け、落ち着け俺。

 別の事を考えて気を紛らわそうと思っても、聞こえてくる音はどうしようもない。
 目を手で塞いではたまに開けて後悔し、仕方ないので今度は背を向け、どうすればいいのか分からず頭は完全にパニックを起こしていた。だがやはり、今更シーグルを見捨てて逃げる訳にもいかず、ウィアは滾る体に意味なく暴れて、地面を叩くやら草を毟るやらする始末だった。

「うぁっ、あぁっ」

 背後で声が上がって、思わずウィアが振り返る。

「全部入ったぞ。やはりお前の中は狭いな」

 黒い騎士が嬉しそうに、痛みに目を見開くシーグルに口付ける。気の強そうだった青い目からは生理的なものだろう涙が流れていて、その涙を美味そうに騎士の舌が掬い取っていく。

 ――じれて力任せに一気に入れちゃったってやつだよな、アレ。

 ウィアはフェゼントの顔を思い浮かべて、いいのかお前の弟とんでもないことになってるぞ、と、思わず呟いて溜め息を吐いた。

 ――俺はどうすりゃいいんだよ。

 視界の端では、黒い騎士がシーグルに腰を押し付けるようにして動いている。その動きに合わせるように、シーグルの体もびくびく震えて、持ち上げられた足を揺らしている。黒一色の大きな体が真白なシーグルの体を組み敷く姿は、悪魔に貪られる聖なる生き物のようで、あまりにも痛々しかった。

「うっ……ぐ……あぁ…」

 苦しそうに耐えながらも、シーグルの口から漏れる息にも僅かに熱が混じっている。騎士が突き上げる度、くっと喉を逸らし熱い吐息を漏らす姿は、ドラゴンを倒した凛々しい姿からは想像出来ない。騎士の動きが激しくなるにつれて水音まで聞こえてきて、さらに上がる耐え切れない声に、ウィアは何度目か分からない唾を飲み込んだ。

「奥まで咥え込んで美味そうに締め付けてるぞ。イイんだろ、シーグル」

 歯を噛み締めて耐えるシーグルは、もちろん言葉を返す余裕さえない。
 揺らされながら、顔だけを必死に左右に振って否定するが、その顔を手で押さえて、騎士が顔を近づける。

「俺だけに抱かれて、俺だけを感じろ。お前は、俺のものだ」

 黒い騎士は少しだけ自分も息を荒くしながら、激しくシーグルを揺さぶる。

「ふ……うぅっ」

 歯を噛み締めて殺した声は、くぐもりはしたのもの高く甘い響きを持っている。必死に耐えてはいるが、シーグルが感じている事は誰が聞いても分かるだろう。
 ウィアは頭を抱えた。
 耳を塞いでも聞こえてくる、粘ついた水音と肉のぶつかる乾いた音。
 シーグルの声に、騎士の荒い呼吸の音が混じって、音だけでもとてつもないいやらしさだった。

「中を女みたいにぐちゃぐちゃにして、俺のを美味そうに咥えて……随分利口な体になったじゃないか。最初の時は痛がるだけだったのにな、そろそろ男の味を覚えたか?」
「う……ちが…ッ」

 そう言っても、騎士の激しい動きに、シーグルの腰も揺れる。
 黒い騎士は顔に笑みを浮かべると、腰を動かしながら、足を押さえていない方の手でシーグルの胸やら下肢のモノを撫ぜる。それに合わせるように、シーグルの背が時折跳ねて、噛み締めた口元から息を飲むような高い声が上がった。

「やだっ……やめろっ、嫌だぁっ」

 体をびくびくと跳ねさせて、シーグルは硬く目を瞑ったその顔を激しく左右に振る。

「イイの間違いだな」

 黒い騎士は益々笑みを深くすると、一際激しくシーグルを突き上げた。

「ぐっ、……やだっ……やだっ、離せっっ」

 何かを察したシーグルが、途端に体をガクガク震わせてそう叫んだ。

「シーグル、たっぷり俺を味わえ。中を俺で一杯にして、俺のものだという事を自覚しろ」

 黒い騎士がそう言って、シーグルに乱暴に腰を打ち付ける。
 ぐちぐちと激しくなる水音に合わせて、シーグルの体が騎士の下で大きく波打つ。
 やがて、騎士の体が動きを止め、シーグルが瞳を見開いた。

「ぐ……うぅ……ぁ」

 シーグルの体が腰毎持ち上がって、騎士の腕の中に抱き締められる。

「忘れるな、お前は俺に挿れられてイったんだ」

 呟くと、騎士は開いたまま唇を震わせるシーグルに軽く口付ける。それからびくびくと跳ねる体を押さえるように、腰を今度は緩く数度突き上げて、その中へ自分の滾りを注ぎ込む。シーグルは、細い悲鳴のような声を上げると、やがてぐったりと力を無くした。

「愛してる、お前は俺のものだ」

 言うと黒い騎士は、力を無くしたシーグルの耳元に何度もキスを落とし、最後にゆっくりと唇を重ねて口内を味わう。
 けれどもその顔が上げられると、金に光る瞳が昏い視線をこちらに向けているという事に気がついて、ウィアは背筋にぞくりと寒気を走らせた。






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