【6】 「いい加減出てきたらどうだ。無料見学のサービスタイムは流石に終いだ」 軽口なのに、その声には有無を言わさぬ迫力のようなものがある。 出てこなかったら殺す、言わなかったがそれくらいはさらりと続きそうだった。 正面からみる黒い騎士の琥珀色の瞳は、暗闇で金色に光る肉食獣の瞳のようで、ウィアは瞬間体が竦んで動けなくなる。こんな化け物相手に戦おうと思うシーグルの方がおかしい、と思う程の威圧感だった。 それでもどうにか、意を決してウィアは姿を現すが、流石にこの空気の中出て行くのは生きた心地がしなかった。 木の影から姿を現したウィアに、黒い騎士は値踏みするような視線を足から頭まで投げつける。それから。 「……成る程」 と、そう呟いて、こちらを威圧していた空気を散らした。 「お前じゃ、こいつの浮気相手にはならないな」 そらそうだろうけど、とウィアは呟くが、そう言って嫌がらせとしか思えない満足そうな笑みを浮かべられると、ウィアの男としてのプライドが激しく傷つくというものだ。 「力づくで押し倒せる程強くはなさそうだし、陥れる程賢くもなさそうだ」 間違ってはいなくても言い方はかなり酷い。 黒い騎士は既にウィアに興味はなさそうで、気を失ったシーグルの顔の辺りをキスしたり、汗を舐めたりしている。 「一応聞いておこうか、何者だ」 「俺はシーグルの兄貴の……恋人だ」 言い難そうに、それでも胸を張ってウィアが言うと、騎士はさっさとどこかへいけと言うように手を払う。 「じゃぁいい」 流石にそれにはウィアもむっときた。 「待てよ、確かに俺はそいつとそういう関係じゃねぇけどさ、仕事仲間で恋人の弟のそいつを、どうみても危険なあんたに渡したまま帰れる訳ねぇだろ」 言ってから、一瞬だけまた威圧するように睨まれて、ウィアは少しだけ後悔した。……したが、流石にシーグルをこのままにしておけない。 「……ふむ」 怯みながらも言い返したウィアに、騎士が少しだけ楽しそうな視線を投げる。 「なかなか気は強いな。もう少し見た目と体も強そうだったら好みだったんだが」 まぁ、しーちゃんには適わないけどね、と。嬉しそうにそう言って未だに目を閉じたままのシーグルにキスをする。その態度のころころ変わる様子に、ウィアは心底嫌そうに顔を顰めた。 「……てかあんたさ何だよその態度。ふつーに話せるみたいなのに、キモイしゃべり方してさ」 「あぁ、それは単純な理由だ」 「……なんだよ」 「嫌がらせに決まってる」 事も無げに言うその顔は、冗談ではなさそうで。 ウィアは頭が痛くなった。この男は、自分の理解出来る範囲の精神構造をしていない。 「俺があーゆー喋り方すると、シーグルは嫌そうに睨みつけてくる」 だからなぜそんなに嬉しそうにそういう事を言うのだろうこの男は。 「ふざけた態度で負かすと、余計に悔しそうでな」 ――おーいフェズ、お前、弟がすごいヤバイやつに付きまとわれてるぞー。 本人には言えない分、心の中でウィアは叫ぶ。 「勝てる訳がないのに、それでも逃げない。負けると悔しがって鍛錬に走り回って、それで負けてもまだ努力を諦めない。本当にシーグル程俺を楽しませてくれる者はいない」 その言葉に、ウィアは本当にシーグルが気の毒になった。 「……あんた、相当イカレてるな」 「自覚はある」 そうしてまた愛しそうに腕の中のシーグルにキスを落とせば、流石に気がついたシーグルが身じろぎする。 「……ンッ……ツ」 ピクリと瞼が揺れて、少しだけまだ涙を含んだ青い瞳が開かれる。 「しーちゃんおきたー?」 声を掛けられて、飛び上がるように跳ねた体は、すぐさま黒い騎士の手から逃れてあとずさる。それから、調度足元に落ちていた折れた槍の残骸を拾うと、空いている方の手で服を押さえながら、黒い騎士に向けて急いで構える姿勢をとった。 ――気を失う程激しくヤられちゃった後にあの動きはすごいだろ。と、思わずウィアが感心したのは置いておいて。 「もーちょっと余韻を楽しませてくれてもいいじゃないか」 おどけた口調で不服そうに、騎士は笑いながら言う。だが、そもそもあの男は逃げないように捕まえておくことも出来たろうに、あきらかにわざとシーグルを離したようにウィアには見えた。 シーグルもそれは分かっているようで、その顔は泣きそうな程必死で黒い騎士を睨みつけていた。 「くそっ、貴様なんかに……壊される……ものかっ」 それに楽しそうに肩を竦めると、服装を整えながら、騎士はゆっくりと立ち上がって自分の馬の方へと歩いていく。 「待てっ、セイネリア」 それが黒い騎士の名前なのか、呼ばれた騎士は嬉しそうに振り向くと、シーグルに向けて笑いかけた。 「なんだ、体力残ってるならもう一回付き合ってくれるのか?」 シーグルの顔が真っ赤に染まる。 「ふざけるなっ、いつかきっと貴様を倒してやる」 騎士はそれを聞くと、ゆっくりと目を細めて、口元に笑みを作った。 「だめだなぁしーちゃん。そういう時は、『いつかきっと殺してやる』くらいいわなきゃハッタリでも脅しにならないよ。……本当にいい子ちゃんだな、シーグル。そういうところも愛してる」 シーグルが無言で、持っていたかつて槍であったものを投げる。 けれどもまだロクに体に力が入らないだろう状態で投げたそれは、相手に届く事もなく地面に落ちる。それを見たセイネリアという騎士は、声を出して笑いながら自分の馬に飛び乗った。 「それじゃぁ、また遊ぼうね、しーちゃん」 明るく手を振って馬を走らせ出した騎士をじっと睨みつけて、シーグルはその姿が見えなくなると、張っていた気が緩んだのか、辛うじて立っていた状態から膝をついた。 「くそ……ちく……しょうっ」 顔を俯かせ、地面に付いた手を固く握り締めて。 きっと、シーグルは泣いている。 それが分かるから、ウィアはシーグルを見ないようにした。 それにしても。 本当にこれは複雑だとウィアは思った。 多分、あの騎士は本気でシーグルを愛してる。変質者的にと言ってもいい程熱烈に。 だから、シーグルの気持ち次第では、本気で他人が口を出す筋合いはないとウィアは思うのだが……だが、あんなのに好かれたのはどうみてもとんでもない厄災なんじゃないか、と同情せずにはいられなかった。シーグルにまったくその気がないならば、あれこそ最悪の人的厄災だろう。 「見苦しいところを見せた。申し訳ない」 数刻後、そう言って服装を整えたシーグルが、自分の馬を引いて近づいてきた。 見ていない間、暫く無言で泣いていたのだろうと思ったが、シーグルの目に泣いた跡はなかった。 完全に装備を直して、流石に兜まではしてはいないが、情事の後が残らない姿で彼は立っている。 上から下まで殆ど肌を晒す部分がないくらいに、全身きっちりと着込んだ鎧姿。普通、騎士とは言っても、正規騎士団員でもなければ、多かれ少なかれ皆適度に着崩したり、省略した装備で済ませているものだ。フェゼントなど面倒だからと、手甲までつけないで腕はグローブだけで済ませているし、そもそも鎖帷子以外は、部分的にしか金属防具を着けていない。 そういえば、とウィアは思い出す。 最初に見た時、ここまできっちり着てるのも珍しいなと思ったのだ。 あんなことの後でも、今目の前にいるシーグルの格好には乱れはない。つまり、相当神経質なまでにかっちりと装備し直したということだろう。 最初は、単なる真面目な性格の所為だと思っていた。 しかし、今回のように、何度か無理矢理あのような目にあっている所為で、きっちりと着込んでないと気が済まなくなってるんだろう、とウィアは思って溜め息をついた。兜を被っていたほうが落ち着くのもその所為だろう。 ――これ、放っておくのって、流石に可愛そう過ぎじゃないか。 思っても、どうすればいいのかはウィアに分からない。 分からないけど、どうにかしてやりたい。 「あー……その、いや」 口を開いてみたものの、なんと言えばいいのやら。 困るウィアに、シーグルがすっと頭を下げた。 「今のことは、フェゼントには言わないで欲しい。……頼む」 耐えるように、唇を引き結んで俯くその顔は、戦闘の時の凛々しさと先程の情事の姿を両方連想させて、下半身に直撃を受けるくらいの色気がある。かっちりと着込まれたその禁欲的な姿さえ、あんな事の後では逆効果だ。 ――俺って本当に節操ないなぁ。 頭を振って、軽く熱を冷ます。 「ウィア?」 シーグルが不安そうにこちらを見てくる。 ――あー、これじゃ俺もヘンな人だ。…いや、あえて否定する気もないけど。自重しろ、俺。いくら何でも俺じゃシーグルは押し倒せねぇ。……いやいや、フェズの手前そんな事そもそもしないけど。 自分で考えて自分でツッこむくらいに、ウィアは頭が混乱してきた。 「えーと、だ」 自ら落ち着くように、ウィアがこほんと軽く咳払いをする。 「とりあえず、今回は黙っておく」 言えば少しだけ、シーグルの表情に安堵の色が浮かんだ。 シーグルがそう言ってくるのは予想内であったし、この兄弟の複雑な事情も分からないまま、ヘタに引っ掻き回すのは止めた方がいいと思ったのだ。 だからせめて、自分が出来る事だけはしてやろうとウィアは思う。 「でもな、どうみてもあいつは相当ヤバイし、シーグルの事考えたら黙ってるのはあんまよくないんじゃないかとも思う。……まぁ、早い話、フェズの弟っていや俺も身内みたいなモンだし、お前の行く末考えたら心配だ」 「……申し訳ない」 そこで素直に謝るあたり、可愛いなぁとかウィアは思ってしまう。 第一印象の、強くて綺麗で尊敬に近い思いが、今の気分は可愛い弟に思えてくるから不思議だった。 だからこそ、ウィアは余計彼が心配になる。 「だから、黙っててやるけど約束はしてくれよ。本気でヤバイ時は相談してくれ。力になれることがありゃやってやるから」 「分かった。……ただ、セイネイリアはあれで冒険者としては信用出来る人間なので、そこまで心配しなくても大丈夫だ」 それを聞いて、ウィアは大いにつっこみたくなった。 いや、シーグル、強姦は犯罪だから。てかどう見てもとんでもない変質者だぞあれ――と。いっそ考えを改めるまで説教をしたいくらいだったが、流石にそれは自重する。 「……シーグル、お前あいつの事嫌い……だよな?」 「あたりまえだ。嫌い、という単純な一言で片付けられないくらいに」 「その割には、信用出来るとは思ってるんだ」 「……あのヘンタイ趣味は除いて、あくまで冒険者としてなら、だ」 うわー、と思わず思う程、シーグル君てば擦れてないなぁというか純粋だなぁというか、お義兄さん感動しちゃうよ――と思わず口に出しそうになって、ウィアは慌てて自分の口を手で押さえた。 ウィアの挙動不審な様子が気に掛かったのか、シーグルが少し眉を寄せて見つめてくる。繕うように、ウィアがまた一つ咳払いをした。 「えーと……」 ちらりとシーグルをみれば、格好はきっちりしているし、背筋はきちんと伸びているものの顔色が悪い。明らかに無理をしている。 「神よ、その慈悲深き救いの手を彼に……」 ウィアは治癒の術を唱えた。 ふわん、と暖かい光がシーグルを包んで、彼を僅かに癒す。 ウィアは治癒術は得意ではない。けれども、ないより大分はマシになるというのは経験的に知っている。 シーグルは辛そうにしながらも、大人しく術を受けいれて、僅かに安堵の息を吐いた。ウィアもそれで少しだけほっとする。 男同士で下をやるのは相当にきつい事も、その後でこれだけ平静を保つのがどれだけ大変かも、ウィアには分かる。しかも慣れてない上に、相手があの騎士で無理矢理では、自分ならば絶対に立つ事さえ無理だと思って深く同情してしまう。 何度か術を掛けてシーグルの顔色をみれば、先程よりは多少マシになったものの、まだ相当悪い。周りに誰もいなかったらとっくの昔に倒れてるんじゃないか、と思うくらいに。 「……とりあえず、きついだろ。少し休むか? それとも、首都まで帰れるか?」 聞けば、きつい青の瞳がすまなそうに伏せられた。 「大丈夫だ、帰ろう。……ただ、事務局へ行くのは明日でいいだろうか」 「あぁいや、そんなん急ぎじゃないし。まずはちゃんと休め。……すっげーきついんだろ、今」 「……すまない」 シーグルは相当無理をしている筈だから、動けるようなら早く帰してやったほうが良さそうだ。下をやる辛さはウィアにも嫌という程分かっている分、あの後でこれだけ一見平静を装うのは相当の気力だろう、と思うと、ウィアの方が顔をきつそうに顰めてしまう。 それにしても。本当に、彼をこのままにしていいのだろうか。 単純な他人の恋愛事情というには一方的すぎて、どうにか助けてやりたいという思いばかりが先行する。それでも現状、出来ることは思い浮かばなくて、ただ最悪の事態にならないことを祈るしかなかった。 とりあえず、出来る事を見つけるためにも、セイネリアという騎士とシーグルのことを調べるしかないかとウィアは考えた。 というよりも、それしか思いつかなかっただけなのだが。 「ただいまー」 「おかえり、ウィア」 帰った途端、満面の笑顔で兄に迎えられて、ウィアはそのまま硬直した。 「それで、仕事は問題なく完了?」 「お、おう。完了だ」 ぎこちなく返事をするウィアを、テレイズはじっと見つめる。 背中に冷たい汗をかきながら、ウィアは兄の次の言葉を待つ。ここでこうして待っていたという事は、兄が良しと言うまではウィアは部屋に帰ってはいけないのだ。 「ふむ、嘘じゃないようだね。無事に仕事終了なら良かった。だけどちょっと話があるんだ、大丈夫かな?」 それで断れるようだったら、ウィアはこんなところで冷や汗をかいてはいない。 クソ兄貴め、と思いながらも、口では丁寧に了解の返事を返す。 ――仕事から疲れて帰った弟に説教するか、普通。 心で悪態をつきながら、ウィアは兄についていく。 だが、聞き流せばいいと思った説教は、部屋に入った途端言われた言葉で覆る。 シーグル・アゼル・リア・シルバスピナに関わるな。 「なんで?」 反射的に言ってから、ウィアはすぐに気付いて聞き返した。 「……っていうか、シーグル・セパレータじゃないのか?」 確かにウィアは、シーグルの名をフルネームでは聞いていない。けれどもフェゼントの弟なら、姓はセパレータではないのだろうか。 混乱して顔を顰めるウィアに、テレイズは、ふむ、と口に手をあてる。 「お前が今回仕事を一緒にした人物だ。シルバスピナ家の跡取……だが問題はそんな事じゃない」 テレイズは、言い聞かせるためのいつもの笑みを浮かべていなかった。それは、本当に重要な話をしているという事なのだが、ウィアは話の内容以前に、まだ頭の整理がつかないでいた。 「まぁ、彼自身には問題はないのだけどね。彼に関わると、一番関わっちゃいけない人間に関わることになる」 それにはウィアにも、すぐ心当たりがあった。 「セイネリアってヤツか?」 テレイズが、すっと目を細める。 「会ったのか?」 ウィアに対して、兄がこんな真剣な顔をしている事は滅多にない。 じっと咎めるように見つめてくるテレイズに、ウィアは嫌々口を開いた。 「あぁ」 途端、テレイズは大きな溜め息を吐く。 それから、悩むように額を手で押さえて、唇を苦々しく引き結んだ。 「あいつだけには関わったらだめだ、ウィア。あいつに気に入られでもしたらおしまいだ、目をつけられたりしてはいないだろうね?」 言って、テレイズがじっとウィアの顔を見てくる。 その顔が本気で心配しているのは流石に分かって、それがどれだけ重大な意味を持つのかも察してしまう。 テレイズは首都のリパ神殿でも、大神官と呼ばれるうちの一人だ。具体的にどんな仕事をしているかは教えてくれはしないものの、いつもいろいろと、ウィアの知らない情報を知っている。その兄がここまで言うのだから、それだけでも、セイネリアというのが相当に問題のある人物であることは予想出来た。 「俺のことはどうでもいいって感じだった。……てか兄貴、セイネリアって何者なんだ」 幾分かほっとした様子のテレイズは、苦々しげに頭を押さえて、あまり言いたくはなさそうに答えた。 「セイネリアに逆らったら、死ぬよりも恐ろしい目にあう」 「なんだそれ?」 「噂だ。だが、その言葉は嘘じゃない」 意味がわかるような分からないような、不満そうな顔をするウィアに、テレイズは溜め息をついて、今度はちゃんと説明をする。 セイネリアは前は騎士団に所属していて、そこで最強といわれた程の腕であったこと。現在は傭兵団を自ら立ち上げ、腕の立つ部下がかなりいること。しかしながらそれはただの表向きの顔で、裏の方でも相当の力があるらしいこと。実際、セイネリアに逆らって酷い目にあった人間の話等々……聞いているうちに、ウィアの顔色はどんどん悪くなっていった。 確かに、ウィアはセイネリアのことを化け物みたいに強くて、相当にヤバイ奴だとは思っていた。 けれど聞くうちに、想像以上に不味い相手であることが分かって、それに付きまとわれているシーグルの事を考えると、他人事と聞き流す事は出来なかった。 何故シーグルは、そんなに問題ばかり抱えているのか。 シーグル自身は、強いのに真面目で、倒す化け物のことを考える程優しい。ウィア以上に聖人らしいのに本人は辛い事ばかりで、その理不尽さには怒りさえ湧いてくる。 「なんで、シーグルに関わったらだめなんだ」 呟いた声にはその怒りが混じってしまう。 「シーグルはセイネリアのオンナだ……っていうのも一部では有名な話だ。彼に関わるとセイネリアに目を付けられる」 「でもっ」 ウィアは反論しようとして、厳しい瞳のテレイズの顔を見て口を閉ざす。 けれども、ぐっと口を引き結ぶと、小さな声で呟きのように言い返した。 「いくら兄貴にいわれても、シーグルに関わるなっていうのは……約束、したくない」 「ウィア」 笑って睨まれるよりも、こうして厳しい目で言ってくるテレイズに逆らうのは、ウィアには辛い。それでも、哀しそうなシーグルの顔を思い出すと、今回だけはウィアは従いたくはなかった。 「フェズの弟なんだ。すごいいいやつでさ、真面目で、強くて、なのにいろいろしんどそーで。出来る事あったら力になるって約束したんだ」 「ウィア……」 今度は溜め息とともに名を呼ばれて、ウィアは肩を竦めたまま目だけで見上げて、そっとテレイズの顔を見あげる。 テレイズが、いつでも本気でウィアの事を心配してくれているのは分かっている。 ウィアが兄に逆らえないのは、何も単純に兄を恐れている所為だけではない。兄はいつもウィアの身を案じて、ウィアのために言っているのが分かっているから逆らえないのだ。 テレイズは、厳しい顔のままウィアの頭に手を乗せて、明るい茶色の頭を撫ぜた。 「俺は本気で心配してるんだ、ウィア」 「分かってる」 「……なら、これだけは約束してくれ。彼に関わっても、セイネリアには目を付けられないように注意する事。もし、ヤツと何かあったら、俺にまず報告する事」 「分かった」 言えばテレイズは笑みを浮かべて、また少しウィアの頭を撫ぜる。 「話はそれだけだ、疲れたろ、今日は休むといい」 だが、そういわれてもウィアはすぐに部屋に戻る訳にはいかなかった。 今度はフェゼントに、シーグルのことを聞かなければならなかったからだった。 END >>>> 次のエピソードへ。 --------------------------------------------- 騎士同士カップリングの方は、こんな感じで無理矢理ばっかになります。 強い受けのえちぃシーンは書いてて楽しい……趣味全開モードです。 次回はフェゼントの方の話になります。 この兄弟の問題が全体の話の主軸になってたりします。 |