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【５】 吟遊詩人が団に加わった事で、何気に喜んだのは団の下っ端連中だった。 夜は大抵の者が外へいく為、食堂はただ部屋が開放されているだけの場所だったのが、詩人が夜だけ自分の営業許可を欲しいといってセイネリアが認めた後は、夜の食堂には気晴らしにくる者が増えた。そのうち酒やらつまみやらを持ち込む者が増えて、今ではちょっとした酒場のような状態になっていた。 ただし、流石にセイネリアを怒らせるなんて度胸のある者はいない為、各自羽目を外し過ぎないようにルールを作ってはいるらしい。一応今のところは大きな問題も起こっていないし、団の連中が楽しんでいるという事でカリンもいい事にはしていた。それでも、疑問は尽きないのだが。 「まさか、そんな事を許可されるとは思いませんでした」 困惑を顔に出してカリンが言った事で、セイネリアは書類をみていた顔を上げる。ちなみに、今セイネリアが見ていたものは、食堂で夜にも料理人を雇えないかという下の連中から届いた嘆願書と、その為の手続き関連の書類である。 「まぁ、適度にガスを抜く場所を提供して置くのも悪くないだろ。外で飲まないなら、その分、外で問題を起こさなくもなるしな」 はぁ、と気のない返事をしたカリンは、それでも何か迷うような顔で口を開き掛ける。 「どうした？」 セイネリアの様子は穏やかで、おそらく機嫌がいいのだと思ったカリンは、思い切って聞いてみることにした。 「実は、あの男に関して、この間の話の中でどうしても気になっている事があります」 「いってみろ」 すぐにそう返したセイネリアに、カリンは口を開いた。 「あの男との問答中、シーグル様の事を調べていた筈なのにここへ来たという理由を聞いた時……あの男が答えなかった事を何故許したのですか？」 言いたくない、という主張をセイネリアが通す時は、大抵何か彼が『分かっている』事がある時だ。更にいうと、その時のセイネリアがやけに嬉しそうにも見えたのも、何故かカリンはずっと気にかかっていた。 「あの男はな、シーグルの歌を作る事を止めてここに来たのではないと思うぞ」 カリンの顔には驚きと疑問が同時に浮かぶ。 「あそこまで時間を掛けて、あそこまで調べあげた者が、あいつのこれからを知りたいと思わない筈がないだろ」 「え、えぇ、そう、ですが……」 ならどうしてここに来たのだろう。 より興味深い相手に乗り換えたというのでなければ、説明がつかないではないか。 「つまり、あの詩人には、いつかあいつが俺の元にくる事が『見え』ていたのだと思わないか？」 「あ……」 「俺の希望的な憶測かもしれないが、そう考えれば自然だ、違うか？」 だからセイネリアが嬉しそうだったのかと、カリンは思う。それだけであっさり全てが納得出来てしまって、カリンは気が抜けてしまって、それからそんな事を考え込んでいた自分がおかしくて、何故か笑みが湧いてくる。 「えぇ、そうですね。確かに……」 セイネリアもそれに笑みを浮かべて、笑うカリンを止める事なく眺めている。 「昔、俺がガキの時にいろいろ教えてくれた娼婦がいてな。そいつ曰く、『情報を集める時は、自分が信じたい話は否定する方面から調べて、信じたくない話は肯定する方面から調べればいい』といっていたんだがな」 「はい、それはボスに前に言われました」 唐突なセイネリアの言葉に、カリンは少し驚く。それは確かにセイネリアから何度か聞いていた言葉で、それが娼婦から聞いたということも初めて聞いたが、勿論一番疑問なのはここでそれを言う意味だ。 「その女もな『占いや予言というのは、気分的に信じたい部分だけを信じておけばいい』と言っていたんだ。だから今回の件も、そこは気分だけは信じておくかと思ってな」 その言葉で、カリンはさらに目を大きくひらく。 「神官の能力を占いと同列ですか？」 セイネリアが、そのカリンの反応を見て唇に笑みを引く。 「ふん、まだ確定してない未来を語るなんてのは、胡散臭さでは同じだな。結局未来を決めるのは、自分がどう動いたかだ。まだ確定していない未来をさも確定事項のように語るのは馬鹿げている。未来がまだ起こっていないことだというなら、現時点ではいくらでも変わる可能性はあるだろうよ。なら、自分が望むようになる事を信じて思ったようにやる方がいい」 カリンは今度は吹き出して、声を出して笑った。セイネリアはやはりそれを止めなかった。 END. --------------------------------------------- はい、こっちサイドもENDです。 この話はぶっちゃけ……シーグルとセイネリアの二人が共にいられるようになるかも？ って予感のお話でした。 |