※この文中には期待する程エロではないですが、性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【13】 にちゃ、と嫌な音を立てて、少年の手にある瓶から粘ついた液体が垂れる。 シーグルは、そんな音にさえ疼きそうな身体の感覚を耐えて、少年の顔を睨んだ。 「ネイ、クス……」 その先を続けたいのに、上手く声が出せない。 折角あの魔法使いがいない今がチャンスなのにと、そう思っても、あの液体の所為で体中を快楽に染められた状態では、頭さえ熱に持っていかれそうで正気を保つのがやっとだった。 『ネイクス、私はちょっと出かけてくるから、君は騎士様と遊んでいなさい。いいかい、これを体中にたっぷり塗ってあげれば、騎士様は男を欲しがって鳴く雌に成り下がるからね、逃げようなんて思わずに喜んで腰を振りつづける筈だよ』 『はい、エネルダン様。……あの、何処に行くのですか?』 『それは君の知る必要のない事だ。いいから大人しく騎士様で遊んでいなさい』 『はい……』 そんな二人のやりとりを見ていたシーグルは、やはりエネルダンと呼ばれたあの魔法使いがネイクスを利用しているという思いを強くした。どうやら、魔法使いが少年に理由を告げずに何処かへ行くのは珍しい事ではないらしく、ネイクスは留守番を頼まれた子供の顔で、寂しそうに慣れた様子で魔法使いを見送っていた。 「シーグル様は、もう、何処へもいかないよね?」 とろりと、冷たく胸の上に広がっていく感触に、シーグルは顔を顰める。 つんと甘ったるい刺激臭が不快な事この上なく、けれどもそう思う心とは別に、その液体が与えてくれる甘い快感を思い出して、身体は更に火照っていく。 「それ……は、約束……出来、ない」 やっとのことでそう言えば、少年は途端に叫んだ。 「嫌っ」 シーグルの身体の上で、薄赤い液体が跳ねる。 まるで生き物のように胸の上で膨れ上がる薄赤い液体は、とぷりという音を立てて、丸い球体になったり、手のような形になったり、様々に形を変化させてシーグルの胸の上でリズミカルに波立つ。 声を返せず、ただ胸の上の液体を睨むシーグルに、ネイクスは感情の殆どない声で呟くように言った。 「……すごいでしょ? これだけ正確に細かく形ないものをコントロールするのって、すごい難しい事なんだって。エネルダン様はとても褒めてくれたんだ」 液体は今度は細い紐状になって、シーグルの身体の上をヘビのように這い出す。ゆっくり、のたりと、身体の表面を液体が進んでいく感触に、シーグルは熱い吐息しか返せなくなる。それが向かっているのが下肢だと思っただけで、身体が期待に疼くのを自覚出来てしまう。 「シーグル様って本当にいやらしいなぁ。もうここ蜜垂らしちゃってるよ」 くすくすと、少年が笑うと同時に、下肢へ這っていた液体はシーグルの雄に絡まってくる。冷たい感触が一番敏感な場所を包んで締め付けるのに、シーグルはもどかしそうに腰を揺らめかせた。 もう散々体中に塗られて染み込んだ液体の所為で、肌に感じる刺激は全て快感になる。ネイクスがあやつる液体の感触はさほど強いものではないはずなのに、体はびくびくとその動き一つ一つに反応してしまう。 「……んぁ………だめ、だ」 「何がダメなの? 気持ち良くって、身体はもっと欲しいって言ってるのに」 少年は声を上げて笑う。 それから、液体の感触が唐突に性器から離れたと思ったと同時に、後孔にそれが移動する。 「あぁっ」 望んでいた場所へ刺激を受けた体が、悦びに跳ねる。一気にシーグルの秘所へと入ってきた液体達は、最初の時の水のように、中で膨らんだり奥まで伸びたりしてシーグルを翻弄する。 「その液体ね、そうやって体の中に入れるのが一番効くんだって。こうして中で動かしている間に吸収されていくからね、もっとシーグル様は気持ち良くなれるよ」 液体はシーグルの中で暴れる。くぷくぷと濡れた音を鳴らし、中を大きく広げ、蠢く。 「はぁっ、……や、やめ……あぅ、ん……やめ……ろっ」 シーグルがどうにか彼と話そうと思っていても、快感に身体が逆らえない。口を大きく開いたまま喘ぎ声を上げ、唾液が唇から零れていくのさえとめられない。 浅ましく足を広げ、腰を上げて中の液体の動きに合わせて揺らす。膝を立て、ぶるぶると震える太股が限界を近いことをシーグルに知らせる。 「イっていいよ、シーグル様」 一際奥で液体が膨れ上がり、シーグルはびくびくと身体を震わせて達した。既にここへきて何度目か分からない解放に、体中の力が抜けて身動きが出来ない。 言葉もなく、ただ虚ろな瞳で荒い呼吸を繰り返すシーグルを、少年はさびしそうに見下ろす。 「……母様が僕に教えてくれた魔法は本当に基礎だけでね、煙とか、水とか、出来るだけ軽くて動かしやすいものを動かしてみせる初歩の練習用の魔法だった。だから僕はね、それだけをずっとやってたんだ。母様が帰ってきたら見せられる為に、ずっとそれらを動かす練習をしてた。だから、これだけ自由に動かせるようになったんだ」 快感と疲労で意識を失いかけているシーグルは、その少年の言葉に、薄れた意識をぎりぎりで引き戻した。 そして思い出す、かつての自分の幼い日の姿を。 たった一人、祖父の屋敷に引き取られたシーグルにとって、強くなって祖父に認められる事だけが目標だった。認められて家を継いだ後、再び家族を呼んで一緒に生活する事だけが、残された微かな希望だった。その為に毎日毎日、何度も何度も、ひたすら剣を振りつづけた。 恐らくこの少年も同じく、母親から教わった魔法をひたすら上達させる事だけが、いなくなった母親に近づくたった一つの手段だったのだろう。 強くなれば家族に近付けると思ったシーグルのように、魔法が上手くなれば母親に近付けると思った少年が、どれだけ熱心に魔法の勉強をしたのかは、シーグルにはよく分かる。 だから、このまま快楽に堕ちる訳にはいかない。 彼が堕ちきる前に、ちゃんと教えて上げなくてはならない。本当の絶望を知ってしまう前に、彼に目指すものを気付かせてあげなくてはならない。 そのまま快感の海に沈んでしまいたがる頭を起こして、目を開く。 もう体力を使い果たした体を叱咤して、シーグルは顔を上げると、無理矢理上体を起こした。 「ネイクス……お願いだ、聞いてくれ。俺は、君を救いたい。……あの魔法使いは、君を利用して何かを企んでる」 それだけの動作でも、酷く体力を消耗する。 しかも少しでも肌がベッドに擦れれば、すぐそこには甘い疼きが生まれる。 「そんなの……知ってるよ。エネルダン様は僕の望みを叶えてくれる代わりに、僕を利用して、街の人間から生命力を貰ってるんだ……」 シーグルは目を見開く。 「何故、だ……それを知っていて、何故君は彼に従ってるんだ?」 少年は不貞腐れたように唇を尖らせて、シーグルを見つめ返した。 「シーグル様は知ってる? 魔法使いはね、皆何かしら歳をとらなくなるための術を使って若いままの姿を保とうとするんだって。母様もきっと何か術を使ってるから、次にあったらきっとそのときの姿のままだって。だから僕も……これ以上大きくならなくてすむようにエネルダン様に頼んだんだ。僕はね、ちゃんと魔法使いになったら母様を探しにいくんだ。その時にね、ちゃんと僕の事が僕だって分かるように、母様と別れた時からできるだけ変わらないようにしとかないとならないでしょ?」 つまりこの少年もまた、街の人間の生命力を吸って歳をとるのを止めていたのだ。 歳の割りに幼く見えるのはわざとだったのだと理解する。 「でもね、別に殺したりはしてないよ。沢山の人間からちょっとづつ貰う場合は特に問題ないんだって。少し疲れたかなって思う程度だから、誰も死なないし、ずっと吸いつづけていられるってエネルダン様は言ってたよ。普通はそうやって沢山の人間から吸うのは制御が難しいんだけど、僕が力を貸せばそれが可能になるんだって」 誇らしげに言う少年の言葉は、彼が騙されている証拠でもある。 「……本当に、そうだと思っているの……か?」 聞けば少年は、無邪気に笑みを浮かべる。 「うん、だってもう結構経ってるけど、館の皆も街の皆も別に死んでないでしょ?」 「君はまさか、父様からも……生命力を吸い取って、いるのか?」 館の者、と言っているからには、バーグルセク卿も入っている。そう思ったシーグルが強い声で聞き返せば、少年は何故シーグルがそんな事を聞いてくるのか分からないといった顔で首を傾げた。 「館の皆からは本当にちょっとづつかなぁ。父様からもあんまりとってないよ、メインはあくまで街の皆かな。ただその為には父様達は邪魔だったから、館の者は全員エネルダン様が暗示を掛けて動かしやすくしてくれたんだ。エネルダン様は何でも僕の願いを叶えてくれるんだ」 両手を合わせて、うっとりとした表情をする少年にとって、あの魔法使いはそれだけ特別な存在なのだろう。 崇拝するような瞳で彼の名を呟く少年に、だがシーグルは聞いてみた。 「……なら、何故、俺の事を欲しいと思ったんだ」 あの魔法使いを崇拝してさえ、ネイクスがシーグルを望んだのは、彼がまだ寂しいと感じているからだと、あの魔法使いが出かける時のやりとりでシーグルは感じていた。 案の定、ネイクスの返した言葉はシーグルの予想通りであった。 「だってシーグル様は綺麗で、そして優しかったんだもの。母様がいなくなってから、街の人も使用人達も、僕の事すごい嫌そうにみるんだ。父様さえ僕の顔から目を逸らしてみないふりするんだよ。……でもシーグル様は優しかったから、シーグル様みたいな人がずっと傍にいてくれたらなってエネルダン様に言ってみたんだ」 「エネルダン様がいれば、君は良かったんじゃないの……か?」 「エネルダン様はね、とっても優しくて綺麗だけど……どこか、怖いんだ。僕に内緒でどこかへ行った時とか、その事を聞くと怒るんだ。多分……いつかあの人は、僕を置いて母様みたいにどこかへいっちゃう。でもシーグル様ならきっと、僕の傍にいるって約束してくれたら絶対に裏切らないでしょ? 貴方は嘘も、その時の誤魔化しだけの言葉も言わないでしょ?」 ネイクスの中身は、本当にただの子供なのだ。 寂しくて、縋る誰かが欲しいだけの小さな子供。 彼の気持ちが分かりすぎるからこそ、シーグルは彼に教えてやらなければならなかった。 「ネイクス、俺は君のものにはなれない。どんな目にあっても、君の傍にいるとは約束してやれない」 --------------------------------------------- 今回この、快感に耐えながら説得するシーグル、のシーンを書きたくて話作ったんですけど、どうなんだろこれ……。 |