魔法使い達の円舞曲
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【4】




 粘膜が立てる嫌な音が耳元でして、シーグルは嫌そうに目を閉じた。ぴちゃ、ぴちゃ、と舐める音は体のあちこちから聞こえてきて、手が自由でさえあれば、耳をふさぎたい気分だった。……尤も、たとえ音が遮断出来たとしても、結局体を嬲られている事に違いはないのだから、それは意味がある事でもないが。
 いくらシーグルが彼らに比べて相当に身体能力が高かったとしても、多勢に無勢、しかも丸腰ではどうしようもない。更にいえば、魔法使いが悉くシーグルの逃げ場を奪うように魔法で地面を抉っていったというのもあって、折角の広い空間を逃げ回る訳にもいかなかった。
 一人に腕を掴まれれば、大勢の手で体中を押さえつけられるまではほんの一瞬の事。後は服を脱がされて、彼らの好きにされるだけだ。

「っぐ……」

 しつこく口づけてきている男の舌が、歯を噛み締めているシーグルの歯列を舐めていく。口を閉じていてもしつこく唇に吸いついてきて、気色悪い事この上ない。

「そっちはもうちょっと騎士様が理性なくしてからのお楽しみかな、その分だと折角口開いてくれても噛みそうだ。先に体の方堕とすべきだね」

 魔法使いに言われれば、男は残念そうに唇を離し、代わりに顔の周りを舐め出す。どちらにせよ、シーグルにとってはとてつもなく気色悪い事には変わりなかった。

「ふ……んぅ」

 性器が何者かの口の中に銜え込まれたらしく、シーグルの意識はそちらにもっていかれる。生暖かくぬめる感触に、シーグルの背がぞくりと震える。そうかと思えば、胸をずっと舐めていた者が歯を立てて、指で乳首を捏ねていたものがそれを強く摘む。
 シーグルはびくりと体を大きく跳ねさせて、その感覚に耐えた。

「ふふ、遠慮せずたくさんイってね」

 魔法使いは、部下にシーグルを嬲らせて、自分は見ているだけのつもりらしい。悪趣味だとは思うが、その所為でシーグルの中で浮かぶ疑問もある。
 シーグルを狙う理由が黒の剣の力の所為だとして、何のために彼らは自分にこんな事をしているのだろう。
 けれど、そうして考えていても、体の感覚を忘れられる訳でもない。

「あ、……う、ぐ」

 性器を舐めていた者だろうか、ひたりと冷たい感触と共に、何かで濡らされた指を誰かがシーグルの後孔に挿れた。しかも中でその指をぐるぐると混ぜるように動かして、時折ひっかくように曲げて強く擦る。もちろん、胸を嬲る者も、性器を舐める動作も止む訳もなくすべて同時に行われていて、体の中も外も男達の荒い息遣いと水音で満たされていた。

「く、そ……やめ……」

 シーグルは歯を食いしばる。
 それでもこの手の行為が快感なのだと知っている体は、浅ましく昂ぶっていく。誰かの口の中でびくびくと反応する自分の性器も、入ってくる指を締め付けてしまう中の反応も、シーグルに己がどれだけ感じているかを実感させる。
 そんなシーグルの足を掴んでさらに開かせ、その足を舐める者がいる。跳ねる腹に舌を這わせる者もいる。

「や、め……く……んっ」

 嫌だと目をきつく閉じて顔を振れば、目尻には涙が浮かぶ。すかさずそれを舐める者もいて、首筋を舐める者もいる。じゅる、と液体をすする音が耳のすぐそばで聞こえて、後孔を嬲る指が一気に2本も増やされて奥を深く突けば、シーグルは短い吐息とともに誰かの口の中へと精を放っていた。
 性器を嬲っていた者の喉が鳴って、自分が吐き出したものが飲み込まれた事をシーグルは知る。
 魔法使いは、自身も息を荒げながらも、不気味な笑みをそんなシーグルに向けていた。

「さぁ、もっともっと、騎士様を気持ちよくしてあげるんだ」

 力の抜けようとする体を、だが男たちは構わずにまた昂ぶらせようとあちこちに触れて刺激してくる。それでまた熱があがってくるのだから随分と安い体だ、とシーグルは思って唇にかすかな自嘲の笑みが乗る。だが同時にここへきて、おぼろげながら、彼らが何をしているのかがシーグルにはわかった気がした。
 男たちは必死にシーグルの肌を舐める。いや、舐めとる。おそらく、彼らは、シーグルの体液を欲しいのではないか。
 体中を舐めて愛撫している者たちも、よく見れば、汗を舐めとっているようにも見える。性器をしゃぶっているものなど、まるで最後まで吸い尽くそうでもするかのごとく舐めるというより吸っている。

「お、れの……体、液……?」

 言えば魔法使いは不気味な笑みを顔に浮かべ、一歩、それからもう一歩、シーグルに近づく。

「うん、彼らが君に群がってる理由はそう。……生命力を直で吸うのは一番早いけど問題があってね。君の体を文字通り全部食べてしまうって手は一気に手に入るけど一回ぽっきりで終わってしまうし後が怖い。だからこれが一番資源を有効利用出来る手段って訳さ。生きてればいくらでも君から摂取出来るものだからね」

 人の事を資源か、と思ったと同時に、今の自分の姿をみれば、さしずめ家畜に群がられているエサな訳かと皮肉に思う。それが全く間違いではなく事実だという事がわかるからこそ、火照る体とは別に頭は冷静に今の状況を分析する。
 男達は、ただ魔法使いに命令されるまま、夢中でシーグルの体に舌を這わせている。その顔は醜い欲望に塗れて正視出来るようなものではなかったが、意志もなく操られているようには見えなかった。だから彼らは、彼らの意志であの魔法使いに従っているのだろうかとシ―グルは思う。

「はは、顔は嫌そうにしてたって体は正直だねぇ、騎士様」

 黙って男達の愛撫に嫌そうな顔で耐えているシーグルを見て、魔法使いはバカみたいに喉をひきつらせて笑い出す。

「君の相手が女性じゃないのは謝っておくよ。本当は女性の方が都合のいいのはわかってるんだけどね。なにせ僕の信徒さん達は女性には処女でいてもらわないとならなくてさ。でも君ならつっこまれる方でも十分楽しめるんだろ?」

 魔法使いの声にあわせて、嬲っている男達が下卑た笑い声をあげる。

「申し訳ないですなぁ、騎士様。代わりにこっちで気持ちよくしてさしあげますんで」

 いいながら、中をかき混ぜていた指が、激しく抽送を始める。
 シーグルは目をきつく閉じて感覚に耐えようとしたが、ガクガクと震え出す体は、すぐにでも快感にもっていかれそうだった。

「エクスリヴ様、そろそろ挿れてもいいでしょうか?」
「うん、なんだいそんなによさそうかい、騎士様の体は」
「えぇもう、指挿れてるだけで喜んで締め付けてきやがりましてね、欲しくてたまらねぇって反応ですよ」

 男達が下品な笑い声をあげる。
 それでも、シーグルを嬲る行為――いや、体液を舐めとる作業は止まらない。体中のあちこちに震えた男達の息が吹きかかって、濡れた肌をくすぐっていく。
 ただ今のやりとりから、やはり彼らは操られているのではなく、自分の意志でこの魔法使いに従っているらしいとの思いはシーグルの中で確信に変わる。しかも魔法使いは、彼らのことをどうやら『信徒』と呼んでいるらしい。つまり、自分が教祖にでもなって、新しい宗教を作ったとでもいうのだろうか。

「ふぅん、なら男連中連れてきて正解だったかな。あぁでも、君らが気持ちよくなるよりもまず騎士様を気持ちよくさせなきゃだめだよ。快感しか感じさせなように、ちゃぁんと念入りに慣らしてからだ」

 それを聞いて、指でシーグルの中をかき混ぜていた男は、興奮を隠す様子もなく鼻息も荒く声を張り上げた。

「もう、ぐちゃぐちゃですよ。これからもっとぐちゃぐちゃにしてやりますがね」

 先程から、何かしらの潤滑液になるもので濡らして指が中を掻き混ぜていたせいか、じゅくじゅくと指の動きにあわせて下肢から水音が聞こえてきていた。

「あぁ、中に出すのはいいけど、体には掛けちゃだめだよ。混じっちゃうからね」
「確かに。気をつけますよ」

 指はシーグルの奥深くを犯す。
 笑う男達の声を聞きながらも、シーグルはその快感に身を捩って熱い息を吐く事しか出来ない。興奮に震える性器も、頂が固く存在を主張する胸も、体中の快感を感じる場所を舌で嬲られて、かろうじて思考力は残っていても、もう体は男達のなすがまま快感に流される事しか出来なかった。

「さぁ、騎士様、お待ちかねのヤツを挿れてあげますよ」

 男の一人が言えば、一度他の男達が離れる。それから体を起きあがらされて、腰だけを男に引かれる。指が尻朶に食い込んでぐっと開かれる。熱い肉塊が押し当てられる。
 そうして、確かな質量が体の中に入ってくる。

「う、ぐ、ぁ、あ、あ」

 さんざん指で慣らされていた後だけあって、それはすんなりと体の中に納まった。痛みはない代わりに、シーグルはひたすらそこを広げられる圧迫感を感じ、腹の苦しさに息を詰まらせる。
 けれども、体はすぐに、それが快感に切り替わる事を知っている。
 ずる、と男の肉塊が体の中で動きだし、中の肉壁を擦る。指とは違って中一杯を埋めた質量に擦りあげられて、生まれた熱が重く鈍い疼きをシーグルの下肢に溜めていく。

「あ、く……」

 男はすぐにシーグルの体を持ち上げて、待っている他の者達に向けて体を開かせる。下に男を銜えこんだまま晒された体に、再び男達が群がって我先にと舌を這わせ出す。

「あ、うぁ、はぁ、あ……」

 声を押さえようとはしていても、完全に押さえるのは不可能に近い。唇から漏れた唾液を男が舐めとったのがわかって、シーグルは急いで口を閉じたが、それも長く持つものではなかった。

「や、あぁぁっ」

 仲間達のためにゆっくりとした動きしかしていなかった男が、急に激しくシーグルを突き上げ出す。乱暴に揺れる視界の中、男がうなじを舐める音がやけによく聞こえて、その卑猥な水音もまたシーグルを追いつめる。
 けれども、ふと。
 映った視界の中で、シーグルは魔法使いが先ほどよりもずっと近くにいて、血走った目でシーグルを見つめている事に気がついた。
 シーグルは考える。思考が感覚に吹き飛ばされそうになりながらも、ここから逃げ出す為の方法を考える。
 だが、思いついた可能性に掛けるべきかと思ったシーグルは、それでもまだ躊躇する。
 しかし、また。

「ふ、あぅ……く……」

 深くを貫かれて、そこに熱い男のものが吐き出された事を感じて、それを快感だと受け取った体は淫らにも男を締め付けながらまた達する。その汚らわしい精を貪欲に飲み干そうと蠢く自分の肉の浅ましさに、シーグルの唇に一瞬、自嘲が浮かんだ。

――そうだ、今更、だ。

 頭に浮かんだ男の姿は、最後に別れた時の背を向けた姿だった。

「あ、ぁぁああああっ」

 シーグルが喉を反らして、盛大に声をあげる。その唇にしゃぶりつくように口づけてきた男を、シーグルは拒まずに口腔内に受け入れた。男の舌は、シーグルの口の中でその唾液を舐めとるように暴れ、舌に吸いついてくる。求められるまま自らも舌をつきだして、誰ともしれぬ男と舌を絡ませ、粘液の音をこぼす。

「あぁ、騎士様完全にできあがっちゃったかなぁ」

 魔法使いの声が近い。
 まるで強請るように自ら腰を揺らせば、中の男は再び硬くなり、激しく動きだす。

「あ、あん、あ、あぁっ、はぁっ」

 甘い声をあげて、シーグルも自ら腰を揺らし、男の与える感覚に酔う。とろりと蕩けたように虚ろな濃い青の瞳は快感を隠そうともせず、男の動きに合わせて腰を揺らし体を捩る。舌を這わせる男達もが興奮して肌に噛みついてきてさえ甘い声を上げ、中の男を締め付け、喘ぐ。

「すごい淫乱ぶりじゃないか。あのセイネリアが夢中になっただけはあるね」

 その名を聞いて、掛けあがってきた背を震わせる感覚に、シーグルはまた達していた。すぐにまた、中では男が吐き出した事を知る。

「は、あぁん……」

 嬉しそうにさえ見えるゆるい笑みを唇に浮かべて喘げば、後ろの男を急かして離れさせ、今度は別の男がシーグルの中に入ってくる。質量を失って閉じきれずにひくついていたそこが、再び広げられて埋められる。

「はあぁっ」
 
 歓喜の声をあげたシーグルは乱暴に腰を振る男に縋りつきながら、自らも足を広げて快感を貪る。
 体にへばりついている男達の息が荒い。乱暴な男の抽送の動きにあわせるように、他の男達の愛撫さえもが乱暴になっている。
 それでも実際、そのどれもがシーグルにとっては快感だった。シーグルは声を抑えないい。抑えようともしない。尻を男に突きだして揺らし、唇は次々と口づけてくる男達を受け入れる。手で押さえつけられ、肌を嬲られ、そのたびに甘い声をあげる。

「ふふ、すごいね」

 ごくりと、魔法使いが唾を飲み込んでこちらをみている事をシーグルは視界の片隅に収めた。

「エクスリヴ様もやりますか。こいつは相当ですよ」

 今シーグルに挿れている男は、激しくシーグルを突き上げながら魔法使いにすっかり興奮した声で言う。さらには、魔法使いによく見えるようにと、シーグルの足を持ち上げるように広げて、大きく下から突き上げ、接合部を突き出してみせた。

「あ、あんっ、ひぁ、あぅ、あん、あぁぁんっ」

 水音をさせて、肉が肉を食む部分に視線が集まる。
 ごくりと鳴る喉の音と、魔法使いの好色な視線を感じながら、シーグルは殊更淫らに、腰を捩って誘うように声をあげる。

「こんなにひくついて、嬉しそうに銜え込んでいるよ。すごいなぁ、騎士様のここ、どれくらい男を知っているんだい?」

 笑い声と共に、男の肉塊が激しく出入りしているその周囲を魔法使いの指が撫でる。

「はぁっ、んっ」

 シーグルが喘いで、中が強く収縮する。
 男の出入りする動きが止まり、中に押し付けるように数度脈打つ。暫くすれば、軽く男が動く度に溢れ出てくる、欲望の体液。

「……そうだなぁ。確かに見てるだけはもったいないかな」

 魔法使いは顔を上げると、喘ぐシーグルの口に指をつっこんだ。シーグルはそれを嬉しそうに舌を丸めて口のなかに引き入れ舐める。暫く指でシーグルの口中を突き上げるように楽しんでいた魔法使いは、その指を抜くと自分の唇の中に入れて舐めた。

「美味しいなぁ、口づけたら全部吸ってしまいそうだ」

 いいながら、今度は体ごと近づいてきてその唇をあわせようとする。
 だが、好色な笑みに歪んでいた魔法使いの顔は、瞬間、驚きに見開かれる。それからすぐに、魔法使いの悲鳴が、それまでの淫らな行為の空気を吹き飛ばした。

「ひぃぃぃあああっっ」

 シーグルの動きは速かった。
 魔法使いが近づいてきた途端、すっかり油断しきった自分を舐めている男の一人の腰から短剣を抜き、正確に魔法使いの手にある蝶の入れ墨を刺した。

 ここにいる連中の事を『信徒』と言った言葉がシーグルは気になっていた。もし入れ墨が、アッテラ信徒達の入れ墨と同じような役割をしているのなら、あの入れ墨に何かあれば、この魔法使いは魔法が使えない……もしくは使えても大分力が落ちるのではないかと思ったのだ。





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ふっきれたシーグル。




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