<ティーダの章> 【7】 はぁ、とメイヤがほっと吐息をつけば、ティーダは目を開ける事なく、口だけを開いた。 「さっさと抜け、そんでどけ」 けれどメイヤはくすりと笑いながら返す。 「いやです」 それから彼の体を抱きしめて、その耳元と喉に軽いキスを落としてから、彼の肩に顔を埋めた。 「もう少しだけ、貴方の感触を感じてたいです」 「俺は疲れた、二回目はなしだぞ」 「はい、こうしてるだけでいいです」 あまりにも幸せそうにそう言ったメイヤの声で、ティーダも諦めて体の力を抜いた。 メイヤは、未だに熱くきつい彼の中を感じながら、出来るだけそれ以上自分が刺激を感じないよう、慎重に彼の体の上に胸をつけ、完全に体重を彼の上に下ろした。 「重いぞ」 「すみません」 文句を言う彼に何故か笑みが漏れてしまって、メイヤは笑う。 笑ったまま目を閉じたメイヤは、耳を澄まして彼の気配を聞く。 荒かった呼吸は少し落ち着いてきたのか、先程よりも少し静かになってきている。汗に濡れた肌に耳をつければ、彼の鼓動さえも聞こえる。 「ったく、満足そうにしやがって……」 悪態をつく彼の声は、でも不機嫌なものではない事くらメイヤにも分かる。 メイヤは今、確実に自分は幸せなのだと感じていた。 だから、この今自分が感じている感覚を、いつか彼に返してあげられるようになりたいとそう願った。 「もう、少しだけです……」 呟けば、頭に彼の手の感触を感じる。 メイヤは思う。 今はまだ、自分は子供だから。 だから、今はまだ、こうして撫でてくれる手を大人しく受け入れ、貴方の望む通りの子供の立場のままでいますと。 けれども、いつか。 いつかは、貴方に寄りかかって貰える側の男になります。 それは、メイヤの心の中だけで行われた、静かで強い誓いだった。 月明かりが支配する部屋は青白い光に包まれて、起きあがった長い髪の青年の姿をぼんやりと浮かびあがらせ、その分彼の背後に長く伸びる影を作る。 すっかり安心して眠っている隣の少年――いや、もうすぐ青年になる彼の顔をちらと見て、ティーダは苦笑と共に立てた膝に顔を埋めた。 ――一つだけ、彼に嘘をついた。 確かにティーダが過去、いろいろな人物と寝た理由は、ただその時だけの快感が欲しいからだった。 けれどもたった一回、快感よりもただその人を感じたくて、相手が欲しくて寝た事がある。 そして、それ以外の行為は、全てがどうしても欲しかったその人物を忘れる為の行為だった。その人の事を考えると苦しくて寂しくて、その辛さから逃れる為に刹那の快感を求めた。 今回だってそうだ。 今日はあの木に渡した昔の思い出を見てきてしまったから、最初から一人で寝たい気分ではなかった。一人で寝ていたら辛くて泣きそうになるから、誰でもいいから人肌が欲しかった。 最低だな、と我ながらティーダは思う。 結果的には、メイヤの気持ちを利用して、自分の寂しさを埋めているだけだ。 これだけ長く生きてきても、自分は何も変わっていないのだという事ばかりが浮き彫りになっていく。 それでも、何故だろう。 何故、ずっと思い出したくなくて、忘れてしまった彼の事を思い出したくなったのだろうか、拒絶して忘れようとしたレトの事を確認しようと思えたのか。 もしかしたら、自分の中に何か変化が起こっているのだろうか、という考えが一瞬頭の中に浮かぶ。 けれどもすぐに、気のせいだろうとティーダは思い直した。 ただもしも、自分の中に何か変化があったとしたら、それはこの真面目すぎる弟子のせいだという事は間違いない。 ティーダは、まだ子供らしさが抜けきらない彼の寝顔を見て微笑んだ。 「ありがとう」 自然と出た言葉は、あまりにも自然すぎて、ティーダ自身、言った後にその言葉を忘れた。 END >>>> 次のエピソードへ。 --------------------------------------------- そんな訳でティーダさんの章が終了。 この章までが序章みたいなもんで、やっとこさ次章から話が動く……筈。 しっかしなんでこんなに長くなるかな、私……。 |