WEB拍手お礼シリーズ14
<ウィアとセイネリアの巻>








☆ウィアの傭兵団訪問☆ 1

 白い砂浜と青い海が印象的な海辺の町、アッシセグ。鮮やかな太陽を少し眩しそうに眺めながら、ウィアは一つ大きく伸びをした。
 さて、ウィアがここへきた理由だが、表向きは神殿の方の使いなのであるが、真の目的は勿論違う、セイネリアに会うためだ。
 セイネリアは本気でシーグルを愛している。それはもう、とんでもなく。それは確信で、絶対に間違っていない、とウィアは思っている。だからこそウィアは、それでも何故シーグルを手放す事が出来たのか、それをセイネリアに聞きたいとずっと思っていた。そういう事なので、アッシセグの街にいく用事が出来たらこっちに回してくれ、と弟特権で兄に頼み込んであったのだ。
 船に乗り、街につけば、とりあえず神殿へいくより早く、ウィアは目的の傭兵団へ向かう。場所は町から外れたところにあるものの、黒の剣傭兵団の事は町人に聞けばすぐに分かった。
「えーと、ごめんくださーい。いやこの場合はたのもーとかいうのかな」
 門の前で大声を出しても反応はなく、暫く待たされる。実はその間、見張りの達の間では、へんなのが来たがどうする?→不審だが危険人物ではなさそうだ→てかどうみてもウチに用事があるような者に見えないが何者だ、といろいろ疑問が飛び交って、とりあえず上に報告に……という状況になっていたのだが、そんな事までウィアが知る筈はない。
 ただその報告を受けたのがカリンで、彼女は部下の報告にすぐにピンと来てくれた……のは、ウィア的には幸運だったのだろう。
 威圧感のある美女(特に身長的に)がやってくるのを見て、ウィアはほっとすると同時に浮かれた。彼女なら、細かい説明をしなくても、すんなりセイネリアに通してくれるだろうという意味と、やはり美人さんは目の保養だよな、という意味で。
「何の用事でしょう?」
 と、カリンが聞くやいなや。
「セイネリアにあわせてくれ」
 と、ウィアが言うから、カリンは少々困った。
「ですから、用事は?」
 苦笑した彼女は聞き返す。
「んー用事っていうかさ、とにかく俺、セイネリアに会いたかったんだよ。いろいろ聞きたい事とかあってさ」

「だ、そうですが、どうします?」
 ソフィアが千里眼の能力で門を見てそれをセイネリアに伝えれば、全身黒で固めた男は、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「ガキの相手をする暇はないんだがな」
 呟いたセイネリアは、それでも口元を少しだけ歪める。
「あ、マスター。『お土産にシーグル関係のグッズとか持ってきてるぞ!』だそうです」
 追加のソフィアの言葉に、セイネリアでさえ少しだけ驚いたように目を見開く。
「『シーグル愛用のハンカチ、シーグル愛用のスプーン、シーグル愛用の水袋、高価すぎるの持ってきたら泥棒だからな、こんなとこでどうだ』とも言ってます」
 その言葉が終る前には、セイネリアは肩を揺らして笑っていた。
「まったくあのガキは、俺を何だと思ってる」
 ひとしきり笑った後、セイネリアは口元だけに笑みを残したまま、肘掛に肘をついて、手に頭を軽く乗せて寛いだ姿勢をとる。
「『後はいーっぱいシーグルの話してやれるぞ。家でフェズに怒られてシュンとしてるシーグルとか、ラークと話そうとして話し掛けられなくて困ってるシーグルとか、外じゃ見られない超レアエピソード満載だからなっ』だそうです」
 セイネリアは今度は口元に深い笑みを刻む。
「成る程……それは確かに魅力的な土産だ。まぁ、いいだろう、カリンに連れて来いといっておけ」
「はい、マスター」
 言えば、少しだけ嬉しそうにソフィアは返事を返し、転送術を使おうとする。だが、その彼女にセイネリアが掛けた言葉で、呪文を言おうとしていた彼女の口は止まる。
「あいつが持ってきたシーグル関係の土産、お前にもやると言ったら何が欲しい?」
 少女は途端頬を染めて、それから少しだけ顔を俯かせるとぼそりと小さな声で呟いた。
「あの……出来れば、ハンカチを……」



☆ウィアの傭兵団訪問☆ 2

 一応神官としてのお使い、という事で、アッシセグにきたウィアは、セイネリアの傭兵団にやってきた。
 身長的な意味で、前を行くカリンに前方向の視界をふさがれたウィアは、仕方なく左右をきょろきょろ見渡しながら傭兵団の建物の中を歩いていた。どうやら彼女は、傭兵団の中でも結構偉い人物らしく、誰かとすれ違うたび、彼らはカリンに丁寧に礼をしてきた。だが、礼をした後、彼らはほぼ決ってこう続けるのだ。
「ところでカリンさん、そのガキ何ですか?」
「ガキ言うんじゃねぇっ、俺はもう19だっ」
 もうすぐ成人の男子に向かってガキという言葉はどうかと思うのだが、それを聞いた後、大抵の人物は気の毒そうな顔をして黙るか、ガキじゃねぇか、と呟いて去っていくかのどちらかだった。確かに名の通った傭兵団であるから、腕に自信がある、ガタイのいい人間ばかりにすれ違うのはある意味当然なのだろう。ウィアにはおもしろくない事だが。
 そんな中、比較的他の連中に比べれば小柄(といってもウィアよりは十分高い)な男がやってきて、例によってカリンに挨拶をする。それからやはりウィアに気付いて、彼もまたお約束の台詞を口にした。
「カリン、このガキどうしたんだ?」
「だーかーらー、ガキ言うんじゃねぇっ」
 威勢良く思い切り主張すれば、青い髪に青い瞳の、格好からするとアッテラ神官だろう男は、にぃっと口元を大きく歪めた。
「ったく、そこでンな反応返すから、余計ガキっていわれんだぞ、ガキ」
 にやにやとした顔で言いながら、更にはウィアの頭をぐりぐりと上から押さえつけるように撫でまわしてくる。頭に来たウィアは彼の足を蹴ろうとしたが、鍛えること自体が教義なアッテラ神官は、そのくらい足をさっと上げて簡単に避けてしまった。
「ったく、すっげームカツクヤローだなっあんたはっ」
「失礼だぞ、ガキ。俺のことはエルさんて呼べ」
 恐らく愛称だろうそれが昔の知り合いと同じで、ウィアはちょっとだけ怯んだが、すぐに気を取り直して胸を張る。
「残念だがなぁ、俺は敬称は略すのが主義だ、エル」
「本当にかっわいくねぇガキだなぁ。ってか、リパ神官ってのはもっと大人しいモンだろ」
 そこで、二人のやり取りを見ていたカリンがいい加減呆れて口を挟んだ。
「エル、客人で遊ばないように。ボスのところへお連れする途中ですから」
 言われれば、はいはい、と手を上げて一歩引き、そのまま彼はじゃーなとウィアに手を振った。ウィアは、歯を見せて険悪な顔を返したが、男は気にしないようで笑っているだけだった。
「気にしないでください。エルも散々前はチビとかガキとか言われてたので、貴方に親近感があるんでしょう」
 確かに他の連中に比べれば小柄な方だとは思ったが、今の彼はチビという程ではないので、ウィアも自分の将来的にあそこまではいけそうかな、とちょっと期待をもった。
「こちらです。あけても宜しいですか?」
 カリンが尋ねたのは、実はセイネリアに会う前は大抵の人間は心の準備が必要だからなのだが、ウィアはいいよ〜と軽すぎるくらい軽く答えた。だから思わず彼女は言う。
「ボスに会うのに、そこまで気楽な人はそうそういません」
「え、いやそりゃあいつ強面でおっかないけどさ、んでもまぁ、一つだけ一番大事な事が分かってるから怖くはねーよ」
「大事な事、ですか?」
「あいつはシーグルを愛してる。だから、シーグルが哀しむようなことはしない」
 聞いたカリンは、目を閉じて口元だけに深い笑みを浮かべる。
「あけますね」
 そうして身を引いたカリンに、ウィアはにっこりと最後に笑顔で言った。
「ここまで案内ありがとう、カリンさん」
 途端、彼女はくすりと笑う。
「敬称はつけない主義だったんじゃなかったのですか?」
 ウィアは更に満面の笑みを彼女に返した。
「そりゃあ、美人なおねーさんは別ってモンだ」



☆ウィアの傭兵団訪問☆ 3

 一応神官としてのお使い、という事で、アッシセグにきたウィアは、セイネリアの傭兵団にやってきた。
「よぉっ、セイネリアっ」
 そう声を掛けてきたウィアに、さすがのセイネリアも面食らう。だがその後に肩を揺らしてまで笑いだして、ウィアは何がおかしかったのかと少し首を傾げた。
「まったく、俺にそんな声の掛け方をしてくる人間はいないぞ」
「なんだよ、友達少ねぇんじゃね」
「……まぁ、それは間違っていないな」
 金茶の瞳はやっぱり正面から見ると凄みがあって、じっと見られると圧迫感がある。
 けれどもウィアには、その瞳が今、十分に柔らかい表情を浮かべているのが分かっていた。
「とりあえずだ、まずはお近づきの印の袖の下代わりだ。さぁどうだ、豪華シーグルの愛用品シリーズ!」
 セイネリアは笑いが押さえなれないという状態だったが、机に並べられた品々を実際見ればなにか感慨深い気持ちになってしまうのだから、そんな自分にも笑えてしまう。
「土産じゃなかったのか」
「んー、土産っていうにはなんていうかこっそり感というか、実は後ろめたいところがあるっていうか。何せコレ本人に許可なくパクってきたからな」
「後で怒るんじゃないか」
「だーいじょーぶっ、あいつは呆れるだろうけど、結局怒らないよ」
「そうか、お前もあいつと仲がいいのか?」
「そりゃーもう、可愛い義弟ってなモンで普段から可愛がりまくってるからな」
 腕を組んで自信満々に言う姿に、セイネリアも呆れながらもやはり笑うしかない。
「……その位置にいられるお前が、少し、羨ましいな」
 だから、正直にそんな事を言ってしまったのは、あまりにも裏がなく正直すぎるこの青年のせいだろうか。
「ばっかだなぁ、お前だってちゃんと仲良くオトモダチから始めりゃ良かったじゃねーか。あいつはトモダチには優しーんだぞ、そりゃもうな」
「あぁ、知ってる。友達、だった頃もあったしな」
 セイネリアの意外な言葉に、ウィアは驚く。
「友達だったのに、裏切ってあいつを滅茶苦茶に犯した。憎まれて当然だな」
「あんたは馬鹿だ。なんでそんな方法であいつを手に入れようとしたんだよ」
 言えばセイネリアの笑みが歪み、その顔は自嘲の色を深くする。
「……知らなかったからな」
 何を、と聞こうとしたウィアはそれをやめた。何を、はきっと一つだけではなく、いろいろなものを含んでいるだろうと分かったからだ。
「まぁ、心、というものは意志ではどうにもならんものだと分かったさ」
 ならば何故、この男はシーグルを手放せたのだろう。これだけ愛しているなら、心はきっと彼を離したくないとそう願ったろう。だけれど、手放したのは彼の意志だ。
「俺さ、あんたに聞きたい事があったんだ。ボロボロんなったシーグルがさ、あんたのところに自分から行った時、どうして結局はシーグルを手放したんだ? あいつに憎まれてたのに、そんなにあいつのこと愛してて、それが自分からやってきたんならさ……」
 セイネリアはゆっくりと目を閉じる。ウィアは、黙って彼を見つめる。
「あいつを、失いたくなかったからだ。あいつ自身をな」
 それでもウィアなら手を離せない。今手を離したら、それこそ二度と自分の手に入らないかもしれないのだから。
 セイネリアは薄く目を開けてウィアを見る。
「あいつが消える事に比べれば、俺の手の中にいないことなど問題じゃない。あいつが存在しているなら、この手に抱ける可能性が消えた訳じゃない」
「それはつまり……いつかどうにか出来る自信があるって事か?」
 確かにそれが理由なら、ウィアには理解出来なかったというのは分かる。
「自信などないさ。あいつのことに関してだけはな」
 それはこの男には珍しい、本当に自信なさそうな苦笑の顔で、ウィアは驚くというよりもなぜか感動してしまった。この男がこんな顔をする、という事と、それほどまでにシーグルを彼が愛しているという事実に。
「俺は臆病なんだ。あいつが消える事だけは耐えられそうにない」
 冗談めかした口調のその言葉が、嘘偽りの一切ない真実だと、ウィアには分かった。だからウィアは彼に言う。
「仕方ねぇな。今のあんただったら、俺、応援してやるよ」



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続編前にこれはUPしておかないとってネタだったので。

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