WEB拍手お礼シリーズ24 <傭兵団の日常編その?> ☆☆秋の夜長は……☆☆ (1/3) 海沿いの温暖な街、アッシセグにも秋が訪れていた。 戦闘要員が殆どを占める黒の騎士傭兵団はこの時期は比較的仕事が暇で、だからなのか、今、団内ではカード遊びが流行っていた。 「マスター、少し遊ぶ時間あるか?」 楽しそうにそう言って入ってきた副長の男を見れば、彼が何の用なのか、セイネリアにはそれだけで分かってしまった。 「カードか。お前、いくら負ければ気が済むんだ」 「いや、今日は勝つぞ。なにせこっちは奥の手がある」 「ほう」 セイネリアとしては、カード遊びなど所詮は遊びとしか思っていない為あまりやる気はないのだが、エルの自信満々なその様子には興味が湧いた。 「まぁ、いいだろう。奥の手には期待してやる」 「おう、期待してくれ」 かくして、二人はカードを始めた訳だが……。 開始早々、早くも、エルは劣勢にたたされていた。 「うっわ、カード運ねぇ……」 がっくりと項垂れて机につっぷしたエルをしり目に、セイネリアは山からカードを一枚引く。 昨日までのところだと、カード勝負はセイネリアの5戦5勝であった。 そもそも、勝負事にも熱くなりすぎず無表情を通せるセイネリアと違って、エルは感情の起伏が激しくそれを素直に顔に出す。カード勝負をする前に、もう少し感情を表に出さない訓練をするべきじゃないのか、とセイネリアは思ったりもするのだが、それが彼の長所でもあるので、あえて言ってやる気はなかった。 だが、そんなセイネリアも、今引いたカードを見た途端、表情が変わった。 それを見たエルがすかさず、にやりと笑みを浮かべる。 「マスター、今あんたが何のカードを引いたか、当ててやろうか?」 セイネリアはカードを見ながら、ふっと口元をほころばせた。 「なるほど、これがお前の奥の手か」 「そういう事、なかなかいい手だと思わないか?」 「確かにな」 「よーし、こっから反撃だぜ」 ――と、意気込んだエルだったが、結局、勝負はいつも通りセイネリアの勝ちとなった。 「いくら俺が特定のカードを手に入れたのが分かるとしても、それだけじゃ勝てないだろ」 「だよなぁ……」 テーブルにまたつっぷしているエルに軽く笑うと、セイネリアは手に持っているカードを見つめた。 それは『銀の騎士』のカードで、かかれている騎士の絵のその甲冑は、シーグルの甲冑になんとなく似ていた。特に兜が似ているせいで、セイネリアにとっては、どうしてもその騎士がシーグルに見えて仕方なかった。だから、このカードを引いて見た途端、セイネリアは思わず、目を軽く細め、表情が柔らかくなってしまったのだ。 ☆☆秋の夜長は……☆☆ (2/3) 港町アッシセグの秋、黒の剣傭兵団では、今団員達の間でカード遊びが流行っていた。 そんな時、エルがセイネリアにカード勝負を持ちかけたのだが、『奥の手』も虚しく、彼は今日も負けたのだった。 「それで、今回は勝負に負けた代わりに何を置いていくんだ?」 「んーそうだなぁ……労働で返すってのはいつもすぎるし、かといってあんたにモノをやるっていってもなぁ」 悩むエルにセイネリアは何も言わなかったが、軽く睨みつけるその目は何か言いたそうにも見えた。 それを悩みながらもちらと見て、思わずエルはにんまりする。 「はは、てか本当にあんた、あの坊や関連になると分かり易い反応すんだな。なぁ、マスター、欲しいものがあるなら言ってくれよ?」 さすがにそこまで言われると、セイネリアも眉を寄せる。 「エル、しらじらしいぞ」 その声がらしくなくはっきり苛立ちを含んでいるのが分かったエルは、降参するように一度手を上げてから、持参してきたカードの束を渡すように、セイネリアの目の前のテーブルに置いた。 「はいはい、負けの支払いはこれでいいかな、マスター」 セイネリアが軽く溜め息をつく。 「まったく、最初からそのつもりだったくせに、随分まわりくどいマネをする」 「いやー、店でこれ見つけた時さ、あんたにこのカード見せたらどんな反応すっかなと思ってさ。負けたら勿論こいつを渡すつもりだったけど、一応今回こそは本気で勝つつもりでもあったんだぜ」 セイネリアはテーブルに置かれたカードの束を持ち上げ、その中から一枚のカードを抜き出す。シーグルに似た甲冑の『銀の騎士』のカードを。 そのセイネリアの表情があまりにも柔らかくて、エルは苦笑する。それから彼は、主が思い出に浸るのを邪魔しては悪いと、手を振り、その場を出て行こうとした、のだが。 「エル、本気で勝つつもりだったんなら、勝てたら何が欲しかったんだ?」 エルは驚いて振り向いた。 「え? ……あー、そうだな、この間あんたがここの領主から貰った酒を一瓶貰おうかなと思ったくらいかな」 「ならもっていけ」 言ってセイネリアは立ち上がると、酒が並べてある戸棚に向かう。 「いや、いいって、俺は負けたんだからさっ」 「何、釣りとでも思っておけ」 「えぇぇ? 釣りって、どう考えてもこの酒のが高いだろ、確かにカードは一点モノだけどンな高いもんじゃないぞ」 けれど、セイネリアは有無を言わさずエルに瓶を渡すと、機嫌が良さそうに笑っていった。 「実際の金額なぞ知るか。俺にとっては、おまえがくれたこれは、その酒程度やっても十分の価値があるという事だ」 ☆☆秋の夜長は……☆☆ (3/3) セイネリアの執務室に入って、机の上にカードの束を見つけたカリンは少し驚いた。 「エルがまた勝負しに来たのですか?」 「あぁそうだ」 「とうとう、毎回カードを持参するのが面倒で無理矢理置いていったのですね」 「いや、これは今回の負け分としてあいつが置いていったんだ」 「そうですか……でも、よくそれで許してやりましたね。前に、エルがカードをここに置いて行こうとしたら、ここは遊び場じゃないと言って持っていかせたのに。カード遊びはあまりお好きではないと思っていました」 「まぁな、遊びではあまりやる気はしない……ただ、そのカードは別だ」 言葉の意味が分からず考え込むカリンに、セイネリアはそのカードを見てみろと促す。それで彼女はカードの束を手にとると、その絵柄を確認していき……そうして、あるカードでめくる手を止める。 「なるほど、確かにこれなら」 この地方で一般的に遊びで使われるカードは、『王』『王子』『神官』『騎士』のカードと複数枚の『兵士』や『農民』カードを1セットとしてそれぞれ金と銀の2種類あり、それに特殊カードが混じるという構成になっている。 その中の『銀の騎士』のカードに描かれている騎士の姿が、確かにぱっと見て兜まで全部の甲冑をつけた時のシーグルに似ていた。 「なら、このカードだけを抜いて持っていれば良いのではないですか?」 そう言ってカリンがそのカードを抜こうとすれば、セイネリアは首を振る。 「その一枚を抜いたら、そのカードの束はカードとして使いものにならなくなる。そういうのはあいつは嫌がるだろう?」 カリンは一瞬面食らって、それからくすりと笑みを零した。 まったく、この男は、心から情を傾ける人間がたった一人な分、その人間にだけは人が変わったように優しい考え方になる。 微笑みながら更にカードをめくっていた彼女は、別のカードを見てからまた手を止めると、顔を上げてセイネリアを見つめた。 「はい、私も、カードはこのままこの中にあるべきだと思います」 彼女が今見ているカードは『金の王』のカードだった。そのカードの絵の王は金髪ではあったものの、横顔の鋭さが少しセイネリアに似ているようにカリンには見えた。 --------------------------------------------- これはまだ騎士団編書いてる時くらいのお話でしょうか。 |