WEB拍手お礼シリーズ40 <冒険者ラーク編> ※シーグル騎士団時代頃の話。ラークも冒険者として結構お仕事がんばってました。 ☆☆ラークの兄弟日記(1/3) ※ランダム表示 ラーク・セパレータ。セパレータ兄弟の末っ子であり魔法使い見習である彼は、将来は医者を目指す冒険者であった。一般的に魔法使いは自分の研究関連の仕事しか受けないから、まず滅多に事務局に仕事を貰いにくるなんて事はない。だから、見習とはいえ魔法使いの彼は何気にあちこちの仕事で引っ張りだこであった。 15際になって、数日掛かるような大きい仕事を受けてもいいと兄達からの許可を貰った彼は、このところ頻繁に仕事で家にいないことが多かったし、すごい勢いで知人が増えた。母親がおかしくなってからずっと身内だけだったラークの世界は、ここにきて急激に広がったといっていい。 「ラーク、次の仕事は何時ですか?」 大好きな上の兄にそう聞かれて、ラークは少し甘えるように兄の服の裾を掴むと笑顔で答えた。 「次の仕事は明後日かな。あ、でもにーさん、明日は昼から森に薬草取りにいってくるからー、お弁当よろしくねっ」 「分かりました」 ラークにとって母親以上に母親だったフェゼントにそう笑い掛けられれば、それだけでほんわりと幸せな気持ちになる。兄の優しい笑みはラークだけの宝物だった……そう、つい少し前までは。 「おーラーク、今度は何処へいくんだ?」 そこへひょっこりと現れたのは、兄の恋人を自称するちびっこ神官。 「ガザロの森。あそこいろいろ材料やら金になりそうな珍しいモンがあるからね。そういうのの知識あるヤツが欲しいってさ」 「なるほどなー」 ウィアが納得してぽんと手を打つ。 「ガザロの森は少し危険じゃないか? 何人で行くんだ? パーティー構成はどうなっている?」 その声に顔を思い切り顰めたラークは、視線をウィアの頭の上に上げて睨んだ。 「8人。全員俺よりずっとランク上だし、冒険者生活も長くて慣れてる連中だよっ」 誰が見ても十中八九貴族様と答えるくらいに品のある顔をした銀髪の青年は、その言葉を聞いても眉を寄せた。 「だが、あそこはちゃんと戦力を揃えていっても、壊滅状態になって逃げ帰ってくる連中が後を絶たない場所だ。あそこで何か欲しい植物があるなら今度の休日に俺が……」 心配そうな顔のシーグルのその言葉は、ラークの中にピシリと何かを刻んだ。 「ふーん、人に危険だとかいっときながら、自分なら一人で楽勝ってさ、随分見下してくれちゃってるよね。さっすが上級冒険者様」 「ラーク、そういう言い方はいけません」 「いや、兄さん、確かにラークの言う通り、今の俺の言い方はよくない」 「でも、シーグル。貴方は心配して……」 兄二人が言い合う中、ラークはムカついてそこからさっさと離れた。 ラークははっきりいって、下の兄であるシーグルの事が嫌いだった。顔よし頭よし腕もよしと、非のうちどころがないを地でいくくせに、さっきも本気で自分の言った事を反省しているのだと予想できるくらいに真面目で誠実と性格もいい。その上、大大大好きなフェゼントからも弟のくせに信頼されて頼りにされている。これで、同じ弟としてムカつかないのは無理だろう。 「ったく、まーたシーグルにつっかかってんのかよ、ガキだなぁ」 と、追いかけてきたガキ神官のウィアに言われても、ラークの機嫌が直る筈などない。 それでも、現在ラークには目標があったりする。だからこそシーグルに対して少し妥協して、たまにはシーグル兄さんなんて呼んだりもするようになった。 シーグルは冒険者時代、上級冒険者の最年少記録を更新している。だから、それを更新して見返してやるのだ、と。幸い、魔法使い見習いという肩書きでいい仕事が貰いやすい分、結構自分はいい感じに評価を上げているとラークは思っていた、のだが。 「ま、俺があいつがなった歳より早く上級冒険者になったら、もう少し対等に話してやるよ」 といったラークの言葉に、明るくウィアが答えた。 「そりゃ難しいぞー。あいつの評価があんなに早くあがったのって、報酬低くて難しい仕事ガンガンこなしてたからだしー。お前の歳にゃもう上級冒険者と化け物討伐やってたっていってたしな」 ……そうしてラークの野望はあっさり終了し、また暫く、シーグルに対しての態度が悪くなったそうな。 ☆☆ラークの兄弟日記(2/3) ※ランダム表示 セパレータ兄弟の末っ子、ラークは15歳になって、本格的に冒険者の仕事をするようになった。いつでもフェゼントにべったりだった彼にもそれで友達が出来て、いろいろと世界が広がってきているところだった。 「あー、今回は稼げたなぁ。やっぱ魔法使いがいっと稼ぎがダンチだよなぁ、また次も頼むな、ラーク」 「まかせてよ」 大きな仕事でない場合、魔法使いは主に知識的な部分で頼りにされる事が多い。後は、魔法系のトラップや、魔法持ちの動植物への対処だ。役割がそうであるからまだ冒険者として未熟でも、魔法使い(見習いだが)というだけでラークはたくさんパーティ登録を持っていたし、なかなかいい仕事に恵まれていた。 それでも所詮、普通の冒険者止まりだけど。と、いう事に気づいたのが、最近の彼の不幸ではあるのだが。 仕事が終わって、これから打ち上げと飲み屋へくりだそうとしていた者達に別れを告げようとしたラークは、だがそこへ、芦毛の馬に乗った人物がやってくるのに気づいてしまった。 馬はラークの目の前で止まり、乗っていた騎士が、重装備のくせにひらりと身軽に降りてくる。なにが起こったのかと驚く他の連中の前で、銀色の甲冑の騎士がその兜を外せば、途端、皆が息を飲むのがラークにはわかった。 「ラーク、今回の仕事は終わったのか。なら出来るだけ早く兄さんに連絡を入れておいた方がいい。兄さんは昨日からウィアの屋敷に行っているから」 「わかったよ。わかったから。あんたはまだ仕事中なんだろ、さっさといけよ、サボってんなよ」 「あぁ、そうだな。出来れば俺は今日は遅くなると、ついでに兄さんに伝えておいてくれないか」 「わかった。じゃーな、さっさといけよっ」 ラークに歓迎されていない事がわかっているのか、シーグルは寂しそうに笑うと、固まっているラークの知り合い連中に軽く挨拶をして、また馬に乗ると去っていく。そうして待っていたらしい彼の部下達と合流して南門の方へと消えてしまってから、ラークは一斉に目を大きく見開いた仲間達の視線に晒される事になった。 「だだだだだ、誰だっ、ラーク、おいっ、知り合いなのか?」 「一緒だった連中は騎士団の鎧だったよな、って事は騎士団の騎士様か?」 「いやでもさ、騎士団で自前の鎧着てるのってさ、旧貴族様の正式な継承者だけだよなっ」 「……なぁ、旧貴族で、銀髪のとんでもない美人の騎士ってさ……まさか、シルバスピナ家のシーグル……様?」 ラークは嫌そうに、大きくため息をついた。 「そーだよ。そのシーグル」 「知り合いなのか?」 「まーね」 一応言っておくと、ちゃんとラークも貴族院に登録されているから、シルバスピナ家の者であると名乗ってもいいとシーグルには言われている。だからもちろん、兄弟だと言ってもいいのだが……ラーク的には言いたくない理由があった。 だが、そうして憮然としているラークの周りで、他の連中は盛り上がりまくっていた。 「おいおいおいっ、すげぇな、あの人17で上級冒険者になったんだろ? あの外見で、すっげー強いんだろっ」 「確かにすっげぇびっじんだなーおい、あれじゃー、ヘンな噂立てられるのもわかるわー」 実のところ、まだ本格的な冒険者としての仕事をやる事になって日が浅いラークは、冒険者同士の知識やら噂話には疎い。だから自分をおいてけぼりで盛り上がっている連中を見ながら、不機嫌そうにぽつりとつぶやいた。 「そんなすごいのか、あいつ……」 途端、一斉に周りに振り向かれ、なにいってんだコイツという顔をされる。 「ラーク、お前あの人の顔見てよく平静でいられるな」 そりゃ見慣れてるし、所詮父さんをもうちょっとほっそりさせたくらいだし。 「お前っ、上級冒険者って、どんくらいすごいかわかってないだろ。あの人は一人でエレメンサ退治とか出来んだぞ、俺ら全員でも危ない仕事が普通だったんだぞ」 うん、そりゃこの間のあいつの口振りでわかってるよ。 「貴族様なのに、結構きつい仕事とかがんがん受けてさ、助けた村とかでどんなお礼もご馳走出されても遠慮するような人物だったらしいぞ」 ……いやそりゃだって、ご馳走出されても食えないだけだしあいつ。と、熱く語ってくる連中にいちいち心でつっこみを入れていたラークは、心底げんなりしていた。 きわめつけには。 「ラーク、シーグル様って何がお好きなのかしら。甘いものとか食べてくださる?」 と、目の中にハートを浮かべたような顔をしている剣士の少女の顔を見るに至って、ラークはどんよりと目を濁らせた。なにせその少女は、最近わりとよく組むようになって、ほんのりと淡い恋心未満の感情を持っていた人物だったのだから。 ☆☆ラークの兄弟日記(3/3) ※ランダム表示 セパレータ兄弟の末っ子、ラークは15歳になって、本格的に冒険者の仕事をするようになった。 そんな彼だが、つい最近、シーグルと知り合いという事が仲間内にバレてから、いろいろ困った目にあう事になっていた。 会わせてほしいとかいう連中は、あいつ忙しいから無理、で終わるものの、特に女性陣からのこれ渡しておいて攻撃が困るのだ。しかも。 「ラーク、あのね、クッキー焼いてみたんだけど、シーグル様に渡して貰えるかしら」 そう言ってくるのが、自分がちょっと好きかも、なんて事を軽く自覚している相手だったりするから尚更。女性なのに剣士をしているルミナは、礼儀正しく、凛々しいのに実は家庭的で気が利くという、ラークの一つ年上の長い金髪の少女だった。 どーでもいい人物からなら自分で渡せよで済む事も、そんな彼女からのお願いなら断れないではないか。だからラークは受け取ってしまって、そうして困っていた。 ただでさえ食が細いシーグルは特に甘い菓子が苦手で、本人いわくあの甘ったるい匂いがだめらしい。いくらフェゼントの手作りであっても、菓子類はウィアやラークにいつも譲ってくれる。 だから、彼女がきっと一生懸命作ったろうこのクッキーも、シーグルにとってはまったく嬉しくないシロモノだ。 それでも結局は彼に袋を渡したのは、あの生真面目な兄がどんな反応を返すのかという興味もあったからだった。 「これは?」 「知り合いの女の子が、あんたにぜひってさ。手作りのクッキー」 予想通り一瞬固まった彼は、それでもラークから袋を受け取った。 「顔いい騎士様はモテて大変だね。ま、彼女の場合は憧れ止まりだろうけど、でも真面目な子だから一生懸命作ったんだよ、きっと」 「そうか……」 言えば苦笑して、それで彼は袋を開けると、中のクッキーを一つ手に取ってから思い切って口に入れた。それに正直驚いたラークだったが、彼はやはり食べにくいのか少し長く口の中で咀嚼した後、食べきると緩やかな笑みを浮かべて袋をラークに差し出した。 「とても、優しい味だ。美味しかった、ありがとうと彼女に伝えておいてほしい。……ただ、これ以上はちゃんと食べられる自信がないから、後はラークとウィアで食べてくれないか。美味しいうちに喜んで食べて貰えた方がいいだろうから」 そういって去ったシーグルに、ラークはなんだかいろいろ考えていた毒気を抜かれた。 数日後、ルミナにラークが会えば、途端、彼女はいきなり謝ってきた。 「ごめんなさいっ。シーグル様は少食で甘いものは特に食べないって、昨日シーグル様を知ってるって神官様から聞いたのっ。それでラークは、私が渡した時に困った顔をしていたのね」 どう説明をしようか悩んでいた分、そこには安堵したが、気にして悲しそうな顔をしている彼女を見ていられなくてラークは思わず言う。 「美味かったって、ちゃんといってたよ」 「え、でも甘いものはお嫌いじゃ」 「嫌いだけど、ちゃんと一つ食べて、それで、優しい味だ、美味かったって言ってたよ」 「シーグル様、ちゃんと食べてくださったの?」 「食べたよ、あいつ人から貰ったものを粗末にしたり無碍にしたりはしないし。ただ量食べられないからさ、だから残りは俺が貰ったけど、本当に美味しかったし、あいつも食べた後はちゃんと笑ってたし、美味かったってのは社交辞令じゃないよ」 何で俺があいつのフォローなんかしてやってんだろ、とは思っても、その言葉で少女が嬉しそうに微笑んだから、ラークの不機嫌は吹き飛んでしまう。 「ありがとう、ラーク。そしてシーグル様にも、ありがとうございましたって言っておいてね」 その後、話の流れで、シーグルが兄だという事をここだけの秘密とばらす事になったものの、そのせいで彼女と余計親密になれたというのはまた別の話。 ともかくも、ラークのシーグルに対する態度はその後多少の改善はあったらしかった。 --------------------------------------------- 結構ラークは惚れっぽいところもあって、冒険者時代にこういう話はよくあったそうな。 |