東京徒歩旅行(2) 〜沖縄居酒屋編〜 その3
北区・王子「あんでぃら」
「あんでぃら」の店内に吊るされている,漁をするときに使う網です。
4/24,5/15/2002 王子「あんでぃら」
[牛込神楽坂 → 伝通院 → 小石川植物園 → 六義園 → 駒込 → 王子 (晴)]
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# 3-1
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平成14年のGWは,沖縄本島へのツーリングの計画を立てました。「東京徒歩旅行(2)」の第三弾は「何とかそれまでに・・・」とかけ込んだ感じで4月24日の水曜日に実行しました。季節は春,サクラは散ったものの,スギ花粉がおさまってツツジを中心に花々が咲き誇る,街の探索にはいちばん良い頃です。
めざすは北区王子の沖縄居酒屋「あんでぃら」です。王子は通勤時にJR京浜東北線から営団南北線への乗換えで利用する駅なのですが,飲み屋さんに入ったことはほとんどなく,今回のお楽しみのひとつです。1週間前には下見も済ませています。
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# 3-2
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事前に地図で見積もったところの神楽坂−王子間の距離はおよそ9km。通常の徒歩旅行の感覚だと半分ぐらいということで,小石川植物園や六義園(りくぎえん)といった景勝地でのんびりしながら歩く計画をたてました。そんなこともあって,オフィスを出たのは12時25分とかなり遅め。いきなりなじみのイタリア風料理のお店「オッジ」に出向き,ランチのコーヒーを2杯飲むほどのんびりしました。
相生坂で坂を下って,小桜橋で神田川を渡って,しばらくして金剛寺坂を上がって・・・という感じで,今回の道中は坂道が多いことが特徴です。この辺りの道は車道と重なる部分が多くて,あまり散歩向きではありません。
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# 3-3
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金剛寺坂を上ってからしばらく歩いて春日通り。渡ってすぐ左手に伝通院という大きなお寺がありました。参拝のしおりによると,「伝通院」は徳川家康公の生母の於大の方の法名で,正式名称は浄土宗寿経寺とのこと。墓地には於大の方のほか,二代秀忠長女の千姫(豊臣秀頼正室),三代家光正室の孝子・・・ という感じで,徳川家所縁の古人のお墓がたくさんあります。
ちょうど見頃のツツジのピンク色とのコントラストもあって,400年近く風雨に耐えて黒ずんだ墓石は,とても重厚に感じられました。
これらのお墓は区指定史跡ということで,伝通院は小旗を先頭とした団体さんがやってくる観光地でもあるようです。
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# 3-4
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伝通院の前の道には,「小石川寺町散歩」という散歩道の指定があります。確かに小石川3丁目の丘の上には由緒のありそうなお寺がたくさんあって,その雰囲気は散歩向きです。
坂を下って白山2丁目は千川という川跡の谷間で,お寺はあるものの,込み入った路地と小さな町工場が目立つ下町的な風情に変化します。
「小石川植物園」(東大理学部附属植物園)は,下町風情の街並みの中,延長2kmを超す長い塀に囲まれた原生林も混じる緑の園です。ここは平成5年以来9年ぶり。大きなスズカケノキ(プラタナス)は見覚えがあってなつかしい。ネコが歩くスピードものろのろしています。
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# 3-5
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小石川植物園の歴史をひも解くと,五代将軍就任以前の徳川綱吉の下屋敷(白山御殿),幕府の御薬園,「赤ひげ」で知られる小石川養生所・・・ と,やはり徳川家との係わりが浮かび上がってきます。
伝通院,小石川植物園と,続けて袋小路をぐるぐる回ったため,時間のわりには行程が進みません。神楽坂−小石川植物園間(見積り距離3kmほど)に3時間半もかかっています。「さすがにまずい!」と,白山3丁目から網干坂,地下鉄千石駅にかけては早足で歩きました。
植物園の西隅には,赤い外壁が目を引く旧東京医学校本館(明治9年建立)。西隅の出口を使えば袋小路じゃなかったのに・・・ 残念。
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# 3-6
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中山道を千石1丁目交差点で渡って,次は「六義園」という庭園。ここは初めて。開園は午後4時半までのところ,ジャスト4時半に到着。
「5時までですよ・・・」との声を受けて庭園に入ると,そこは優雅な緑の空間・・・のはずが,数百羽というカラスが,「我らの領土」とばかり群れをなして飛び回っていました。石原慎太郎知事が見たら,真っ赤になって怒りそうな風景ですが,広大な緑と水の空間は,東京におけるカラスの繁栄に一役買っていることは間違いありません。ここも袋小路になっていて,前には進めすです。
六義園の歴史も,徳川綱吉の側用人柳沢吉保(川越藩主)が下屋敷に造成した日本庭園ということで,徳川家絡みです。
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# 3-7
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落ち着きのない六義園を後にしてJR駒込駅に着くと,ここは意外に落ち着いた駅で,「関東の駅百選」というレリーフがありました。選定の理由は,駅構内の切通しに咲くツツジが綺麗だからとのこと。
駅前の広場では藍染めの実演をしていたり,藍で染めた小さな鯉のぼりが泳いでいたりで,山手線の駅とは思えないほどのどかです。
駒込駅からは北北東の方向に坂を下り,坂を上りの狭い道。ひたすら古くて落ち着いた住宅街です。やがて新幹線の高架が見えて,その下にはJR京浜東北線。手前は山手の台地,向こう側は荒川と江戸川による広大な平野ということで,鉄道が境界線になっています。
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# 3-8
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人気もまばらな上中里駅を過ぎて「飛鳥の小径」という散歩道を進むと,向こうから背広姿の勤めの人が次々と歩いてきます。「ハテ?」と思ったら,途中に財務省印刷局,つまりお札を刷っている工場の通用門がありました。
門を過ぎると散歩道らしい落着きが出てきて,ほどなく飛鳥山公園に到着。「あんでぃら」のある「さくら新道」は,飛鳥山公園と京浜東北線に挟まれた長屋の飲食街で,戦後の闇市の匂いが残っています。1週間前に大将から「郷に帰るかもしれん・・・」と言われていたので,嫌な予感はあったのですが,これが当たって,お店には「4月23日から26日まで休み」との旨の貼り紙がありました。
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# 3-9
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これにはがっかりしましたが,GW前に実行したかったという事情があるので,しかたがありません。ちょうど通勤途上の王子駅ということで,定期券でJRの改札をくぐって,そそくさと南浦和に引き上げて,GWの旅の荷造りをすることになりました。
バイクを那覇行きフェリーが待つ有明埠頭まで走らせたのは翌日(4月25日)の朝のことです。この日お店が閉まっていて飲まなかったのは,結果としてプラスに働いたような気がします。
沖縄ツーリングは4月27日から5月7日までの10泊11日(県内8泊9日)。道中では那覇,コザをはじめあちこちで飲んだくれました。
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# 3-10
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改めて「あんでぃら」に飲みにいったのは,沖縄ツーリングが終わって,公私ともに少し落ち着いてきた5月15日の水曜日,くしくも沖縄の本土復帰30周年の日。たまにはこんなイレギュラーも良いでしょう。もう一度神楽坂から歩き直す気にはなりませんし・・・
当日の到着は7時頃。宮古島出身の大将(下里賢次さん)は,2回目のお客をよく覚えていてくれました。
うるまガイドによると,「あんでぃら」は平成12年(2000年)創業,座席20席の小さなお店。屋号の「あんでぃら」とは,漁をするときに使う網のことだそうで,実物がカウンターの真上に吊るされていました。
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# 3-11
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食べ物は「ゴーヤチャンプル」と「アスパラ炒め」。前回は「山羊の刺身」を食べたのかな? ひとりで行く分には,主なメニューだけでも3回くらい通わないとありつけません。
飲み物はキリンのビンビールと,宮古島の泡盛「菊乃露」の「親方の酒」(30度)を,水割りで2杯。なかなか匂いのきつい泡盛です。
カウンターには,礼子さん,佐代子さん,前回もお会いした直子さんと,なぜか女性に囲まれました。みなさん沖縄出身,もしくは沖縄で暮らされたことがあるということで,GWの沖縄ツーリングの写真と話はちょうど良い酒の肴になりました。
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# 3-12
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座敷で数人で飲んでいる方からも,「前にもお会いしましたね」と声をかけられました。沖縄ツーリングではウチナンチュの横のつながりの濃密さを肌で感じる機会が何度かあったのですが,「あんでぃら」の雰囲気は,これまでのお店の中でいちばん沖縄っぽいです。
開け放たれた入口の扉から流れてくる風も,心なしか蒸し暑く感じられます。
お店を出たのは10時少し過ぎで,お勘定は3,300円。さくら新道をふらふらと抜けて,改札をくぐると見慣れた王子駅のプラットホーム。王子から南浦和は乗換えなしの18分。近場で飲むことの気楽さが実感できる夜でした。
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●歩行距離 11.6km
●時 間 4時間51分 (昼食休憩を除く)
|
最高気温 |
(平年) |
最低気温 |
(平年) |
湿度 |
4/24 |
23.2℃ |
(20.2℃) |
12.9℃ |
(12.2℃) |
51% |
5/15 |
24.7℃ |
(22.6℃) |
16.7℃ |
(14.9℃) |
51% |
時間 |
距離 |
ポイント |
区名 |
備考 |
12:25 |
0.0 |
牛込神楽坂駅 |
新宿区 |
都営大江戸線・大久保通り
|
13:28/13:15 |
0.2 |
白銀町「オッジ」 |
新宿区 |
大久保通り |
13:30 |
0.6 |
相生坂 |
新宿区 |
|
13:42 |
1.4 |
小桜橋 |
新宿区 |
目白通り・神田川 |
14:00 |
2.2 |
春日2丁目 |
文京区 |
春日通り(R.254) |
14:05/14:35 |
2.5/2.9 |
伝通院 |
文京区 |
|
14:42 |
3.5 |
小石川4丁目 |
文京区 |
|
14:55/15:52 |
3.8/5.0 |
小石川植物園 |
文京区 |
|
16:03 |
5.8 |
網干坂 |
文京区 |
|
16:23 |
6.9 |
千石駅 |
文京区 |
都営三田線・中山道・不忍通り |
16:30/17:00 |
7.5/8.5 |
六義園 |
文京区 |
|
17:10/17:21 |
9.0 |
駒込駅 |
豊島区 |
JR山手線・営団南北線・本郷通り |
17:35 |
10.3 |
滝野川女子高校 |
北区 |
|
17:40 |
10.6 |
上中里駅 |
北区 |
JR京浜東北線 |
18:03 |
11.6 |
王子「あんでぃら」 |
北区 |
|
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(11.7) |
王子駅 |
北区 |
JR京浜東北線・営団南北線・都電荒川線・明治通り |
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【Column 03】 「テーゲー」は沖縄気質の根幹?
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「テーゲー」(大概,おおよそ)は「沖縄人解体真書 ザ・ウチナーンチュ」(仲村清司著,双葉社刊)によると,「ウチナーンチュの脊梁をなす気質」で,「問題をつきつめて考えずに大まかに受け止め,のんびりと気楽に過ごす悠長で楽天的な態度」とのこと。
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「ナンクルナイサ」(何とかなるさ),「イチャリバチョーデー」(出会えば兄弟),「沖縄タイム」(時間にルーズ)など,掘り下げると「ハテ?」となるところもあるけれど,「テーゲー」が根幹にあると思えば,何となく納得できる気質です。
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テーゲーは,解釈のしようによって「おおらか」にも「いいかげん」とも取れるのですが,都会のひとり暮らしのヤマトンチュ(私のことね)としては,忘れがちになる気質には間違いありません。そう考えると,テーゲーは沖縄の魅力の基盤なのかもしれません。
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「あんでぃら」の開店時間は午後6時なのですが,お店には沖縄タイムが流れているらしく,6時45分頃に行っても開いていなかったことがありました。とりあえず「テーゲーだなー」と笑って,この気質を吸収したいものだと思います。
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