ここから先は:「ヒロウ」さんの物語です
しかし、僕はちょっとした劣等感に覆われていた。
この毛むくじゃらの生物に、唯一の弱点を与えてしまったからだ。
そう、僕の家は貧乏だということを。
僕の両親は、小さい頃に離婚してしまった。
だからテレビだってエアコンだって買えやしない。
僕はいつも貧しい思いをしていた。
考えてみると、家もダンボールでできていた。
しかし、僕には、父に7歳の誕生日に貰った唯一のプレゼントのキーホルダーがあった。
奮発して、かなり高価な物だった。なんでも、僕が運動会で一等賞だった記念らしい。
だから、苛められたって、それを見てれば気が慰められた。
しかし、その直後だ。両親が離婚したのは。僕は母に引き取られた。
それからちょっとして、そのキーホルダーを手放さなければいけない時が来た。
ついに母と僕は、飯が食えなくなってきたのだ。辛かった。
母が言った。
「…辛いのはわかるけど、キーホルダーが無くたって、あなたは強い子なの。今までどおり、過ごせばイイのよ。」
その言葉で僕は強くなろうと思った。
空手、柔道、剣道、合気道、テコンドー、カポエラ、ムエタイ、ボクシング…他にも色々やった。
鍛えたのは、肉体だけではない。そう精神力だ。
格闘技に青春のすべてを捧げていたあの頃…。
大学を出、本格的に格闘技をしようかと思ったが、今は建築関係の会社に勤めている。
…すっかり思ひ出に耽っていた時、すでに僕は宇宙人に右ストレートを食らい、玄関に倒れていた。
「何ボーっとしてんだよ、ほら、行くぞ宇宙船。」
やっぱり僕は弱かった。
良く考えたら僕が貧乏な事なんてなんの弱点にもならないじゃないか。
僕はこの赤い毛むくじゃらに引きずられながら、家をあとにした。
- 急にいかりがこみ上げてきた
(この分岐より先「ネコ魔人」さんの物語です。)
[戻る]