ここから先は:「」さんの物語です

 クチャクチャ...!

おばさんは定期的にこの音を立てる。

 クチャクチャ...

口の中に何かを入れているからだ。

 クチャクチャ...

僕にはおかまいなしという様子で、貧乏ゆすりも加えられている。

 クチャクチャ...

だけど、買い物をしていないからといって、店内に客がいる間にこの接客態度はちょっと問題があるのではないかと思う。

 クチャクチャ...

 ガタガタッ!!!

「もう駄目だわっ!」
おばさんは、レジの横の机を動かして、僕に駆け寄った。(少し体を横に動かしてから前に出れば、机を動かす必要はなかったのに、このおばさんは、自分の体を横に動かすかわりに机を横に動かして、直進した...。)

それには驚いたから、急いで店から出ようとしたのだが、おばさんの手が僕をつかむ方が早かった。
「早くしないと、自分が宇宙人だっていっていたお客さんからもらった飴玉がとけちゃうのよ!!」
「はぁ...!?」
だから目玉が緑色になるのか、と、いつものおばさんと違った理由がすぐに分かったような気がしたのだが、血走ってもいる目は、それ以外にも関わりたくないと思わされるものがあった。
おばさんの手が離れた隙に、さっと逃げようとした。

だけど、おばさんは、今度は僕の肩をおさえた。
「しばらく店番してちょうだいっ!」
「えっ!?」
「お願い、お金ちゃんと払うからっ!」
緑色の目で哀願している。
「だけど...。」
「お客さん、あまり来ないと思うし、あなた、コンビニでアルバイトしていたじゃないっ!」
以前、僕がアルバイトで働いていたコンビにエンスストアに、このおばさんが客として来た事があったんだ。
値札が商品一つ一つにつけられているから、値段が分からないと断ることもできそうにない。
何しろ、簡単に嫌だからしないとは言えない状況だ。
「さっき自分は宇宙人だって言う客さんと商品と交換でもらった飴玉はね、暗いところでも物が見えるというものなのよ。」
おばさんは静かに言った。
「はぁ...。」
「最初聞いた時信じられなかったから、一個試しに最初にもらったの。」
「はぁ...。」
「そしたら、本当に、暗いところが見えるじゃないっ!?びっくりしたわよっ!」
おばさんの声は少しずつ大きくなってきている。
「はぁ...。」
「それで、お金は払えないからこの飴で商品と交換してくれって頼まれたからOKしたのよっ!」
早口になってきている。
「はぁ...。」
「暗いところが見えるって分かった途端に、去年トンネルの中で落とした指輪のことを思い出したからとっても嬉しかったわっ!!」
「はい...。」
肩をおさえている手も痛い。
「トンネルの中で落とたって気付いた時すぐに懐中電灯でさがしたわよっ!でも、あんなに暗くて長いトンネルの中で簡単に見つかると思うっ?地面は
でこぼこよ、何回もさがしたのよっ!!?」
ここまでくると、聞くのがやっとになる。
「飴玉の箱には飴玉が何粒も入ってたと思うの!だけどよ、だけどっっ!!...」
おばさんは下を向いて深呼吸をした。
「次のお客さんがその後すぐに来たから、あわててレジに行こうとした時に、箱を踏みつけて、大きくころんでしまったの...。」
おばさんは大きく息を吐いた。
レジ近くの床で潰れた箱と、キラキラ光るかけらが散らばっている。
「軽くつまづいただけだと思ってたのに、皆粉々になってしまっているのよ...。」
おばさんは静かに、とても悲しそうに言った。
緑色の目ではなかったら、いつものおばさんといってもおかしくない。

ここまで聞くと、断るのが難しいと思った。
「だから、ねっ!頼んだわよっ。」
おばさんは僕の肩をポンッと軽く叩くと外に駆け出していった。
途中、振り向きながら、
「お礼は後でちゃんとするからね〜!」
と手を振って。

おばさんがあんなに嬉しそうだったから、そう悪くないかもしれないと思った。僕はレジの横にある机を直して、椅子に座った。

5分、10分、と、客は来ない。
15分になると、店の外が少し賑やかになってきた気がする。
それでもまだ客は入って来ていないけれど。
ただ賑やかになってきたのではなくて、いつもより人通りが多くなってきたのではないかとも思う。

それから、僕は、目を疑った。
まぶたを一度よくおさえてから、もう一度外に目をやった。

僕の目に問題は無かったということが分かった。
パタパタと空を飛んでいる人、ピカピカと光った目で周りを照らす人達が店の外で騒いでいる...!
僕は...


  1. なぐったぁー
    (この分岐より先「ぱーむん」さんの物語です。)


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