ファン交 2018年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by

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■日時:2018年1月27日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:2017年SF回顧(国内編)
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、牧眞司さん(SF研究家)、鈴木力さん(レビュアー)

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 1月例会は、ゲストにSF作家・SF評論家の森下一仁さん、SF研究家の牧眞司さん、レビュアーの鈴木力さんをお迎えして、恒例の2017年SF回顧国内篇を行いました。お三方と、日下三蔵さんのおすすめリストを加えた資料をもとに、2017年の国内SF作品をふりかえりました。

まずは、満場一致のおすすめ作品、宮内悠介の『あとは野となれ大和撫子』からご紹介いただきました。中央アジアの湖が干上がって偶然できた国を舞台に、有能な若い女性が建国していくストーリーには一種のフェミニズム感と痛快さがありエンターテーメイン性の高い作品として仕上がっているとのこと。

次に同じく満場一致の注目作として挙がったのが、小川哲『ゲームの王国』。上巻は、マジックリアリズム的なテイストでカンボジアのいろいろなことが書き込まれており、下巻の近未来の描写と合わせて小説としてのたくらみに成功している作品。一作目の『ユートロニカの向こう側』よりもパワーアップした作品で、小川さんのユートピア思想が描かれているとのこと。

次に牧さんと森下さんお二人が、オールタイム級の大傑作と太鼓判を押されたのが、上田早夕里の『破滅の王』でした。日中戦争の話を下敷きに、謎の病気が蔓延しバタバタと人が死んでいく冒頭の重厚さは、まさに本格歴史小説のそれで、SFと思わず歴史小説として読む読者もいるのではないかというほどの描写力、文章力がずば抜けている作品だそう。

牧さんと森下さんがおすすめだったのは、藤崎慎吾『風待町医院異星人科』。北海道を舞台に、コミュニティSFとして面白さが挙がったのが、伊藤瑞彦『赤いオーロラの街で』。
ほかに話題になったのが、平鳥コウ『JKハル異世界で娼婦になった』と、裏世界に行った親友を探しに行く、宮澤伊織『裏世界ピクニック』でした。
鈴木さんが押した作品、池上永一『ヒストリア』は、突っ込みどころ満載の池上永一節炸裂した作品とのこと。短編として一押しされたのが、藤井太洋の「公正的戦闘規範」。この作品も世界の破滅を扱った作品ですが、世界の滅びに対して光明があるんじゃないかという希望が残っているところが藤井さんらしさ。
短篇の変わり種として話題に上がったのが、田中啓文の「宇宙探偵ノーグレイ」。謎は解けるけど、事件は解決しないし、本人が死んだり、わけはわからない。根本的な破たんはあるけど、ミステリーとして破たんしない? のが不思議で、一度読むと癖になる作品。勝山海百合「落星始末」は、森下さん一押し。中島敦の名作みたいな感じで素晴らしいとのこと。

この他にもたくさんの作品が出て、1月例会は、今年も盛り上がりました。レポートに挙げきれず残念です。ざっくりまとめると、2017年話題に挙がったのは、世界の破滅に対する作家の姿勢とジャンル性について。高い文学性でSFという枠を超え活躍する作家が増えたり、逆にジャンル外にSFをテーマとした作品があったりと、SFの広がりを感じた2017年でした。
ご出演いただいたゲストの皆さん、そして例会にご協力くださった日下三蔵さん。そして、例会に参加してくださった皆さん! ありがとうございました。2018年も、良きSFとの出会いがありますように。

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■2月例会レポート by  

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■日時:2018年2月17日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:2017年SF回顧(海外・メディア編)
●ゲスト:中村融さん(翻訳家)、添野知生さん(映画評論家)、懸丈弘さん(B級映画レビュアー)、冬木糸一さん(レビュアー)


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2月のファン交流会は、中村融さん、冬木糸一さん、添野知生さん、縣丈弘さん、高山羽根子さんをゲストにお招きし、恒例の2017年SF回顧(海外・メディア・コミック篇)を行いました。

まずは海外編から。中村融さん、冬木糸一さんに、それぞれおすすめの作品をご紹介いただきました。
冬木さんにご紹介いただいたのは『ジャック・グラス伝』。とにかく第一部の「太陽系最強の密室」が面白いということで、冬木さんとしては、アニメ化希望したい作品とのこと。SFミステリ作品らしく、宇宙的殺人者であるジャック・グラスによる事件に対する読者への挑戦状から幕を開ける本書となってます。

中村融さんにご紹介いただいたのは、『時間のないホテル』。SF感は少ないものの、ホテルの抽象画がつながっていて全部集めると秘密がわかる仕掛けになっているところや、ホテルの客はルートが同じである等人間の行動分析的なものが挿入されていたり、ところどころに散りばめられたホテルにまつわるお話が面白いのだとか。
続いては、イーガンの『アロウズ・オブ・タイム』。「最近のイーガンは宇宙づくりに力が入りすぎてエンターテイメント性が低いという人もいるけど、イーガン超面白い! 何言っているか全然わかんないけど。(笑)」という、冬木さんの力説に会場の各所でうなずきの同意が。中村さんからは、翻訳の苦労話も伺うことができました。

その他にも、『SFが読みたい!』で上位の、『隣接界』『母の記憶に』『わたしの本当の子どもたち』『巨神計画』などもご紹介いただきました。添野さんからは、早川書房や東京創元社以外の出版社から出ているSF作品の抑え方として、「〈本の雑誌〉の山岸真さんの新刊紹介ページを参考にすると良い」との、アドバイスがありました。中村さんからは、その他SF周辺の海外作品の媒体として、ホラー&ダーク・ファンタジーの専門誌〈ナイトランド・クォータリー 〉とナイトランド叢書を紹介していただきました。

個人的な感想としては中村さんが、私の好きな『魔物のためのニューヨーク案内』を押してくれていたのがうれしかったです。(後半のびっくり展開が面白かったです。)中村さんの淀みのない口調が醸し出す説得力と、初ゲストとしてご参加頂いた冬木さんが、どの本もとにかく楽しそうお話されるお姿に、「すぐに読まないと! 損しているかも。」という強い焦燥感にかられ、始終そわそわしてしまいました。

続いて、メディア篇。2017年は日本で1200本近い映画が公開されたということで(日本で一番観ている人でも、800本が限界だろうとも)、こんなにたくさん公開されている国は日本以外ないだろうと、添野さん。

映画作品の回顧の前に、高山さんから、『THE THING』という、映画『遊星からの物体X』から題材をとった「ボードゲーム」をわざわざご持参くださり、ゲームの紹介をしてくださいました。
誰が感染者かわからない状態で脱出を図る正体隠匿系ゲームで、途中犬がおかしくなったり……などなど、変なことがたくさん起こるのだとか。もし『このSFボードゲームがすごい』という企画があったら、エントリー間違い無しかも。ちなみに、4月開催の「はるこん」で高山さんは、ボードゲーム企画をされるそうです。

で、映画のご紹介ですが『ブレードランナー』『メッセージ』、マーベル映画は、傑作ってみんな知っているで時短の為に説明を省くことになり、ほかの注目作品として挙がったのが『新感染ファイナル・エクスプレス』。韓国のゾンビ映画で、韓国の新幹線の中でゾンビパンデミック起きるという筋書きで、電車という限られた舞台でどう生き延びるのかという状況を上手く使っていて、欠点が見つからない作品なのだとか。途中から涙が止まらなくなるのだそう。

縣さんが紹介くださったのが、B級映画から『スイス・アーミーマン』。
「超面白いとまでは言い難いけど、胸に刺さるものがあり、なんとなく森見っぽいんですよ。」という縣さんの感想に、「それは森見ファンに刺されるよ。」と添野の突っ込みが。新人監督ロバート・エガースの初長編で、アメリカにおける魔女狩りを研究した作品『ウィッチ』、ほかにも『ザ・マミー』など、2017年は魔女映画の当たり年だったとのこと。

変わったところでは、ノルウェー発のディストピア映画『セブン・シスターズ』で、ナオミ・ラパスが一人7役を演じているところも注目。その他インドの歴史ファンタジー大作『バーフバリ』、アニメーション映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』など観たい映画がたくさんありました。

例年通り、海外編、メディア篇ともに多いに盛り上がり気が付けば、最後の『コミック』篇に残された時間なんとあと15分! 会場に駆けつけてくださった、SFレビュアーの林哲矢さんとメディア部門ゲストの縣丈弘さんが息の合ったテンポでテキパキとご紹介くださいました。また、会場ではアンソロジストの日下三蔵さんと書評系ライターの福井健太さんにもご協力いただいた、おすすめコミックリストも配布させていただきました。

特に印象に残ったのは、林さんが気になる作品として挙げた、漫画タイムきららキャラットで3回で連載が終了したホラー系漫画?『アカリ様』。不思議なことがとにかく起こりまくってなんの説明もなく突然連載は終了。続きがなんとも気になる展開なのだそうで、心ある人はアンケートはがきを出して再開を切望してくださいとのことでした。
今年もゲストの皆様には限られた時間のなか、「海外」「メディア」「コミック」ともに限界までたくさんの作品をご紹介いただきました。レポートにどうにもこうにもまとめきれず申し訳ありません。

ご協力いただいたゲストの皆様、ご参加いただいた皆様どうもありがとうございました。おかげさまで、今年の2月例会も、例年以上に初めてご参加いただいた方も多く、とても盛況な会となりました。

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 ■3月例会レポート by 

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■日時:2018年3月17日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)

●テーマ:祝〈年刊日本SF傑作選〉10周年! 国内SF短篇の魅力
●ゲスト:大森望さん(翻訳者、アンソロジスト)、日下三蔵さん(アンソロジスト) ほか

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SFファン交流会3月例会は、祝〈年刊日本SF傑作選〉十周年! 国内SF短篇の魅力と題しまして、ゲストに翻訳家でアンソロジストの大森望さん、アンソロジストの日下三蔵さん、そして進行は、日本SF大好き! のSFファン交流会スタッフOB鈴木力さんにお願いしました。

十年以上続いている企画なので、最初に企画会議とかガッチリしてからのスタートかと思いきや、意外にもとある酒の席で、東京創元社の小浜徹也さんを含めたよもやま話から始まったとのこと。それが、今日まで続いているのですから、すごいです。

まず、〈年刊日本SF傑作選〉といえば、四文字熟語のようなタイトルが印象的ですが、やっぱり創元だから、イーガン、ベイリーみたいに漢字4文字! と思い始められたそうですが、全員の意見がなかなかそろわず、難航したそうです。
第1巻『虚構機関』(2008年)は、伊藤計劃「The Indifference Engine」と、山田正紀『エイダ』から拝借してのタイトル名。翌年の『超弦領域』は、山田正紀『超弦世界のマリア』から前半をいただき、半村良『不可触領域』 から後半をいただいたとのこと。大森さんは、「そもそも超弦に何かつくのはハードSF的にどうか」と、今でも納得がいかない様子。(笑)
漢字四文字はなかなか制約が多すぎで難しく、「未来」も使わないと思っていたら、水鏡子さんから「いっそ英保未来にしろ!」って言われたり、だんだんわからなくなってきて、7巻目のタイトル名からは、表題作からとるようになったとのこと。

〈年刊日本SF傑作選〉の収録作品は、文芸誌から同人誌まで掲載紙の幅の広いさが特徴。作家名で探したり、特集でリサーチしたりしているそうですが、これにも日下さん、大森さんのスタイルに差があるようで・・・。
大森さんは最初の三年ほど、SFの幅を広げようと思って、短歌やエッセイなども積極的に選んだというでしたが、ここ四、五年は、立場が逆転して日下さんの方がSFっぽくないものを選ぶようになったのだとか。
収録作の決め方は、ふたりで合意が取れたものは、すぐ入れ、残りをふたりで割ってそれぞれ好きな作品を入れるというスタイルがほとんどとのこと。例年、約三分の一しか合意が取れないのだそうですが、今年は初めて共同推薦枠が6割重なったのだとか。だんだん二人の気持ちが合ってきた・・・? というツッコミに対して、「いいえ!!  全然違う!!」と息ぴったりに否定されたおふたりでした。(笑)

十年を振り返ってみて、成果としては、「新人が増えたこと。伊藤計劃も円城塔も知られていない時代だったので、そういう新しい作家を世に出していきたいという気持ちがあった」「新陳代謝っていう気持ちもあった(だからって、古い作家が死んだわけではない)。円城さん、伊藤さんがいるから、新しい作家枠は大丈夫だろうって思ってたけどね……」など。

SF専門誌が少なくなったことで、当然SF媒体の占有率が減っているのだとか。中間小説誌でSFが入っているのは、瀬名さんのお陰で作家クラブの会長の時に活動してくれたからなのだそう。あとは、以前は5年に一冊ぐらいだったけど、結構何作もアンソロジーが出版されるようになったから。

創元SF短編賞については、事務的な負担は割に合わないくらいあるけど、やったおかげて、宮内悠介とか酉島伝法とか、新しい作家がたくさん誕生したのが良かったとおっしゃてました。また、「大森さんが短編賞を出そうといったときは懐疑的だったけど、すっごくいい作品が出てきたから大森さんに今は感謝しています」と、日下さんからも。

後半は、年刊SF傑作選からベストオブベストアンソロジーを作ろう! と、会場を含めて大議論になりました。

決定!!
年刊SF傑作選Best of Best 
タイトル『時空争奪』

円城塔「バナナ剥きには最適の日々」
宮内悠介「星間野球」
津原泰水「五色の舟」
上田早夕里「夢見る葦笛」
酉島伝法「皆勤の徒」
瀬名秀明「新生」
小川一水「アリスマ王の愛した魔物 」
伊藤計劃「From the Nothing, With Love.」
法月倫太郎「ノックス・マシン」
小林泰三「時空争奪」
長谷敏司「allo,toi,toi」
市川春子「日下兄弟」
Boichi「全てはマグロのためだった」
伴名練「ゼロ年代の臨界点」

3月例会最後は、会場総出で枚数計算したりと和気あいあいと盛り上がり、SFファン交流会らしい会となりました。ご協力いただいたゲストの皆様、ご参加いただいた参加者の皆様ありがとうございました。

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 ■4月例会レポート by  

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■日時:4月14日(土)14:00-16:00
■会場:「はるこん2018」会場・川崎市国際交流センター
 (東急東横線・東急目黒線「元住吉駅」より徒歩12分)

●テーマ:SFの想像力 AI、そして来たるべき社会
●ゲスト:長谷敏司さん(SF作家)、新城カズマさん(SF作家)、添野知生さん(映画評論家)、三宅陽一郎さん(日本デジタルゲーム学会理事)


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4月のSFファン交流会は、はるこん2018出張して参りました。
「SFの想像力AI、そして来るべき社会」と題しまして、ゲストにSF作家の長谷敏司さんと新城カズマさん、映画評論家の添野知生さん、日本デジタルゲーム学会理事三宅洋一郎さんをお招きし、AIを話題の中心にお話をお伺いしました。

まずは、『地球爆破作戦』『ゼロの決死圏』等の映画のポスターを数点ご持参くださった添野さんを中心に、ゲストの方々に映像作品とAIの関わりの移り変わりについてお話いただきました。

AIの起源的な作品である『フランケンシュタイン』時代からしばらくは、AIの機能や仕組みにつていて細部まで描かれる作品は少なく、魔法のような特別な能力を保持した、恐怖の対象として描かれる作品が多かったとのことです。
特に映画は、一般大衆向けのメディアとして消費される必然性から、人工知能への恐怖を描くパニック作品が多い傾向にあったようです。その後、単純に人間を模倣するプログラムのAIから、自己学習能力を備えたAIへ、描かれるAIの技術進化も進み描かれ、かたちも変化していったとのことでした。

最近のAI作品として、『エクス・マキナ』『HER/世界でひとつの彼女』『ブレードランナー2049』『チャッピー』などが話題に挙がりました。そして、アニメ放映中の『BEATLESS』に主題は飛び、アフターマンとしてのAIの可能性とその先のシンギュラリティについても話題がおよびました。

続いて、三宅さんよりゲーム開発の視点からのゲームのAIの動きについて解説していただきました。昔のゲームでは決められたプログラムに沿って動くだけだったものが、最近ではプレイヤーを含む外界の動きに対応して自己判断して動くAIたちが、ゲームのリアリティを飛躍的に向上させているとのお話でした。

新城さんは、著作『社会をつくる「物語」の力』と絡めて、AIと法律の未来についてお話していただきました。特に面白かったのは、AIの作った作品の著作権についての話題でmAIが作った俳句を著作物としてどのようにすれば認められるのかというお話でした。そのなかで、俳句ロボットを奥の細道を歩かせるなどの個性を与えることで、AIに権利を認められるのではないかなどの意見が出るなど面白かったです。いつかAI自身が、自分で自分自身の権利を主張する日が来るのでしょうか?

今月の例会もゲストの方々だけでなく、企画にお越しくださった皆さんも積極的にお話にご参加くださり、ハイレベルな話題が飛び交う、内容の濃い3時間となりました。ゲストの皆さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。

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 ■5月例会レポート by

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■日時:2018年5月4日(金)夜 (SFセミナー合宿企画内)
■会場:鳳明館森川別館(東京メトロ南北線 「東大前駅」徒歩3分)

●テーマ:SFファンのためのネット配信サービス入門
●ゲスト:添野知生さん(映画評論家)、風野春樹さん(SFレビュアー)

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4月に引き続き出張企画となった5月例会は、『SFファンのためのネット配信サービス』と題してsfセミナー合宿に出張してまいりました。
ゲストに、添野知生さんと風野春樹さんをお迎えして、Hulu、Amazonプライムビデオ、Netflixなど、ネット配信サービスを使ったSFの楽しみ方について語り明かしました。

まずは概要から。Amazonは、会費の安さから、利用者数が1億人突破するなど、全世界で着実に増やしているとのこと。Huluは、おおよそ150万人強、Netflixが一番少なく、おそらく100万人弱ではないかとのお話です。
各サービスの特徴としては、インターフェースはNetflixが一番見やすく、Huluは検索しにくい等やや使いにくい部分があるそう。Amazonは他の2社に比べると独占配信コンテンツが比較的少なく、反対にNetflixは制作会社を持ち映画館経営も今後の企業戦略に入っているのだそう。

それぞれオリジナル作品や独自配信作品も多く、三社のうちどれかひとつに絞りずらいのが難点。また、たとえば『ドクター・フー』が、NetflixからHuluに配信先が移動するなど、突然配信コンテンツが移転したり、人気が伸びず、途中で突然配信が終わってしまったりすることもあるのだそうです。ある日突然配信されなくなるかもしれないということで、録画が欠かせない添野さんですが、そういうことに頓着せず今配信されている作品を楽しむお子さんたちの姿をご覧になり、ひそかに世代間ギャップを感じているのだとか。

全体的にSF、ファンタジージャンルに強く力を入れているのがNetflixだそうだ。その、Netflix配信作品の注目作としては、人間、エルフ、オーク、フェアリー、ドワーフが強制する現代ロサンゼルスを舞台とする世界を描く『ブライト』、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを争った『オクジャ』(少女が親友の怪獣オクジャを多国籍企業から守ろうとする冒険譚)、ダンカン・ジョーンズ監督最新作『MUTE』。

週に10本ほど観ているという風野さんのいち押しは、Hulu配信の『ドクター・フー』。1963年からイギリスBBCで放映されているSFテレビドラマシリーズで、5年前の伏線を回収したり、忘れた頃に第1シーズンのキャラが出てきたりと、〈ローダンシリーズ〉などSFファンにはなじみ深い、ご長寿シリーズならではの魅力があり必見。
続いておすすめは、『スタートレック ディスカバリー』(Netflix独占配信)。今までの「スタートレック」から比べると、殺伐として暗いイメージが続くけど、後半は怒涛の展開で毎回どんでん返し、前半我慢してみれば、後半絶対楽しくなるのだとか。
Amazon配信おすすめドラマは、『ウエストワールド』(HBO)。西部劇テーマパークアンドロイド(AI)たちが自我に目覚めていくストーリーで、第2シーズンには、日本をイメージしたショーグン・ワールドや、イギリス領インド帝国風のテーマパークも登場するそう。どんな日本パロディワールドになるのか興味が膨らみます。(スターチャンネルで先行配信中)

Hulu配信の『ハンドメイズテイル/侍女の物語』も注目の作品。1985年に出版されアーサー・C・クラーク賞受賞のマーガレット・アトウッドの小説『侍女の物語』に基づいて制作されたドラマシリーズ。ハードな設定と表現はSFファンなら要チェックです! 作品としてどれかひとつ観るなら『ウエストワールド』(Amazon)と風野さん。添野さんは、『ハンドメイズテイル/侍女の物語』(Hulu)一押しということで・・・。

ということで、結局、Amazon、Hulu、Netflix一体どれに入ったらいいんでしょう。聞けば聞くほど、どれも面白そうで決められない……。全部入ったらといった悪魔のささやきが⁉︎ ネット配信は規制が緩い分、攻めた表現や独創的な表現などストロングな作品を手軽に視聴できる喜びの熱気と、それぞれ充実した配信サービスから、どれを選べばいいのか贅沢な悩みが会場を包みながら、SFセミナー合宿の熱い夜が更けていきました。
一緒に企画を盛り上げてくださったゲストの皆様、参加者の皆様ありがとうございました。

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 ■6月例会レポート by

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■日時:2018年6 月 16日(土)14:00-17:00
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:ゲームSFの今
●ゲスト:柴田勝家さん(作家)、藤田祥平さん(作家)、冬木糸一氏(レビュアー)


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未来の架空ゲーム評集『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』(赤野工作)、国内外のゲームSFを集めたアンソロジー『スタートボタンを押してください』(D・H・ウィルソン&J・J・アダムズ編、中原尚哉、古沢嘉通・訳)など、ゲームやゲーム体験を題材にしたSFが最近まとまって刊行されています。ファン交6月例会では、ゲーム的組み立ての小説も描かれる柴田勝家さん、自伝的ゲーマーSF『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』の藤田祥平さん、ゲームも多数やられているレビュアーの冬木糸一さんをゲストに、皆さんのゲーム体験や著作への影響について伺いました。

藤田さんの著作、『手を伸ばせ……』、『電遊奇譚』はどちらもゲーマーである著者本人の半生がモデルにされ、人生とゲームが密接に絡みついていく様を文章で魅せていくのが魅力です。ゲスト3方からすると、人生とゲームが関わっていくというのはよくあることだとか。ゲーム経験の浅い司会スタッフが目を白黒させていたところを見ると、ゲームと人生が関わるかは人それぞれのようでした。
柴田さんの作品はゲームが直接フィーチャーされていることはありません。ただ、本人もゲームSFという視点で考えるまでは意識していなかったようですが、〈心霊科学捜査官〉シリーズでは「信長の野望」の要素もあるような気がするとか。

ゲームとの出会いについて伺ったところ、皆さん「ポケットモンスター」の話題で盛り上がりました。藤田さんがポケモンに触れたのは5歳の頃、まさに生まれたときからゲームがあった世代です。初代ポケモンといえば赤、緑の2パッケージ同時発売や通信ケーブルを用いた交換システムなど斬新な工夫が印象的でしたが、クラスでもイケてる人たちは赤を選んだ(作家組は緑、冬木さんは赤だったとか)、交換に混じれないとコミュニティから阻害されるアウトサイダーになってしまうという文化人類学的課題など、皆さんの人柄や専門性が伺われる話題が展開されました。

「ポケモン」は誰もが共通のゲームを遊んだ最後期のタイトルで、その後になるとハード、ソフトともに数が増えてきて共通項が減っていきます。また、2000年前後からオンライゲームが登場しますが、これまでのゲームとは違って一本のゲームを長く続けることが多いため、ますますプレイするゲームの分断が進みました。
3人ともオンラインゲームのヘビープレイヤーでもありました。
藤田さんによれば、プログラム相手であれば決まった最適解を見つければ良かったのが、オンラインゲームで人間を相手にすると、何をされるかわからずにやるたびに違うゲームになるのが魅力だそうです。柴田さんが始めたプレイしたオンラインゲームは「信長の野望 Online」。それまでのゲームでは行ける場所、やれることが決まっていたのに急にどこにでも行って良くなった。一兵卒として戦場をかけることができることの喜びが会ったそうです。柴田さんの特徴的な一人称「わし」はその頃からだそう。今はSFレビュアーとして活躍している冬木さんは、オンラインゲーマー時代は掲示板で高レベルプレイヤーの分析を書き込んでいたりと、皆さんオンラインゲームの頃と現在が地続きになっているのが印象的でした。

一方で、ゲームと人生の関わりにはバランスを崩したときの悪影響もあります。世界大会に呼ばれたので、これは高校なんて行っている場合じゃない、と高校中退した藤田さんや、ゲームのやりすぎと体育嫌いの組み合わせで高校留年されている柴田さん、冬木さんもかなり進学の危機だったとか。

後半では、まずはゲストのおすすめするゲームSFについてお話しいただきました。
最初に藤田さんが挙げられたのが「聴雨」(織田作之助)、昭和18年の作というのだから驚きです。将棋のスター、坂田三吉が人生をかけた復帰戦が描かれていますが、奇手に出て負けたのに全く反省の色を見せずにもっと奇抜な手を思いつく坂田のスタイルへのこだわりがゲーマー魂をくすぐったのでしょうか。e-Sportsが盛んになってきた近年では、集中力を上げるような薬を使うゲーマーが問題になったりしていますが、ウィリアム・ギブスン「ドッグファイト」では30年も前に神経加速薬を多用したゲーマーの苦悩が描かれていました。

柴田さんはゲームSFをあまり読んでこなかったそうです。デビュー作『ニルヤの島』はゲーム理論が組み込まれていたりして意外でしたが、ゲーム体験が意識しないまま小説に混じっていたのではないか、と今回の企画を機にご自身でも発見があったみたいです。「SFマガジン」6月号に描かれた「姫日記」は、多数のバグで有名だったゲームのプレイ日記でしたが、今後も機会があれば自分にしか語れないマイナーなゲームの歴史を伝えるような小説にまた挑戦したいそうです。

冬木さんからはソーシャルゲーム「Fate/Ground Order」が、2016年末にゲームと現実の時間軸を合わせて大きく盛り上がったことを例に、規模の大きなオンラインゲームを一プレイヤーの主観から語る戦争文学的な仕立ての小説を読みたいという希望が上がりました。海外SF事情に詳しい参加者からは、プレイ経験を小説仕立てにして書くというものも流行っているということです。

最後に、これからゲームSFがどのようになっていくのか、ゲストの皆さんのご意見を伺いました。藤田さんからは、ルールやシステムのバリエーションが多いゲームを研究することで、現実への批評眼が培われて、そこから良いものを生み出せるのではないかとの期待が挙げられました。小川哲さんの『ゲームの王国』は、ルールがメチャクチャになったことで壊れていく社会が描かれていて、そこがゲームっぽいとか。

柴田さんとしては、ゲーム、SFと文化人類学に共通する概念として「ナラティブ」を挙げられていました。ゲームの体験には文学的な要素もあり、SF的なゲーム世界での体験と小説を組み合わせていくことで新しい作品が生まれるのではないかとのことです。

身を持ち崩す程にハマったり、コンテンツそのものだけではなくて付随する体験にまで物語がついてきたりと、ゲームとSFの世界は結構近いように思えました。今日のゲストは皆さん、物心ついたころからゲームに親しんできた世代ですが、これからは物心ついた頃からオンラインゲームがある世代も登場してきます。ゲームの変化がSFにどう影響していくのか、今後も楽しみです。

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 ■7月例会レポート by 

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■日時:2018年7月28日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:さあ、文学を語ろう!
●ゲスト:西崎憲さん(作家)、牧眞司さん(SF研究家)、冬木糸一氏(レビュアー)


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中止となりました。

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 ■8月例会レポート by  

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■日時:2018年 8月25日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:夏だ! 文学を読もう
●ゲスト:高山羽根子さん(作家)、小川哲さん(作家)、大森望さん(翻訳家、アンソロジスト)


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8月例会は、夏だ、文学を読もう!と題しまして、ゲストに翻訳家の大森望さん、作家で林芙美子文学賞受賞の高山羽根子さん、山本周五郎賞受賞の小川哲さんをお迎えして文学にまつわるお話をいろいろお聞きしました。

前半は、大森望さんのナビゲートで、お二人の作家になった経緯や文学賞受賞後の変化など文学賞受賞作家の生態に迫りました。
高山さんは、芸術学部日本画専攻出身ということで学生時代は、創作活動が身近にあったそうですが、社会人になってしばらくはお仕事が忙しく創作の道からは遠のいていたのだそう。
仕事が落ち着きだした頃に思い立って早稲田大学の社会人講座の創作講座に通い始め、最初に書いた作品を講師の先生より「このまま書いていったらいいよ。」と評価していただき創作への道を再び歩きだしたのだとか。後にその講座からは芥川賞作家が二名輩出されたのだとか。(SF界から二人目の芥川賞作家が誕生を期待しちゃいますね。)
作家になる以前に文フリで出していた初期作品の『吉田の愛』についても話題は及び、会場にいらしてくださった作家の倉田タカシさんからも「Tシャツでカエルを飼う女の子の話面白かったよ」との紹介があり、もう手に入らないと思うとより「どんな不思議なはなしだったんだろうと」非常に読みたくなりました。林芙美子文学賞受賞後は、審査員をつとめられた川上未映子さんがいろいろと気にかけてくださったそうで、その後の出版業界とのご縁もその際に深まったものもあるそうです。
次に小川哲さんにお話をお聞きしました。作家になったそのものの経緯というよりは、ご家族とのエピソードがとってもユニークで印象に残りました。執筆よりは、読む方が好きだった小川さんが本格的に執筆活動を始めたのは、大学2年生の頃。そしてその後新ハヤカワSFコンテスト第三回大賞を受賞したのだとか。

実はそれよりも以前、高校生の頃にも少し小説を書き始めていてその頃の作品がご実家のPCに残されており、後にお母さまが発見し無断で原稿を知り合いの編集者に送ってしまったのだとか。結果、編集者からもう一本書いてみて、との連絡があったのだそう。
「パン工場でバイトしてる主人公が本屋で開催されている砲丸投げ大会を見に行くというストーリーで、大会が進行する中に・・・。高校生の無敵感で書いたからむちゃくちゃだけど、今思うとまあまあ面白いなぁと思います。」と飄々とお話する小川さんでした。小川さんのお話は、お母さんとジェットコースターに乗った話など、お母さんネタを含めていろいろ引っかかるところ満載で、小説同等にムチャクチャ面白かったです。(本屋の砲丸投げ大会の話がホント気になりすぎる。)

後半は、小川さん発案で『オブジェクタム』読書会を行いました。
「トリッパ―」に『オブジェクタム』の書評を書いたという小川さんですが、普段は、基本的に書評原稿は書かないのだそうだ。まず、「オブジェクタム」というタイトルの説明に苦労したとのこと。高山さんご自身も、説明文が必要なくらい、なんだかわからないタイトルにしたかったとのことで、いろいろ悩まれたそうです。確かに。わたしも、「なんだか意味不明の哲学的でカッコいいタイトルだなぁ」と思いつつ読みすすめていくうちに、最後は不思議と「物語を表しているなぁ」と、心を捕まれてました。

また、小川さんの分析によれば、でっかいことが起こっているんだけど、中心部までいかないのが高山メソッドなんだとか。その他独自の視点から高山さんを解説してくれました。読書会らしく会場からも質問が飛び交い、高山さんの代わりに小川さんが答えたり、高山さんご自身も「私ってスッゴい大きいものとか、キラキラ光っているものが好きなのかも知れません」と、自己分析されたりと和やかな文学談義? で会場は、最後まで盛り上がりました。

ゲストの方々、そして参加者のみなさまのお陰で、ひとり読書では味わうことのできない読書体験を共有する楽しみを感じることができました。ありがとうございました。

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 ■9月例会レポート by  

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■日時:2018年9月15日(土)
■会場:笹塚区民会館
(京王線「笹塚駅」より徒歩8分)
●テーマ:さあ、文学を語ろう!
●ゲスト:西崎憲さん(作家)、牧眞司さん(SF研究家)、冬木糸一氏(レビュアー)

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9月例会は、『さぁ、文学を語ろう!』と題しまして作家の西崎憲さん、SF研究家の牧眞司さん、レビュアーの冬木糸一さんをお招きして文学作品について語っていただきました。

7月台風の影響で延期になった待望企画ということで、冒頭からフルスロットル! まずは、ホワイトボードにお三方の文学観を表現していただき、それぞれ解説していただきました。
「昔の自分はSFと文学で別れた概念で認識していた時期もあったけど、ぶっちゃけSFといっても90%はつまんない。文学でも面白くない作品はたくさんある。その逆もある。文学とSFを分けて考えなくていいというのが今の考え方。文学の海の中にSFがあるという感じ。」と手描きの図でご自身の文学観を時系列に解説してくださった牧さん。

西崎さんは、「文学は人類の記憶である。小説は人間に与えられた唯一のタイムマシンである。」と素敵な文章で文学観を表現してくださいました。
文学との出会いは、25歳前後の頃に読みたい本がもうないと思った時に、西小山の小さい本屋で怪奇小説傑作選に出会ったのがきっかけで、アウトサイダー的な文学に興味を持ち始めたのだとか。文学を意識したことがない。物心ついたころから本を読んできたので目についた本を片っ端から読んできたので文学をあまり意識したことがないという冬木さん。
「文学観は結局後追いといったイメージで実感として育っていない? かもしれないです。」と自信なさげでしたが、「結局、言葉が入っていたら文学なんじゃないですかね。僕にとっては、文字が入っているからゲームだって大きくみれば文学だし、ボブディランだって文学賞とってますしね。(笑)」とのこと。

つづいて、「日本の文学賞の多くは説明のできないことが起こると受賞しにくい。」というのは、本当のところどうなのかといった文学賞の定説についての言及から、更には、AIに既存の文学をパターンとして学習させて文学含有率を診断したら面白いのではないかといった話も話題にのぼりました。

個人的に面白かったお話は、牧さんの、小説の面白さは書き方が重要。いかに書くかで文学の面白さが変わってくるといったお話でした。文学作品から得られる多くの驚き、いわばSFのアイディアから得られるセンスオブワンダーといったものが、作品の描かれ方によって表現されているところが、文学の魅力であることに改めて気づかされました。

西崎さんは、「原宿で電車を降りる説明を、原宿を使わず書いたら・・・」ということで、「書く」ということについてお話しくださいました。たとえは、「代々木で降りてください。」「恵比寿の二つ手前で降りて。」みたいになっていって、更には「ホームに赤い服の女がいたら降りて。」と。「書く」という作業は、文章を複雑化させ、なにかを指定していることで、情報の出し方が肝という、西崎さんのお話もたいへん興味深かったです。前回の例会で取り上げた『オブジェクタム』も、情報の出し方を厳選して書かれている作品であるといったお話もお聞きでき、新たな読書の視点のヒントを頂きました。

後半は、お薦めの作品リストと共に、作品の紹介をしていただきました。同じ作家、町田康がお薦めリストに入っていても、『くっすん大黒』を押す牧さんと、『告白』が好きな冬木さんといった、好みの違いが、はっきりと見えてきたりして、とても面白かったです。ここでは紹介しきれないほどたくさんの作品を紹介していただき、普段は目に触れない棚にあるSF以外の作品への興味がもくもく沸いてきました。

お忙しい中お時間を割いてくださったゲストの方々、そして、足元の悪いなかお越しいただいた参加者のみなさまに感謝申し上げます。

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 ■10月例会レポート by  

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■日時:2018年10月9日(土)
■時間:23:10~24:10(京都SFフェスティバル合宿企画内)
■会場:旅館「さわや」本店
※参加には京都SFフェスティバル合宿への参加申し込みが必要です。
●テーマ:ヴォネガット短編の魅力
●出演:大森望さん(翻訳家、アンソロジスト)、水鏡子さん(書評家)

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10月例会は、おなじみ京都SFフェスティバル出張版「ヴォネガット短編の魅力』と題して、書評家の水鏡子さんと翻訳家の大森望さんのご案内で、ヴォネガットの短篇の魅力に迫りました。
なお10月例会は、Ustreamの配信サービスが終了したため、今回からYouTubeLiveで配信しました。
まずは、『猫のゆりかご』から10年くらいは神様みたいな人だと思っていたけど、『チャンピオンたちの朝食』・・・からあれ? という印象で、『タイムクエイク』から読んでいなかったので、この企画に合わせて久しぶりにヴォネガット未発表の短篇集読んだという水鏡子師匠。(おお! 『乱れ殺法SF控』以来変わらぬスタンスなのかしら? 大森さんとのガチンコ対決への予感と期待でワクワクしてまいりました。)

とにかく、ヴォネガットが特に優れているのは多作なところ。年に30本以上書いていたと推定される次期もあるとのことです。大森さんによれば『はい、チーズ』や『人はみな眠りて』等に収録された短篇には、没原稿として机に眠っていた雑誌未発表収録作品も多く、1950年代に作家としてデビューして間もないヴォネガットの奮闘が見られるそうで、さらに水鏡子師匠によれば、1950年代の作品には、癖がない感じの作品が多くて、『猫のゆりかご』以降は癖が出てきた印象があるとのことです。

また、ヴォネガットの短編の中では、『はい、チーズ』が、未発表原稿と信じがたいくらい、作品のできがいいとの好評価。『追憶のハルマゲドン』は、企画としていい作品とのこと。そして、会場の短編一番人気はやはり、『モンキー・ハウスへようこそ』でした。

ヴォネガットの作品は、スタージョンやディックのような粘着質な感じがなく、至極健全でSF色のない作品も多くの支持を集めましたが、一般紙でも売れっ子だったヴォネガットが、あえてSF雑誌「ギャラクシー」にも原稿を寄せていることからもSFへの情熱を感じることができるとのこと。

また、ヴォネガットの作品には、生命保険料、健康保険料などの掛金に対する描写の細かさや財産目録、ポートフォリオ資産の運用等各短編のテーマからもヴォネガットが元ジェネラルエレクトリック社の社員だった名残が感じられ、一種サラリーマン小説といった一面も見れるのだとか。ヴォネガットの小説全般として、家庭を大切にする良い夫婦像等、人情的にきっちりしている中流下級の倫理観が根底に流れており、大衆が安心して読める質の高さが多くの読者に支持された理由ではないかとのことでした。
全四巻で刊行予定の『カート・ヴォネガット全短篇』では、伊藤典夫さん、浅倉久志さん、宮脇孝雄さんの翻訳以外の作品は改訳か新訳の予定で、翻訳者には柴田元幸さんや円城塔さんなども参加されるとのことで、今から楽しみです。
はなはだ勝手ながら、水鏡子師匠と大森さんの登壇に破天荒なのりを期待した10月例会でしたが、作品をただ読むだけではわからない興味深い話をたくさんお聞きすることができ、ヴォネガットらしい教養高く和気あいあいとした雰囲気の会となりました。

ご協力いただいたゲストのおふたり、そして参加者の皆さまありがとうございました。おかげさまで、今年も京都の秋の夜を、楽しく過ごすことができました。

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 ■11月例会レポート by  

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■日時:2018年11月10日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館
●テーマ:筒井康隆を語ろう!
●出演:なし

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11月のSFファン交流会は、「筒井康隆を語ろう!」と題して、久しぶりにゲスト不在で参加者の皆さんと車座になって和気あいあい語りあう会となりました。長野、三重、栃木など遠方からいらした方も多く筒井康隆の偉大さを感じました。
先ずは、自己紹介を兼ねて自分の好きな筒井康隆作品について皆さんにお話ししていただきました。ここではファシリーテーターとしてスタッフの河田さんが活躍してくれました。『時をかける少女』『旅のラゴス』「関節話法」「バブリング創世記」『虚構船団』などたくさんの作品の名前が挙がりました。
バラエティに富んだ名作品の数々に筒井康隆の偉大さを感じました。また、筒井康隆は青春時代に読んだという方も多く、青春の思い出の一部として筒井康隆作品があるという参加者の皆さんの共通点も見えたりしたところが興味深かったです。

2010年に公開された『時をかける少女』実写映画では、主人公の芳山あかりが2010年から1974年にタイムリープするシーンで、ひょんな出会いで転がり込んだSFファンの部屋の中で見つけた〈SFマガジン〉で、自分がいつにタームリープしたかを確認するというシーンがあるのですが、仲里依紗演じるあかりが手にした〈SFマガジン〉が鈴木さんが提供したものだ、と紹介をしてくださり、盛り上がりました。
この映画を撮る際、SFファン交流会に連絡があり、70年代のSFファンの部屋を再現する資料として提供したそうです。当時、鈴木さんもSFファン交流会スタッフとして活躍してくださっていたので、そのため、映画のエンドロールで協力機関の中に「SFファン交流会」の名前が載っています。

その他にも会場から、ネットで読める、「萌え絵で読む虚航船団」を紹介していただきました。萌え絵のお陰で、虚航船団の世界観を簡単に把握できて面白かったです。結果として、会場全体が最近読んだ筒井作品が萌え絵でみる『虚航船団』になる!? ことに・・・。
例会の前に世田谷文学館の筒井康隆展にスタッフで足を運びましたが、作品数の多さに圧倒されるとともに改めてその文学性とエンターテイメントの融合した作品世界に感動しました。
今回の例会では、多くの皆様と語りあうことで小説の世界だけでなく、演劇世界やエッセイ、果ては読書遍歴などいままで知らなかった筒井作品の新たな魅力に触れ、改めてその偉大さを感じることができました。
最後に、この度11月会場に足を運んでくださった皆様どうもありがとうございました。また来年もSFファン同士の触れ合いを深めていけたら嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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 ■12月例会レポート by  

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■日時:2018年12月22日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:笹塚区民会館
●テーマ:祝!フランケンシュタイン生誕200年 ゴシックからスチームパンクへ
●出演:市川純さん(英文学研究者)、 刹多楡希さん(フランケンシュタイン研究者) 、 日暮雅通さん(翻訳家)、 北原尚彦さん(作家)

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12月例会は、「祝!フランケンシュタイン生誕200年 ゴシックからスチームパンクへ」と題しまして、ゲストに市川純さん(英文学研究者)、刹多楡希さん(フランケンシュタイン研究者)、北原尚彦さん(作家)、日暮雅通さん(翻訳家)をお招きして、知っているようでよく知らない『フランケンシュタイン』の産みの親メアリーシェリーと、その時代を取り扱った小説の世界の魅力に迫りました。

まず初めは、刹多さんから「フランケンシュタインにまつわる11の真実」と題してお話を伺いました。 ディオダティ荘の怪奇談義についてから始まり、フランケンシュタインは、ビクターの苗字であること。ヴィクターは博士でも科学者でもないといったことやイングリスタット大学の解剖学研究所の話。実は、原作では怪物は喋れて片言しかしゃべれないイメージは映画『花嫁』の影響であること。原作ではド・ラセー家の会話を聞いてフランス語も独学で習得しているなどなど、知らなかったお話をたくさん聞くことができました。なかでも、怪物の誕生日は1793年11月16日ではないか? と刹多さんが、月の満ち欠けから推測した話が、特に興味深かったです。
市川さんからは、映画『メアリーのすべて』の話を導入に、メアリー・シェリーの家族のお話を中心に伺いました。映画では、家族関係について多少脚色がされており。メアリーが継母と仲が悪く、スコットランドの親戚の家に預けられていて、そこで夫となるパーシーとの出会うと描かれますが、実際はそんな事実はなかったり、私生児の義理の姉の存在が抹消されていたりとメアリー自身を翻弄され苦しみながら力強く生きる女性として描くために不都合な部分を削除したり脚色してあるのではないかとの解説をしていただきました。
メアリー自身、事実戦って生きた人ではあるけど、極端に自我を出した人ではなく、駆け落ちをして波乱万丈ではあっても社会メッセージとしてあからさまに書くタイプではないとのことです。
電気の発明等、科学の黎明期にあるメアリーの小説は、科学的描写が少なく後の人から見ればSFとしては微妙な部分もあるけれど、逆にその時代には、怪物を創作する細かい描写の必要性がない。むしろ、神がいない世界という世界観が非常に斬新だったのではないかというお話が、とても興味深かったです。
夫パーシーは、無神論者などメアリー自身いろんな思想に囲まれて育った少女であり、ダンテをイタリア語で読みギリシャ語、ラテン語などにも通じていて当時の女性としては、破格の語学力を持った女性であったことも紹介していただきました。
また紹介していただいたメアリーの著作『THE LAST MAN』は、22世紀を舞台した話で、科学はそんなに進歩していない世界で、疫病で人間が全員死亡し最後一人(メアリーシェリーを投影した主人公)一人が生き残る話とのことで、機会があれば読んでみたいと思います。

日暮さんからは、翻訳の話を中心にお話を伺いました。SF作品の翻訳で苦労するのは、SF的な描写を訳すかという問題だけどシェリーの作品はそういう心配が少ないそうです。古典作品を若者向けに新訳に訳す時も苦労が絶えないようで、読みやすいさを重視した文章で書いたところ、例えばホームズを簡単にしたら昔からのホームズファンに怒られたことがあったとか。ホームズやフランケンシュタインなどはパスティーシュがたくさん出て映画にもなっているけど、数の多さに比べて小説にしても映画にしても微妙な作品が多く選別するのが難しいとのことでした。

北原さんには、小説素材として魅力的なゴシック世界やフランケンシュタインを題材にどう描くかといった設定の魅力などパスティーシュの描く小説の面白さを実際執筆された作品を例に教えていただきました。『死者たちの帝国』の執筆の切っ掛けとして、『屍者の帝国』に腕利きスナイパー虎狩のモラン大佐がアフガンに従軍しているのになぜ出てないの!?というご自身の疑問から執筆アイディアが浮かび、そこからモロー博士やトラ、山月記などいろいろなモチーフが浮かび……。ご自分でもお気に入りの作品になったとのことでした。
原作のあるモチーフを小説に取り入れる際は、書き手としてはどこから原作を生かし、どこから変えるのかは大いなる悩みなのだそうです。ニコニコと嬉しそうにお話される北原さんの表情から、本当に本が好きで作品の世界観が好きなんだなと感じ、だからこそ作品の生き生きとしたキャラクターや臨場感ある世界描写が生まれるんだなと感じ、読者としても新しい作品を心待ちにする気持ちでいっぱいになりました。

12月例会も多くのゲストの皆様、参加者の皆さまに参加していただき、あっという間の3時間となりました。どうもありがとうございました。

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