初心者騎士シーグルが初めて大人数パーティに参加する話。 【6】 問題の山の中へは雇い主とその護衛以外、3つのパーティがそれぞれ入ってまずは女王コロッカを探す事になった。 「いいか、群れてるコロッカを殺すと体液の臭いを嗅ぎつけて仲間が報復にやってくる。一応クラットが風を操作して俺達と逆の方向へ臭いを飛ばすようにはしてくれるが、殺した時の体液が体についちまうとマズイ。だから女王コロッカとの戦いまでは出来る限り前衛組はコロッカを殺すなよ」 本当にグリューは冒険者として物知りだ。それだけいろいろな仕事をしてきているのだろう。それにそういう方針なら、確かに自分が前衛役をするのは難しいとシーグルは思う。……とはいえ、彼の言葉は了解として疑問も湧く。 「なら襲われた場合はどう対処するんだ?」 そこでにっと笑うとグリューは自分を指さした。 「俺らは敵を殺さないでとにかく抑えておく係、1、2匹つづなら止めてる間にティーフォに眠り矢を撃ってもらう。んである程度数がきたら、クルスかマツィネに光の術を使ってもらって散らしてもらう」 光の術なら自分も使える――とシーグルが言おうとする前に、ちゃんとそれを分かっているグリューは続けた。 「勿論シーグルが光の術を使えるのも分かってる、だがシーグルが優先するのは周囲の敵への警戒だ。それでも二人が術を使ってる余裕がない時や、横から来た場合とか、想定外の事態が起きた時には使ってくれて構わない。その判断はお前に任すよ」 そう言われればその通りでシーグルも黙るしかない。それにちゃんとグリューはこちらをたててもくれている。 「実は俺も光の術なら使える。お互い、神官さん方に余裕のない時の予備だと思っておこう」 そう言ってきたのはやはり戦士枠のイージェンという男だ。あまり意見を言ってこない静かな男だが、体の幅はシーグルの倍近くあって立派な盾を持っている。彼は後衛に何かあった場合の盾役らしい。 やはり自分は焦っているようだ――シーグルは自己嫌悪に陥った。今の時点で殆ど役に立っていないし、一番若くてパーティ経験が浅いし……考えれば考える程自分の使えなさが気になって、仕事をしないと、と自らを急かしてしまう。 「シーグル、人数の多いパーティでは特に、それぞれ役割を決めてそれに徹した方が連携が取りやすいんです。貴方は何でも出来るからやれることは出来るだけやろうとしてしまいますけど、貴方しか出来ない仕事のためにへたに動かない事も重要です」 クルスは優しい。だがその言葉はただの優しさだけではなく、真実だ。 「あぁ、その通りだ、すまない」 そこでグリューが休憩終了の声を掛けてくる。そうして出発前に一言。 「ここから先は奴らの縄張りになる、気をつけるぞ」 それに了承の返事を返して、皆は歩き出した。 確かに縄張りに入った後から、パーティは何度からコロッカと遭遇した。幸い大量に沸くような事はなく基本は1、2匹づつで、一回だけ4匹に遭遇してその時だけマツィネが光の術を使った。 そうして暫く女王コロッカを探し回っていた後、唐突にグリューが声を掛けてパーティの足を止めた。 「ギリッタのとこがどうやら見つけたらしい」 「方向は?」 「……向こうだな」 パーティーリーダー同士はそれぞれ引かれ石と呼び出し石を持っているから、その確認だけでそこまでは分かる。ちなみにこのパーティーのリーダーは一応シーグルではあるが、リーダーとしての仕事はすべてグリューがやっている。パーティーで仕事を受ける場合、実力はメンバーの総合力で見られるが、信用度はリーダーで決まるからだ。それはいつもの事ではあるし、今回もメンバー全員にそれで了承を取っているという事だから誰も何も言わないが、それもまたシーグルがここにいてうしろめたさを感じる理由でもある。 女王を見つけたらしいパーティはそこまで離れたところにいた訳ではなかったため、割合すぐに合流出来た。ただもう一つのパーティはそこそこ離れたところにいたため、一旦はそちらのパーティを待つ事にした。 「女王本隊を見た訳じゃないが、コロッカが何匹もうろうろして出入りしてる穴を見つけた。多分、確定だと思うんだが」 「まぁそりゃ……流石に中入って調べる訳にはいかねぇよなぁ」 最初から、女王を見つけたら一旦引き、全パーティが合流してから倒しにいく予定だった。決して単独パーティで女王と戦闘に入らない、という事になっていたから彼らの行動は当然だ。グリューと巣穴を見付けたパーティーのリーダーであるギリッタが深刻そうに話していると、マクデータ神官のクラットがにこにこしながら話に入っていった。 「じゃ、燻(いぶ)りだすだけだな」 それでグリューもにっと笑う。 「だな。あいつら鼻がやたらいいから効くだろうしな。じゃ、入口にいる奴は光の術で追い払って……そういやそっちのパーティーにレイペ信徒はいたよな? 火つけは任せていいか?」 「あぁそれくらいなら」 「フブロクの葉は俺がもってっけど、他にも燃料は必要だからなちょっと薪集めねぇと」 つまり巣穴の前で火を焚いて煙で燻りだすという事だが、燃やすと刺激臭がするフブロクの葉はクラットが持っているらしい。この案をまず言ってきたあたり、風を操れる彼はこの手を割とよく使うのだろう。 だから当然、次はもう一つのパーティが来るまでに全員で小枝集めをする事になった。 そうして全ての準備が整って、女王討伐が始まった。 まずはリパ神官達が全員に『盾』の術を掛け終わったのを確認してから、隠れたまま手筈通り巣穴に向けてグリューが光石を投げた。光っている間悲鳴のような声やドタバタと走り回る音が聞こえていたが、光が収束すると音は小さくなっていって、目を開くと入口周辺にいたコロッカは逃げていなくなっていた。 「いそげっ」 小声でグリューが言えば、すぐに火付け役の連中が出て行って焚火の準備をする。シーグルは後衛と一緒に動かず、今はまだ周囲の警戒だ。一応隠れている周囲には各パーティの狩人達が動物避けの簡易結界を敷いているから安全ではあるが、想定外の方向から敵が出て来たりするから油断は出来ない。 「よし、火ィつけていいぞ」 「おい、一匹出て来たぞっ」 「大丈夫よっ」 作業途中に穴から1匹出て来たコロッカはいたが、それはティーフォが矢じりに眠りの魔法をかけてある眠り矢を放って眠らせた。 「よしついたぞ、一旦引けー」 火がつけば皆一斉に離れてまた隠れる。ここからはクラットの出番だった。今回、匂いに敏感なコロッカへの対策としてどうしてもマクデータ神官が必要だったため、冒険者は半引退状態だった彼にグリューが頼みたおして来てもらったそうだ。 彼が風を操っているため、焚火の火がかなり強くなってきて煙が上がってきてもその煙は真っすぐ吸い込まれるように穴の中へと向かって行く。もし彼が風を操っていなかったなら、おそらくフブロクの燃える刺激でこちらも目や鼻が痛くなっていたに違いない。 そうして暫くすれば、コロッカがぞろぞろと外へと出てくる。ある程度の数が外へ出てくれば、誰かが声を上げた。 「目ぇつぶれー」 出て来たコロッカの群れに向かって光石が投げられる。こういう使い方だとリパ神官が術を使うより光石の方がいい。それでコロッカの悲鳴やらパニックを起こして走り去る音が派手に響くが、まだコロッカ達は穴から全部出て来たわけじゃない。光が消えてから穴の前をみれば、やはり新しいコロッカが穴から出てきていた。 それだけではなく奥から、明らかに他よりデカイ――5,6倍はありそうなコロッカがやっと姿を現した。 「女王コロッカだ、いくぞ」 声が聞こえたと同時にまず取り巻きの相手をする2パーティーが前に出て行く。 その間にこちらのパーティではリパ神官二人が盾の術を掛けなおして、ティーフォとクラットは他パーティの援護をしていた。ノノとシンジラ、タレットはアッテラ信徒らしく強化術を自分に掛けていたし、他もそれぞれ準備用の術を掛けたりしていた。 ――俺も弓くらいもってくればよかっただろうか。 シーグルも弓は使えない訳ではない。本職に比べると精度も速度も思いきり劣るが、コロッカくらいの大きさのあるマトならどうにかはなる。……だがそう考えてからハっときづいて、すぐに自分に言い聞かせた。 ――まず自分の役目を果たす事が先決だ、慣れてない事が多いのにあれもこれもやろうとするな。 この焦りも自分の未熟さ故だと分かっている。本当に自分は子供だ。 「そろそろ出るぞ」 グリューのその声で、シーグルは剣を握りしめて立ち上がった。女王コロッカはまだ取り巻きの後ろにいるが、煙が充満した穴には戻れずにいる。今出てきているコロッカは20匹以上いるが、大半は先に出た2パーティが引き留めている、女王前にいるのは4匹程度だ。 「シーグル、タレット、イージェン。3人には足に風の術入れとく。足が軽くなるから気を付けんだぞ」 了解、と言えば呟きながらクラットが足に触れていく。勿論シーグルは足に風の術を入れて貰うのは初めてだ。ごくりと喉を鳴らして前を見ると、苛立った様子の女王コロッカがかなり前に出てきていた 「いくぞっ」 グリューの声と共にシンジラがまず結界の外へと出る。続いてその後にノノとグリューが前に出る。シーグルがクルスとマツィネを見ると彼等もゆっくりと動き出したから、残りの面々も敵に向かって歩き出した。 --------------------------------------------- 戦闘はさくっと1話で終わる予定だったんですが、なんかパーティの連携かいてたら長くなりました。 しかもBLじゃなさすぎる展開がもうね(==;;すみません……いつものことですが。 |