※この文中には軽めですが性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。 【9】 長い付き合いになってくればシーグルだって分かっている。……つまり今回も、うまくセイネリアに丸め込まれてこういう事態になっているという事を。 それでも今回は仕方ない。それくらいの『貸し』を作ってしまったという自覚があるし、断る理由がないのだから。 どうもセイネリアはシーグルが行為自体をやりたがらないという前提のもと、どうやってそれを了承させてやるかと、断れない状況を作るのを楽しんでいるふしがある。色恋沙汰の駆け引きと言えば聞こえはいいが、シーグルとしては一方的にハメられて追い込まれているだけな気がするのだから楽しいとは言えない。 ただそれは裏を返せば彼が無理強いをしないという事でもある訳で、だから怒る気はないし、それを止めて欲しいという訳でもない。 断れない状況に追い詰められるのは確かに楽しくないが、そういう状況にしようとする彼の思惑を外してやるのはシーグルも結構楽しんでいる事がある。残念ながら成功する事はそうそうないが、それでも実際のベッドの中での事よりはまだ勝算がある戦いだ。とにかく情事の実践に関しては駆け引き以前に負けて悔しいという考えも持てない程に経験値の差があるので、回避したい時はそこに至るまでのところでどうにかしなくてはならない。 ただ今回は、対抗する気もなく早々に諦めてしまったが。 「どうせこの時間だ、あとは寝るだけだし……明日は、午前中をあけてあるからな。どうせ最初からそのつもりだったんだろ? ベッドに入るのが少し早くなっただけだ」 実質全面降伏宣言でもある台詞であるから、ちょっと悔しくてやたら嬉しそうな彼の顔から目を逸らす。そうすればセイネリアはまさに待ってましたとばかりに上からかぶさってくるのだから、シーグルとしては許していても顔は引きつってしまうのだが。 「愛してる、シーグル」 愛してる、なんて言葉もこれだけ言っていれば安っぽくなるだろ、なんて思いはするが、この言葉を彼が言えなかった時の原因が自分であるからそこに文句も言い難い。そして多分、それも彼の計算のウチではあるのだ。 セイネリアの顔が近づいてきて、その嬉しそうすぎる顔にはちょっとイラっとしてしまうが大人しくキスを受け入れる。ここまでくれば抵抗は無駄な事も分かっているので、シーグルは後は彼が与える感覚に流されることにした。 最初は合わせるだけの、唇の感触を確かめるようなキス。軽く啄むように唇を合わせて、すぐ離して角度を変えてまた合わせる。唇の隙間から彼の舌が入ってくるのはその後で、それでも昔みたいにいきなりこちらの舌を絡めとったりはしてこない。昔は最初から彼としては本気の、深く強引なキスだったからシーグルはすぐに意識がぼうっとして流されるしかなかったが、今はこうして浅いキスから入るから冷静に状況を分析してしまう。それがとても恥ずかしい。 舌先だけをくすぐるように舐められていると、それだけで恥ずかしさで顔が赤くなっていくのが分かる。こちらのそういう感情にはすぐ気づく彼が、それで楽しそうにしているのも分かる。 いっそもうさっさとぼうっとさせてもらいたいくらいなのだが、最初は浅くて優しいキスが続くからシーグルはいつもとても居たたまれない気持ちになる。 だからいい加減にしろという気持ちを込めて、彼の背に回した手を握って軽く叩く。そこで彼がまた気配で笑ったのが分かるのがシャクではあるが、明らかに彼は強く唇を押し付けてきて舌を深く合わせてくる。そうなればあとは翻弄されるまま、流されるだけであるから自らさっさとその感覚に身を任せた。……実際、気持ち良いのは確かであるから、その方が楽ではある。 ただ、次に意識がはっきりするとやたらと嬉しそうににやにや笑って見下ろしているセイネリアの顔、というのはいつもの事だがあまり嬉しいものではなかった。 ――何故この男は俺が正気を取り戻すのを待ってるんだ。 そう思ってちょっとイラっとするのは仕方ない。なにせ彼は度々こちらに我慢せずに大人しく感じてろとか言うくせに、こういう時にわざわざ待っているのだ。こちらが翻弄されるまま意識が薄くなっている間にさっさと進めてしまえばそのまま大人しく最後まで流される事になるだろうに、彼は要所要所でこちらが正気に戻るのを待っている。 「少し横になれ」 そして、こちらが正気を取り戻したとみると、次の行動に出るのだ。 今日はもう相手の好きにさせるつもりで諦めているシーグルは、言われてしぶしぶ横になった。すかさずセイネリアはその後ろで自分も寝転がったらしく、ベッドがキィキィと軋んだ音を立てた。そこから腕を前に回してきて、背中に体をぴったりくっつけてきてまるで後ろから抱きしめているような体勢にする。寝ている時にシーグルが拗ねて背を向けるとセイネリアがこうしてくる事はよくあって……となると、次に彼がしてくる事も予想がつく。 ちゅ、と音がして後ろからセイネリアがこちらの首やらこめかみにキスしてくる。勿論そんな可愛らしい悪戯だけじゃなくて、前に来た手はこちらの胸をまさぐったり、股間をやんわりと撫でてきたりしてくるのだ。更には後ろからこちらの尻にぴったりと彼の股間を押し付けてきて、彼そのものを意識させてくる。 実はこの流れはシーグルがやる気がない状況でセイネリアが揶揄いつつ誘う時の常套手段で、ここから無理やりどうにも出来ない状態にされて最後まですることになった事が何度かある。 だからあまり好きな体勢ではない。 「今日は付き合うと言ってるのに、何やってるんだ」 だから苛立ってそう言えば、セイネリアはこちらの耳たぶを軽く吸ってから、耳の中に直接言ってくる。 「いや、この体勢からそのままやるのもありだと思ってな」 「は?」 何言ってるんだこいつ、とは思ったが、確かにこの体勢のままその気に無理やりさせられた時でも、そこからシーグルが怒って起き上がって改めて続きになるからこの体勢のまま最後までやる事はなかった。 と思ったらセイネリアの指が中に入ってきて、同時に前を手で掴まれた。 「うぁ……おいっ」 「大人しく感じてろ」 そこでまた目元にキスされて、強く前を扱かれたからシーグルは歯を食いしばって頭の中だけで抗議した。 ――だからっ、大人しく感じさせておきたいなら、俺が正気に戻るまで待ってなければ良かったろ!! 怒鳴ってやりたかったが、今声を出せば喘ぎにしかならないのを分かっていたから、体を丸めるくらいしか抵抗のしようがない。そうすればセイネリアは益々耳元で水音を立てまくって、中の指を深くまで動かす。 「や……ぅ……」 感覚がどうにもならなくて涙まで出てくれば、それをセイネリアは唇で吸い取って益々水音が鳴る。耳の後ろからうなじにかけてを舐めてはわざと肌を吸ってまた音を鳴らす。シーグルは感覚を耐えるのに一杯一杯で、抗議する余裕などない。 けれどまた、彼の手が止まったと思えば離れて行って、シーグルは、はぁ、と息を吐きだしてからちらと上を見た。思った通りやはりセイネリアがやたら嬉しそうに見下ろしていてむかついたが、彼は上機嫌でこちらの目元にキスしてから尻に彼のものを押し付けてくる。そうして、手で広げてから彼が中に入ってくる。 「か……ふっ……」 来るのは分かっていたから大きな声は耐えられたが、目の前のシーツを掴んで引き寄せる。ただ途中からは一気に奥深くへと突き上げられたから、シーグルも声を抑えられず叫んでしまう事になった。 「いや、ああぁっ」 ……とりあえずその日シーグルが、まともに意識があって何があったのかハッキリ覚えていたのはそこまでだった。 後はそのまま片足を持ち上げられて深くを突き上げられたり、更にそこから起き上がらされて座る彼の上に座らせられる体勢で動かされたりとか、とにかく好き勝手にいろいろされてやたら大声を出したのだけをうっすらと覚えている。 当然、朝起きたら声がガラガラだった。 そしてセイネリアがやたら上機嫌でべたべたしてきたのも言うまでもない。そのままベッドの中で押さえつけられて、結局昼近くまで寝る事になったのも……いうまでもないくらいいつも通り、予想通りの事だった。 --------------------------------------------- あまりエロくはないエロですね。一応ふたりのいちゃつきメインってことで(==;; |